To Heart SS マルチの話
思い出の場所
くのうなおき
今日一日の学業を終え、大学から戻ってきた浩之を迎えたのは。
「じゃ~ん」
「じゃ~ん、です~」
の声と共に玄関に現れた、高校の時の制服を着たあかりとマルチだった。
しばし茫然として二人を見ていた浩之に、あかりはにこにこしながら
「わたしが以前着てた服で、マルチちゃんに合う物はないかなーって
タンスの中見てたら、これが見つかったんだよ。」
と言った。
「わたしも、前に着ていた制服を主任からもらっていましたから、それじゃあ
一緒に高校時代に戻ってみましょう、ということで着てみたんです。」
「うふふっ、まだ現役で通じるかな?」
といってくるりと一回りするあかり。そんな仕草に浩之は苦笑しながら
「そうだな、子供っぽさが残っている分、まだまだ現役女子高生と言って
も充分通用するぜ。」
と言った。
「ぶぅ~っ、なんか誉められてる気がしないよ~」
「すまん・・・・、だけど本当に高校生でも通用するぞ・・・・・・・。」
嘘ではなかった。大学3年になって髪も伸び、顔立ちも大人びてきているあかりではあったが、まだ残る
少女の面影が、高校の制服を着ることで、浩之に高校時代のあかりを思い出させていた。そんな
あかりを見て、浩之はあかりが髪型を変えた時に感じた心のざわめきを感じた。そのような思いを
ごまかすように、浩之は顔を赤くして、そっぽを向いた。あかりは、そんな浩之を微笑みながら見つめていた。
「マルチのその姿を見るのは、五年ぶりだな。こうして二人を見てると高校の時に戻ったような
気がするぜ。」
「えへっ、『戻った気がする』でなくて、戻るんですよ、浩之さん。」
悪戯っぽく微笑うマルチを見て、きょとんとしていた浩之だったが、その言葉の意味に気付いて
あわてふためきながら言った。
「ちょっと待て!?俺も学ランを着るのか?」
「うん、だってわたし達だけじゃつまんないもん。」
「やっぱり、3人一緒に高校時代にもどりましょう!」
と言いながら、あかりとマルチは浩之を居間に連れて行った。
「お、おいっ!」
十数分後、高校時代に戻った三人がそこにいた。
「ふふっ、思ったほどきつくなくて良かったね。」
と言ってあかりは学ラン姿の浩之を見た。
「あ、ああ、そうだな・・・・」
まだ気恥ずかしさの残った表情で浩之は答えた。
「それじゃあ、3人揃ったところで行きましょうか?」
マルチの言葉に浩之は慌てた。
「行くって、どこへ行くんだ!?」
「え~?この格好で行く所といったら学校に決まっているでしょ?」
あかりが言った。
「が、学校って・・・・・、こんな格好でいるのを誰かに見られたらどうするんだ?」
「大丈夫だよ、外は暗いし、わたし達のことはわからないよ」
「そうはいってもなぁ・・・・・。」
「浩之さ~ん、あかりさ~ん、早く行きましょう~。」
すでに玄関で靴に履き替えていたマルチが二人を呼んだ。どうも一番乗り気なのは
マルチのようだった。はしゃいでいるマルチを見て浩之は
「しょうがねえなあ・・・・・、知り合いに見つかっても知らねえぞ。」
と言って玄関に向かった。あかりも笑顔で浩之の後に続いた。
「浩之さ~ん、あかりさ~ん、早く、早く~」
浩之とあかりの20メートル先を走っていたマルチが止まって、二人を呼んだ。二人は
苦笑しながら、早歩きでマルチに近づいていった。いつもの控えめなマルチからは想像
し難いはしゃぎぶりに二人は圧倒されていた。
「浩之ちゃん・・・ありがとうね・・・。」
マルチを苦笑しながら見ている浩之にあかりがそっと言った。
「ん、どうしたんだ?」
「わたし達のわがままにつきあってくれて。」
浩之はあかりに笑いかけて言った。
「嫌々付き合ってるわけじゃねーよ、俺も楽しんでいるんだからな。」
「うん・・・・・」
あかりは微笑んで頷いた。
「最初は結構恥ずかしかったんだがな・・・・・・・。」
「すぐに慣れちゃった?」
「そういうわけでもねえぞ、今だって、もし誰か知り合いに見つかったら
どうしようか、っていうとこあるぞ。でもな、それ以上に気持ちがうきうきしているんだ。」
「わたしも同じだよ、最初マルチちゃんに、『一緒に制服を着ましょう』って誘われた時は
恥ずかしくてどうしようかなぁ・・・って思ったけど、いざ着てみると何か、胸がね、きゅうんって
しちゃって・・・・・・、皆で学校へ行きたい、なんて思っちゃった・・・・・・。」
あかりが笑みを浮かべて答えた。
「変だよな、3人でどこかへ行くというのはしょっちゅうなのに、何で制服を着ただけで、こんなに気持ちが
昂ぶるんだ?」
しばらくあかりは黙っていたが、何かに気付いて、浩之をじっと見つめた。
「多分・・・・、大切な思い出の場所に戻るからだと思うよ・・・・・。」
「大切な思い出の場所?」
「うん・・・・・、高校時代の色んな思い出がね、わたし達の今につながっているんだよ。
わたしね、今とっても幸せだよ、浩之ちゃんがいて、マルチちゃんがいて、こんな優しい
家族がいて、とっても幸せだよ。その幸せって、色んな思い出が繋がってできているんだと
思う、高校の時、浩之ちゃんとマルチちゃんが出会ったこと、マルチちゃんの一生懸命
な姿に、わたしが励まされたこと、わたしと浩之ちゃんが自分達の想いに素直になった
こと、他にも志保や雅史ちゃん、芹香先輩や綾香さん、セリオちゃん、琴音ちゃん、葵ちゃん
保科さん、レミイ、雛山さん・・・・・・・・いろんな人達との思い出が今のわたし達へと繋がって
いる、その思い出の一杯ある所へ戻るから、気持ちがわくわくしてくるんだよ。」
「そうかもしれねーな・・・・・・、思い出の場所に戻るからなんだよな・・・・・・。」
浩之は先にいるマルチを見た。
「マルチも同じ気持ちなんだろうな、たった一週間・・・・、だけどあいつにとっては
かけがえのない大切な思い出だった。」
「うん、だからあんなにはしゃいでいるんだよ。」
「よし、それじゃあ早く思い出の場所にいこうぜ!」
「うんっ・・・・って、あーん!浩之ちゃん早いよぉ~」
マルチを目指して駆け出した浩之を、最近運動不足気味のあかりが、情けない
声をだして追いかけた。
しばらくして、3人は高校の門の前にいた。すでに門は閉められていて、あたりには
3人の他には誰も見当たらなかった。
「ふう、ふう・・・・・・・」
「あかりさん大丈夫ですか・・・・。」
息を必死に整えているあかりをマルチが心配しながら介抱していた。
「うん・・・・・、ふう・・・・・、大丈夫だよ・・・・・、マルチちゃん、ありがとうね・・・・・。」
「す、すまん・・・・・、つい調子にのっちまって・・・・・・。」
「ふう・・・、いいのよ・・・・、これで高校時代に戻ってきたって実感が
更にわいてきちゃった。」
「俺って・・・・、ひどい事してたんだな・・・・・・。」
「ふふっ、やっと気付いてくれたね♪でも、わたしはひどい事されたなんて
少しも思っていなかったよ。」
「そ、そうか・・・・・」
「だって、今も昔も浩之ちゃんは優しいから・・・・・、ねっマルチちゃん」
「はいっ、浩之さんは『わっ!』っておどかしちゃっても、いきなりかくれんぼしちゃっても
とっても優しい人です。」
「ううっ・・・・・、何か・・・・・・俺の悪行ばらしになってないか・・・・・・・。」
「えへへっ、そう思うんでしたら・・・・・」
「あかりさんとわたしに、もっともっと優しくしてください、浩之さんっ♪」
「わかりました・・・・、お姫様方・・・・・・・。」
ふう、と息をついて浩之は校舎を見上げた、たくさんの思い出があるこの場所、
今の幸せのもとになった、様々な思い出があるこの場所、浩之はあかりとマルチ
に向き直って言った。
「なあ・・・、またここに来ようぜ・・・・・。」
あかりとマルチは満面の笑みを浮かべて元気よく応えた。
「「はいっ!!」」
そう・・・・、また3人はここに来る、今の幸せが、様々な思い出からできていること
を忘れない為に、そして更なる素晴らしい思い出を作っていく為に。
校門前に立っている3人を息を潜めてじっとみつめる二つの影があった。
「す、すごいものを見てしまいました・・・・・・。」
「でも、とっても楽しそうです・・・・・。わたしも仲間に入ってみたい・・・・・・・・。」
「こ、琴音ちゃん!今はまずいって。せっかく良いムードなのに。」
「残念です・・・・・、そうだ、今度の同窓会、参加する方は制服着用っていうのは
どうでしょうか?幹事の葵ちゃん?」
「ちょ、ちょっと・・・・・!それはいくらなんでも・・・・・・・・、第一もう服が小さく
なって着れない人はどうするんですか!?」
「それは来栖川先輩に頼めば・・・・・何とかなるんじゃないかなぁ・・・・・・。」
「ああ・・・・、もう・・・・・・琴音ちゃんが壊れちゃう~、センパイ助けて下さい~」
「でもでも、葵ちゃんは体操服での参加ということでOKです♪」
「・・……オチはそれですか・・・・・・・・・(泣)。」
終
後書き
制服プレイネタを期待していた方、どうもすいません・・・・・(いるのか!?)
今回は琴音ちゃん、葵ちゃんが初登場となりました。琴音ちゃんは超能力
に悩んでいたころの反動で大分くだけた性格となっています。これからもしばしば
大胆不敵な行動で、親友の葵ちゃんを慌てさせてゆくことでしょう。
☆ コメント ☆
葵 :「うっ! 制服がピッタリ。嬉しいような悲しいような……」(--;
琴音 :「あう、わたしはダメ。小さくって着られない」(--;
葵 :「そうなの?」
琴音 :「うん。特に胸がきつくて」
葵 :「ぴくっ……………………そ、そうなんだ」(^^メ
琴音 :「これじゃあ、制服着用は無理だね。あ~あ、がっかり。
今ばかりは、この成長した胸が恨めしいわ」
葵 :「ぴくぴく……………………だ、大丈夫。ぜんっぜん問題ないよ」(^^メ
琴音 :「なんで?」
葵 :「来栖川先輩に頼めば、ね。きっと魔法の薬で何とかしてくれるよ」( ̄ー ̄)
琴音 :「……そ、それはちょっと……遠慮したいんだけど」(^ ^;;;
葵 :「却下。ということで……さ、行こ」
琴音 :「あ~ん、ちょっと待ってぇ~~~!」
葵 :「待たない」(^^メ
琴音 :「あ、葵ちゃ~ん。目が怖いよぉ~」(^ ^;;;;;
葵 :「気のせいだよ。
それでは……いざ、来栖川先輩の所へ!!」(^^メ
琴音 :「イヤーーーーーー!! 薬はイヤーーーーーー!!」(;;)
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