To Heart マルチの話
ミートせんべい
くのうなおき
「あうううっ・・・・・・・・・・・」
またも作ってしまった「ミートせんべい」を前にして、半べそ状態になっている
マルチに、オレとあかりはかけてあげる言葉をさがしあぐねていた。
しかし、これでもう何回目なのだろうか?確かにマルチはドジでおっちょこちょい
な所はあるが、同じ失敗を何度もくりかえす娘ではない。それなのに、何故ちゃんと
ミートスパゲティーを作ることができないのだろう。
マルチがオレの視線に気がついたようで、おどおどとしながらオレを見つめた。
きっと何度も同じ失敗をしてしまった事を怒られるんじゃないかと思ってるんだろうな。
オレはマルチの頭を撫でてやりながら言った。
「怒ってなんかいないから安心しろ、ただ、同じ失敗はくりかえさないお前がなんで
だろうと思っただけさ。」
「そうだよね、他のお料理はちゃんとできるのに・・・・。」
あかりも同意するように言った。
「ううっ・・・・、どうしてなんでしょう・・・・、作り方はおぼえているはずなのに、知らない
うちにミートせんべいになってしまうんです。」
「「う~ん・・・・・・」」
オレ達は黙り込んでしまった。
「なーに、いつまでも台所にこもってんのよ、あんたたち。もう志保ちゃんお腹空いちゃった~。」
けたたましい声が台所に侵入してきて、オレ達の沈黙を打ち破った。
「うるせーぞ、おめえは!どうせ手伝う気なんかありゃしないんだから、居間で
おとなしく待ってやがれ!!」
「なによー、失礼ね~あたしだって、皿を並べることぐらいやってるわよ~」
自慢する程のことじゃねえだろ・・・・と言いたいのを抑えて、さてこの後どうしようか
とオレとあかりは顔をあわせた。さすがに18年の付き合い、更に恋人同士とくれば
以心伝心などお手の物だ。
・・・・・オレとあかりはいいのだが、志保の奴、ミートせんべいを食べるかなあ・・・・・。
「あら~、今日はこのせんべいみたいなのが夕ご飯なわけ~?よし、ちょっと味見
をっと・・・・、んぐんぐ・・・・・・、う~んなかなかいけるわね、ピザっぽいせんべいって
ところかしら?」
良かった・・・・・・。
オレとあかりは笑いあった、ここで志保が「こんなの食べたくないわよー!」なんて
言い出したらどうしようかと思っていたが、何とか切りぬけられたようだ。ま、志保の
事だ、多分本当の事を言ったんだろうけどな、大体あいつに突発的な腹芸なんて
できるわけはねーし。
志保の言う通り、ミートせんべい自体の味は悪くない、ただ、それが失敗の産物
であると言う事がマルチには辛い。マルチ自身はちゃんとしたスパゲティーを作りたい
のだから・・・・・。
マルチがオレの元に帰ってきて4ヶ月、マルチの頑張り、あかりや、あかりのお母さん、お袋達の
教えもあってマルチは家事全般の腕をめきめきと上げていった。特に料理においては
あかり、あかりのお母さんという最適このうえない「先生」のおかげで、ずいぶんと料理のレパトリー
が増えた。
しかし、そんなマルチがどうしてもできないのが、ミートスパゲティーだった。あかりが一緒のときには
うまくいくのだが、マルチ一人にやってもらうと、どうしてもミートせんべいになってしまう。それも先程
も言ったように、何回やってもそうなってしまうのだ。
「ううっ・・・・、わたしどこか故障しているんでしょうか・・・・?こう何度も何度も同じ失敗ばかりして・・・。」
「でも、他のことは覚えたら、ちゃんとできるんだよ。故障だったらみんなできなくなっちゃうよ。」
「そうだな、ミートスパゲティーだけ作れないっていうのが不思議だ。」
志保が帰った後、マルチの体をメンテナンスパソコンで調べてみたが、どこも異常はみられなかった。
といっても所詮は簡易型のメンテナンス機だ、ひょっとしてオレ達の知らない所で異常が発生しているのかも
知れない。特に今回のことについては学習機能=メモリーにかかわる問題になってしまう可能性がある、大切な
マルチの記憶・・・・・・・、記憶?
「浩之ちゃん・・・・・・?」
あかりが遠慮がちに声をかけてきた。
「わりい、ちょっとひっかかる事があってな。」
「引っかかる事ですか?」
「ああ、本当になんでもないことなんだが、すっかり慣れちまって忘れていたよ。」
「「?」」
マルチもあかりもきょとんとしてオレを見つめた。
「マルチは『こころ』を持ったロボットだ、って事さ。」
翌日、オレ達3人はマルチの「実家」、来栖川エレクトロニクスHM開発課に行った。
ちなみにここはオレのバイト先でもある。将来のこともあって、メイドロボ関連の仕事でもあれば
・・・と思っていたら、何とプログラム関係の仕事で来栖川から求人があった。「騙されて
もともと」と思い、面接にいったら、2年前公園で会ったあのオッサン・・・・・長瀬源五郎さん
がいた。どうやら向こうは本気で求人をしたのだが、結局来たのはオレだけだったという。
長瀬さんはあの時と同じ、食えない笑いを浮かべながら
「あなただったら、必ず来てくれると思いましたよ。」
と言った。
オレは半ば呆れて
「普通、天下の来栖川エレクトロニクスから、それも重要な部門のバイト求人が来ても
皆、疑いますよ、『どうせ、下請けの仕事だろう』とか言って。大体そんな所にバイト
使ってもいいんですか?ひょっとしてオレ裏切るかもしれないんですよ。」
「あなたは裏切りませんよ、マルチを理解してくれたあなたは・・・・・。それに
簡単に裏切られる程、魅力のないところではないですよ、ここは。きっとあなたはここに
骨を埋めたくなります。」
「ずいぶんな自信だ」と思ったが、実際この職場はオレはえらく気に入っている。
どうやら長瀬さんの言う通り、ここに骨を埋めそうだぜ。
話が大分横道にそれた。
ここにマルチを連れてきたのは、故障箇所のチェック、修理ではなく、オレの考えを
確かめるためだった。
マルチが『こころ』を持っているなら、あってもおかしくないことをだ。
ミートスパゲティーの作りかたを再度覚えて、自分で作ってみるその時のマルチの
データの動きを調べてみるという事だ。
3時間後、一通りの作業が終り、長瀬さんとマルチがオレ達の所にやって来た。
「やっぱり、藤田君の言う通りだったよ、いや、一部違ってはいたがね。」
「と、言うと?」
「藤田君は、マルチがミートせんべいを作ってしまうのは、初めて自分が作った
料理が失敗してしまった事によるトラウマによるものと考えたが、これが大間違い、
もっとも、私達も藤田君同様トラウマと考えていたんだが・・・・・。」
「「はあ」」
「マルチにとって、ミートせんべいは大切な思い出なんだよ」
マルチは顔を赤くしてこくんと頷いた。
「わたし、浩之さんと別れて、眠っている間ずっとあの日曜日の夢をみていました
何度も何度もくりかえして・・・・・、ミートせんべいを作ったことを、浩之さんが誉めて
下さった事を。」
「マルチの外出日の出来事が、メモリー部に完全に焼きつけられて消去がまったく
できなくなっていたんだ、それは前から分かっていたんだが、まさかこれほどまで
とはね。ミートせんべいのデータが常にミートスパゲティーに関するデータとなっている。」
「マルチの本能みたいなものになっているんですか?」
「そう言ったほうが簡単だね、理屈で覚えても、本能をそう簡単に変える事はできないということだ。
特に、ミートせんべいの事は、マルチが初めて好きな人の為だけにしたことだから
『直す』のは難しいなあ。」
「すみません、せっかく原因がわかったというのに・・・・・。」
マルチが頭をさげたまま縮こまっていた。オレとあかりは苦笑しながらマルチの顔を
あげさせた。
「あ・・・・・・・。」
「そういう事ならしょうがねーだろ?」
「大切な思い出を無理に消す事はないのよ」
「わたし・・・・、わたし・・・・・ミートせんべいを作ってしまってもいいんですか?」
「『思い出の料理』だからな、大切にしなくちゃな。」
「そうだよ、あれはマルチちゃんのオリジナルメニューなんだから。」
マルチの両目からたちまち涙があふれでた。
「浩之さん、あかりさん・・・・・・・・、あうううっ・・・・・・・」
「わー!こら、こら、ここで泣いちゃだめだって!!」
泣き出したマルチを必死になだめて、オレ達は長瀬さんにお礼を言った。
「いや・・・、礼を言われる程の事はしてないよ、むしろ今回は私達も
大いに勉強になったんだから。」
「勉強ですか?」
「そう、ロボットの本能ってものをね、これが『マルチ』特有のものなのか、
または、メイドロボット全般にもありえることなのかはまだ分からない。
ただ、今後ロボット技術が進んで行けば、人間とロボットの付き合いが
一層深まっていけば、重要な研究課題になっていくと思う。『マルチ』
『セリオ』に使われているOSより更に優れたものが出てきて、普及
するのはそう遠くない事だからね。」
「ロボット心理学ってやつですか」
「そういう学問ができてもおかしくないな、なんだったら藤田君、
君がそのパイオニアにならないかい?」
「お、オレがですか!?」
オレは突然の言葉に驚きながらも一方で、それも悪くないと感じていた。
パイオニアになるかどうかはともかく、ロボットの『こころ』を研究したいという
思いはある。オレはマルチを見つめた。
マルチには、まだまだオレ達が知らない事がたくさんあるのではないのだろうか、
産み出した人達でさえ思いもしなかったことが、それを知り、人間とロボット
の新しい関係を模索してゆく、一生の仕事として充分価値のあるもんじゃないだろうか
・・・・・・。
ここへきて、オレはもう、やる気がでてきたようだった。そんなオレの気持ちは
お見通しだったらしく、マルチもあかりも長瀬さんも、微笑みながらオレを見つめて
いた。
オレは気恥ずかしくなり、窓の外に顔を向けた。
終
後書き
前回、前前回とドタバタ話だった反動なのか、今回は真面目(?)
にいきました。どっかで見た話だなあと思われた方、すいません
私の技量不足です。お許しください。
最後にでてきた「ロボット心理学」はあちこちで使われてるネタ
ですが、あえて使わせていただきました。
また話が過去に遡っちゃた(汗)
☆ コメント ☆
綾香 :「ふ~ん。ロボット心理学かぁ」
セリオ:「興味深い学問になりそうですね」(^^)
綾香 :「そうね」(^^)
セリオ:「そのような学問があれば、わたしたちの事をもっともっと理解していただけるでしょうし」
綾香 :「人間とロボットの関係も、今よりも素敵なものになるでしょうしね」(^^)
セリオ:「はい!」(^0^)
綾香 :「それにしても……
その学問を学べば、あたしにもセリオの事が理解出来るようになるかしら?」
セリオ:「そうですね。おそらく」
綾香 :「そっか。だったら、あの謎も解明出来るかもしれないわね」(^^)
セリオ:「謎……ですか?」
綾香 :「そうよ。セリオ最大の謎よ!!」
セリオ:「なんとな~く、答えが予想出来るのですが……それでも一応おうかがいします。
わたしの最大の謎、とは?」(--;
綾香 :「どうして、そんなにボケボケなのか!? これよ!!」(^0^)
セリオ:「…………ううっ、やっぱりぃ~。
そんな、最大の謎、イヤですぅ~~~」(;;)
綾香 :「『イヤですぅ』って言われてもねぇ。……事実だし」(--)
セリオ:「うう~~~~~~~~~っ」(;;)
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