マルチの話 番外編
弱い男
くのうなおき
昼前から降り出した雪は、下校時間時には薄いながらも校庭や帰り道を白い世界に塗り
替えて未だ止む気配を見せず、普段とは全く様変わりしたその幻想的な世界をオレとあ
かりは別段急ぐというわけでもなくその世界を堪能するように無言で歩き続けていた。
教室を出てから交わした言葉は五指にも満たず、ちらっちらっと時々お互いの顔を見て
みるだけの様子を他人が見れば「何でわざわざ一緒に帰るのか?」と疑問に思うのだろう
が、しかしオレ達からすればそれが「普通」であり、そうしたいが為に二人一緒に帰り道
を歩くわけだ。言葉を交わさなくてもお互いが分かる・・・・というわけではないが、そ
れでも、お互いがそこにいる事を確かめるのに、言葉を無理してまで使う事は無いと言え
ば納得してもらえるのかもしれない。
これが恋人同士になる前だったら、それこそ犬チックにはしゃぐあかりをオレがからか
って、あかりが困ったような笑顔を浮かべるといった感じになったのだろうが、まあ、お
そらくこの次雪が降った時には恋人同士であるにもかかわらずそうなりそうな気がするが
・・・・・とりあえず、今ははしゃぐ事なく銀世界の帰り道を好きな相手と一緒に歩きたい
気分だった。
サクサク・・・・と音を立てて雪を踏みしめながらオレ達は歩を進める、夕方になって
さらに冷えだした空気は、もしオレ一人だったらさっさと足早に家路を急ぐくらい厳しかった。
しかし今オレの隣には、その冷え切った非日常的な世界を「共に」楽しむ相手がいる。
一歩一歩、歩を進めるのが惜しいくらいにその「世界」を共に踏みしめ、眺める相手が隣にいる・・・
『オレもすっかり寂しん坊になっちまったな・・・・』
ふとそんな事を思って、内心苦笑いを浮かべた。二年前ならそんな事などお構いなかった、
雪景色をを共に「楽しむ」相手は必要ない・・・までいかなくても、特にこちらから求めよう
とするものでもなかった。弱くなったとも言うし、あかりに言わせれば「優しくなった」
らしいが、おそらくその両方だろう。さらに細かく言えば、今まで自分の中の弱さに気付
かなかったという事だ。そう、二年になったばかりの頃の、「あいつ」との出会いと別れが
オレにオレ自身の弱さに気付かせた。
道の向こう側から二つの人影が見えた。一人は小さな女の子、そしてもう一人は女の子ほ
ど小さくはないが、それでも小学校高学年くらいの女の子、いやメイドロボットだった。
買い物帰りかそれとも下校のお迎えかは知らないが、ここ最近のメイドロボットの普及を
考えればそれほど目をこらして見るという程珍しい光景ではなかったが、オレはそのメイド
ロボットを見ずにはいられなかった。手を繋いで楽しそうに白銀の道を歩く二人。メイド
ロボットにそれと分かる表情は見出せなかったが、しかし、オレには女の子と手を繋いで
いる「彼女」はとても楽しそうに見えた。それはオレの願望だけなのかも知れない、しかし
、オレは「彼女」の「姉」を知っていたから・・・・そう感じた。
二ヶ月前に発売された最新メイドロボットHM-12、商品名「マルチ」、それが今すれ違
った「彼女」だった。
オレはすれ違い遠ざかる彼女達をずっと眺めていた。胸にいくら詰め込んでも満たされる事
のない穴が空いたのを感じた、あの日の「あいつ」との別れ以来決して塞がる事のない穴だった。
普段はそれほど意識はしていないのに、「あいつ」を思い出す同時に感じる喪失感。さすがに
別れたばかりの頃のようにきりきりと哀しみが締め付けてくるわけではないが、やはり冷たい
空気がすうっと流れ込んでくるような一抹の寂しさは決して消える事はなかった。
『弱いな・・・・』
「彼女達」の姿が見えなくなって改めてそう思った。いや、「弱い」事が普通なんだろう。その
相手がいなくなって今のオレのような喪失感を感じないのなら、その相手は「その程度」の存在
でしかない。しかし、だからといってそれが悪いわけでもない、「その程度」の相手しか付き合
いがなく、それで無難に過ごせるのなら越した事は無い。
ただ、オレにはそれが出来そうには無かった。「そんなふうに生きていける」と少しだけ考えた
事もあったが、所詮はさしたる根拠も無く無闇やたらに斜に構えてみせる反抗期のガキみたいな
考えでしかなかった。「あいつ」と別れて知ったのは、オレは結局「その程度」の付き合いがで
きないという事だった。「あいつ」と出会い、別れる前だって、オレは周りの優しさに甘えていた
だけだった・・・・・・・
オレの右手が突然ぎゅっと握られた。相手が誰であるかは考えなくても分かるが、それでもオレは
顔を向けた。あかりが無言でオレの右手を握りしめながらじっと見つめていた。励ますような、包み込
むような、オレの喪失感を分かち合おうとするような、一言では決め付けられない想いを込めた目でオ
レを見つめていた。
そう、いつもあかりはこうなんだ。「そうしてくれ」と言ってるわけでもないのに、オレの空虚な
穴を埋めようとする。言ってるわけではない、口に出しているわけではない、強がって口に出せない
事を察して何時の間にかオレのそばにいる。オレはそれに気付かず、「あいつ」と出会い別れてよう
やくそれが分かった。オレが弱さに気付かずにいられたのも、オレが弱さと向かい合えたのも、いつ
もあかりが何時の間にかそばにいたからだ。
「そんなにオレ、深刻な顔してたか?」
無駄だと知りながらも誤魔化すように苦笑しながら聞いてみた。あかりはその想いを込めた目を少し
も変える事無く、「うん」とはっきり頷いた。
「そっか・・・・もう立ち直れたとばかり思ってたんだけどな。やっぱりダメだったぜ」
「そんな・・・・そう簡単に立ち直れるわけないよ」
「・・・・・・・おい、何気にすげー失礼な事言ってねえか?」
オレがじとーっとあかりを冗談めかして睨みつけると、あかりは一瞬きょとんとした表情を見せて
今しがた自分が言った事を反芻して慌ててぶんぶんと手を振った。
「え、え、えっと・・・・『立ち直れない』っていうのは、その・・・・そのままの意味じゃなくて
、つまり、浩之ちゃんは優しいからそう簡単にマルチちゃんの事を忘れることなんてできないって事
で・・・・・」
条件反射的に出した言葉を必死になって「解説」するあかりを眺めていると、さっきまで居座っていた
喪失感がすっかり薄れていた。いや、まだオレの中に確かに存在はしているが、少なくともそれを意識
する事はなかった。それよりも、目の前で「信じてよぉ・・・」と、まるでおねだりをする子犬のよう
な目をして訴えるあかりの方がおかしくて、そして当面片付けなければならない問題だった。
「ほれ、信じてやるから落ち着けって」
空いている左手であかりのあたまをぽんぽんと軽く叩くと、そのまま髪を梳くように撫で上げる。あか
りの言ってる事に嘘は微塵も感じられなかった。というか、あかりはこんな事で嘘をつける程器用じゃ
ない。
「う、うん・・・・・」
オレの手の動きにあかりは幸せそうな安堵の表情を見せると、「彼女達」が去った方向に顔を向けて
ぽつりと呟いた。
「あの二人、とっても楽しそうだったよね」
「そうだったな・・・・」
「わたし達も、いつかはあの子達のようになろうね?」
あかりは微笑みを浮かべて言った。オレは「ああ」とあっさりとだが、確固たる意志で頷いた。
現金なもので、さっきまでは埋める手立ても無く、ただその空虚な風に吹かれるままでしか考えられ
なかった「あいつ」の事が前向きになって話す事ができる。一人ではただただ哀しいだけの思い出も
それを分かち合い共に想う相手がいれば、楽しいまでいかなくても「ポジティブ」なものになってしま
う。それはオレだけの「弱さ」ではなく、人間が本来持っている宿命みたいなものなんだろう。
「さ、いつまでも突っ立っててもしょうがねぇから行くか」
「うんっ」
オレが元気を取り戻して安心したのだろうか、あかりは嬉しそうに頷くと足を進めようとして、繋い
だままの手に気付き、「どうしよう?」と目で聞いてきた。
『どうしようもなにも、お前は離したくねーんだろーが・・・・・』
ぎゅうっと握られた感触と、あかりの困ったような顔に呆れながら内心呟く。ただ、オレとてその強
く握られた手を離してしまうほど野暮ではない。いや・・・・・・・・・・
「とりあえず、一旦手を離せ」
「え・・・?わ、分かったよ・・・・」
「だーかーら、そんなあからさまに残念そうな顔をすんじゃねーっての!」
「ぶーっ、だってせっかく繋いだのにぃ」
「だからこの続きがあるんだって。で、傘を閉じろ」
「う、うん・・・・」
あかりが傘を閉じると同時に、あかりの肩をぐいっと抱き寄せた。突然の「大胆な」オレの行動に
「え?え?え?」
と、あかりは慌てた。
「大サービスだ、何か不満か?」
聞くや否や、あかりはぶんぶんっと強く首を横に振り
「そんな、不満なんて全然無いよっ」
そう言って、体を押し付けてオレの肩に頭を寄せ、オレ達は体を寄せ合ったまま相合傘の状態で再度
歩きだした。
「大サービス」と、まるであかりがそうしたいと望んでいるからやってやったような言い方だったが
、その実、一番それを望んでいたのはオレだ。あかりの温もりを直に感じるのを求めたのはオレだ。あ
かりがそばにいる・・・・それを実感していたかったから、オレはそれを望んだ。
『オレは弱いな』
どんなに言い訳をしても、「オレが弱い男」であるその事実だけは厳然と存在して変えようがない。今更
目を逸らす事もできない。だが、反面「弱い」という事が全て悪いとも思わない。オレが「弱い」から
こそ、あかりの温もりを温もりとして感じる事ができる。「弱さ」は厄介だ、だからと言ってそう簡単
に棄てられるものでもない。
だからこそ、相手の「弱さ」も分かってやらなくてはいけない。「弱い」のはオレだけではないの
だから・・・・・・・・・
そう思いながらあかりに顔を向ける。あかりは「えへへ♪」と、嬉しそうに、ちょっと照れくさそうに
笑うと肩に頬をすり寄せてきた。オレはあかりの頬と、そして髪を撫で上げた。
あかりは「あふぅっ・・・・」と、嬉しそうに甘いため息をついた。
舞台裏
「あっ、あかりさんが手を握りました・・・・・・っ!(どきどき)」
「あ、あの・・・・だからと言ってわたしの手を握るのはちょっと・・・・(汗)、っていうか
やっぱりこっそり覗くのは良くないよ、琴音ちゃぁん・・・・・(ぼそぼそ)」
「何言ってるんですか葵ちゃん、ここでわたし達が出てきたらお二人のムードぶち壊しでしょ?こういう
事は暖かく陰ながら見守ってあげないと(はぁはぁ・・・)」
「そ、そんな息荒くしながら語られても説得力ないと思う・・・・・大体、ムード壊すとかそうじゃ
なくて、あんまり部外者が関わるのは良くない・・・・・」
「って、藤田さんったら何やってるんですかっ!そこは頭をぽんぽん叩くんじゃなくて、こう、抱き
寄せてですねっ・・・・・!」
「き、聞いてない(滝汗)それと・・・・わたしを抱き寄せるのはやめてぇ・・・・・・!!(半泣き)」
「まったく、女心を全然分ってないんですから。って、え?あ、そう、そうです。そうやって抱き寄せて
で、『大サービスだ』なんて、いやぁ~~~ん、こんなとこで『大サービス』したら霜焼けになってしまいますよぉ♪」
「あぁ~~~~っ!な、何かとんでもない『拡大歪曲捏造妄想解釈』してるしぃ・・・・・・(呆然)」
「ちょ、ちょっと!!何やってるんですかっ!?『大サービス』って肩を抱くだけ?さらにもう十歩ぐら
い踏み込むんじゃないんですかっ!」
「(道の真ん中なら、それだけでも充分過ぎると思う・・・・・)」
「ああっ、もうっ!!藤田さんの超ド級朴念仁っ!!!あかりさんもあかりさんです、もっと甘えて積極
的に・・・・・あ~~んじれったいっ!わたしが実例を見せてあげないと・・・・」
「実例って何やるのっ!?(大汗)お願いだから乱入はダメぇ~~~~~~~~~!!(がしいっ)」
「あ、葵ちゃん放して下さいっ!今からあの二人に真の『大サービス』とは如何なるものかを小一時間じ
っくりと実演付きの講義を・・・・・あうっ!?」
「だから、それがダメだって言ってるのに、ああ~~~~もう、じたばた暴れないのぉっ!」
「あっ・・・・あっ・・・・そ、そこ・・・・だめ・・・・・・やぁん♪(じたばた)」
「な、なんて物凄い力なの・・・・?全然抑えつけられない・・・・・」
「あ、葵ちゃん・・・・そこ揉んじゃいや・・・・あふ・・・・♪(じたばた)」
「あ~~んっ、もう琴音ちゃんったら大人しくしてよぉ~~~~~~!!」
「あ・・・・やん・・・・このままじゃ濡れて霜焼けになっちゃいますぅ・・・・・」
「・・・・・・・・おひ(汗)」
終
後書き(という程でもないが)
久々の「マルチ(と言っても番外篇だけど」という事で、リハビリがてらに真面目(?)な話を書いて
みました。マルチがいない間の浩之の気持ちを書いてみたのですが如何なものでしたでしょうか。
え、ラストに出てきた某約二名は一体何だって?
はっはっは、目の錯覚ですよ錯覚(’’
で、ちょっと私信をば
某掲示板の某あかりファン様、いつも「マルチ」を読んで下さってどうもありがとうございます。
�@���@�R�����g�@��
�����@�F�u�_�V���������A���������C���v�i�O�O�j
�Z���I�F�u�����������B�����������C�A���������������v�i�O�O�j
�����@�F�u���������c�c���������p���������������������v�i�O�O�G
�Z���I�F�u���A�m�����v(;^_^A
�����@�F�u���A�����������A���������������b���������v
�Z���I�F�u���������v
�����@�F�u�r���������A���v�i�[�[�G
�Z���I�F�u�c�c�v(;^_^A
�����@�F�u�������l�������������������H�v
�Z���I�F�u���A����������������?�v(;^_^A
�����@�F�u�����C�����������������v
�Z���I�F�u�c�c�v(;^_^A
�����@�F�u�������������M���O�S���������������������v
�Z���I�F�u�����������������������������������������A�������v
�����@�F�u�������������������������������������B���������������L���������������������v
�Z���I�F�u�����������������A�������H�@�������A���������t�������C���c�c�v
�����@�F�u���A���������������A�������v�i�[�[�G
����