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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2001/02)

エネルギー学講座 Vol.11
エネルギー産業の自由化について(1)

今回から、エネルギー産業の自由化問題について、述べていく。

エネルギー問題の中で、二酸化炭素の排出規制は最大の試練である。一方、現実のエネルギービジネスにおいて最もかまびすしいのは自由化問題である。カリフォルニアの今も続く電力危機は、エネルギーの自由化が発展途上であることが浮き彫りとなった。制度設計の問題点も指摘されているが、どういう制度設計が望ましいかはこれから議論となっていくであろうし、最適と思われる自由化の制度ができたとしても、国や地域を越える普遍性を持ちうるかどうかは不透明である。

悩ましいのは、二酸化炭素の排出規制と、エネルギー産業の自由化は利害が衝突してしまうことである。総合資源エネルギー調査会の最近の推計に依れば、2010年度でのエネルギー起源のCO2排出量が、1990年度に対して、7.1%も超過する見通しとなった(日刊工業2001.2.27)。1998年6月に出された政府の地球温暖化対策推進大綱では、日本の6%削減のうち、エネルギー起源のCO2は±0.0%つまり、1990年度レベルに保つことを目標としていたが、それが絶望的であることが示されたのである。

こうしたCO2増加の見通しの背景には、原子力発電所の増設計画が当初予定の16−20基から13基に減る一方で、電力の部分自由化により発電コストの安い石炭火力など化石エネルギーへの依存度の増加がある。さらに、電力自由化の範囲が将来拡大されれば、CO2排出量が多い石炭火力へのシフトがさらに進む可能性も否定できない(日刊工業2001.2.27)。

今後、自由化の問題に論を進めるにあたって、この矛盾の解決が可能かどうかも考察したいが、当面は、エネルギー業界の自由化の本質的な問題を探っていくこととする。なお、私自身はエネルギー産業の自由化については、そのベクトルとしては賛成である。ただ、自由化といっても、多義的な意味があるので、個々の事例を通じて、どういう自由化が望ましいのかを考えていきたい。

本稿はとりあえずプロローグとして、自由化の尖兵(黒船?)たるエンロン社の青森の六ヶ所村に計画している発電所について、その戦略的意味を解説して大変話題となった記事を紹介する。

出典:毎日エコノミスト 2001.1.9号 82頁 著者名:橋本尚人
「引き返せない自由化−米エンロンが電力市場を激震される」

(引用はじめ)
あらゆる産業で、自由化とは、要するに「陣取り合戦」である。そのとき、必ず「クリームスキミング」が生じる。日本語でいえば「いいとこどり」である。既存電力会社(一般電気事業者)は、結果としてリターンの小さいところに追い込まれていくことになろう。

電力業界は、売上高合計で15兆円、総資産合計で42兆円であるが、全世界の全産業で、これほど大規模な未開拓市場は残っていない。2000年3月21日に電力自由化がスタートしたが、表面は何も変わっていないように見える、いたって静かな幕開けであった。しかし、2001年には、業界地図の地殻変動が明らかになろう。すべてが終わるまでには、たかだか2〜3年の時間を要するだけである

鍵を握るのは、米国のエンロン社であり、米国や欧州の電力自由化をリードしてきた投資銀行である。電力会社は、時間をかけて、じっくりと値下げしていく料金政策であるが、こうした緩慢な姿勢が、対抗勢力の事業意欲を掻き立てている。

エンロンや投資銀行は、現在の硬直的な電気料金には、多くの歪みが潜んでいると見ている。事業モデルは、電気のコモディティートレーディング(商品取引)である。換言すれば、ギャップを突いてリターンを稼ぎ出すヘッジファンド的な手法が彼らの狙いである。理屈上は、今日の高い電力を「カラ売り」しておいて、将来の値下がりした電気料金を「買い戻し」すればいいのだ。

その過程で、より効果的にトレーディングするため、自己ポジションが必要になる。電気のトレーディングにおける自己ポジションとは、発電所である。エンロンの子会社である「イーパワー」が、青森県六ヶ所村に200万kw級の発電所を建設する計画を公表したのも、トレーディングのための自己ポジションの狙いがある。

ただし、この手法がそれほど単純でないのは、リアルオプションという経営手法を用いるためである。つまり、この自前発電所は、建設すること自体が目的ではなく、需給ギャップを作り出すことが目的なのである。既存電力会社は、需給ギャップが拡大することで、手元に遊休設備を抱えてしまうことになる。もし、既存電力会社が賢明であれば、遊休設備を吐き出すことになろう。そうすればイーパワーは労せずして発電所を手に入れることができる。反対に既存電力会社が頑固に遊休設備を抱えようとすれば、イーパワーは、圧倒的な資金調達力をバックに、この発電所計画を執行してしまうであろう。

エンロンに対する既存電力会社の対応は、民族主義的あるいは情緒論的であり、過激なアレルギー反応にもなっている。エンロンは、米国では「最も称賛される会社」と評価されているが、日本では「国民に不幸をもたらす会社」と言われる。この評判の差が、既存電力会社のアキレス腱である。競争相手を理解して、尊敬することから、公正な競争が生まれるのだ。
(引用おわり)

なるほど、疑問だった「送電設備を持たない大発電所計画」のウラが見えてきた。電力会社は、とっくにお見通しのことだろう(ガスエネルギー新聞2001.2.7)。

お見通しの割には、エネルギー業界内部は戦々恐々としているように私には思える。
(つづく)

2001/02/27(Tue) No.01

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