120000HIT記念贈呈SS       To Heart       マルチの話  感謝の想いを                                                         くのうなおき  それは高校二年の春、マルチが試験運用の為に浩之達の学校に来た時のことだった。  その日の昼休み、購買前でクラスの連中のパンが買えなくて困っているマルチを 浩之は助け、一緒にマルチのクラスの教室にパンを持って行ってやった。  マルチをいいように使う連中に腹を立て、浩之だったが、「人間の方の役に立ちたい、 人間の方に喜んでもらいたい、そのために自分ははたらいているんです。」という マルチの言葉に、怒りもおさまり、マルチの手伝いをしてあげたいと思い、一緒に 教室まで付き合っていった。  しかし、そんなマルチの想いは教室に来て、見事に裏切られた。  教室に戻ってきたマルチを待っていたのは、「喜ぶ」という言葉とは無縁の生徒達の 反応だった、さも当然のごとく、何も言わずにパンを持っていく者、「遅いぞ」とマルチ の苦労も知らずに平然と言う者、「ありがとう」とはいうものの、その言葉に感謝の思い など少しも込めていない者、そんなのばかりであった。それでもマルチは、そんな生徒 一人一人に謝ったり、頭を下げていた、しかしその顔に寂しさが表れているのを浩之は 見逃さなかった。  この連中を怒鳴りつけてやりたい、浩之はそんな衝動にかられた。マルチがどんな に苦労してパンを買ったのか、どんな思いでお前たちの為にパンを買ってやろうとした のか言ってやりたかった、お前らにマルチに何かしてもらう資格なんてないと罵りたかった。 のどまでその言葉がでかかった、しかし浩之は何も言わなかった。  何故か自分にこの連中を罵倒する資格はないという思いが、浩之を黙らせていた。 無言のまましばらく、教室の入り口に立ち尽くしていたがやがて男子生徒の一人が浩之 の存在に気付いて、隣の男子生徒に小声で何か言った、二人ともみるみる顔が青ざめて いった。他の生徒達も浩之がいることに気付いて、浩之から目をそらす者、浩之の視界 から逃げようとする者が出てきた。浩之とマルチが仲がよい事は既に周知の事実であった、 彼等は浩之が何かするのではないかと思ったようだった。  しかし、浩之は何もせず、メンテ用のパソコンを持って図書室へ行こうとするマルチと一緒に 教室を去った。    図書室の奥の部屋で充電をしながら眠るマルチを、浩之はじっと見つめていた。買ってきた カツサンドもたべずにじっとマルチを見つめながら先程の教室での一件を思い返していた。 今思えばあの時、連中を罵倒しなかったのは自分も同類だと思ったからだった、そう、あの連中の 感謝なき態度は、あかりに対する浩之の態度でもあった。いつも朝、わざわざ起こしてきて くれるあかり、時々弁当を、夕食を作ってくれるあかり、彼女が浩之の為にしてくれる事に 対して、浩之は当然のような態度で受けていた。感謝の気持ちを伝えていなかった。 だから浩之は、自分に彼等を非難する資格はないと思った。    『悪い、マルチ・・・・・・、俺もあいつらと同じなんだよ・・・・・、いやもっと酷い奴かもしれねえ 、自分を好きでいてくれる女の子に何も答えてやらないのに、その女の子の好意は当然のことだと思ってやがる・・……、 あいつはお前に負けないくらい、いっしょうけんめいなのによ・・・。こんな俺にあいつらを非難する資格なんてねえんだよな・・・・・・・・。』  浩之はマルチの頭をそっと撫でた  『俺自身がまず、感謝の気持ちを伝えなきゃいけないんだ。あかりにも、そして皆のために 頑張るお前にも。』   ブウウウウン  マルチが充電を終え、目を覚ました。  「あ・・・・浩之さん・・・・?」  「よっ、お目覚めだな、お姫様」  「ずっと、そばにいてくれたんですか?」    「ああ、そうだ、どうしても言わなきゃいけない事があってな。」  「え・・・・・・?」  「さっきはお疲れ様・・・・・・・そして・・・・・・」  「・・・・・・・・・・・・・」  「皆の為に・・・・・・・・サンキュ・・な・・・・」  じっとマルチの瞳をみつめて言った。やがて、マルチの瞳が涙であふれだした。  「えぐっ、・・・・ひろゆき・・・さ・・・・ん・・・・うぐっ・・・・・・・・・・。」  「マ、マルチ・・・・・!」  しゃくりあげるマルチのからだを浩之はそっと抱いて、頭を優しく撫でてやった。 やはり辛かったのだろう、皆の為にと思って頑張った結果があまりにも無残 だったことが。そして、泣くまい、泣くまいと頑張っていたのが、浩之の一言で一気に 崩れてしまったようだった。どんなに気丈な事をいっても、やはり、まだまだ子供 だった。    浩之はマルチの頭を優しく撫で続けながら言った。  「いいか、マルチ、人間には色んなやつがいる、お前がどんなに頑張っても、それを なんとも思わないやつだっている。」  「は・・・・はい・・・・ひぐっ・・・・でも・・・・・・・」  「そう、でもだ、お前の皆の喜ぶ顔を見る為に頑張るという気持ちは間違っちゃいない、 お前はその気持ちを大切にしていくんだ、そしてお前のその頑張りがいつか皆の心を 動かすことができる、絶対にできる!何と言ってもこのどうしようもないひねくれものの心だって動かしたんだからな、お前は。」  「ひぐっ・・・・・えぐっ・・・・・・わたし・・・わたし・・・・・頑張ります!どんなにつらくても ・・・・・・頑張りますうっ!!」  「ああ・・・、頼む、これからも皆の為に頑張ってくれ・・・・俺も、手伝うからさ・・・・。」  「はい・・・・はいっ・・・・・・・・!!・・・・・ひっく・・・・ひぐっ・・・・・」     まだ泣き止まぬマルチを抱きながら浩之は  『まだまだ子供のくせに・・・・あんなに一生懸命に・・・・・・・・サンキュ・・・・な』  と心のなかで言った。  ○         ○          ○           ○             ○  空に暗く陰りがさしてくる夕暮れ、どこの家庭も夕食の匂いがただよい、 藤田家もまたその例外ではない。  食欲をそそる匂いと「浩之さーん、ご飯ができましたよー」とのマルチ の声に、テーブルに食器を並べた後はすることもなく、居間でぼうっとしていた 浩之はバネ仕掛けの人形のようにソファから立ちあがり、マルチとあかりの 待つテーブルに向かった。  「さ、浩之ちゃん、早く座って食べようよ。」  テーブルの前に来た浩之を笑顔で迎えながらあかりは言った。  「ああ、分かった。」  と答えながら浩之はテーブルの上の料理を見てしみじみと言った。  「しかし・・・、いつみても、本当に食欲をそそる腕前だなあ・・・・。」  「「えへへ・・・・」」とあかりとマルチは顔を赤らめながら嬉しそうに笑った。 そんな二人を浩之は優しい目でみつめ、「サンキュな」と言った。  「うふふっ、口癖がでたね。」  とあかりが微笑みながら言った。  「サンキュな・・・がか?」  「そう・・・、浩之ちゃんの二大口癖のひとつ、もうひとつは『しょうがねえなあ』」  『まったく、よく知ってやがるぜ。まあ、研究家だからしょうがねえか』 内心浩之は苦笑した。  「浩之さんが『サンキュな』って言ってくださるとき、とっても優しい目をしていらっしゃる んです・・・・・・・、あの目で『サンキュな』って言われると・・・もっともっと頑張ろうって いう気持ちになるんです。」  「そうだよ、なんていうかなあ・・・浩之ちゃんの『サンキュな』って、わたし達の元気 の源なんだよね。」  「そ、そうか・・・・・・」  照れくさそうに浩之は言った。  「あの言葉には俺のお前達への感謝の想いが一杯つまっているんだ、俺の、 俺達の為に頑張ってくれているお前達への感謝の想いが・・・・・・・って・・・。」  目を潤ませじっと見つめる二人を目にして、思わず浩之は話すのを中断した。 そして自分がとても気恥ずかしいセリフを言っていたことに今更ながら気付いた。  「ねえ・・・浩之ちゃん・・・続き・・・・」    「・・・・・・また今度・・・・・・」  「ぶうーーっ、今聞きたいよー!」    「聞きたいですー」  「今日は勘弁・・・な・・・・・」  「「駄目ーーーーっ!!」」    痴話喧嘩つきの夕食の一時が始まった、今日も藤田家は賑やかで平和だった。          終           後書き  といっても何を書いたらよいのか・・・・、言いたいことは 本編で書いちゃったし(書き足りないと思われる個所が あったらすいません)とりあえず、また予告破りしちゃって すいません、結婚式SSはちゃんと書いています。ただ 修正の嵐でなかなか進んでいません、これからは夏コミ に向けて原稿も書かなきゃいけないし・・・・・気長に待って てください(汗)でも・・・待っている人いるのかなあ?  最後に120000HITおめでとうございます!!  くのうなおき
 ☆ コメント ☆  >今思えばあの時、連中を罵倒しなかったのは自分も同類だと思ったからだった  (中略)  >だから浩之は、自分に彼等を非難する資格はないと思った。  人間というのは、自分のことは、ついつい棚に上げてしまうもの。  冷静に自分自身を見つめる事の出来る浩之。  …………大人です。  >『サンキュな』  簡単な言葉ですが……良いですね。凄く良いです。  想いが込められている為、胸に響きます。  あかりとマルチにとっては、どんな美辞麗句にも勝る言葉ですね(^0^)  >「ねえ・・・浩之ちゃん・・・続き・・・・」  >「・・・・・・また今度・・・・・・」  >「ぶうーーっ、今聞きたいよー!」  >「聞きたいですー」  >「今日は勘弁・・・な・・・・・」  >「「駄目ーーーーっ!!」」  何と言いますか……微笑ましいです。  「「駄目ーーーーっ!!」」なんて、強い口調で言ってますが、  きっと、二人の目は笑っているのでしょうね。  いいなぁ。楽しそうだなぁ。  この三人の雰囲気、本気で羨ましいです(^ ^;  くのうなおきさん、ありがとうございました\(>w<)/



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