「はあ~~~~。」
思わず大きな溜息が出てしまう。
勉強机の上で突っ伏したまま、フォトスタンドの中の最愛の人を見つめる。
フォトスタンドの中の二人は、何時もと変らない笑顔を私に見せる。
「極悪だよ、祐一・・・。」
小声で眩きながら、フォトスタンドの中の彼-ゆういち-を、軽く指で叩いてみる。
ガラスの冷たい感触が、指に伝わって来て余計物悲しく感じてしまう。
今日、祐一からメールが届いた。
『名雪、ちょっと早いけど誕生日おめでとう。ごめん、休暇が取れそうにな<て、明日は帰れなくなった。
会えるのは正月明けだと思う。』
祐一らしい簡潔明瞭なメール。
しかし、その内容は余りにも悲しいものだった。
どんよりと曇った空よりも、更に暗く、深く沈みこんでしまう。
奇跡的に、私と祐一、香里と北川君は同じ大学に入る事が出来、更に今年の4月、全員無事に卒業する事が出来た。
私と祐一は、揃って地元の一流電気メーカに入社した。
『ずっと一緒にいたい。』との願いからだったけど、流石に部署までは一緒にはならなかった。
私は庶務課に、祐一は設計課に。
それでも時間を合わせてお昼を食べたり、一緒に通勤とかもしていた。
でも、それも夏まで・・・。
詳しくは知らないけど、仕事の都合とかで会社に泊まりこむ事も多くなり出張も増えた。
同じ家に住んで、同じ会社に勤めているのに、すれ違いの日々が増えていった。
10月を過ぎる頃から、出張が駐在勤務に変わり、もう、ひと月以上家には帰って来ていない。
電話とメールが、私達の『今』を支えている。
「・・・うそつき。」
何時も一緒にいてくれるって言ったのに。
悲しい時には側に居てくれるって言ったのに。
仕事だから仕方が無い・・・・。
判ってはいるけど・・・・。
題 目 『 名雪の誕生日~クリスマス 』
「・・・・で、何なのよ!」
私の話を最後まで聞いた後でコーヒーを一口畷り、長くウェーブの掛かった髪をかきあげながら私の親友が口を開いた。
目が少し釣りあがっていて、ちょっと怖い。
「・・・呆れた。人騒がせもいい加減にして欲しいわ! 1人身の私に、延々とのろけ話をするために態々呼んだの?」
「・・・延々とだなんて。それに、のろけ話じゃないよぉ・・・。」
米神や額に幾筋も血管を浮き立たせた香里に、ちょっとだけ引き気味になりながらも、無駄な抵抗を試みてみる。
「名雪! ここに来てから何時間経ったと思ってるの? 3時間よ!3時間!」
「え? びっくり・・・まだ2時間<らいかと思ってたよ・・・。」
「・・・・帰るわ。」
「・・・・ご、ごめん、香里。気に障ったら、謝るから、ね、ね!」
席を立ちかけた親友-美坂香里-に向かって、一生懸命謝ってみる。
香里は、一瞬躊躇しながらも、徐に腰を下ろしてくれた。
「・・・で、相沢君の替わりでしかない私に、どうして欲しいの?」
「・・・どうって。」
あからさまに剣呑な態度をとる香里に、気圧され気味な私。
迷惑・・・だったかな。
でも・・・こんな事言えるの香里だけだし・・・。
「取りあえず出るわよ。」
「え? 香里・・・。」
「安心しなさい。別に見捨てて帰ったりしないから。名雪の愚痴を聞<のは、昔っから私の役目だもんね。
今日は、とことん付き合ってあげる。」
「・・・香里。」
う~~ん。やっぱり持つべき物は頼りになる親友だぉ~。
何でも相談に乗ってくれる所は、昔と変らないんだぉ~。
「勿論、名雪のおごりで、ね。」
香里は、ウィンクをしながら、レシートをヒラヒラさせてのたまわった。
「極悪だよ・・・香里。」
うう~~。人の足元見るのも変らないんだぉ~。
百花屋を出た私達は、コンビニでワインとお摘まみを沢山買い込み、香里の家で久しぶりに飲んだ。
溜まりに溜まったストレスを発散するかの様に、アルコールのカを借りながら、会社や同僚、上司等の愚痴を言いあった。
・・・勿論祐一の事も。
二人で沢山飲んで、沢山食べて、沢山笑った。
気がついたら、かなり遅い時間になっていた。
香里は『泊まってったら。』っと、言ってくれたけど丁重にお断りした。
かなり酔ってたから夜風に当たりたかったし、お母さんに心配かけたくなかったから。
何より、祐一から連絡があったかもしれないし・・・。
儚い期待を込めて・・・。
家に帰ってみると、既にお母さんは寝ているのか家の中は真っ暗だった。
僅かな望みを期待して、祐一の部屋のドアを開けたけど、当然の様に部屋の中は真っ暗だった。
居ないって事ぐらい判っているけど、居ない事を思い知らされるのは辛かった。
「・・・はぁ~。」
溜息を一つつくなり、祐一のベットに倒れこんだ。
「・・・祐一のバカ。」
小声で眩き、枕を引き寄せた。
僅かに祐一の香りがする枕を抱きしめてみる。
「・・・このまま寝ちゃおっかな。」
そう眩くより早く、全身からカが抜け、瞼の重みに抗う事が出来なくなってきた。
祐一の香りに包まれていられるだけで、少しだけ幸せな夢が見られそう。
「・・・ゆういち。」
記憶が途絶えるのに、それ程時間はかからなかった。
・・・夢を見た。
私は、沢山の人が行き交う中、駅前広場のベンチに佇んでいる。
素知らぬ顔で歩き去る人を、ぼんやり眺めては、時折腕時計を見ながら、大きな溜息をついている。
ビルの谷間に陽が傾いた頃、一陣の北風と共に白い雪が舞い落ちてきた。
見る間に雪は強さを増し、街はうっすらと雪化粧をし始めた。
街灯に一つ、二つと明かりが灯った頃には、私の前を行き交う人も疎らになった。
私は、コートの襟を立て、震える肩を抱きながらも祐一を待っている。
来る筈が無いって判ってるのに・・・。
(・・・なゆき。)
突然、私を呼ぶ声がした。
だれ?
(・・・なゆき。)
聞き覚えの有る声。
懐かしい声。
(・・・なゆき。)
人影が途絶えた街を見回してみる。
でも、何処にも姿はない。
(・・・なゆき。)
また聞こえた。
私は、ベンチから立ち上がると、闇雲に駆け出した。
薄暗い街中を、街灯を頼りに幾つもの角を沢山曲がり、白く染まった街を駆け回った。
「あっ!」
何かに躓き、雪道で派手に転んでしまった。
い・・・いたい。
転んだ拍子に、どこか相当強く打った様で中々動けない。
はぁ・・・。 はぁ・・・。 はぁ・・・。
誰も居ない街角に、私の吐息だけが響く。
火照った体に、舞い落ちる雪が心地良い。
「・・・ばか。」
小さく声が漏れた。
私がこんなに一生懸命、祐一の事を探しているのに・・・。
祐一の事を待ち続けているのに・・・。
どうして出て来てくれないの?
どうして会いに来てくれないの?
涙がぽろぽろと零れてきた。
止め処も無く流れる涙は、頬を伝わり、白い雪の中に消えていった。
「・・・ばか。バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、祐一の馬鹿!!!」
「バカとはなんだ! バカとは!」
パコ!
「う"・・・。 痛いよぉ・・・って、え?」
痛みのある辺りを擦りながら非難の声をあげ、声のする方に目をやった。
薄暗い部屋の中、半開きの目に映ったのは、祐一の姿。
大好きな祐一の姿。
「え? 祐一・・・・どうしたの?」
「如何したって、休暇とって帰ってきたんだよ。」
「メールでは帰れないって・・・。」
「ああ、品管班長と、整備班長に泣きついてな。2日徹夜して仕事終らせたから、秋子さん並に1秒で了承してくれたよ。」
そう言うと、祐一は笑いながら親指を立てた。
そんな姿が嬉しくって・・・。
気がついたら祐一の胸の中に飛び込んでいた。
「・・・夢・・・じゃ、ないよね。」
「頭、痛くないか? ・・・それが夢じゃないって証拠だ。」
「・・・そっか、夢じゃないんだ・・・嬉しいよ・・・ホントに嬉しいよ・・・・。」
祐一のシャツを涙でいっぱい濡らしながら、祐一を一生懸命抱きしめた。
そんな私を、祐一は優し<抱きしめてくれる。
・・・夢じゃない。
夢にまで見てたけど、夢じゃない。
この温もりも、この感触も、この鼓動も、みんなみんな私の大好きな祐一そのもの。
「・・・お帰り、ゆういち。」
顔を上げ、上目遣いになりながら愛する人に問いかける。
私の精一杯の気持ちと一緒に。
「ただいま、名雪。」
祐一の優しい笑顔が返って<る。
そんな他愛もない言葉一つでも、幸せな気分に満たされてしまう。
暫くの間、抱きしめ合い、見詰めあった。
色々な気持ちと感情が私の中を駆け巡る。
ねえ、祐一・・・目、閉じて良い?
声には出さず、目で訴える。
・・・ああ。
祐一の瞳がそう答える。
私は、にっこりと微笑むと、ゆっくりと瞳を閉じた。
初めての時の様に胸が高鳴る。
祐一に引き寄せられる感覚が伝わってくる。
もう少し…。
1秒が永遠にも感じる。
目を閉じていても、近づいて来る祐一を感じる。
もう少し…。
御願い・・・祐一・・・・・・来て。
ぐぅ~~~~~~~!
「・・・ほぇ?」
「・・・はぁ?」
静まり返った部屋の中に響き渡る、私のお腹の音。
驚いて目を開けたら、飛び込んできたのは祐一の呆気に取られた様な顔。
そんな祐一の顔が可笑しくって、思わず『ぷっ!』って吹いちゃった。
つられる様に笑い出す祐一。
「・・・ごめんね。今朝から何も食べてないからお腹空いたみたい・・・。」
一頻り二人で笑い合った後、祐一にごめんなさいをした。
・・・折角・・・キスする所だったのに、出来なくってごめんなさいの気持ちを込めて。
「そうみたいだな。」
祐一は、笑いながらそう言うと、私の頭をくしゃくしゃっとした。
「晩御飯、食べに行こうっか。誕生日プレゼントに、クリスマスプレゼント・・・下に置いて有るからさ。」
「うん。 ありがと祐一!」
私は大きく頷くと、ベットから降りて祐一の腕に抱きついた。
「・・・でも、一番のプレゼントは、祐一がいてくれることだよ。」
「・・・祐一。今日はずっと一緒にいてくれる?」
祐一の顔を覗き込みながら、小声でそう眩いてみた。
ちょっとだけ恥ずかしかったけど、精一杯の勇気と共に。
「・・・楽しい夢・・・見ような。」
顔を背けながら、それだけ眩いた祐一。
ヘヘヘ・・・
祐一、照れてる。
暗いお部屋の中で判る程、お耳・・・真っ赤だよ。
「うん。嬉しいよ祐一。」
諦めかけてた祐一との楽しい一時。
愛しい人との幸せな時間。
大切な人との、大切な時間を、これからもずっと一緒に・・・ね。
約束だよ・・・ゆういち。
そしてその夜。
Zzzzzz・・・・・。Zzzzzz・・・・・。Zzzzzz・・・・・。
「・・・(ぴく、ぴく)。」
Zzzzzz・・・・・。Zzzzzz・・・・・。Zzzzzz・・・・・。
「ずっと一緒って言ったのに・・・祐一の馬鹿!」
おわり
祐一 : 「・・・所で名雪、一つ聞きたい事が有るんだが。」
名雪 : 「なぁに、祐一?」
祐一 : 「何故名雪は俺の部屋で寝てたんだ?」
名雪 : 「祐一のベットが有るからだよ。」
祐一 : 「う~~ん。じゃぁ、何故俺のベットで寝てたんだ?」
名雪 : 「祐一のベットだからだよ。他の人のベットじゃ寝ないよ。」
祐一 : 「いや~~そうじゃなくって・・・・・。何故自分のベットで寝ない?」
名雪 : 「祐一の匂いがして、妙に藩ち着くからかな。特に寂しい時なんかね。」
祐一 : 「・・・・名雪、俺のベットで何してる?」
名雪 : 「え? だから、寝てるん・・・だよ。」
祐一 : 「まさか名雪・・・・(自主規制)・・・・な事してるんじゃ・・・。」
名雪 : 「ちょ、ちょっと祐一! 何言い出すんだぉ!(真っ赤)」
祐一 : 「(自主規制)や、(自主規制)な事してたり・・・。」
名雪 : 「わぁ!わぁ! そ、そんな恥ずかしい事・・・。(真っ赤)」
祐一 : 「恥ずかしい事か? 若いうちなら普通だろ?」
名雪 : 「で、でも。(真っ赤)」
祐一 : 「今だから言えるが、俺だって名雪が居ない間に名雪の部屋に入って色々したぞ。(笑)」
名雪 : 「それは絶対イヤ!(怒)」
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あとがき
ばいぱぁと申します。
何時も読んで頂き有難う御座います。
昨年の忘年会の折、私の処女作が掲載されました。
それから、ほぼ一年。
13本も書く事が出来ました。
ちょっとだけ、自分でも驚いてます。
これもひとえに、我慢に我慢を重ね、拙作を掲載して下さるHiro様と、
読んで頂ける皆様のお陰と心得ています。
来年も、他のSS作家様に負けない様なSSを書きたいと思いますので、
見捨てないで読んで下さい。
では、来年も皆様に幸多からん事を。
ではでは