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二酸化炭素による地球温暖化という仮説は、どれほど正しいか。 1.二酸化炭素による地球温暖化説は、科学の進歩によっても証明することは困難である。 2.しかし、世界の産業界は、既に二酸化炭素排出抑制に舵をきり始めている。 地球温暖化の科学的側面に少し触れる。なお、この稿を書くに当たって、主に「地球温暖の真実/住明正」、「CO2ダブル/柳沢幸雄」、および「IPCC地球温暖化第二次レポート/環境庁地球環境部監修」を参考にした。 1988年、アメリカの穀倉地帯は猛暑と旱魃に襲われた。地球科学者のジェームス・ハンセン博士は上院で、この原因が地球温暖化である可能性があると証言して、温暖化が大きな注目浴びることとなった。世にハンセン報告といわれているものである。そして、同年国連の世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同してIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を設立し、1990年と1995年に第一次、第二次の評価報告書を発表している。 温暖化問題に関しては、無数の解説書が出ているが、何よりも先に読むべきは上記の報告書である。良かれ悪しかれ、この報告書に対するリアクションで、世界の温暖化問題の世論は形成されている。ともすれば、中心的なテキストの読解をおざなりにしがち(実は私)であるが、オーソドクシーから入らなければ、エスタブリッシュメントの議論に加わることはできない。ただし、この手の報告書は情緒がなく読んでいて余り面白くないのは事実である。最低限、おさえておくべき知見をピックアップする。 IPCC地球温暖化第二次レポートによると、今後の温暖化に関する予測の骨子は以下のように概括されている。 (要約引用はじめ) 大気中の温室効果ガス濃度、その気候影響強度等に関する中位の予測に拠れば、2100年には1990年と比べて約2℃の平均気温の上昇、約50cmの海面水位の上昇、極端な高温等の気象変動の極端化が予測される。また、大気中の温室ガス濃度が2100年までに安定化したとしても海水温度上昇の遅れにより2100年時点では、最終的な気温上昇の50〜90%の上昇にとどまり、2100年以降も気温上昇等が継続するであろうとしている。 「気候変動の自然・社会経済への影響」 (要約引用おわり) 平均温度の上昇は、そんなに大きなものと感じないかもしれないが、地球全体でのバラツキは激しくなり、集中豪雨、旱魃、熱波や寒波などの異常気象が頻発すると考えられている。しかし、人間が自由に住む場所を移動できるなら、予想される温暖化の影響はたいしたことはないであろう。しかし、国民国家によって人間が縛られている以上、過去の民族大移動はもはやできない。余った土地や、新天地はもう存在しない。 また、現代社会は、過去に比べれば、飛躍的に脆弱な社会である。自然災害に対しての無力さは、誰もが実感しているところである。 さらに、高度に発達した人間社会は、温度の情報に対して過剰応答(パニック)を示す可能性がある。要するに、温暖化による異常気象等自体よりも、人間社会の大混乱が恐ろしいのである。異常気象を契機に、食糧危機、暴動、革命、戦争の危機が予想される。地政学的に恵まれない国は、国家の危機となり破綻するか強国の属国化してしまう可能性もある。長期的にみれば、国境が変わることもありうるかもしれない。これらの問題は、社会科学の研究対象であろう。 しかし、まずそもそも二酸化炭素による地球温暖化は正しいのか否かを考えてみたい。 二酸化炭素が温室効果を持つガスであることは、理論的にも提示され、実験室で確認されており、物理的に証明されている(異なる元素からできているガスの分子、例えばメタンCH4、亜酸化窒素N2O、もちろんCO2、そして水蒸気H2O等は、ひとつの元素からできている分子、N2、O2なんかよりも、赤外線をよく吸収する。赤外線は地球から太陽光の反射として放射されている。物理的に言うと、異元素から成る分子の方が、振動しやすい性質を持っている。つまり赤外線のエネルギーを分子の振動によって吸収しやすいのである)。そして、地表においてその濃度は増大している。 そして、地球の温暖化自体の状況証拠は、もう枚挙にいとまがない。例えば、1998年、中国の長江の大洪水、黄河流域の大渇水、今年1〜3月の米国の異常高温、ヒマラヤ氷河の後退、日本でも桜の開花日が年々早まっている等。 しかし、この因果関係(二酸化炭素の増加→地球温暖化)は、証明されていないのである。IPCCの二次報告でも、「さまざまな証拠から、人為的影響なくして最近の温度上昇は説明できない」と述べているだけである。 実はその証明は、今後の科学の進歩によっても困難である。近代裁判に例えるなら、二酸化炭素は当分の間は無罪である。しかし、昨今、刑事裁判において状況証拠の詰めによる有罪判決もある(ありうる?)旨の報道がなされている。次元は異なるが、二酸化炭素による地球温暖化の証明(?)も、コンピュータによる詳細なモデルによる計算と状況証拠の積み重ねによる認知という形をとっていくことだろう。物理的証明と本質的に違うが、コンピュータの発達により4色問題やフェルマーの大定理の証明が可能となったように、膨大な数式の束である気候モデルの計算は、今後さらにその精度も加速して、観測結果との整合性が図られていくだろう。 ここでは、二酸化炭素温暖化説の証明が困難なことを直観的に考えてみる。まず、小室先生の「超常識の方法」から引用する。 (要約引用はじめ) 小室先生は、また他の本の中で、物理学→生物学→医学の順で因果関係の連鎖が複雑に命題の証明が困難になっていくことをいわれていた(本の名前は忘れました)。薬による薬効の証明は、統計学による蓋然性の観点でしか証明?しづらい。極端な例では、ブラシーボー効果によって効いてしまう場合において、とても普遍性を読み取ることなんかできないだろう。 さらに、社会現象に至ってはすべてがすべてに依存する、という相互連関の網の目にの中にあるのだから、いずれが原因、いずれが結果などと実験室の中のようなことは一般に言えないのである。おたがいに原因となり結果となりフィードバックしながら無限に波及を繰り返していく、ということもしばしば言及されている。 二酸化炭素温暖化説にも、以上のロジックが適用できる。 まず、地球温暖化は、二酸化炭素が原因となっているとの存在問題は提示されていない。それは、地球には複雑なフィードバック機構が存在しているため、原理的に困難であるからである。 二酸化炭素による地球温暖化説は、地球表面に二酸化炭素が増え、地球から放出する赤外線の吸収が行われることによってもたらされるとするものである。地球が単純な系であるなら、太陽光の吸収およびその反射としての赤外線の放出、そしてその一部の地表面での吸収の三者がいずれ平衡に達し、まちがいなく温暖化がもたらされるであろう。しかし単純にそうはならない。「CO2ダブル/柳沢幸雄」から引用する。 (要約引用はじめ) 温暖化の具体的な予測の計算は、以上のプロセスを加味した膨大な数式の束によってモデルをつくり、スーパーコンピュータによって計算される(温暖化予測モデルの説明はここでは省くが、歴史的にも、理論的も興味深いので、私自身もっと勉強して、別の機会に紹介したい)。モデル計算によって、気温の上昇量を結果的に最もらしい数字に合わせることはできても、大気中の全ての物理プロセスを正確にモデルに反映することはできていないので、その数値自体が正しいかどうかがわからない。要はモデルの性能が不十分であり証明したことにはならない。また、本質的に気候システムはカオス的なので長期の予報は不可能であるともいえる。 二酸化炭素地球温暖化説の反論の多勢は、この証明できないことを逆手にとっていることが多い。証明できないから対策しなくてよいなどと今日では誰も考えていないのである。 なお、証拠による反論もいくつかある。現在の温暖化は、地球の変動に過ぎないとするものや、太陽の黒点移動説、最近ではエルニーニョ(太平洋東部赤道域の広い範囲で、海面水温が平年より0.5℃以上高い状態が一年程度続く現象)によるものとする説を掲げる人もいるが、二酸化炭素地球温暖化説に対峙するほどの仮説は提出されていない。 まとめると、二酸化炭素による地球温暖化ということが、地球という系で成り立ついうことは、原理的に提示できない。つまり二酸化炭素という解の存在ははっきりしていない。しかし今後の展開によって、限りなく漸近的に証明されていくであろう(考えてみれば、地震予知、火山の噴火予知ができないこと、はてはビッグバン仮説が直接証明できないことも、同様の理解が成り立つ)。 また、イデオロギー的な反論で、代表的?なのは、フランスの原子力業界の陰謀とするものである(原子力発電は、発電時にはCO2をほとんど排出しない)。そのこと自体、それなりの興味深さがあり検証対象だと思うが、陰謀であれ何であれ、温暖化してしまったら、陰謀家もその被害を免れない。 そもそもCOP(地球温暖化防止条約締結国会議)を進めているモチーフは、仮に温暖化により冒頭の述べたリスクが顕在化したなら、その時点からの対策ではもはや手後れになるので、今の内から対策を打っておこうというものである。その背景には、それらの対策自体は、痛みは伴うものの地球の保護には寄与するだろうというコンセンサスがある。このことは、陰謀説をも包摂してしまうことになることは銘記しておきたい。 二酸化炭素地球温暖化説に対する科学的検証の大枠は上に見た通りであるが、世界の産業界は、どう反応しているのであろうか。 1995年にIPCCの第二次報告書が出されて、二酸化炭素地球温暖化説に疑義を唱える空気はぐっと減ってきた。そして、1997年の京都会議以降は、石油・自動車業界を主流とした産業界も総崩れ気味になってきたのである。この模様を記したレスター・ブラウン氏(ワールドウォッチ研究所長)の興味深い記事(読売新聞2000.8.13)を引用する。 (要約引用はじめ) BP アモコ、シェル、デュポンなど脱退企業のうちの幾つかは、進歩的な新グループである「ビジネス環境リーダーシップ協議会」に参加した。これは現在約21企業から成る組織となっている。Pew Center on Global Climate Change により設立されたこの新しい組織は、「我々は、気候変動の科学的・環境的なインパクトについて、その結果に取り組む行動を起こすために、十分に知られているほとんどの科学者の見方に同意した」と述べている。 同協議会に参加した主な会社は、ほかにはトヨタ、エンロン及びボーイングがある。同協議会は、炭素排出量を削減するための自社プログラムを持つよう、個々の企業に求めている。 これらのことは、もう証明できるのかという疑義をはさんでなんかいると、世界の潮流に乗り遅れるという恐れが、急速にエスタブリッシュメントの合意として形成されてきたことによるのである。識者には、先の企業名をみておわかりのように、ロックフェラー系、ロスチャイルド系の区分けはそこにはない。 今後も、二酸化炭素温暖化説の真偽に対する真摯な科学的検証は欠かせないが、それと相俟って、排出抑制に関わる産業の対応および個々人の対応等がジャーナリスティックな側面から今後、大きく取り上げられていくであろう。 ちなみに、京都議定書の発効のためには、55ヶ国以上の批准が必要とされる。しかし、2000年10月19日現在、84ヶ国中、29ヶ国しか批准しておらず、先進工業国は皆無である。最大の二酸化炭素排出国のアメリカの批准の見通しは全く立っていない。 次回は、二酸化炭素削減の本筋と絡む、エネルギー需要の問題を考える。
2000/10/08(Sun) No.01
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