Kanon SS
 

 『恋人気分』でいいですか?
 

                                             くのうなおき
 
 

                                        
 
 『祐一さんが大好きです。『我が子のように』ではなく、『一人の男の人』として・・
・・・・・・』
 

 一歩間違わなくても充分危険で背徳な自分の気持ちを素直に認め、祐一さんに口付けを
したあの夜から数日がたちました。
 
 あれから何事もなく時は過ぎ、二人の間は相変らず「親子」な間柄(正しくは「叔母と
甥」なんですけどね)のままでいます。
 
 まあ、告白したことだってキスをしたことだって、祐一さんが寝ている間にしちゃった
ことですから、祐一さんとの関係に何の変化もないということは当然の事なんですが。
 
 いえ、それならそれでいいのですが・・・・・やっぱり少しくらいは変化があっても
いいんじゃないかなぁって、でもやっぱり祐一さんに余計な気を使わせたくはないし・・
・・はぁ、複雑な気分です・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 朝食の支度も終わり、後は祐一さんたちが降りてくるのを待つだけの間に、ふとそんな
事を考えていて鬱が入ってしまいました。
 

 「ふう・・・・」とため息を一つついて顔を上げると、そこには・・・・・                       
 
              
 

 「・・・・・・!?ゆ、祐一さんっ!?」
 
 わたしの目の前に、何時の間にか心配そうにわたしを見つめてる祐一さんの姿がありまし
た。
 
 それでわたしはと言うと、何か「感付かれた」のではないかと、いえ「気付いて欲しいか
な?」なんて考えながらも胸がどきどきしてしまい・・・・・・・
 

 と、とにかく「祐一さんが好き」という想いから派生した相反する相対的独立な関係に
ある二つの感情が起こす胸の動悸を懸命に押さえ込もうと下を向いて深呼吸・・・・・・
 
 ・・・・って、これではかえって怪しまれてしまいます!!(汗)
 
 慌ててわたしは顔を下にむけました。
 

 「あ、あの・・・秋子さん?」
 
 ああ・・、案の定祐一さんがいっそう心配そうに声をかけてきます。下を向いてるから
祐一さんの表情は見えないけど、祐一さんがわたしを心配してくれている「気持ち」が一
杯伝わってきています。これも「想いが成せる直感」なのでしょうか・・・・?
 
 ではなくて!!ああ、どうしましょう・・・・・・・
 

 「どうかしたんですか、風邪ひいて熱でも出たんですか・・・・・?」
 
 そう言いながら、祐一さんはわたしの顔を覗きこんできました。祐一さんの心配げな顔
がわたしの真正面にきて・・・・・・
 
 ぼっ
 
 い、いけません、わたしの顔はいっそう火照り、胸の動悸は更に激しくなっています。
そして唇はあの日の感触を思い出したかのように熱くなってきて・・・いったいどうした
らいいんでようか?このままではわたし、情のおもむくままに祐一さんを抱きしめてしま
って、その後はごにょごにょ・・・・・・
 
 祐一さんの目に映るわたしの瞳は潤みだし、唇は何かを求めるように半ば開き・・・・
い、いけませんっ・・・・・!!
 
 
 
 
 

 「おか~さぁ~ん、ゆういち~~~おはよぉ~~~」
 

 「・・・・・・・・!!」
 

 起きぬけの少しぽけーっとした感じの名雪の声が聞こえ、わたしは催眠術から解けたか
うにはっと顔をあげました。
 そこには名雪が目覚めたばかりの眠い目をこすりながら立っていて、そしてその後ろに
はあゆちゃんと真琴が訝しげな表情でこちらを見ています。
 
 『も、もしかして一部始終見られたのかしら!?(汗)』
 
 ああ、どうしましょう。自分達の母親が自分達と同じ年頃の、それも自分達の恋人の男
の子に色目を使ってるなんてことが知られたら・・・・
 

 思わず頭を抱えそうになったとき、名雪達の視線が、一斉に祐一さんの方に向けられました。
 

 「ゆういちのえっちぃ~~浮気物~~~」
 
 え?
 
 「うぅぅ・・・・ボクたちだけじゃ物足りなくて、秋子さんにも迫ってるの~~~?」
 
 え?え?
 
 「本当に祐一ったら、『見境ない』んだから・・・はあ・・・・」
 

 え?え?え?・・・・・あら・・・・・・?(汗)
 

 「だぁ~~~~~~~っ!!別にオレは何にもしちゃいねえってのっ!!」
 
 祐一さんが真っ赤になって怒鳴ります。ええと・・・どうやら矛先は祐一さんに向いたようで
その・・・・・・(ちょっとほっとしたりして)
 
 「どうだか~~?凄く近くに顔よせてたし~~~お母さんにキスを迫ってたんじゃないの?」
 
 「だ~~か~~~ら!!それは秋子さんの様子が少しおかしかったから気になってだなぁ」
 
 「ふ~~~ん?」
 
 「まぁ~~~こぉ~~~~~とぉ~~~~~~何だぁ?その『はっきりいって信じてません』な
口ぶりは~~~~~?」
 
 「別にぃ?祐一がやましいと思ってるから、そう聞こえるんじゃないの?」
 
 「ぐ、ぐぐぐ・・・・・お前ってやつは・・・・・」
 

 そんな二人のやりとりを煽るように、名雪とあゆちゃんが真琴に加勢して祐一さんを「責めたて」
ます。
 
 「秋子さんって、若いし綺麗だし大人の女性だし、祐一君がくらくらするのは無理ないよ。でも
ね・・・・秋子さんはボクたちの『お母さん』だってこと忘れちゃダメだよ」
 
 「祐一~~~お母さんを悲しませるようなことしちゃダメなんだからね」
 
 「お、お前らぁ・・・そんなにオレが信用できないのか~~~・・・?」
 

 「だってねぇ~~~~~」
 
 「祐一君ったら、ボク達三人と『将来を前提とした』お付き合いしてるんだし・・・」
 
 「『この際、三人も四人も変わらないからいっちゃえ~~~』って考えても当然だよ~~」
 
 「ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」
 
 『とほほ・・』な顔をして、祐一さんががっくりと頭を垂れてしまいまいした。ま、まあ
名雪達が本気でこんな事を言ってるわけではないのですが、そろそろ祐一さんを助けてあげ
ないと・・・・・
 
 「はいはい、あんまり祐一さんをいじめないの」
 
 ぱんぱん、と手をたたき名雪達を止めます。
 
 「お母さんちょっと考え事していてね、それでぼーっとなっていたのを祐一さんが心配して
くれてたのよ」
 
 「あ・・そうなんだ・・・祐一がお母さんに迫ってたわけじゃないんだ」
 
 「真琴ぉ~~~~~~~いいかげんに・・・・」
 
 「あははは~~~冗談冗談よ♪大体、いくら『節操なし』な祐一でも、さすがにお母さんに
までは手を出すとまでは思ってないから」
 
 「『節操なし』は余計だ。ったく・・・秋子さんに手を出すなんて断じてありえないって、そ
れくらいの分別はついてるぞ」
 
 
 ・・・・・・あ、あんまり力を込めて言われても、ちょっと哀しいかなぁ・・・とか思った
りするんですけど・・・・・
 
 って、そうじゃありません!祐一さんがわたしを『恋愛対象』とか、『ごにょごにょ対象』と
かで見出したらそれこそ修羅場です、泥沼ですっ!
 

 ぶんっぶんっぶんっ!!
 

 頭を思いっきり振って「煩悩退散」です。祐一さん達がぽかんとして見ていますが、ここはあ
えて気付かないふりをして
 

 「それじゃあ、早く朝ご飯にしましょうね」
 
 と皆をテーブルへと促しました。
 
 でも、もし名雪たちが来るのがもう少し遅かったらどうなっていたんでしょうか?「情のおも
むくままに」っていうことはおそらくありえないんでしょうけど、でも、やっぱり浮かれ気分で
「ぽ~~っと」しすぎてのぼせ過ぎて倒れちゃって、そんなわたしを祐一さんが優しく介抱して
下さって、いつしか二人の間に甘い空気が・・・・・・
 
 
 
 って、ことはないですよね。・・・・・・・・・・はぁ
 
 
 

    
             ○     ○     ○
 
 
 
 
 
 

 
 いつものように賑やかな朝食を終えると、祐一さん達はすぐに玄関へと向かいました。
 
 祐一さんと名雪とあゆちゃんは学校へ、真琴は保育園のアルバイトへ。
 
 あゆちゃんは名雪達の学校の生徒ではないんですが、学校側の厚意(というか、祐一さん名雪
そしてお友達の方々の厚意なんですけどね)で学校の図書室で大検のお勉強をしています。私も
お仕事がありますし、一人で家にこもって勉強するよりはお友達と交流しあっての方がいいと思
い、私も賛成した次第です
 
 
 
 「ほらっあゆ、もたもたするなよ」
 
 「うぅ~~・・・祐一君が早すぎるんだよお・・・」
 
 「んな、靴はくくらいで早すぎるも何もあるかって、お前が遅すぎるんだよ」
 
 「う~~っ、意地悪・・・・・」
 
 「意地悪じゃないっ!!(汗)」
 
 呆れ顔で叫ぶ祐一さんの腕に名雪がぴたっと身を寄せます
 
 「あの・・・いかがされましたか、名雪さん・・・・?」
 
 「えへへ~~~~『浮気』した罰だよ~~これで、学校まで行ってもらうんだから♪」
 
 「だから~~~~・・・あれは浮気じゃねえって言ってるだろ!!」
 
 「男がつべこべ言わないのっ、あたしも途中までこうしてもらうんだから」
 
 と真琴まで反対側の腕に自分の腕を絡ませます。で、ようやく靴を履き終えたあゆちゃんも
 

 「うぐぅ~~二人ともずるいよ~~!!」
 
 というや否や祐一さんの背中にとびつき、張り付くようにおぶさりました。
 

 「こ、こらっ、降りろったら、あゆ!!」
 
 「えへへっ、やだよぉ~~だ♪」
 
 あゆちゃんはぶら下がるように祐一さんの背中にしがみついています、まあ祐一さんも本気
で嫌がってるわけではなく、というかすっかりあきらめていると言った方が正しいのでしょう
か、やれやれと首を振るとわたしに苦笑してみせます。
 
 「それじゃあ、秋子さんいってきます」
 
 「「「いってきま~~~~す♪」」」
 
 祐一さんの後に、名雪達が元気な声をあげると四人は玄関を出て行きました。
 
 パタン・・・と扉が閉まると、わたしは振っていた手を下ろし「はぁ・・・」と、今日二度
目のため息をつきました。
 
 
 
 
 「いいわよね若い子って、あんな大胆に迫ることが出来て・・・・・」
 
 
 
 
 思わずぽつりとこぼします。そりゃわたしだって、『若さ』だったらあの子達に負けてないと
思うし、名雪の制服着てああいう事してみたって違和感ないと思うし・・・・・って、またっ!!
 

 ぶんっぶんっぶんっ!!
 
 
 と、今日二度目の首振りをして気持ちを落ち着けます。いつまでも妄想に浸っていたら仕事に
遅れてしまいます。大体、そんな事名雪達と一緒にやったら、名雪達だけでなく祐一さんだって
気味悪がるんじゃないかと・・・・・多分・・・・・
 
 
 
 ・・・・あまり考えたくないことですが
 
 
 
 
 
 「ふぅ」とため息をついて、わたしも出かける支度を始めますが
 

 『・・・・・でも、腕組むくらいはやってみたいですよね・・・・はぁ・・・』
 

 煩悩というか願望というか、それに基づく悩みは中々消え去らないみたいです。
 
 
 

             ○     ○     ○
 
 
 
 
 
 今日一日の仕事を終え、夕暮れの街を少し足早に家路を急いでると、良く見慣れた男性の姿
が目に入りました。
 
 「祐一さんっ」
 
 と、声をかけると、一瞬驚いたような仕草を見せて祐一さんがにこっと笑いながらこっちに
振り返りました。ああ・・・夕暮れをバックにした祐一さんの笑顔が眩しくて、とっても素敵
・・・・ではなくて、思わずぽーっとなりそうな気持ちを抑えて、祐一さんに駆け寄ります。
 
 「あら、一人でお帰りなんですか?」
 
 祐一さんの他に誰もいないので、ちょっと訝しげに尋ねます。
 
 「いや、さっきまで北川と一緒にゲーセン寄ってたんですよ」
 
 「ふふっ、名雪やあゆちゃん放ったらかして男同士の付き合いなんて、将来あの子達も大変だ
わ」
 
 そう言ってくすくす笑うと、祐一さんは大慌てでそれを否定しようとします。
 
 「違いますよっ、名雪とあゆは香里達と話に夢中になってて、取り残されたオレ達二人が先に
帰っただけですって!!」
 
 「はいはい、祐一さんの言葉を信じてあげますね」
 
 「ううっ・・その言い方・・・本当に信じてくれるんですか・・・」
 
 「当然ですよ」
 
 そう言って祐一さんの顔を正面から見つめます。
 
 「わたし、信じてますから・・・・前に祐一さんが言ったこと」
 
 名雪もあゆちゃんも真琴も、皆幸せにするってはっきりと言ってくれたことを・・・・・
 
 祐一さんも、それを思い出したらしく、ちょっと照れくさげに「は、はい」と笑います。その
表情に「ついつい」見とれていると、不意に祐一さんが目を逸らしました。
 
 「どうしたんですか?」
 
 気になって祐一さんを覗き込もうと顔を近づけると、祐一さんは目だけでなく、わずかではあ
りますが、顔も逸らしました。ううっ、なんだか悲しくなってきます。
 
 と、そんなわたしの様子に気付いたのか、祐一さんが慌てて顔をわたしに向けますが、もう遅
です、今度はわたしがぷいっと顔を逸らします。
 
 「えっと・・・あの・・秋子さん・・・・」
 
 「いいんですよ、無理してこんなおばさんの顔を見ようとしなくても。・・・・そうですよね
、こんなおばさんに顔近づけられたら、気味悪いですよね・・・・・」
 
 わたしはいじけ気味にぐちぐちと呟きます。すると祐一さんはちょっと強めの口調で
 
 「とんでもないっ、秋子さんはとても若いですよ!!」
 
 と言って、わたしは思わず祐一さんの顔をまじまじと見つめます。わたしの目の前の祐一さんは
、照れくさそうに、逸らそうとする目を懸命に抑えながらわたしを見ています。
 
 『うふっ、ちゃんと否定してくれましたね♪』
 
 と、心の中でガッツポーズをとったことは一旦置いといて、祐一さんは言いづらそうなのを無理
矢理口を動かすようにして呟くように話だしました。
 
 「その・・・なんっていうか・・・秋子さんにじーっと見られてるのが照れくさくて・・・」
 
 「祐一さん、どうして照れくさいんですか?」
 
 「言わなきゃ・・・ダメですか?」
 
 「はい♪」
 
 ちょっと意地悪かもしれませんが、ここははっきりさせとかないといけませんよね
 
 「うう・・・わかりました・・・」
 
 先程よりさらに言いづらそうな感じで、祐一さんは「白状」しだします。
 
 「その・・秋子さんに目つめられてたら、なんか名雪に見つめられてるような感じがして・・・
だから・・・そんなこと思ったオレがちょっと恥ずかしくて・・・・」
 
 「あらあら、わたしはとっても嬉しいですよ♪」
 
 顔を真っ赤にして話を続けようとする祐一さんの唇を、人差し指でそっと抑えて
 
 「まだまだ、わたしも充分『若い』という証明ですもの♪」
 
 「も、もちろんですよっ!!」
 
 激励の意味も多少あるんでしょうけど、でも本気でそう思ってくれているようだし、わたしは
ほっとしました。ここら辺で祐一さんを許してあげてもいいんですけど、でもいい機会ですから
これを「ネタ」に「わたしのお願い」を聞いてもらおうかしら?
 
 「祐一さん」
 
 「は、はいっ」
 
 「わたしはまだまだ若いですよね?」
 
 「と、当然です」
 
 「思わず名雪と間違えるくらい、若く見えますよね?」
 
 「え、ええ・・・・・」
 
 どぎまぎとしながら答える祐一さん、では、ここで・・・・・
 
 「それじゃあ、一緒に腕組んで歩けば、恋人同士と間違われてもおかしくないですよね?」
 
 「なっ・・・・・・!?」
 
 祐一さんは絶句して、まじまじとわたしを見つめます・・そんなに熱く見ないで下さい・・
・・・・きゃっ♪
 
 にへら~~っとなるのを懸命に抑えて、ここはポーカーフェースの笑顔でにっこりと迫りま
す。
 
 「試してみませんか?腕組んで歩いてみて周りの人たちがおかしな顔しないかって」
 
 「え・・・ええっ!?そ、そ、それは・・・・・・」
 
 祐一さんは、顔を真っ赤にしてどもっています。でも、せっかくのチャンスを、ここで引き
下がって逃してしまうわけにはいきません。
 
 ぐいっと祐一さんに顔を近づけて
 
 「わたしが祐一さんと腕を組んで歩いても違和感ないくらい、わたしが若く見えるかどうか
を第三者さんの目で確認してもらいたいんですけど・・・・いけませんか?」
 
 ちょっと甘えるように迫ってみます。名雪達の実例からみると、大体こうすれば祐一さんは
「陥落」してしまうのですが。
 
 「商店街を歩く間だけでいいですから・・・・・ねっ?」
 
 「わ、わかりました・・・・」
 
 目を宙に泳がせながら、祐一さんが了承してくれました。ふふっ、わたしがやっても充分効果
があるみたいですね。
 
 祐一さんが、すっと出してくれた腕に、体ごと擦り付けるようにして腕を絡めます。祐一さん
の体が一瞬びくっとしましたが、あえて気付かない振りをして
 
 「さっ、行きましょう?」
 
 と促します。祐一さんは「あ、はい・・・」とちょっと上の空な感じで返事をしましたが、顔
はそれほど嫌がっていない・・・というより、照れ気味な表情なのが嬉しいです。大分ぎこちな
い感じで祐一さんは歩きだし、わたしもそれにつられるように歩き出しました。
 
 ゆっくりとした歩調で商店街を歩く二人。道行く人達に、わたし達二人を不審な目で見る人は
いないようですね。これってやっぱりどっからどう見ても違和感ないくらい、二人はお似合いの
恋人同士って見えるのでしょうか?そうだったらとっても嬉しいんですけどね♪
 
 嬉しさのあまり、顔が崩れるほどにやけてしまいそうなのをこらえて、わたしはごく自然な顔
で祐一さんの腕を抱きながら歩きます。最初はぎこちなく硬かった祐一さんも、開き直ったのか
落ち着いたのかは分かりませんが、自然体でわたしに合わせて歩いてくれています。
 
 ふと祐一さんの顔を見上げると、ちょうどわたしの方に顔を向けた祐一さんと目が合いました。
 
 「えっと・・・秋子さん・・・・」
 
 「はい?」
 
 「その・・もう、商店街過ぎたんですけど・・・・」
 
 あ、何時の間にか通り過ぎてしまったんですね・・・・50mくらい後に見える商店街のモール
を見て、祐一さんに気付かれないくらいの小さなため息をつきます。でも、わたしのわがままで始
めたことだし、祐一さんも付き合ってくれたんだし・・・・・仕方ありませんね。
 
 そう思って、わたしが腕をはずそうとすると、祐一さんがそれを止めました。
 
 「えっ・・・?」
 
 「ええと、だから・・・・商店街過ぎちゃったから、延長しますかって言おうとしたんですが」
 
 そういって、気恥ずかしそうにぽりぽりとこめかみのあたりを落ち着きなさそうに掻く祐一さん。
わたしは思わず顔がほころんでしまうのを抑えて
 
 「い、いいんですか?」
 
 と、ちょっとどもりがちに聞きます。
 
 「ええ、秋子さんが嫌でなければ」
 
 『とんでもないことです、そんな、わたしが嫌がると思ってるんですか?』と言いそうになるのを
こらえて、わたしはにっこり微笑んで不自然な感じがないように
 
 「それじゃあ、もうちょっと祐一さんの好意に甘えさせてもらいますね」
 
 わたしは祐一さんの腕にもう一度自分の腕をそっと抱くように絡ませると、再び歩き出します。
 
 商店街を過ぎてすれ違う人も殆どいなくなり、そこを歩いているのはわたし達二人だけという状態
になって、わたしは先程よりいっそう強くそして頬をすり寄せるにして祐一さんの腕を抱きしめまし
ます。祐一さんは、一瞬硬くなりましたが、すぐに「何事でもないように」その硬さから解け、何も
言わずわたしのされるがままになってくれていました。
 
 
 
 
 

             ○     ○     ○
 
 
 
 
 

 家まで後200mくらいになった所で、わたしは祐一さんの腕を離しました。そして祐一さんの前
に回り込むようにして立ち
 
 「祐一さん・・・・わたしのわがまま聞いて下さって、どうもありがとうございます」
 
 と、深く頭を下げました。祐一さんは恐縮しきった顔で両手を前に出して振り
 
 「い、いえ・・・そんな・・・こんなことで良ければ、何時だってお安い御用ですよ」
 
 と苦笑します。
 
 『もう、無理して・・・』、思わずくすっとわたしは小さく笑いました。
 

 「ん・・・どうしたんですか?」
 
 「だって・・・・・祐一さん、名雪達の前でも腕組んでもいいんですか?」
 

 「あっ!!え・・・・えっと・・・それは・・・・・」
 
 顔を少しこわばらせて、少なからずの冷や汗をたらしながらどもる祐一さんでしたが、すぐに真顔
に戻ると
 
 「でも、秋子さんはオレ達のお母さんですし、多分、名雪もあゆも真琴も許してくれるとは思うん
ですが」
 
 と、苦笑気味に言います。う~~ん・・・・やっぱり、祐一さんにとって、わたしは「お母さん」な
んですね・・・・・ちょっと残念・・・じゃなくて、そんな無理して言わなくてもいいのに。
 
 「祐一さん・・・無理してそんな事言わなくてもいいんですよ」
 
 わたしは笑うのを止めて言いましたが、祐一さんは「ぶんぶんっ」と強く否定する様子で首を振り
ました。
 
 「オレ、嫌々秋子さんに付き合ったわけじゃないですよ。そりゃ確かに最初は名雪達に見られたら
どうしようとか、恥ずかしいとかってのはありましたけど」
 
 「祐一さん・・・・」
 
 それって、やっぱりわたしに「気がある」ということで、つまりはわたしを「一人の女」として
見てくれているということで、だから恥ずかしいとは思いつつも腕を組んでくれったってわけで
しょうか・・・・・?どきどき・・・・ってわけじゃないありませんよね。
 
 でも、だったらどうして・・・?
 
 「名雪達にばれるおっかなさと、恥ずかしいってのはありましたけどね。それでもオレが付き合う
ことで秋子さんが元気になって欲しいって気持ちの方が強かったから・・・・」
 

 「えっ!?」
 
 わたしは、祐一さんの顔をはっと見上げました。
 
 「だって秋子さん、朝は『らしくなく』ぼ~~っとしてて、突然首をぶんぶんと振り出したり、た
めいきを何度もついたり・・・オレも皆も心配してたんですよ」
 
 あううう・・・・・やっぱり覚えていたんですね。気恥ずかしくなったわたしは、祐一さんの目
を避けるようにして顔を伏せます。
 

 「何の悩みなのかは分からないけど、でも、結果として秋子さんの力になれたみたいで・・・・・
本当良かったです・・・・腕組みながら歩いてる時の秋子さん、凄く楽しそうだったし」
 

 『・・・・・・・・!』
 

 商店街を過ぎてから、「もう少し延長しませんか?」って言われた時に気付くべきでした。祐一
さんが、ただ勢いに流されて腕組んで歩くのに付き合ったんじゃないってことに。わたしったらす
っかり浮かれてて、全然そんな事気付きませんでした。
 
 祐一さんは祐一さんなりに心配して気を使ってくれていたのに、わたし、本当にバカです・・・
 
 恥ずかしくて祐一さんの顔をまともに見られないでいると
 
 「あの・・・秋子さん・・・」
 
 と祐一さんが遠慮がちに話しかけてきました。
 

 「はい・・・?」
 
 恐る恐る顔を上げてみると、祐一さんがすまなさそうな顔をしていました。
 
 「ええと、その・・・・すいません・・・・」
 
 そう言って、祐一さんは頭をぺこりと下げました。
 

 「すいませんって・・・・どうしてですか?」
 

 「いやだって、その・・・・ついつい勢いで言っちゃいましたけど、本来こういう事って相手
に話す事ではないでしょう」
 
 確かに、心中ではそう思っていても、「あなたの為にしてあげたんですよ」という事は口に出すよ
うなものではありませんよね。人によっては馬鹿にされてるんじゃないかって受け止められてしまい
ますから。
 
 でも、わたしは・・・・・・
 

 「でもわたしは・・・とっても嬉しかったわ」
 
 「え・・・?」
 
 「祐一さんがわたしを『想って』くれて、わたしの我がままに付き合ってくれた事が分かって、と
っても嬉しかった・・・・」
 
 「あ、秋子さん・・・・」
 
 みるみるうちに祐一さんの顔が真っ赤になって、照れ隠しに目をあちこちに泳がせています。
 
 「母親が、『自分の子供』に想われるのを嬉しく思うのは当たり前でしょ?」
 
 そう言ってにっこり微笑みかけます。祐一さんもつられて微笑を浮かべ「はい・・」と答えました。
 
 『これでいいんですよね・・・・』
 
 自分で自分の願望を否定する事を言ってしまい、そしてそれが事実であることを知らされてしまっ
たわけですが。でも事実は事実ですし仕方ありませんよね。
 
 だけど、それ以上に祐一さんがわたしを「想って」いてくれていたという事の方が、今のわたしに
はずっと大切なことなんです。例えそれが「母親」を想う気持ちだとしても・・・・・
 
 「ゆういちぃ~~~~~おかあさぁ~~~~~ん」
 
 良く聞き慣れた声が夕焼け空に響き、わたし達はその声のした方向に顔を向けました。そこには駆
足で近づいてくる三人・・・・名雪とあゆちゃんと真琴の姿がありました。
 おそらく誰が一番に祐一さんに飛びつくかを争ってるんでしょう、物凄い勢いでこちらに向かって
走ってきています。
 
 祐一さんは、困った顔をしてわたしを見ますが、わたしはそれに気付かないふりをして祐一さんを
三人の前に押し出します。
 
 「さあっ、あの子たちの『想い』を受け止めてあげて下さいな♪」
 
 「は、はい・・・・」
 
 観念したように、少し腰を落としてこれから受けるであろう三人の突進に備える祐一さん。
 
 しかし、三人は祐一さんのわきをすり抜けて、わたしの前に立っていました。
 
 「へ・・・・?」
 
 茫然とした表情でそのまま硬直している祐一さんには構わず、名雪達は最初心配そうにわたしを見
つめていて、すぐにぱっと輝くような笑顔を見せてくれました。
 
 「よかった・・・お母さん元気になったみたいで・・・・」
 
  「朝からずっと様子が変だったから、ボク達ずっと心配してたんだよ」
 
 「だけど、今は大丈夫そうだし・・・よかった」
 
 三人の気遣いの言葉に感謝しながら、同時にこの三人に少なからず嫉妬していた事をすまなく思っ
て、わたしは「心配かけてごめんね」と軽く頭を下げました。
 
 「多分、ここのところお仕事が忙しくて色々ストレスがたまってたのが原因みたいだけど、もう
大丈夫よ。さっきまで祐一さんと一緒に色々お話してたらすっかり良くなっちゃったみたい」
 
 ま、まあ・・・・肝心な部分は話していないけど、でも「完全に嘘を言っている」わけでもない
から別に問題ありませんよね。うん、そうしておきましょう・・・・・・
 

 「ふ~ん、そうなんだ~でも、本当元気になってなによりだよ・・・・」
 
 三人とも、特に疑うこともなく納得した様子です。ううっ・・・ごめんなさいね。
 
 「祐一も意外と役に立つ・・・・って、あれ、ゆういち・・・・?」
 

 ようやく祐一さんの存在を思い出した真琴の視線の先には、相変らず硬直したままの祐一さんが
立っていました。
 

 「お~~~い、ゆういちぃ~~~~~?」
 
  真琴が祐一さんの頬をぺちぺちと軽く叩くと、祐一さんは放心状態から覚めてばつ悪そうに名雪
達を見ました。真琴はそんな祐一さんにニタ~~~と、意地悪な笑みを向けます。
 
 「祐一ぃ~~~?もしかして、あたし達が祐一に飛び込んでくると思って身構えてたわけぇ?」
 
 すると祐一さん、顔を真っ赤にして怒鳴ります。
 
 「ななななななな、そ、そんなわけないだろっ!!」
 
 ・・・・あの、祐一さん・・・・・・顔をそんなに赤くして、冷や汗たらたらで否定してみせても
全然説得力ないんですけど・・・・・・ま、まあ・・けしかけたのはわたしですから、あんまりどう
こうは言えませんが、でも、やっぱり説得力ありませんよ・・・・
 
 真琴は「はぁ~~~」と、大袈裟にため息をついて、「やれやれ」と両手を上げて
 
 「しょうがないなぁ・・・本当っ祐一ったらっ、ドスケベーなんだからねぇ」
 
 「だから違うって言って・・・ぐほっ!」
 
 祐一さんの無駄な反論を封じるかのように、祐一さんに飛びつく真琴
 
 「えへへ~祐一嬉しぃ~~~~?」
 
 と、祐一さんの頬に頬をすりすりと摺り寄せます。祐一さんは「うう・・」と唸るだけで、全く
抵抗する素振りを見せません。ふふっ、素直じゃないんだから・・・
 
 で、こんな二人の様子を黙ってみているわけがないのが名雪とあゆちゃんで
 
 「もう~~~!!真琴だけずるいよ~~~!!」
 
 「祐一君、ボクもボクも~~~~~!!」
 
 と、勢い良く祐一さんに突進し飛びついていきます。ふらつく足を何とか踏みとどめて三人をぶら
下げる状態になった祐一さん。
 
 「あ、秋子さ~~ん・・・何とか言ってやって下さいよぉ・・・」
 
 と、わたしに訴えますが、わたしは当然知らないふり。
 
 「うふふ・・・祐一さんったら本当もてもてですね♪」
 
 にっこり笑顔でそのまま放置状態です。そんなわたしに祐一さんは「秋子さぁ~~ん」と情けない
顔をしてみますが、でも口元がわずかにニヤけてるのが分かりますよ。 
 
 一見嫌がってるようで、その実嬉しくて仕方が無い祐一さんにぶら下がるようにしがみつく名雪達
・・・・朝見た光景と殆ど変わらないのですが、でも、それを見るわたしの心に朝感じた憂鬱さはま
ったくありませんでした。いえ、むしろこの子達はいつまでもこんな風に仲良くしていて欲しいと切
に願うくらいです。
 
 わたしにとって、祐一さんがわたしを「女」として見ようが、「母親」として見ようが、それは大
した問題ではないようです。どんな形であれ、祐一さんがわたしを「想って」いてくれればそれでい
いいんです。
 
 ただ、やっぱりわたしは祐一さんを「男」として見ているわけで、そうなると思いっきり甘えたい
な~~~って気持ちも出てくるわけで、今朝の憂鬱なんかは名雪達があんなに大胆に祐一さんに甘え
ているのにわたしだけが祐一さんに甘えられないっていう欲求不満が原因なわけで、だからそんな程
度の「憂鬱」なんかは祐一さんに「恋人気分」で甘えてしまえばすっかり解消されてしまうわけなん
ですよね・・・・あは、あははははははははは・・・・・
 
 思わず、冷や汗たらしてこっそり笑ってしまいます。もっともいちゃいちゃべったりな状態の四人
には全然感付かれてはいませんが。
 
 美少女三人に思いっきり甘えられて、嫌だ嫌だと言いながらも口元はしっかりニヤけている祐一さ
ん。でも、この子達を見つめているその目はとっても優しくて、この子達の「想い」をしっかりと受
けとめていて、そしてわたしはそんな貴方が大好きです・・・・・・・貴方がわたしを「母親」とし
て見ていようとも。
 
 
 
 
 

 だから、たまにでいいですから「お母さん」のわがまま聞いて、「恋人気分」で甘えさせて下さい
ねっ、祐一さん♪
 
 
 
 
 
 
 

                      終
 
 

 
 
 後書き
 
 「背徳」な秋子さんの話の第二弾です。
 
 前回より更に弾け気味で、かつ大胆になってしまった秋子さん。だけど祐一とは「背徳」な関係
には今のところ、させるつもりは全くありません。「今のところ」は・・・・・・
 
 まあ、突然「予定」が変わっても疑問を呈する事無く、大目に見ていただければ幸いです、はい
厳しい突っ込みはご勘弁願います・・・・てへ♪
 
 





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