私立了承学園
5日目3時限目 千堂クラス
Hiro
『お医者さんごっこ』
教室に入ってくるなり、この時間の担当教師である秋子さんが黒板に書いた言葉。
それを見て、俺たちは思わず固まってしまう。
「はい。これが今回の授業です」
綺麗な笑顔で、サラッと宣ってくれる秋子さん。
「みなさん、心の底から頑張りましょうね☆」
「なにを頑張れって言いますか!?
つーか、それ以前になにを考えてるんですか、ジャムおばさん!?」
「……ジャムおばさん?」
俺の言葉を、秋子さんが輝かんばかりの笑顔で繰り返す。
……ちょっと怖ひ。
「ジャムおばさんだなんてヒドイわ、和樹さん。
そういう事を言う子にはお仕置きしちゃいます♪ えい、ポチッとな」
いつの間にか教卓に現れたボタンを、にこにこと笑いながら押してくれちゃうミセスジャム。
その瞬間、
ゴイーーーーーーーーーン!!
俺の頭の上に降ってきた金タライが軽快な音を響かせてくれた。
「うごぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
頭を抱えてゴロゴロと転がり回る。
そんな俺に、みんなはため息を吐きながら、呆れたような視線を向けていた。
「……って、少しは心配しろよ、お前ら」
「だって、自業自得だもん」
瑞希の言葉に、他のみんなも『うんうん』とうなずく。
はいはい、そうですかい。
「もう。ダメですよ、おにいさん。『ジャムおばさん』だなんて言ったら失礼ですよぉ」
千紗ちゃんが、少し咎めるような口調で言ってくる。
いやまったくだね。俺も思いっ切り後悔してるよ。
「秋子さんは『ジャムおばさん』じゃなくて『ジャムおねえさん』ですぅ」
……おい。
それはちょっと突っ込む所が違うだろ。
そんな事を言うと、千紗ちゃんの頭の上にも恐怖の大王が降ってくるよ。
「了承」
ほーら、秋子さんが『了承』と言ってるじゃないか。『了承』と。
……………………って……………………
ちょっと待てい!
いいのか!? 『おねえさん』ならいいんかい!?
だいいち、秋子さんはもうおねえさんという年齢じゃ…………
「和樹さん? 何を考えてらっしゃるのですか?」
……いえ、なんでもないです。
だから、その白魚のような綺麗な指をボタンにかけるのはやめてください。
「…………まあ、いいでしょう」
……助かった。天は我を見放さず。
これも、日頃の行いの賜物だな。
「和樹。それは違う」
へぇへぇ。そうでしょうとも、高瀬さん。
つーか、いい加減に人のモノローグと会話をするのはやめようね。
そのネタ、風化しかかってるから。
「それでは、そろそろ授業に入りましょう。よろしいですか?」
「はい。ぜひぜひそうして下さい」
俺がまた余計なことを言い出す前に。
「ではでは、この時間の授業の説明をしますね」
「お願いします」
「お医者さんごっこをしてもらいます」
「……はい」
「以上、説明終わりです」
「…………簡潔な説明、ありがとうございました」
「いえいえ」
もはや何も言うまい。
「もう少し具体的に言いますと……女性陣は上半身裸になって下さい。
そして、和樹さんには触診をしていただきます」
…………上半身裸に触診って。
「つまりは、みんなの前で愛撫をしろというわけですかい」
「そうとも言えるかもしれませんね」
「そうとしか言わんわい!」
「そうですか? でもまあ大丈夫ですよ。本物のお医者様だって似たようなことをしていますから」
「どこがどう大丈夫なんですか!?」
つーか、それって、本物の医者にすっげー失礼なんですけど。
「まあ、いいじゃありませんか」
俺のツッコミに笑顔で返すジャムおねえさま。
「ううっ。どうでもいいですけど、まともな授業はないんですか? ここ」
「だって、そういう学校ですから」
言い切りますか、理事長。
「……もういいです。授業に入りますです」
「はい。そうして下さい」
こうなったら開き直ったる。『お医者さんごっこ』だろうと何だろうとやったるわい。
さて、そうすると、誰から始めるかが問題なのだが……。
みんなの前で上半身だけとはいえ裸になるわけだからなぁ。やっぱり恥ずかしいだろう。
だから、なるべくそういうのに抵抗を感じないような奴を選ぼう。由宇とか玲子ちゃんとか。
ま、今更って気はするけどな。
えっと……それじゃあ……。
「それでは、最初は瑞希さんからにしましょうか」
こらあああぁぁぁぁぁぁぁぁ! ちょっと待てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
人の気遣いを一瞬でふいにしますか、ミセス理事長。
そもそも、なんでまた、よりにもよって一番羞恥心の激しそうな瑞希を選びますか。
…………確信犯か?
「え!? あ、あたしからですか!?」
案の定、瑞希は真っ赤になってモジモジしてるし。
「えっと……あたし……その……」
顔ばかりか、全身を朱に染めて恥じらう瑞希。
その様子は、ちょっと……どころか、かなりそそられる。
思わず見とれてしまったりして。
……って、呆けてる場合じゃないって。
「あ、あのさ瑞希。イヤだったら別に無理にやらなくても……」
「う、うん。でも、大丈夫。
確かに恥ずかしいけど……だけど、あたしに触れるのは和樹なんだから……イヤじゃ……ないよ」
「そ、そっか」
「うん。…………えっと…………それじゃ…………脱ぐ、ね」
「……ああ」
などと、最初は結構渋々だったりしたのだが……
そこは、この学園に毒されてしまった俺たち。
段々と盛り上がっていったのは言うまでもない。
ふにふに
「や~ん。和樹の手、すっごくエッチ~~~」
さわさわ
「にゃ~~~ん」
うりうり
「……か、か、和樹さん」
ぺたぺた
「相変わらずぺったんこだよなぁ」
「大きなお世話やっ!!」
なんのかんのと言いながらも、思いっ切り堪能してしまった俺たちなのであった。
<< おわり >>
「は、離して下さい、南さん! 郁美も、郁美もぉ~~~~~~!!」
「ダメですよ。郁美ちゃんにはまだちょーっと早いですから」
「ふえーーーーーーん」
「うんうん。皆さん、楽しそうで何よりですねぇ」
<< ちゃんちゃん♪ >>
☆ あとがき ☆
諸般の事情により、今まで『了承』の執筆をストップしていたのですが、
そんな事を言っていられる状況ではなくなってきましたので、執筆を再開です。
基本的に『おバカでちょいエッチ』な短い作品しか書きませんが、どうかよろしくお願いします。
ではでは♪
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