二次創作投稿(To Heart)
「父の日に」
(作:阿黒)
プルルルルッ。プルルルルッ。 プルルルルッ。 「はい、保科です」 コール三回で聞こえてきた声に、智子の反応はほんの少し遅れた。 「もしもし?」 携帯電話から流れてくる音声には、周囲のざわめきが混じっていた。時間帯から考えても、おそらく職場からなのだろう。 「もしもし?」 その、低い声に苛立ちが混じってきたのに気づいて、ファーストフードのテーブルについていた智子は自然に声をひそめて応じた。 「もしもし。…お父さん?」 「智子か!?久しぶりやなぁー。…どうした突然?」 「あ、うん…ごめん、今日仕事やったん?」 智子は8割ほどテーブルが埋まった店内を見回した。壁にかかった時計の針は4時20分を指している。 「おう。相変わらず休日出勤でな。ほんま、人使いの荒い会社やで。――智子は今日は塾、休みなんか?」 「え?――うん。今日は久しぶりに、友達と遊びに行って、今、ヤクドから」 父親からの返事は、少し間が空いた。 「そっか…トモダチとなぁ…」 「なんや、引っかかった言い方するやんか?」 「ひょっとしてアレか、デートか?」 「そんなんやない!」 「ムキになって否定するところがあやしい」 「あやしゅうないっ!変な勘ぐりすんなやこの不良中年っ!」 「…智子…お父さんはまだ中年やない」 「高校生の娘がいる年齢で何言うとるんやこのオッサンは!」 「オッサン…智子、女の子がそんな言葉使いしたらあかん。そら、その辺のこ汚いオヤジはそれでエエかもしれんが、おとーさんは…」 「なんやね?」 「ナイスミドルかロマンスグレーと呼ばれてみたい。というか呼びなさい」 「中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ!中年っ! オッサン!オ・ヤ・ジっ!」 「ああっ…そんな微にいり細にいり念押ししなくてもっ!?」 「40過ぎの中年が拗ねんなや見苦しいっ!!」 神戸の父親にそう叩きつけると、智子は周囲を見回した。つい声が大きくなってしまったが、幸い周囲の注目を引くほどではなかったようだ。 「とにかくデートやないからね!他の娘達は注文とりで、ウチは先に席とりしてるだけなんやから!」 「なるほど、今日はデートではないと」 「だから、そーじゃなくて!」 「しかしやな、自分に恋人がいないと言い切るのもそれはそれで悲しくないか?」 「…お父さんは私に彼氏おる方がええんか?」 「そりゃあ、智子に彼氏がおるんなら、是が非でも仲を割いてやりたいが」 「すんなっ!!」 「いやしかし、一度は年頃の娘が色気づいてきて心配して、男からの電話にやきもきするのが男親というものだし」 「アホかいなそんな…」 「しかし――そうそう、藤沢君やったかな?いつか会ったことある。あの子なんか結構おもろい子やったなぁ」 「藤沢君やない!藤田君やっ!」 「…せやったなぁ~、藤田浩之君やったなぁ~智子?」 「…う…」 「なんや、えらいムキになるやないか智子~?そーか、藤田君か~~~」 「邪推すなやこの不良中年っ!!」 「はっはっはっ。かわいいなぁ智子」 「無視すんなっ!」 「まあそれはそれとしてやな。珍しいな、智子の方から電話入れてくるなんて。…あ、そいういや智子、これ携帯からやろ?お前もとうとう人並みにその手のモンに手を出したか」 「ま、まあ強引に進められて…便利やけどな」 「そうやろそうやろ。…そうか、そういうこと進める友達とか、そっちにもできたんやな」 「――うん」 「そうか。…よかった」 話が途切れ、空白が生じた。それが沈黙に変わる前に。 「智子。今、智子は楽しくやってるか?」 「……うん」 「そうか」 「――ゴメンなお父さん。今、仕事中やろ?長話してもたな」 「かまわんて。ところで、今日は何か用があったんか?今、友達と遊びにきてるんやろ?」 「え?いや、その…」 一瞬口ごもって、智子は、おずおずと口を開いた。 「あのな、お父さん。…今日は、父の日やろ?――その、だから」 「………おお。そういえばそんな日があったよーななかったよーな」 「あるの。世間一般では。だから、ね」 「そっか。父の日のプレゼント、ってわけやな」 「…せこいけどな」 「ええて。そんな仰々しくプレゼントとか贈られるより、こうして話するほうがズンとええわ。おおきにな、智子」 ――2年前まではこうではなかった。両親が離婚して、母と自分がこっちに移ってくるまでは、こうではなかった。 離婚の事を、責めるつもりは智子には無い。父と母の、男と女の間で決断された結果を、二人にとっても苦渋ではあっても、二人の意志で決めたことを、二人の子供だからというだけの理由で今更責めるつもりは智子には無い。 だが、年に数回しか会えなくなった父を、決して嫌いなわけではない。 寂しくないわけでは、ない。 「…お父さん?」 「うん?」 「…今日は父の日なんだから…久しぶりに、肩揉んであげよっか?」 「肩揉みって智子お前、そんな…」 「――もみ、もみ、もみ」 「…智子?」 「――もみ、もみ、もみ。 もみ、もみ、もみ、もみ」 智子はそっと、電話に囁き続けた。 「もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ。 もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ…」 ばかみたいだと、思う。 子供っぽいことをやってると、思う。 でも、それでも、智子はかたもみを続けた。 「もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ。 もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ…」 「…………」 「もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ。 もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ…」 「…………」 「もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ。 もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ…」 「………智子」 「もみ、もみ、もみ、もみ。もみ、もみ、もみ、もみ… ――お父さん?」 「うん…?」 「少しは、軽くなったかな?」 「ああ。…ああ、おおきにな、智子」 少し笑って、電話の向こうの父に、智子は言った。 「お父さん。その…」 最後に何か気のきいたことを言おうと思って、智子は口ごもった。こんな時にはどう言おうか、前々から色々と考えておいた筈なのに、それらは全て智子の頭の中からはきれいサッパリと消えうせてしまっていた。 「あの…元気でね」 「ああ、智子も勉強がんばるのもええけど、無理したらあかんで。 ――それじゃあ」 ぷつっ。 結局何の捻りもない、素っ気無い別れ方になってしまって、何となく憮然としてしまう智子だった。はあ、と一つ溜息をついて携帯をポケットにしまう。 「――あ、いたいた。委員長~~」 「ごめん、お待たせ、保科さん」 「あー、もー、お腹ぺっこぺこよ~~~」 と、ようやくトレイを抱えた浩之達が階段から姿を見せた。浩之と、あかり、志保の三人は二階窓際のテーブルを確保していた智子の所に足早に歩み寄る。 「あ~も~なんでこんな無駄に人が多いのかしらねー?おまけに店員が新人で手際が悪くってさー。たまったもんじゃないわよね」 「志保、店員さんだって一生懸命やってるんだから」 「まー確かに手際が悪かったけどな。お前が早く早くってせかすから、却って焦らせてますます遅くさせちまったじゃねーか」 「なーによ、あたしが悪いってゆーのっ!?」 「少なくともオレは悪くない」 「あんですって~~~~~~~~~~?」 「あんだよーーーーー?」 「…ほっとき、神岸さん。それよかはよ食べよ」 「う、うん…でも…」 一応テーブルについたものの、こちらとにらみ合いを続けている志保と浩之を交互に見比べて迷っているあかりの姿に智子は苦笑する。 (ま、騒がしい連中やけど…おもろいのは確かやな) 心の内でそっと呟くと、智子はお好み焼きバーガーの包みを開くと、二人の対決が実力行使に及ぶ前に急いで食べ始めた。 |
【後書き】
父の日ということでネタを思いついたのが、6月17日が終わる間近だったというなんとも
カッコ悪い状況のまま書き始めてしまいました。案の定、間に合わないし(笑)
実は智子ではバレンタインネタも考えていたのですが、これも間に合わずお蔵入りしています。
う~む、かっこ悪い。
しかし智子って、ファザコンの気があるよーに思えませんかね~?
なお、本編中のインチキ関西弁に関してはご容赦ください関西人の方(爆)
☆ コメント ☆ 綾香 :「父の日、かぁ。あったわね、そんなイベントも」( ̄▽ ̄; セリオ:「綾香さん、すっっっかり忘れてましたね?」(;^_^A 綾香 :「だってさぁ~~~~。なーんか、影薄いじゃない、父の日って」( ̄▽ ̄; セリオ:「まあ、確かに。母の日なんかに比べても地味な印象は受けますね」(;^_^A 綾香 :「でしょ~?」(^^) セリオ:「だからといって、忘れていたことは正当化できませんけどね」(¬_¬) 綾香 :「う゛っ」( ̄▽ ̄; セリオ:「その点、わたしは完璧です。ちゃーんと贈り物をしましたよ」(^-^)v 綾香 :「贈り物? 誰に?」 セリオ:「もちろん長瀬主任とスタッフの方々です」(^^) 綾香 :「なるほど。で? 何を贈ったの?」(^^) セリオ:「黒と紫の薔薇の花束です」(^0^) 綾香 :「は?」(--; セリオ:「母の日のカーネーションに対抗して、父の日に相応しい花を贈らせていただきました。 綺麗ですよね」(^0^) 綾香 :「…………ふ、相応しい……かなぁ?」(--; セリオ:「ああっ。わたしって、なんて親孝行な娘なんでしょう」(^0^) 綾香 :「……………………」(--;