To Heart SS マルチの話
くま好きな二人
くのうなおき
藤田家の金曜日の夜は浩之、あかり、マルチの3人が一緒に寝る日
となっている、甘えん坊のマルチにとって二人と一緒に寝ることのでき
るその日は一週間の間で一番楽しい日なのだ。
浩之とあかりにとってもマルチと一緒に寝ることはとても楽しいことで
ある。二人の間で眠る幸せそうなマルチの寝顔を暖かな幸福感に満た
されながら見つめるひとときが二人の楽しみであった。
それならば毎日マルチと3人で寝ればいいと思うのだが、そこはやはり
夫婦、家族の幸せも大事だが、男と女の幸せも大事であり、どちらか
を手放すことは出来ない相談なのだ。
人間とは非常に欲張りな生き物なのである・・・・・・・・。
そして、金曜日の夜は一緒に寝る事だけでなくもう一つ楽しい
行事があった。
ここは浩之とあかりの夫婦の寝室、(もとは浩之の部屋として使われていた
が、二人が初めて結ばれた場所ということから夫婦の寝室に変えられた。)
あかりとマルチは今か今かと期待の眼で浩之をみつめていた。
浩之の両手にはそれぞれくまのぬいぐるみがあった。ひとつはあかりが
幼少時に浩之から貰った大事な宝物でもある「くま」という名のぬいぐるみ
、もう一つはマルチが浩之のもとに帰ってきたときに浩之から貰った「くま
さん」という名のぬいぐるみであった。マルチにとっては麦藁帽子、あかり
からもらったくまグッズ3点セット(長靴、バスタオル、マグカップ)に並ぶ
大事な宝物の一つであった。「くまさん」という名前はマルチがつけたもの
で、いかにもマルチらしい名前のつけ方であった。
「それじゃあ、こいつらに魂をふきこむぞ。」
別にオカルトじみたことをするわけではない、ただ浩之が2体のくまのぬ
いぐるみになりきって、二人と話をするのだ、だが二人にとっては本当に
ぬいぐるみが語りかけているようで、金曜日の夜は「彼達」と話をすること
を楽しんでいた。
「うん、お願いね。」
「くまさんはやくでてきて下さい。」
浩之がとり付かれたように話し出した。くどいようだが本当にとり付かれて
いるわけではない。
「あかり、マルチ、こんばんわ、一週間ぶりやな、元気だったか?」
「元気だったよ、旦那様がとっても優しい人だもん辛いことなんてないよ。」
「わたしも同じですよ、ずっと元気でした。」
「そーかそーか、まあ、浩之のやつはほんま優しいからなあ、普段でも
ベッドのなかでも・・・・・・あたっ、な、なにすんねん、痛いやろが!」
「こら、くまちゃんはそんなこと言わないんだよ、そういうのはわたしと
浩之ちゃんのふたりのときだけの・・・・・」
「なんか意味深やな・・・・ぐえっ!」
「もう、エッチなくまちゃんは嫌いになっちゃうぞ。」
「いや、あかりだって結構エッチだって浩之が・・・・あー!すまんすまん
堪忍や!頼むからその膨れっ面はやめてーな。」
「やだ」
「やだって・・・・、そんなあっさり言わんと、もう言いませんから許してーな。」
「むうー・・・・。」
「ひ、浩之に明日、あかりとマルチが欲しがってたくまのぬいぐるみ買うてやるよう
頼むから・・・・。」
「ほんと?それじゃあ明日はキッズパークに行こうね。」
「わかったで、わかりました・・・・、とほほ・・・・。」
結婚してからというもの浩之はすっかりあかりの尻に敷かれてしまっているようである、
まるで幼少時から高校生の頃が嘘のようだ、まあ、惚れた弱みというやつだろうか?
それにしても話相手が「くま」から浩之に戻ってないか?
「それじゃあ、『くまさん』に変わるから、わしは一休みするで。」
「うん、キッズパークのことは忘れちゃだめだよ?」
「はいはい、わかりました・・・・・。」
また浩之に戻っている。
「さ、マルチちゃん、『くまさん』とお話だよ。」
「はい、くまさん、くまさんこんばんわ」
「うむ、こんばんわでおじゃる、なんかマルチは嬉しそうな顔でごじゃるな?」
なぜか「くまさん」は「おじゃる」言葉になっている、はじめは冗談でやったのだが、マルチに
非常に受けがよかったのでそのままになってしまっていた。
「ええ、だって浩之さんがくまさんのぬいぐるみを買って下さるんですから。」
「うーむ、そうでおじゃるか、しかしマルチはずいぶんくま好きになってしまったでおじゃるなぁ。」
マルチにくまのぬいぐるみをプレゼントして以来、マルチはあかりに負けず劣らずのくま好きに
なってしまった。一緒に寝るときも必ず「くまさん」を持ってくる、「くまさんひとりだと寂しいですか
ら」というのがマルチの理由だ。そして浩之が「くまさん」に「魂を吹き込んで」やった所、あかり
が「くま」にもしてあげてと言い出した事がこの行事の始まりとなった。
「ふふっ、大好きなひとから貰ったんだからね、当然だよね。」
「はいっ」
「そうでおじゃるか・・・・・・・」
浩之はマルチが戻ってくる直前の事を思い返していた。
「HM-12 マルチ」が浩之の家に届けられる日は明日の予定であった、
あかりは「マルチ」に何かプレゼントを贈りたいと言ってくまの絵が入った
長靴、バスタオル、マグカップを買ってきていた。
「あかり、長靴とバスタオルは分かるけど、なんでマグカップなんか
買ってきたんだ?」
「えっ?だって、みんなでコーヒーとかホットミルクとか飲む時に必要
だと思って・・・・・。」
「あのなぁ、ロボットはものを食べられないんだぞ。」
「あっ、そ、そうだったよね、しまったよー。」
「まあ、なにか使い道があるはずだからそれはそれでいいと思うけど。」
すこししょげているあかりを励ますように浩之が言った。
「うん、ありがとう・・・・・・・、ところで浩之ちゃんは何をあげるか決まったの?」
「マルチ」に何をあげようか?これが浩之の数日間の悩みであった。
これといった物がどうしても思い浮かばなかった、麦藁帽子にしようか
と思ったが、何故か納得いかなかった。
「何と言うか、こう・・・3人の絆を造るようなものがいいんだが・・・・なか
なか思いつかなくってな。」
これから浩之、あかり、「マルチ」の3人で色々な思い出をつくってゆくのだ、
ならば、その門出を祝うようなものをあげたい、そう浩之は思っていた。
「3人の絆・・・・・・・・・・・。」
しばらく考えていたあかりだったが、なにか思いついたのか浩之の顔を
じっと見て言った。
「浩之ちゃん、マルチちゃんにね、くまのぬいぐるみをプレゼントして欲しいんだ。」
浩之は一瞬あっけにとられた。
「何故・・・・、くま?」
マルチをくま好き仲間にするつもりなのだろうか?それはそれで構わないのだが、
3人の絆とどう関係があるのか浩之には不可解だった。
そんな浩之の疑問に答えるようにあかりは言った。
「わたしがくま好きになったのは浩之ちゃんが、クレーンゲームで取ったくまのぬいぐるみ
がきっかけだった。」
「ああ」
「好きなひとに貰ったものはね、そのひとを好きでいる限り、ずっと好きでいるんだよ。
何故かというと、それがそのひととを結ぶ絆だと思っているから・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・」
「わたしは、マルチちゃんもわたしと同じ位浩之ちゃんに好きになって欲しい、わたしと同じ
位浩之ちゃんを好きになって欲しい、そしてわたしはマルチちゃんと同じ位浩之ちゃん
に好きでいて欲しい、マルチちゃんと同じ位浩之ちゃんを好きでいたいと思ってる、これからずっと
一緒に思い出をつくっていくんだから。」
「そっか・・・・」
「わたしと浩之ちゃんの思い出を少しでもマルチちゃんにわけてあげたいの、浩之ちゃん
への想いを共有したいの、だからマルチちゃんにはくまを好きになって欲しいの。」
「わかったよ、ありがとう、あかり・・・・・。」
後で思い返せば赤面ものの発言のオンパレードではあったが、浩之はあかりの未だ見ぬ
少女への優しい心遣いに、こころでそっと涙を流し感謝した。
結局、浩之のもとに来たのはかつて思い出をつくったマルチであった、しかし浩之があげた
くまのぬいぐるみはマルチをくま好きにさせていった、それはあかりとの浩之への想いと浩之
の想いの共有を意味していた。
「浩之ちゃん、どうしたの?」
あかりの声にはっと我に帰った。
見ればあかりも、マルチも心配そうにじっと見つめていた。
「わりい、ついぼーっとしてた、それじゃあ、続き、続き。」
「うん、お願い」
「お願いしますー」
それから1時間近く、「くま」と「くまさん」の会話は続いた。
「お疲れ様、浩之ちゃん。」
「さすがに、二役を1時間続けるというのはしんどかったぜ、まあ二人が喜んで
くれるならこれくらいのことは何てことないけどな。」
「うん、わたしもマルチちゃんもとっても楽しかったよ。」
「そっか、ありがとうな」
くま達との時間は終わり、マルチは二人の間で「くまさん」を胸に抱きながらすやすやと
幸せそうに眠っていた。いつみてもこころが暖かくなる寝顔であった。
「そういえば、浩之ちゃんさっきはなにを考えていたの?」
別に誤魔化すようなことでもないので先程の回想を、浩之は話した。もっとも
どんな誤魔化しもこの藤田浩之研究家の愛妻には通じはしないが・・・・。
浩之の話が終わるとしばらくあかりはマルチの髪を撫でていた。
そして静かに語り出した。
「好きな人から貰ったものは、そのひとを好きでいる限りずっと好きでいるの、それは
そのひととを結ぶ絆だから、マルチちゃんにはずっとずっとくま好きでいて欲しい、ずっと
ずっと浩之ちゃんを好きでいてて欲しい、もちろんわたしだってずっとずっとくま好きでいて
ずっとずっと浩之ちゃんを好きでいるるんだから。」
「あ、あかり・・・・・・」
「だから、浩之ちゃんもっずっとずっとわたし達を好きでいてね、いつまでも一緒に思い出
をつくっていこうね。」
「・・・・・・!!」
気恥ずかしさと愛しさが浩之にあかりの口を己の口で塞がせた、そしてマルチの頭越しに
しばらくの間、唇を重ねていた。
そんな二人の仲を喜ぶかのように、マルチは至福の表情を浮かべて眠っていた。
終
後書き
今回からシリーズ名を付けることにしました、しかし「マルチの話」
・・・・・・・芸が無い・・・・・・・。いままでHiro様のHPで投稿したもの
の「危機一髪、藤田浩之ヲ襲撃セヨ」を除いたすべてが「マルチの
話」シリーズの話となります。今後とも「たさい」とはまた別の「藤田家」
の話をよろしくお願いいたします。
さて次回は浩之とあかりの結婚式の話だと思います、予定は未定ということで
・・・・・・(汗)
☆ コメント ☆
>それならば毎日マルチと3人で寝ればいいと思うのだが、そこはやはり
>夫婦、家族の幸せも大事だが、男と女の幸せも大事であり、どちらか
>を手放すことは出来ない相談なのだ。
大人ならではの悩みですねぇ(^ ^;
夜はねぇ……いろいろと……(削除)……ありますから(*・・*)
しかし、ここの浩之は立派です。
これが、どこぞの性欲魔人だったら、
「よしっ。2人まとめて面倒みるぜ!!」
とか、言い出しかねませんから(--;;;
>「ひ、浩之に明日、あかりとマルチが欲しがってたくまのぬいぐるみ買うてやるよう
>頼むから・・・・。」
>「ほんと?それじゃあ明日はキッズパークに行こうね。」
>「わかったで、わかりました・・・・、とほほ・・・・。」
よわっ(^ ^;
ああっ、学生時代までの浩之はどこに行ってしまったのでしょう?
確かに、惚れた弱みなのでしょうけど……それにしても……よわっ(^ ^;;;
まあ、あかりちゃんが強くなったのかもしれませんけどね。
>気恥ずかしさと愛しさが浩之にあかりの口を己の口で塞がせた、そしてマルチの頭越しに
>しばらくの間、唇を重ねていた。
この瞬間に、マルチが目覚めたら気まずいでしょうねぇ。
そんな展開も見てみたかった気がしますけど(^ ^;
>そんな二人の仲を喜ぶかのように、マルチは至福の表情を浮かべて眠っていた。
まさに天使の微笑みですね(^0^)
マルチには、いつまでも、そんな表情でいてもらいたいものです。
くのうなおきさん、ありがとうございました\(>w<)/
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