了承学園5日目1時限目
こみっくパーティサイド(作:阿黒)
「うふ。うふ。うふふふふ…」 一体どこに存在するのか、実は作者もよく考えてはいないコミックZOの秘密本部。そこに、毎日3回は起こる馬鹿笑いが今日も朝早くから湧き上がっていた。 「うふ。 うふふ。 うーっふっふっふっふーのふーだ! ぱーぺき!ぱーぺきよっ!!ちょぉぉおぱーふぇくとでかんぺきよっ!! こーんどこそこそ覚悟なさいせんどーポチきっ!このちょおビューチフルでちょおプリチーでちょおコケティシュなちょおびしょーじょ同人クィーンのちょおメカ詠美ちゃん様がちょおちょおスンごいちょお天才なこの作戦で、ちょおけちょんけちょんな目にあわせてあげるんだから! うふふふふふふふふふふふふふふ、うふ、うふふふふふふふのふーーーーー!!」 「あの~~、メカ詠美さん~~…今時『ちょお』だなんて連発しないでくださいよ。聞いている方が恥かしいですー」 ……………。 「…アレイちゃーん。大玉アメ、食べる?」 「え、ハイハイいただきまーす。…えへへ、甘いです~」 幸せそうな声を上げるアレイの頬が、口内の大玉アメでその形に盛り上がる。それを見据えると、メカ詠美はおもむろに右手を振り上げ、そして。 バッチイイイイイイイイイイイン!!!! 「ぼごぷわあああああああああああああああああああああっっっ!!?」 強烈なビンタをアレイの頬に張った!その衝撃に、アレイは唯一顔だけを剥き出しにした、相変わらずのフルプレートのままで床の上をのたくる。 説明しよう! アレイは鎧抜きで見れば、外見上はごく普通の可愛い女の子であるッ!しかし!パワー系悪魔騎士である彼女はその外観からは想像もつかないほど頑強で、パワフルなのだッ!いくらメカとはいえ、一般人レベル(あるいはそれ以下)の腕力しか持たないメカ詠美の平手くらい、本来蚊に食われたほどの痛痒も感じはしないッ! だがッ!しかしッ!! 口中に含んだ大玉アメ!そこに理由があるっ! 頬肉と歯茎の内側に入り込んだ大玉アメ!そこに上から衝撃を加えるとどうなるかっ!!? そう! 頬骨に、硬い大玉アメからの衝撃が直接伝わり顔面を破壊するっ!!しかも頬肉の内側からなので衝撃を散らすこともできないっ! 痛いッ! これは痛いッ!!! ひ弱なメカ詠美のビンタもこれなら威力倍増だっ!!!! 「ううううううううう、そ、そんな林正之なネタ……!」 「アレイちゃ~~~ん?大玉アメ、もう一個たべるるるる~~~~?」 「いりません!っていうかその右上がりな口調はナニ!?」 「こんなもんはその場のノリと勢いだけでやってるに決ってるでしょ!オバカ!」 「ううっ……畜生、いつか殺してやる……」 小林源文に物騒なことを呟くアレイである。 「まあそれはさておき。今度はナニを考えたんです?」 そのアレイの質問に、またもふっふっふっ、と笑いながら実は平均よりは若干豊かな胸をメカ詠美は逸らせた。 「これよ、これ!」 「えーーーーと…これって、メイドロボの耳カバーですよね?それが何か?」 「もー。あいっかわらずあたま悪いわねー。あたしはロボだけど、頭蓋骨って本来は脳細胞を入れておくところなんだからね?」 「ううっ…本物のバカにそんなことを言われてしまいました…」 「…アレイちゃ~~~~ん?」 「あやまりますから大玉アメはしまってくださいおねがいします」 「ふんだ…」 やや物足りなさそうに飴玉をポケットにしまうと、メカ詠美は白い金属質な光沢を放つHM-12型の、ドライヤーのような形のヘッドホン・センサーを耳に取り付けた。 「ふっふーん。どうよ?」 「どうよ、とか言われましても」 「まー、ばんぴーにはこの天才・メカ詠美ちゃん様のひじょーにこーしょーでフレキシブルでメランコリックな思考のレベルにはなかなか追いつけないのは当然よねー」 「…言いたいことは色々ありますけど、確かにその思考にはついていけませんよね」 「ほほほのほー。まーそれはともかくね。 あたし、常々思ってたわけよ。あたしのこの国宝級のびぼーって、誰かに似てるなーって。 髪形と髪の色とかさ。…わかんない?」 「…マルチさん、ですか?」 「そーそー!」 「…それくらいしか共通点無いと思うんですけど。それも強いて言えば、って程度の…」 「なにいってんの!この業界、髪形が変われば別人ってのがお約束なの!基本的な顔の造詣は同じで、髪形だけでキャラを描き分けるなんて、誰でもやってることよっ!」 「いや、あの、それは確かにそうだと思いますけど、ちょっと危険な発言なのでは…」 「…ちなみにあたしはみつみ○里さんと甘○樹さんの絵柄、見分けがつかないわよ」 「それはむしろ当然だけどなんだか色々な意味で危ないですーーーーーー!」 「まあとにかくよ!そーいうわけでマルチにへんそーしたあたしに、ロリから年増まで好みにせっそーのないぼんのー魔人なポチきはもーメロメロ!しかもマルチだから油断しまくり!他のれんちゅーもあたしだとはわかんないから、へーきで近づけるってすんぽーよっ!いっせきケチョー!ってヤツよねっ!」 「怪鳥じゃなくて二鳥です、多分」 「ことわざなんてこの際どーでもいいのよっ!意味さえ通じれば!なによそんなイヤミなヘリクツこねて、あんた国語の先生!?」 「えーーーと…あの、もういいです。行ってください、メカ詠美さん」 「メカ詠美ちゃん様よっ!まーったくこれだからぐみんと話をするのはイヤなのよねぇ~~」 そんなことを言いながらも、藤田家仕様のセーラー服に着替えたメカ詠美は、自信タップリに部屋から出て行った。それを見送りながら、アレイは、あきらめたように呟く。 「…まあ…由宇さんにボコボコにされて三十分後には泣かされて帰ってくるかな…」 つきあいは短いが、既にその未来予想にまず間違いが無いであろうことを、アレイは確信していた。 ************ 「そーいうわけでマルチよっ!」 がったーーーーーーーーーーーんんんん!!! 大声でそんなタワゴトをほざきながら教室に入ってきたメカ詠美に、和樹は盛大にずっこけた。 「さあ!さあさあさあさあさあさあさあさあさ、マルチよっ!マルチちゃんなんだから!ほらかわいいでしょポチき~~~~~~!」 「うわうわうわうわうわうわうわ!?」 何だか全然わからないことを言いながら詰め寄ってくるメカ詠美の異様な迫力に、思わず和樹は床にへたりこんだまま、とにかく後退った。 「うーっふっふっふっふ!あ、違うか。 は、はーわわわわわわわ、はわ、はわ、はわ、はわわわわ~。ご、ご主人様~~~~」 「ど、どひいいいいいっ!?」 「ふふふふふ、とくべつにナデナデさせてあげてもいいわよ~~~~~~~~!」 「うきいいいいいいいいいっ!?」 「やめんかアホんだるぅぁああああああああっ!!」 がごっ!! 「ぱぷううぅっ!!?」 助走をつけて、素晴らしく勢いが乗った由宇のジャンピング・ニーが右側頭部を容赦なく痛撃し、メカ詠美はあっさり吹っ飛んだ。空き机を2つ3つ跳ね飛ばして床に転がる。 しばらく衝撃で声も出せず、ピクピクとメカ詠美は痙攣していたが、それでもフラつく頭を抱えながら何とか起き上がってくる。 「な、な、な、なにすんのよこのきょーぼーパンダっ!今、鼻の奥のほうでなんだがとっても危ないカンジのモノが弾けたわよっ!?」 「どやかましいわこの大馬鹿メカ詠美!もーオオバカなんて言葉じゃ足りんわこのバカっぷりは!なんちゅーかもーグレートスペリオルファンタスティック馬鹿・メガって感じ!?」 「ぐ、ぐれーとすぺ…?うううう、まーたちょっとあたしがわかんないと思ってなんかいい加減な単語並べ立ててくれちゃって!なによ偉そうにっ!」 「やかましいわメカ詠美!ナマ詠美だけでもウチらもー馬鹿飽和やちゅーに、これ以上馬鹿増やさんで欲しいわ馬鹿間に合っとるさかい!馬鹿は下手すると空気感染するから近寄らんで欲しいわまったく!というわけでとっとと去ね、馬鹿!」 「うううううううううううう、なんか物凄くひどいこと言ってるーーーーー!」 「ナマ詠美って誰のことよ馬鹿ほうわってなによパンダーーーーーーーーー!」 「はいはい、ややこしくなるからナマ詠美ちゃんはおとなしくしていましょうねー」 「ああっ、南さんまでナマ詠美って!?なんか気を抜くとそのままあだ名になっちゃいそうだからやめてよそれ!!」 南に後から羽交い絞めされている詠美を一瞥してから、和樹はようやく立ち上がった。罵りあい、というより既に一方的に由宇に言い込められて涙目になっているメカ詠美の姿を見て、ため息をつく。 「まあ、ナマ詠美はともかくとして」 「ああっ!?ポチきまでそんなこと言う!?」 「まあそれはともかく。結局、ナニがしたいんだメカ詠美?」 へ?という顔になって、メカ詠美はぎこちなくこちらを向いてきた。 「な、な、な、なに言ってるのよポチき!あたしはほら、えっと、そうそうマルチよっ!とってもらぶりーきゅーとなメカ詠美ちゃん様じゃないわよ!?」 「……あのな。まあ、服装とか、そのセンサーとか、変装しようとしているその努力は認めるが、お前、それだけしか変えてないだろ。なんでそんな杜撰な変装がバレないと思えるんだ?」 「そうよっ!それであんたマルチに変装してるつもり!?かたはら痛くてお腹のラッパがプーっていっちゃうわよ!!」 無理矢理南の腕から逃れると、詠美は真正面からメカ詠美にビシリ!と指を突きつけた。 「まーあたしに較べればどーしよーもないしくっだらないし頭の悪い作戦だけど、でもまあ、見るべきものはたしかにあるわねっ!一瞬、ホントに本物のマルチちゃんかと思っちゃったわよ?」 「えーっと…一瞬でも間違えられるかな、普通…?」 「瑞希っちゃん。…本物のバカなんよ、詠美は」 得心できないでいる瑞希の肩を、少し悲しそうに由宇が叩いた。 「実際…たいしたもんだと思うわ!確かに本物のマルチちゃんに較べれば背が高くて声も違って胸は大きくて態度がおーへーで顔も全然違うけど!」 「…それは全然似てないっていうんじゃないかなぁ…」 「あきらめ、瑞希っちゃん」 なにやらカッコつけたポーズをとって、詠美は、メカ詠美の一点――頭を指差した。 「あんたっ!この前、なんか『専用』になって三倍のスピードになったそうだけど、その時に『赤く』なったのを忘れてるんじゃない!? ……髪が赤いマルチちゃんなんて、いるもんですかあああああああああっ!!」 ガガ―――――――――――――――ンン!!!! 「ああっ、しまった――――――――――――――――――!!?このメカ詠美ちゃん様ともあろうものが、これは一生の不覚!!」 「おーっほっほっほっほっほ――!…はにゃ?どしたのみんな?なんか、すっごく疲れた顔してるけど?」 「……いや…あのな…詠美…。確かにそれは事実だけど、なんかさ、ほら…」 「ううっ…頭が悪くて死にそうだよ…」 なにやら悲しげに頭を振るしかない千堂家一同だった。 「…はっ!?ということはつまり、マルチじゃなくてセリオの格好していれば…!!」 「ああっ、誰かこのバカっぷりを何とかして…!」 「まあまあ瑞希…バカなんだからしょうがないさ」 「和樹…何気にヒドいで、その言葉」 「ううっ…バカってゆーなー!」 しくしく泣き始めた詠美ズの頭を、苦笑しながら優しくナデナデした。 なでなでなでなでなで… 「ほらほら詠美、それくらいで泣くなよ。まるで本当にバカみたいじゃないか。いいんだよ、詠美はそれくらいで。俺はそんなちょっとぬけたところもある詠美は、可愛いと思うぞ」 「ううっ…なんか、あんまり褒められてる気はしないんだけど…」 「ま、確かに褒めちゃいないけどさ。でも俺は、お前の馬鹿っていうのは馬鹿たれっ!ていうものじゃなくて、お馬鹿さん、って、ホンワカして、かわいいって思う。それが良いんだ」 「そ、そう…」 「俺は詠美のいいところも、悪いところも、ひっくるめてお前に惚れたんだ。…俺にとっては、それだけのことなんだよ。な、詠美…?」 「うん…」 (猪名川さん…でも結局、詠美ちゃんバカって言ってるんだよね、和樹は) (しーっ…せっかくうまく誤魔化されてるんやから、黙っといてやりや) 両脇に詠美ズを抱えて優しい言葉をかける和樹をやや不満そうに見ながらも、とりあえず妻達はそれを邪魔せず静観し続けた。 「おい、メカ詠美」 「な、なによ」 「…まあ、マルチちゃんに似てる似てないはともかくとして…その格好自体は結構…いや、かなり可愛いとは思うぞ」 「え、そう?…って、そんなあまっちょろいお世辞なんかでこのメカ詠美ちゃん様はへにゃーんてにやけたりしないわよ!」 「…本心なんだけど。それに、俺はお世辞言えるほど口が達者なわけでもないし」 「ふ、ふん。男って、口ではその場かぎりでちょーしのいいこといくらでも言えちゃうもんなのよ!」 「んー、そうだな。否定はしないよ。でもな、男のそういうイヤらしい下心かもしれないけど、可愛い女の子じゃなきゃ舌も動きようはないんだけどな」 「……ふ、ふん…」 「なあ。…どうして俺にそんなちょっかいかけるんだ?」 「ど、どうしてって、その…」 「俺には、聞く権利があると思うぞ。わけもわからず回りでゴソゴソ動かれて、それで平和的な気分になれると思うか?」 「…怒ってるの?」 「…少し」 メカ詠美は、和樹の顔を半ば盗み見るような上目遣いで、そおっと視線を向けた。…少し厳しい光を湛えた和樹の瞳と視線がぶつかり、思わず顔を伏せてしまう。 「…ごっ…ごめん…」 「なんであやまるんだ…?」 「えっと…その…つい…」 「…あやまるくらいなら」 「え?」 「ロクに言葉も交わしてもいないのにあやまるくらいなら、最初っからそんなことするなよ。そんな、すぐあやまってしまうような気分でやっていることなら、止めちまえ。 お前らがやってることなんて、そんな程度のもんなのかよ?メカ詠美。 同人なんて所詮アマチュアといってしまえばそれまでだけどさ。人から何かいわれたくらいですぐへこんでしまうような性根の腐ったヤツは、最初っからモノを作る場に出てくるなよ。それは、アマもプロも関係ない。 お前だって、詠美だろ?同人クイーンの、天才同人作家なんだろ?詠美がそんな軽々しく謝るな。 …それとも、お前は所詮、メカの偽者なのか?」 「…………」 「どうなんだ?」 「………そんなこと、ないわよ」 「どう、ないんだ?」 「…あ、あたしの方がそっちの詠美よりすごいんだもん!あんたなんかけちょんけちょんにしてやるんだから!ポチのくせにこのあたしにそーんな大きな口をきいちゃって、ナマイキよっ!!」 「…じゃあ聞くけど、なんで俺にちょっかいかけてくるんだ!?」 「ふみゅぅ…顔が怖いよぉ…怒ってるう…」 「……あのな。だから、ほら、それくらいで泣くなって」 「……………怒んない?」 「…ガキかお前は…」 それ以上の追求をあきらめて、和樹はメカ詠美の頭を撫でながら、ふっと言った。 「まああれだな。…赤も、悪くはないよな」 「……」 (わかりやすいヤツ) 頬を赤く染めるメカ詠美が可愛くて、和樹は抱き寄せる腕に僅かに力を込めた。 「え…なに…?」「あの…ちょっと、くるしい…」 両脇で、緑と赤の詠美が同時に声を上げた。そして。 「…か…かずき…」 「…まだ…怒ってるの…?」 ぴしいっ!! 耳には聞こえないが、頭の中で自分の理性にヒビが入る音を確かに聞いたと、和樹は思った。 「あの…ごめん…あやまるから…あやまるから、おこんないで…」 赤と白のセーラー服に赤い髪。マルチよりむしろあかりっぽい姿のメカ詠美が、ピンクのスカーフをいじりながら怯えた仔犬のような瞳を向けてくる。 スカーフをモジモジと弄ぶその手つきに、内心が表れていていた。 「…畜生…考えてみると…俺の高校ってセーラー服じゃなかったんだよなぁ」 「えーと、和樹?」 遠くで、瑞希が少し気がかりな様子で声を上げる。 「詠美の学校もベストだし…彩ちゃんの制服姿って、結局目にできなかったし…千沙ちゃんはセーラーだったけど、どちらかというと女子高校生より女子中学生なテイストで、無論それはそれでオッケー!なんだけど…」 「えーと、あの、和樹?」 「ああっ…セーラー服…現役の頃は特にそんな魅力なんて感じなかったけど…ああ…でも…セーラー服の女子高校生…くそう…この年代でしか醸し出せないこの独特の雰囲気…」 「あー…和樹?」 …………。 沈黙してしまった和樹の腕の中で、詠美ズは顔を見合わせた。やがて、おずおずと、メカ詠美が和樹の胸元に手を添えた。ぎゅっ、と拳を作る。 「和樹…怒っちゃ、やだよ…」 …………。 …………。 …………。 …………。 …………。 ……………………ぷつっ。 「ブルセラ万歳―――――――――――!!」 「和樹の超バカ―――――――――――!!」 正気を無くした和樹が詠美ズになんかしようとする前に、既に長年の経験からスタンバっていた瑞希のテニスラケットがフルスイングで和樹の顔面を捉えた。 「あべしずぺっ!?」 なにやら愉快な悲鳴を上げて、和樹の体が豪快な勢いで壁に叩きつけられる。だが。 「メカ詠美ちゃん!早く!早く逃げなさいっ!」 「えっ?えっ?えっ?」 「早くっ!煩悩全開バースト時の和樹はこれくらいでくたばったりしないわ!煩悩の限りを尽くされたくなかったら早くここから逃げて…」 「瑞希にはセーラー(冬服)が似合いそうだああっ!!」 もにゅっ。 「きゃあああああああっ!?う、後からそんな…!や、やだ、お願い、もっと優しく…セ、セーラー服くらい、は、恥かしいけど着てあげるわよっ!だ、だからその…そ、そんな強く揉まないでえええ!!」 「和樹いいいっ!アンタそれ単なるセクハラオヤジやないかいっ!!ええい、瑞希っちゃんから離れんかい!」 「あらあらあら、和樹さん…ちょっと、おいたがすぎるんじゃないかしら…」 「…南さん…顔は笑ってるけど…」 「にゃ、にゃ、にゃ~~~。南のお姉さん、こわいですー」 「まあ…牧村さんは年齢的にセーラー服は無理が…」 「い、い、い、郁美さん、それ言っちゃダメ…!」 「あー。なんか、逃げたほうがいいんじゃないっかなー、って気がしてきたー」 「ふみゅうううううううううううううううううううううう!?」(×2) そして、血走った和樹の目がまともに自分を射抜いた時、その奥底にある無限の…尽きることのない煩悩の深さに、理屈抜きの恐怖を感じ。 メカ詠美は、教室から脱兎のごとく逃げ出した。 *********** 「ううっ…一瞬でもあんなのにときめいてしまったじぶんにチョッピリ嫌悪…」 廊下をトボトボと歩きながら、メカ詠美は深く深くため息をついた。耳には相変わらずセンサーをつけたままである。 「でもまあ、やっぱ煩悩作戦は効果的ってのは間違いなさそうだし。こんどはぬかりなくセリオに化けていけば完璧!よねっ!…でも距離をとっておかないと、そのまま組み敷かれて最後までいっちゃいそう…って、バカバカ、な、ナニ考えてんのよっ!!」 自分の想像に顔を真っ赤にして、身体全体でイヤイヤをしてしまうメカ詠美だった。 ざっざっざっざっざっざっざっざっ… 「?な、なに?」 遠く、後から聞こえてくる駆け足の音に振り返ったメカ詠美は、そのまま無言の世界に突入してしまった。 「かーちゃん達には内緒だぞー」 「カーチャン達ニハ内緒ダゾー」 ざっざっざっざっざっざっざっざっ… 謎な歌を唄いながら、量産セリオに率いられた量産マルチ・メイド小隊は、目を点にしているメカ詠美の前までやってきた。 「全体止まれー」 ざっざっざっ、ぴたっ。 「番号」 「1」「2」「3」「4・5・6・7・8・9・10……」 スパーン!! 最後尾、4人目のHM-12を、量産セリオがエプロンの裏から取り出した黄色いメガホンで突っ込みを入れる。 ドリフターズなネタだった。 「…まあ、とりあえずつかみはオッケーということで」 「この学園は骨の髄までこんなんばっか!?」 自分も「こんなん」に入ってることをキレイに無視して、メカ詠美が喚く。 「まあそれはともかく」 「いや、ともかくってあーた」 「ともかく。…メカ詠美さん。あなた、我々HMシリーズを舐めてますね?愚弄してますね?コケにしてますね?もう思いっきり、バカにしちゃってますね?」 「え、いえ、あの…」 なにやら無表情に、しかし躊躇なく詰め寄ってくる量産セリオに気圧されて、少しびびってしまうメカ詠美である。 「わかりました」 「いやそんな、そっちで勝手にわかってもらっても」 「…特訓です」 「はひ?」 「もう、特訓しかありません。そして、あなたも我々同様、立派なメイドロボにして差し上げます。…私たちHMシリーズの真髄というものを、教えて差し上げましょう」 「なんでそんな展開になるわけっ!?」 「メカ詠美さん」 じんわりと、メカ詠美のセーラー服の襟首を締め上げながら、量産セリオ(メイド仕様)が、なにやら危険な声音で言った。 「私たちセリオ型は、あなたよりずーっと美人ですっ!!」 「言い切ったわねあんたっ!?」 「ふふっ…でも、まあその思い上がりは許して差し上げますわ。…可愛い仔猫ちゃん?」 「ひ、ひいいいいいいっ!?」 ペロッ、と舌を少し出した量産セリオにとてつもなく嫌な感覚を覚え、必死にメカ詠美は襟首を掴む手を振り解こうとするが…ビクともしない。 「あああああ、ま、まさかあんたら、悩殺・百合の花クラブの会員っ!?」 「…勝手に変な団体作らないで下さい。それはまあ、雪音お姉さまには…可愛がってもらってますけど」 ぽっ。 僅かにだが、恥かしげに頬を染める量産セリオの背後で、それぞれメガネ装備やポニーテール仕様のHM-12達が、同様に顔を赤らめている。 「ふみゅうううううううううううううううううう!?」 恐怖の予感が確信に変わり、もはやなりふりかまわずジタバタとメカ詠美は暴れるが、それでも相手の手はビクともしなかった。 「い、いやあああっ!?あたしはノーマルよおっ!はじめては星のきれいな砂浜でステキな王子様って決めてるのおおっ!!」 「あら?アウトドア派だったんですか?意外と大胆」 「ち~~~~~~~が~~~~~~~~~う~~~~~~~~~~!!」 「まあ、そのへんは適当に忘れちゃってください。私も忘れますから」 「人のはなしをきけ~~~~~~~~~~!!」 だーっと滝のような涙を流しながらうめくメカ詠美に、やや宥めるような語調で量産セリオが言った。 「落ち着いて。私、どちらかというとネコ志望ですから」 「…に、にあわねー…」 ぎしぎしぎしぎしぎしぎしぎしっ…!! 「ウソですっ!冗談ですっ!とーっても御似合いですっ、だからお願い、ちょ…首…しまる…」 「アノー。脱線ハソレクライニシテ、用件ニ入リマショウ?」 割って入ったお団子頭のHM-12の言葉に、量産セリオはしぶしぶメカ詠美を解放した。が、周りを既にHM-12達が取り囲み、逃走を阻んでいる。 「実は、前々からあなたには目をつけていたのですよ。…メカ詠美さん」 「う、う、う、ご、ごめんなさあい、あやまるからいじめないでぇ~~~」 「ううっ…この怯えた小動物のような瞳が嗜虐心を刺激するっ…!じゃなくて」 それはおいといて、のジェスチャー付で、メカ詠美よりやや長身の量産セリオはわずかに覆い被さるような態勢で、本題に入った。 「…メカ詠美さん。耳のセンサーがとっても御似合いです。」 「は、はあ…?」 「どうです?…我々メイド戦隊に、メイド・レッドとして入隊しません?」 「あんたらそっち系かいっ!!」 よくよく見れば、HM-12達の髪の色はオリジナルそのままの緑の他に青、黒、黄…というか金髪と、それぞれ異なっている。 「赤って…あんたがリーダーじゃないの?」 「私は司令役です」 「…ううう…これだから特撮ヲタってのは…!」 あっさり答える量産セリオの言葉に、思わず頭が痛くなるメカ詠美だった。 「とにかく!メイド・レッドに相応しいのはあなたしかいません!理由は色々ありますが、まず赤いし!それから…赤いし、あと、とにかく赤いですから。…そういうわけで、チャチャッと入隊しません?」 「赤以外の理由は無いでしょあんたら!!あたしはそんなことやってるヒマなんてないのよっ!」 メカ詠美の拒絶に、量産セリオ達は僅かな困惑の表情を作って、顔を見合わせた。何やら頭を集めて相談を始める。 この間に逃げちゃおうかな~とか思わないでも無かったが、放っておいたら更にバカな方向に話が進みそうで、メカ詠美は迷いながらもその場に留まっていた。 やがてそれほどの時間もかけず、相談がまとまったのか再び量産セリオがこちらに向き直ってきた。 「わかりました。ギブ・アンド・テイクは交渉の基本です。入隊していただけたらそれなりの見返りは約束いたしましょう」 しゅるっ。 そう言いながら、量産セリオは襟元のリボンタイを解いた。 「…あの…やさしくしてくださいね…」 「短絡しないでええええええええええっ!!あたしはノーマルだっていってるでしょぉ!?」 「いや、でも…ここはやはり上に立つ者が身体を張るべきかと」 「それは立派だけど何かが著しく間違ってるのよあんたらわ!!…ああっ、だから片肌脱ぎになるなああああああああああああっ!!」 ************ 「…で?」 「ふみゅううううう…」 途方にくれているメカ詠美…というより、半ばはその背後に並んでいるメイドロボ達を半眼で見つめながら、真紀子は机に頬杖をついた。 「あらら。まさかこんな結果になるとは思ってもいませんでしたねぇ…」 おっとり、のんびりとした口調でアレイが呟く。 「つまり、メイドレッドを御引き受けくださるかわりに、我々もそちらの団体に助力する、ということで。取引というやつです」 平静に応える量産型セリオの背後で、HM-12達も頷く。 「…一応質問するけど、あなた達、何ができるの?」 「御掃除デキマス」 「御茶汲ミデキマス」 「御料理モ、ソレナリニデキマス」 「タマニドジッチャッテ、オ皿ヲ割ルノハ得意デス」 「…まあ、売り子とコスプレならまかせてください。あと泣き落としも」 「…ああっ…また実戦力にはならない人員ばかりが増えていく…」 「困ったものですねぇ」 「あんたもよアレイちゃん」 「ふみゅううう…」 頭の奥にじっとりと疼く痛みを覚えながら、真紀子は嘆息した。コミックZOに不安材料があるとすれば、やはり作家陣である。今のところマンガの戦力になりそうなのは由宇とメカ詠美、それに玲子だが、由宇は自分のサークルもあり、玲子もマンガよりはコスプレイヤーとしての人材である。美咲&弥生コンビという思わぬ拾い物があったとはいえ、彼女達はまだまだ駆け出しレベルだ。厳密な意味で固有戦力といえるのは結局、メカ詠美だけというのが現実だった。 「とりあえず、決めポーズを色々考案してみたのですが、どうでしょう?」 「あああああああ、バカばっかり増殖していくうううううううっ…!」 やるせない怒りと嘆きで、思わず涙ぐんでしまう編集長だった。 【後書き】 新世紀初の了承!2001年初のSS! …がこれかい(--; なんか、先行き暗いなぁ。まあ、今年もヨロシク。 |
☆ コメント ☆ セリオ:「うむむ。まさかわたしたちに化けようとするとは。メカ詠美さん……恐るべしです」(--; 綾香 :「恐るべし……かなぁ?」(^ ^; セリオ:「今後、警戒が必要ですね」(--; 綾香 :「いらないと思うな、あたしは」(^ ^; セリオ:「何を言ってるのですか。油断大敵ですよ」 綾香 :「その言葉には一理あるけどねぇ でも、彼女だったら放っておいても勝手に自滅しそうだけどなぁ」(^ ^; セリオ:「甘い! 大甘ですよ、綾香さん」 綾香 :「そ、そう?」(^ ^; セリオ:「常に最悪のケースを想定して準備しておくべきです。 それが戦場での掟です」(--) 綾香 :「せ、戦場って……」(^ ^; セリオ:「そうだ。 どうせだったら、こちらからメカ詠美さん及びコミックzoに攻勢を掛けましょう。 先手必勝です」(--) 綾香 :「……おいおい」(^ ^; セリオ:「まずは……マルチさんをメカ詠美さんに変装させて、コミックzoに送り込みましょう」(--) 綾香 :「は?」(--; セリオ:「耳カバーを外して、髪を赤く染めればそっくりです。 そして、内部からマルチさんにかき回してもらいましょう」(--) 綾香 :「…………」(--; セリオ:「よしっ! 完璧!」(^-^)v 綾香 :「…………セリオってもしかして…………メカ詠美と同レベル?」(--;;;