To Heart SS
雨の日のバス停 くのうなおき
午後の降水確率は10%だったのに急に大雨となった、
時々空はこのようなきまぐれを起こす。
「これはしばらく止みそうにはないですね」
マルチは窓の外の雨を見ながら呟いた。
「お二人とも朝、出掛ける時には傘はもって行かなかった
から・・・・・・」
今日は今時分、二人とも授業は終わっている筈だが、
念の為浩之の携帯電話にかけてみる、留守番モード
になっていた、ということはもう電車の中かも知れない、浩之
達の通っている大学は電車で約20分の所にある。駅まで
迎えに行く旨を吹き込んでマルチは二人の傘を持って家
を出た。
雨は強く振り続いていた、傘をさしていても雨は体に降りかかって
きた。それでも二人の喜ぶ顔を思い浮かべるとそれも苦にはなら
なかった。
「早くお二人に会いたいです」
足取りも軽く、長靴で水溜りをバシャバシャと水を立てさせて
マルチは駅へ向かって駆けて行った。
ちなみにマルチのはいている長靴はマルチが浩之の元に
戻って来たときにあかりがプレゼントしたものであり、横にクマの
絵が描いてある。
他にあかりがプレゼントしたものはクマの絵がはいったバスタオル、
クマ柄のマグカップ・・・・、どうやらあかりはクマ好き仲間を増やそう
と目論んでいるらしい・・・・。
駅に着いたとき、構内にふたりの姿は見えなかった。浩之の家から駅
まではほぼ一本道でまずすれ違うという事はない、どうやらマルチのほう
が先に到着したようである、マルチは二人を改札口の近くで待つことに
した。
外は雨がまだ降り続いている、外を眺めているうちにバス停に目が行った。
高校での試験運用の時、そこで帰りのバスを待っていた、そこにはいつも
浩之が隣にいた、高校の最終日も浩之は傍にいて見送ってくれた。そして
ふたりとももう二度と会えないと思っていたあの時も・・・・・。
浩之の引き止めるような言葉に心揺れながらも、浩之に出会えた幸せな想い
を妹達に伝える為にマルチは運命を受け入れようと決意した。
大切なものを永遠に失う悲しみに心揺れながらも、マルチの想いが世界中に伝わって
欲しいと思い、浩之はマルチの決意を受け入れた。
別れがもたらす深い悲しみを明日への希望を夢見ることで乗り越えようとした二人
が確かにあのバス停にいた。
「おーい、マルチー!」
後ろで浩之の声が聞こえ、はっとマルチは振り向いた。
浩之とあかりがマルチの元へ駆け寄ってきた。
「傘を持ってきてくれたんだな、有難うマルチ」
と言ってマルチの頭を撫でようとした浩之だが、マルチの顔が涙で濡れていること
に気付いた。
「マルチ、一体どうしたんだ?」
「マルチちゃん、泣いてたの? 何かあったの?」
浩之もあかりも心配そうにマルチの顔を覗き込んだ。
「ご、ごめんなさい・・・・あの時のことを思い出していたら・・・」
「あの時の事?」
浩之は怪訝に思ったが、マルチの視線の先にあるバス停を見て
気付いた。
「あのバス停だったんだ、お互い二度と会うことは無いと思っていた
別れの場所は」
浩之はあかりにそっと呟いた。
「うん・・・」
あかりも浩之が話してくれたマルチとの最後の別れのことを思い出していた。
「あの時、もう二度と会えないと思っていたのに、今こうしてお二人の
傍にいることができて、わたしは何て幸せなんでしょうと思ったら・・・・・」
「そっか」
浩之はマルチの頭を優しく撫でた。
「俺もな、お前が傍にいてくれてとても幸せだぜ」
「わたしもだよ、マルチちゃん」
二人とも微笑みながら言った。
「浩之さん、あかりさん・・・・うっ・・・」
マルチの両目からまた涙がポロポロと零れた、マルチの涙を優しく
拭いているあかりも、二人を見つめる浩之も、まるでマルチの気持ち
が移ったかのように目にうっすらと涙を浮かべていた。
3人は改めて自分達にとってかけがえの無い幸せとは何かを知った。
「さて、いつまでも泣いてないで帰るとするか」
浩之が涙を拭いて言った。
「うん・・・・、あ、そうだ帰りにスーパーに寄っていきたいんだけど、
今日は特売日だから」
「そうか、それじゃスーパーで買い物をして帰るとするか」
「うふふ、荷物持ちお願いね」
「げっ、そんなに買い込むのかよ・・・」
「浩之さん、頑張ってください」
「はいはい、わかりました」
はたから見れば他愛の無い会話なのかも知れない、だが
悪戯っぽく微笑むあかり、苦笑いする浩之、二人のやりとり
を微笑みながら見つめるマルチ、その一つ一つが3人にとって
は幸せの証なのだ。
雨は先程よりは弱くなった。
マルチを真ん中に挟んで3人は歩き出す、マルチは二人の
顔を交互に見た。
「お二人がいつまでも幸せを感じられるようにわたし頑張ります
、だから・・・・わたしにいつまでも幸せを感じさせてください、お二人
の傍にいさせて下さい・・・・」
3人一緒に暮らす事の出来る現在に感謝しながらマルチは心の中でそっと
呟いた。
終
後書き
ここの所あかりをメインにした話が続いたので
マルチで話を作ろうと思いこの話を書きました。
特に起伏の無い話ではありますが、
これを読んで3人に幸せあれと思っていただければ
幸いと思います。
……………………感涙(;;)
うぅっ、良い話ですぅ~。
切なくて……あたたかい……。
ホント、この3人には幸せになって欲しいものです。
今以上に、もっともっと、もーーーっと、ね。
それにしても……
>どうやらあかりはクマ好き仲間を増やそう
>と目論んでいるらしい・・・・。
マルチがクマグッズに埋もれる日は近いようです(^ ^;
くのうなおきさん、ありがとうございました\(>w<)/
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