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(番外編) 世界覇権国アメリカがCO2排出規制とついに正面衝突した。CO2排出規制は、世界覇権の力を脅かす最大の挑戦者である。 (引用はじめ) 同日付の米ワシントン・ポスト紙が「ブッシュ政権が京都議定書からの脱退を検討している」と報道、これに対し、米ホワイトハウスのフライシャー報道官は「大統領は議定書を支持しない。議定書は発効してもおらず、脱退するような実体がそもそもない」と語り、議定書からの事実上の離脱方針を明らかにした。 米国は議定書に署名はしているが、まだ批准はしていない。同報道官は、「米上院は議定書の批准に反対している」と説明、先進国にだけ温室効果ガスの削減を求めた議定書は不平等などとして、米政府としては独自の防止策を検討するとした。(読売新聞2001.3.29) 対して、欧州連合(EU)の「環境相」に当たるワルストロム欧州委員は28日、ブッシュ大統領の方針転換について「非常に懸念すべきことだ」との声明を発表した。(日経2001.3.29) ブッシュ新政権発足間もないこの時期に、衝撃的なニュースであるが、この前兆は、既に3月中旬に現れていた。 (引用はじめ) 副島先生は、アメリカを世界覇権国と規定しておられる。 このような決定(京都議定書離脱)ができるのも、ひとえにアメリカが世界覇権国だからであり、逆にアメリカ以外は(小国を除き)このような決定はできない。世界覇権国の合意がとれないままであるなら、京都議定書は、国際法になりえず死産と化すだろう。 国際法は、国際社会の太宗から支持されていることが、その機能発揮のためには、必要十分なことである。アメリカはその太宗を担う最大のプレイヤーであるため、離脱が本当であるなら、京都議定書が国際法の成立要件を満たさないことになる。 京都議定書は、まだ正式に発効されたわけではないので、アメリカの今回の離脱宣言は、形式的には何の問題もないともいえるが、実は、アメリカは、世界覇権国であることから、終局的には京都議定書の許認可権限者(主体者)なのである。 従って、アメリカはそんなこと(京都議定書離脱)をしてもよいのかという疑問は当然起こるが、許認可権限者側である以上、道義的な意味合いを除けば、責任を問われる対象とはいえないのである。 世界覇権国アメリカにとって、CO2の排出削減を定めた京都議定書は目の上のたんこぶのような存在であったろう。環境のゴアを擁していたクリントン政権でさえ、地球温暖化問題に対しては冷ややかであった。 1997年のCOP3(京都会議)の時も、アメリカは、京都メカニズムという柔軟性措置(抜け穴)が担保されたため、会議の最終局面にて参加したゴアが、急遽イニシャチブをとり会議を強引にとりまとめた経緯がある。 ブッシュは、選挙戦時において、京都議定書に異議を唱えていたため、早晩、京都議定書へのリアクションが予想されていたところであるが、これ程早く、京都議定書の枠組みから離脱する旨を表明したことは驚きである。次回のCOPに向けての米国の戦略と見る向きもあるが、衣の下の鎧が姿を現わしたというべきであろう。 このことは、かって、ウィルソン大統領が国際連盟を提唱しながら、議会の保守派の反対によって自ら参加することが出来なかったことと、内容は異にするものの、似ている点があり興味深い。 以前にも言及したが、京都会議は、歴史的にも極めて重要な会議である。 (引用はじめ) 京都議定書のような経済成長を抑制してしまうような制約は、資本主義のメッカ、アメリカにおいてはあるまじきイデオロギーであろう。このことは、クリントン政権とブッシュ政権の温度差があるにしても、アメリカとしては、本来受け入れがたいものである。 ただし、京都議定書が仮に反故にされようとも、国際社会に対して、CO2削減の負荷がかかってくるのはもはや、避けることは出来ない。従って、米国といえども何らかの対案を出さざるをえない。下記の記事を見るなら、恐らく中心的な対応は、排出量取引のさらなるアピールに打ってでるものと推測される(英国は、2001年4月から、国家として排出量取引のイニシャチブを開始した)。 (引用はじめ) (引用はじめ) エネルギー学講座Vol.1に書いたように、長い目で見れば、CO2排出規制は、世界覇権をじわじわ制限してくる。今回のアメリカの行動(京都議定書離脱宣言)は、そのことに対するアメリカの本能的反発である。 また、アメリカの今回の京都議定書離脱の理由は、冒頭にも引用したように“途上国が参加しておらずフェアでない”というものであった。しかし、この件については、そもそもまずはこの事態(温暖化)を引き起こした先進国が範を垂れるべきであるという合意が京都会議以前から次第になされていたことから、表向きの理由にしても、何故今更そんなことをいうのかと私は思った。 しかし、最近の米中関係の緊張状態から推し量れば、“途上国が参加しておらずフェアでない”というのは、中国に対する牽制も含んでいるのであろう(中国は、温暖化の交渉においては、途上国と歩調を合わせている)。中国は、今後の経済発展(に伴うCO2排出量の増大)を考えるなら、排出削減の枠組みに当分入りたくないであろう。そんな中国にとって、“途上国が参加しておらずフェアでない”という言辞はキツイ一言である。 ブッシュ政権の中国に対する強気の姿勢が、地球温暖化問題においても露呈したといえるだろう。 また、財界の観点からは、 の図式(大胆に抽象化していますが)も存在していると考えられるが、情勢は複雑な様相を呈している。 最近の日経で、チェイニー副大統領が、”温暖化防止には原子力発電が有効である”といっており、原子力ロビーの影響を受けているような発言は、上記の対立図式と矛盾し、非常に不可解である。チェイニー自身に限っても、そもそも石油掘削会社のCEOであったので、化石燃料擁護のはずであり、原子力に塩を送るのは分かりにくい。ブッシュ政権内で両派のつばぜりあいが行われている可能性もある。 ホイットマン環境保護局長官も最近の言動は揺れ動いている。ヨーロッパでの環境相会議で温暖化について前向きの発言をしながら、その直後の京都議定書離脱について、苦しい弁明をしており、政権内ではしごをはずされたようである(ガスエネルギー新聞 2000.4.11)。彼女も、両派の影響の中で翻弄されているのかもしれない。 さらに、大きくは世界経済の変化の動きがある。 (引用はじめ) このことから、今回のことは、金融から石油をはじめとする実物経済へと軸足が移った世界経済情勢において、世界覇権国アメリカが繰り出した最初のパンチとも解釈できる。(理科系掲示板 [265]森田裕之氏) ところで、ブッシュ政権のエネルギー問題に対するスタンスは、供給サイドを重視するというものである。 (引用はじめ) この公約に見られるようにブッシュ氏の政策の中心は、供給サイドに置かれている。いかに多くの供給を市場にもたらすかが課題とされ、エネルギーの効率性の追求等、需要サイド側の関心は極めて薄い。(ガスエネルギー新聞 2001.1.17) カリフォルニアの電力危機を背景に、発電所規制に反対する動きが、米国電力業界などの間で活発しており、その現われが、上に述べた発電所のCO2排出規制の除外であるが、それを後押ししているのが、ブッシュ政権の供給側重視の政策なのである。 さらに、CFRも動き出した。 奥山氏のサイト アメリカ政治情報メモ[1358]20001.4.13にて下記が伝えられている。 提言は米エネルギー大手エンロン、シェブロン、BPアモコの経営陣や大学研究者らによる専門委員会がまとめた。米国は深刻なエネルギー危機に直面しているとして、アラスカやロッキー山脈沿いの自然保護地域などで石油、天然ガスの生産を増やすとともに、精製施設やパイプライン網などインフラ整備を急ぐ必要があるとしている。(NIKKEI NETの国際総合面 2000.4.13)より 副島先生のアメリカ政界の思想派閥の全体図によれば、サプライサイダー派は、グローバリスト連合に区分けされている。ブッシュを支えているエネルギー関連のブレーンはやはりグローバリストである。
2001/03/31(Sat) No.01
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