『美しき哉オンナの友情』
「聞いてくださいよ、美汐さん。酷いんですよ」
放課後に訪れた百花屋。
そこでテーブルに着くなり、栞が頬を膨らませて切り出した。
「酷い、ですか? なにかあったのですか? もしかして、また相沢さんにイジワルでもされました?」
ボルテージの上がっている栞とは対照的に、落ち着いた声で美汐が受ける。
「いえ、祐一さんではなくてお姉ちゃんです。お姉ちゃんに苛められたんです」
「美坂先輩に?」
怪訝な顔になる美汐。
「そうなんですぅ! あのですね、昨夜、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったんですけど……」
「はい」
「お姉ちゃんってばですね。事もあろうに」
「は、はい」
「またおっぱいが大きくなってたんですよ! あまつさえ、わたしの目の前でプルンと揺れたりしたんですよ! これは苛めです! 嫌がらせです! わたしに対する挑戦です!」
拳をググッと握り締めて栞が咆哮。
それを聞いて、美汐は肩をガクッと落としつつ「ハァ」と深いため息を零した。お約束ともいえる展開に思わず脱力。
「そ、そうですか。それは確かに酷い、かもしれませんね。栞さん的には」
「ええ、無茶苦茶酷いです。あまりにも惨い仕打ちです」
「そーですねー」
美汐、ついつい返事が投げやり、尚且つおざなりに。
「ですから、わたし思わず……反撃しちゃいました」
「え? は、反撃? 何をしたのです?」
ニッコリ笑って不穏な事を口にする栞に、ちょっぴり冷や汗を浮かべつつ美汐が問うた。
「大きなおっぱいなんて人類の敵ですからね。揉んだり舐めたり擦ったりして全力で『いぢめ』ちゃいました。お姉ちゃんが泣いて謝っても許さずに何度も何度も……ぐふふ」
「……さ、さようですか」
心の中で『美坂先輩、お気の毒に』と黙祷を捧げる美汐。
と同時に、『栞さんって、実は巨乳フェチなんじゃないですか? 何のかんの言いつつ凄く楽しそうなんですけど。どうでもいいですが、ぐふふはやめましょうね、ぐふふは』と、栞に激しくツッコミを入れてしまうのであった。
――それから数分。否、数十分。
「お姉ちゃん、これに懲りたら少しは反省してくれればいいのですけど」
延々と香里に対する愚痴――というか『いぢめ』の暴露――を続けた栞。
そして、最後に上記の台詞をため息と共に漏らし、漸く一息。
「そ、そう、ですね」
は、反省って。美坂先輩、なにも悪いことしてないのですけど……。
そう思ったが、美汐は胸の内だけに留めて口には出さなかった。
言っても無駄でしょうし、ね。
美汐、妙に達観。
しかし、頭では分かっていても感情は別。ついつい何ともいえない複雑な想いを表情に出してしまう美汐だった。
好対照に栞は妙にスッキリとした顔。「ふぅ」と満足気な吐息を零すと、美汐に向かってニッコリと微笑んだ。
「ごめんなさい、美汐さん。愚痴なんか聞いてもらっちゃいまして。こんな事、美汐さんにしか言えなくて……」
「いえ。別に構いませんよ」
答えながら、美汐は合点がいったという面持ちで何度も頷いた。
――なるほど。栞さんが、今日、私だけを百花屋に誘ったのはその為だったのですね。
あゆさんや真琴が一緒では愚痴どころではなくなりそうですし。
騒々しい友人たちの顔を思い浮かべて美汐が微かに笑みを浮かべる。
「こういう不満は、やっぱり誰かに話して吐き出してしまうのが一番ですから」
「それはまあ、そうですね」
既に香里本人にこれでもかと『吐き出した』のであるから今更という気がしないでもないが。
「あと、美汐さんでしたらわたしの気持ちも理解してくれると思いましたし」
「え? 理解、ですか?」
「だって、美汐さんも『洗濯板の貧乳』ですから」
邪気の無い笑顔で栞がサラッと言った。
「せ、洗濯板の……ひ、貧乳……ですか?」
「はい♪ ぺったんこのナイムネのツルペタ」
額にプクッと血管を浮かび上がらせた美汐に向かって、栞が満面のスマイルで宣った。見事な追い討ち。
「言うなれば、わたしと美汐さんは仲間……」
「違います」
栞の言葉を美汐が遮る。
「私の胸は確かにそんなに大きくないです。ですが、栞さんと一緒にされるのは心外ですね」
「……へ、へぇ。1センチしか違わないのに、ですかぁ?」
仲間と思っていた者からの予期せぬ反撃。栞はこめかみをピクピクと痙攣させつつ、引き攣った笑顔でそう尋ねた。
「私は80センチ。大台に乗ってます。対して栞さんは79。この1センチは小さな1センチですが、バストにとっては大きな1センチです」
「えぅっ!? あーむすとろんぐ!?」
「でもまあ、安心してください、栞さん。例え80と79で天と地ほどの差があろうとも、私はあなたを見下したりはしませんよ。大切なお友達ですから。――尤も、『仲間』にはどう頑張ってもなれませんけどね。くすっ」
言って、優しい笑みを浮かべる美汐。言葉はトゲだらけだが。
「……そうですか。美汐さんって心が広いですねぇ」
栞も穏やかな微笑みで返す。
内面で『閻魔帳に罪状プラス1ですね。お姉ちゃん同様に、いつか泣かせて鳴かせます』とか考えながら。
「わたし、そんな美汐さんが大好きですよ」
「ありがとうございます。私も明るくて元気な栞さんが大好きです」
ニコニコと危険な笑顔で向き合う栞と美汐。裏でいろいろな物を抱きつつ。
「え、えへ、えへへへへ」
「う、うふ、うふふふふ」
……嗚呼、美しき哉オンナの友情。
二人の放つ黒いオーラに圧倒されて、ウェイトレスが注文を取りにいくことすら出来なくなっていたりしたが……
「えぐえぐ。マスター、あそこのお客様、怖いです~。なんとかしてください~」
「……そ、そんなことを言われてもねぇ」
それはまた別の話である。