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日本国憲法に、一夫多妻の条文が刻み込まれて早くも2ヶ月……。
俺、『千堂和樹』の下には多彩な? 妻達がやって来た。
高校時代からの腐れ縁『瑞希』を筆頭に『南さん』,『由宇』,『詠美』
『玲子ちゃん』,『彩』,『千紗』,『あさひちゃん』
学生からアイドル声優まで、いずれ劣らぬ美女(美少女)揃い。
周囲のねたみはあるものの、「千堂家」は今日も平和であった。
(大志曰わく、俺は畳の上で死ねないそうだ。
でも、一番俺を殺したいのは大志、お前だろ)
そう「千堂家」は今日も平和……平和なはずなんだが?
「寝るな~! このスカタ~~ン!!」
バシッ!
夜の夜中にハリセンが唸る。
「ぐはっ! たっ、たのむ由宇、寝かせてくれ」
「あかん! この原稿上げるまでは、絶対あかん!」
俺はもう3日連続の『修羅場モード』に突入していた。
だいたい締め切りまで4日もあるんだぞ、
急ぐ必要なんて、どこにもないのだ。
「うにゅ~、パンダぁ~、交代の時間だよ」
そう言って入ってきたのは詠美、
起きたばかりなのか、しきりに目を擦っている。
「そうか? 後4ページや、残りたのむで」
「わかってるわよぉ~、パンダは早く寝なさい」
「はいはい、そしたらたのむで」
ハリセンを詠美に渡して立ち上がる由宇、
お、オイ……渡すんじゃない!
コン、コン……
「誰や~っ」
部屋を出ようとしていた由宇がドアを開ける。
「調子はどう? 進んでる……」
「……あの……お夜食……です」
立っていたのは、瑞希と彩のふたり。
夜食かぁ……これで少し休憩できるな。
「なによ彩、あんた寝なくて平気なの?」
「……こく、こく」
昨夜は彩が、アシスタントをしてくれたのだが
昼間も絵本の原稿を描いていて、寝ていないらしい……すまん。
「彩もおとなしそうな顔しとって、和樹の事だと目の色がちゃうからなぁ」
「それは、由宇も詠美も一緒……そうでしょ?」
「……こく、こく」
ふたりを見て笑う瑞希と彩。
「う、うちはイラストだけや、このぐらい役に立たんと……なあ」
「あ、あたしは、超、超、ちょ~売れっ子だから、締め切りなんて関係ないもん」
ちょっと照れたふたり、微笑ましい光景だ。
「瑞希はんかて、家事全部に夜食まで作ってるやん」
「そうよ、そうよ、そぉ~よ、人の事言えないわよ」
とぼけ顔で上を向く瑞希。
「さっ、さあ、夜食にしましょう」
照れ隠し……だな、以外とウブなんだよ。
さて、今日の夜食は何だ?
「おっ、焼きおにぎりを茶漬けにしたのか?」
さくさく、ずずっ……
「おっ、これは香ばしゅうて旨いな、さすがや」
「……おいしい……です」
「な、な、なかなかやるじゃない」
うーん、アットホームな雰囲気、良いものだなぁ。
さくさく、ずずっ……
これは、確かに旨いぞ。
「ところで和樹……」
さくさく、ずずっ……
「……ん?」
さくさく、ずずっ……
「とっとと食べて、原稿描くのよ」
さく、……ずっ……
「……はい」
-2-
「千堂君……起きて……千堂君……」
う~ん、この呼び方は玲子ちゃんか……ね、眠い、
……ちなみに、お前も『千堂君』だって。
「もうお昼だよ、千堂君てば……」
「う~ん、昼か? じゃあ一緒に寝よう」
手を掴んでベッドに引きずり込む。
「あっ、だめだよ千堂君……みんな見てるよ」
えっ……みんな?
玲子を抱きしめたまま、俺の動きは止まった。
「まあ、和樹さんったら昼間から……ですか?」
あら? 南……さん?
「にゃにゃっ! 千紗は見てられないですぅ」
あり? 千紗……?
「こっ、これって、か、かなり恥ずかしい状況ですよね?」
あれ? あさひ……ちゃん?
「ほんま、やらしいやっちゃなぁ」
あん? 由宇……?
たまらず上半身を引き起こす……う~ん、
し、視線が痛いな。
「え~と……おはよう」
「ごはんですよ!!」
そんな……一斉に、言わなくても。
さて、食卓にはお姫様、もとい……奥様方の勢揃い。
「みんな、おはよう」
「おはよう和樹、はいごはん」
瑞希から茶碗を受け取る、
炊きたてのごはん、良い匂いが漂う。
「お、おっ、……おはよう千堂君」
玲子ちゃん、さっきのが効いたのかな? 頬が少し赤いぞ。
でも、千堂君はよせって。
「おにいさん、おはようですぅ」
たのむ千紗、おにいさんもやめてくれ。
「おはようさん」
「……おはよう……ござい…ます」
「か、かず、和樹さん、お、おはようございます」
「おはようございます、今日は良いお天気ですよ」
口々に7人の奥様達から朝のあいさつが……7人?
誰か足りないな……そうか、詠美だ。
「詠美はどうしたんだ?」
「徹夜がきいたみたいね、まだ眠ってるわ」
「千紗が起こしに行ったんやろ?」
「にゃ~、千紗は蹴とばされてしまいました」
そうか、結局原稿を上げるのに朝までかかったからな。
「じゃあ、後で俺が起こしに行くよ」
「それより、今日は和樹さんに原稿を持っていって頂きたいのですけど」
「あれ、南さんが持っていってくれるんじゃないの?」
南さんは今、雑誌社にお勤め、俺が連載を持っているところだ。
あれ、今日は休みか?
「すみません、今日はどうしてもはずせない用事があるので」
「そうか、でも今日じゃなくても……」
しかし、俺のセリフはさえぎられた。
「ほら和樹、最近運動不足でしょ……たまには外にでないと」
「せっかく早く上げたんや、持ってったらどうや?」
「そっ、その後映画とかどうですか? わた、わたしが出演てるやつですけど」
「『カードマスターぴーち』の劇場版か? いいかもなぁ」
あさひちゃんと出掛けるのも悪くないしな。
「はい、う、うれしいです」
う~ん、やっぱりアイドルは可愛いなぁ。
「さっ、それじゃ食事にしましょう」
瑞希がこの場をしめる……、
ガチャ……いきなりドアの開く音、
全員が振り向いたその先には……。
「ふみゅっ……う~、ごはん……なっとう……たべる」
寝ぼけまなこの詠美、
とりあえず朝食(昼食?)が始まった
-3-
原稿も無事渡す事が出来た、
あさひちゃんと映画も観たし、
久々に充実した時間を過ごしたな。
「うん、結構面白かったよ」
「えへへ、な、なんだか照れますね」
ふたりで喫茶店でパンフレットをめくる、
映画の後はやはりこれだ。
しかし、あさひちゃんはしきりに時計を気にしている。
「どうかしたのかい?」
「あ、あの…か、和樹さん、きゅ、急用を思い出しました」
「……?」
「す、すみません、か、和樹さんは、ゆ、ゆっくりしていって下さい」
「あっ、あさひちゃん!」
言うが速いか、あさひちゃんはダッシュで店外へ、
何なんだ、今日は?
-4ー
「今日の主賓はここね、さあ座って」
「えっ、はい……なんだか、すごいごちそうですね」
「さあ? こんなものでしょ、めったにない事だし」
「そう、そう、そうよ、今日はみ~んな手伝ったんだもの」
「このぐらいは、なあ」
「……こく、こく」
「ただいま、すっ、すみません遅くなりました」
「おっと、ケーキの到着や」
「どう、うまく逃げられた?」
「は、はい、なんとか」
「これで、だんな様のお帰りを待つだけですね」
「ただいま~っ」
「お帰りなさ~いっ!!」
うわっ、いきなり全員のあいさつとは……って、あれ?
真ん中に座っているのは……?
「い、郁美ちゃん?」
「はい、和樹さん、お久しぶりです」
そうだ、俺の9人目の妻である「郁美」だ、
「身体はもう大丈夫なのか?」
「はい、今日からお世話になります」
そうか、良かった……本当に良かった。
「和樹、あんたは郁美ちゃんの隣よ」
「さあ千堂君、座って」
「それではみなさん、乾杯しましょう」
「郁美ちゃんの退院と、家族の勢揃いを祝しまして……乾杯」
「かんぱ~~い」
南さんの音頭とみんなの唱和……宴は始まった。
かれこれ4時間、そろそろお開きのようだ。
瑞希と彩は台所で片づけを始めていたし、
詠美は……哀れ、由宇に挑んで撃沈されたようだ。
由宇ときたら、今度は南さんを標的にしていやがる。
南さんもやばそうだな……かなりハイになってきてるし、
玲子、千紗、あさひの3人は……幸せそうに寝てやがる。
そろそろ、いいかな。
「郁美ちゃん、ちょっとベランダへ出ないか?」
「はい、いいですよ」
「きれいな星空ですね」
夜空は満天の星々……天の祝福かも。
「そうだね……これ退院のお祝い」
そして俺は、ベランダの隅から花束を取り出す。
今日、家に入る前、ここに運んでおいたのだ。
あいつらの行動を見たら、何かあるぐらいはわかる、
後は推理力だな……俺は案外鼻が利くのだ。
「ご存じだったんですか?」
「まあ、そうかな……おめでとう、これからよろしくな」
見つめ合うふたり、少しずつ顔が近づいて……
ガタン……ん? ……って、オイ!
いつの間にかベランダの入り口には8人が勢揃い、
酔いつぶれていたはずの詠美や、寝ていた3人までいやがる。
「え~ところなんや、押したらあかんって」
「何よ、何よ、な~によ、パンダこそそこどきなさいよ」
「にゃにゃ、千紗は苦しいですぅ」
「そこだ! 行け~! 千堂君!!」
「……こく、こく」
「どう、あさひちゃん、そこ見える?」
「はい瑞希さん、こっちの方が良く見えますよ」
「だめですよ、静かにしないと……おふたりが集中できないじゃないですか」
……って南さん、もう無理だよ。
「お前ら、いい加減にしろ!!」
問題の8人だが……、
口々に文句を言いながら去ってゆく、
こっちが、いい迷惑なんだがな。
「ばれちゃいましたね」
「千紗は残念ですぅ」
「……こく、こく」
「しゃ~ない、飲み直しやな」
「しかたないですね、そうしましょうか」
「おつまみ、出しますね」
気が抜けた、本当に疲れるよ。
「戻ろうか、郁美ちゃん」
「あ、あははっ、そうですね」
こっちを向いたところで……、
唇を重ねる……軽いフレンチキッス、見事な不意打ちだ。
「あっ……和樹さん」
俺は、そっと郁美の肩を抱く。
「行こうか?」
「……はい」
郁美は、満面の笑みをたたえていた。
そして再び宴……宴は続く……。
おしまい