「浩之ったら、『ロボットバトル』は、やらないんじゃなかったの?」
ロボット闘技場に向かう途中、綾香が心外そうに言った。
浩之は、知らず知らずの内に自分を睨みつけている綾香に苦笑した。
「ロボットバトルはやらねーよ」
「それじゃあ、闘技場に何の用があるのよ?ひかりお母さんからの電話をとったら
いきなり、『闘技場に行くぜ!』なんて言い出しちゃって・・・・・。」
「悪りい・・・、気が急いちまってた。まだ、なんの説明もしてなかったか・・・。」
「そうだよ、浩之ちゃんったら、もう、うむを言わせずって感じだったんだもん」
あかりが驚いたような、呆れたような顔で言った。
「・・すまねーな、闘技場へ何しにいくかっていうとな、ロボバトルとはまた違った
ことをやりにいくんだ。」
「違ったこと・・・、なにをするの?」
「気楽にロボットと遊ぶのさ」
了承学園 藤田家 五日目 放課後2
1日の学業が終わり、藤田家の家族全員が居間でくつろいでいた時、電話がきた。
呼び出し音が鳴ると、待ってましたかのように浩之が受話器を取った。
「もしもし、藤田ですが・・・・・・あっ、おば・・・・・・お母さん!?・・・・・・・・えっ?試運転が今から
出来るって?・・・・・・・・・・とりあえず三機・・・・・・・・いえ、充分ですよ、それじゃあすぐに闘技場に
向かいます・・・・ええ、小闘技場へ、はい分かってます。・・・・・・・・それじゃあまた後で。」
受話器を置いた浩之は、喜色満面の表情だった。
「浩之ちゃん、お母さん何言ってたの?」
浩之はあかりの質問にかまわず、いてもたってもいられない様子で
「みんな、今から、ロボット闘技場へ行くぞ、そうだな・・・・動きやすい格好か、体操服を持っていってくれ!」
と半ば強引に妻達全員を、ロボット闘技場へ連れ出した。
あかり達は「わけがわからない」と言う顔をしていたが、浩之の強引さに結局ついて行く羽目になってしまった。
藤田家は、「ロボットバトル」への参加を拒否していた。
その日の授業で、ロボットバトルの説明、及びデータ採集の為の機体のテスト運転があったのだが、浩之は
「オレ、ロボットバトルはやりません」と言った。綾香も「あたしもやりません」と、同じく拒否した。
一番乗り気に思えたはずの二人が拒否に、担任のひかりは別に動揺することはなく、
「それじゃあ、浩之ちゃん達はみんなロボットバトルはやらない、ってことでいい?」
と聞いた。
皆、肯定の返事をした、しかしひかりは説得する様子も無く、
「うん、わかったわ、でもやりたくなったら、いつでも言ってね。」
というに留まった。
意外なのか、それとも見落としがちなのかは分からないが、藤田家の面々は特にロボットバトルをやりたがっている
わけではなかった。
運動の苦手なあかり、芹香は最初からやる気はなかったし、暴力的なことが嫌いな琴音も当然といえた、智子は
「ストレス解消のつもりが逆にストレス溜まりそうや」と言った、レミイは「ウ~ン、激しい動きは苦手ダヨ」と乗り気
ではなかった、理緒も特にロボットで戦うということに興味はなかった「プロレスごっこができるってわけじゃないでしょ?」
マルチ、セリオは、大した意味もなくロボット同志が戦うということを嫌っていた、葵はロボットバトルにそれ程関心は
なかった。
そんななか、一番乗り気に思えた浩之と綾香も
「な~~んか、色々ごちゃごちゃして、楽しめそうにないのよね・・・・ランキングとか・・・、遊びなんだから、もっとシンプルに
いきたいわ。」
「気楽に楽しめそうにねーんだよな・・、負けたときの精神的ダメージが大きそうで、ちょっと遊びでやるにはなあ・・・。」
・・・という理由で拒否をした。
そんなことだったから、浩之が闘技場に嬉々として行くことに綾香は憮然としていたのだが、どうやらロボバトルを
やるのではないと分かって、ほっとしていた。だけどそれでは一体何をしようというのだろうか?「どうやらひかりお母さん
も関わっているみたいだし・・・・」気にはなったが、浩之を信じることにした。
「気楽にロボットと遊ぶのさ」という言葉を。
それはあかり達も同じ想いだった。
小闘技場の入り口には「ロボットらんど」と新しく看板が設置されていた。
「なんか遊園地みたいだね」
あかりがくすっと笑った。
「まあ、遊園地みたいなもんかな?」
「え?」
「言っただろ、気楽に遊ぶって」
「あ、みんなきたわね~~~~♪」
ひかりともう一人36.7歳の男がやって来た。
「あ、みんなに紹介するわね、この方は来栖川重工の人で小野寺さんっていうの」
「小野寺です、今度ここのロボットらんどの技術担当チーフをさせていただきます、以後
宜しくお願いいたします。」
男は実直そうに頭を下げた、浩之達もそれぞれ、挨拶を返し、お互いの紹介は終った。
「それじゃあ、さっそくロボットさん達の紹介と、テスト運転をしましょうか?」
ひかりが皆をうながして、闘技場の中に連れて行った。
「テスト運転ですか?」
マルチが訝しげに、浩之に聞いた。
「そうだ、みんなにやってもらうのさ」
浩之はあっさりと答えた、皆は「ええ~~~~!?」と叫んだ。
「そんなに驚かなくてもなあ・・・・、戦うことはやらせないから安心してくれよ・・・・。」
「う、うんわかった・・・でもうまくなんかできないよ・・・ロボットの操縦なんて・・・・」
「それでいいんだ、なにも競技をするわけじゃねーんだから。」
バトルフィールドの扉が開くと、そこには三体の大型ロボットが待っていた。
大きさは7メートル位、「小太り」な体型に全体が白を基調として、上腕部、脛部分、胸部
が青のカラーリング、アメフトのヘルメットのような形の頭部、顔にあたる部分にくりくりとした
大きな「目玉」があるのが、愛嬌をさそっていた。そして三体の胸部にはそれぞれ白い字で
「01-ケルマデック」 「02-おおとり」 「03-あかつき」と書かれていた。
「名前はこちらでつけさせて貰いました・・・・、まあ私の趣味なんですがね・・・・・・・」
小野寺は頭をぽりぽりとかきながらてれくさそうにいった。そんな小野寺を、セリオが
「にやり」と笑みを浮かべて見ていたことを誰も気付かなかった。
突然、ロボットを見ていた綾香が驚きの声をあげた
「ちょ・・、ちょっと!これって来栖川の最新機種の『HWRー11』じゃないのよ!?」
「そうですよ、この夏にでた汎用重作業用ロボット『HWR-11』ロボットらんど仕様です。」
「はあ・・・・」
綾香はあきれたようにため息をついた。
「コンパクトに設計された機体に、従来の重作業ロボットをはるかに凌駕する出力、豪雪地帯
、砂漠、海底、宇宙空間での作業もこなせる高い適応能力、初心者でもすぐ扱える操縦性の
高さ・・・、まあよくもそんな機体を持ってこれたわねえ・・・・・・。」
「いずれは、各地の遊園地なんかにリースする計画もありますから、その為のデーター採集、
新機能のモニター、ができるんですから、長瀬さんから話が来た時、即OKしましたよ。子供達に楽しんでもらえる
ものを作りたいですからね。」
「そっか・・・・・・・・。」
「ロボットを操縦して自由に遊ぶ、というのがこのロボットらんどのコンセプトなの、この子達なら
充分その期待に答えられると思うわ。」
「はい・・、それじゃあ早速テスト運転といくか!全員乗せる予定だから遠慮はしなくて
いいぜ。」
「じゃあ、わたし乗ります~~~」
とマルチが手をあげた。
「わたしも乗ってみるよ」
あかりも手をあげた
『よしっ、あたしも・・・・・』
と綾香が手を挙げようとした時
すっ・・・・・・・
「・・・・・・・・・・(何事もチャレンジです)」
芹香に先を越された。
「あ~~~~~!!姉さんひどいわ~~~~~!!」
「こ、こら、綾香、静かにしろ!!みんな全員乗れるんだから!!」
「本当でしょうね?」
綾香がじと~っと浩之を見つめた。
「本当だって・・・・・」
「嘘ついたら電気あんまだかんね・・・・」
「はいはい・・・・・・」
「そ、それじゃあ私は後の機体のチェックが残ってるんで失礼します・・・・。」
小野寺は、綾香の言動になにか不穏なものをかんじたようにそそくさとその場を去った。
何かトラブルが発生して、結局乗れなかったと言う事になったら自分までとばっちりを
食うと思ったのだろう。
そして、マルチ、あかり、芹香の3人はそれぞれの機体に乗り込んだ。
マルチは、1号機の「ケルマデック」に乗り込むことになった。
背中のハッチが開き、マルチがコクピットの中に入ると
「ケルマデックによう来たな!!歓迎するで!!」
と陽気な声が迎えた。
「え?え?え?だ、誰ですか~~~~?」
マルチはあたりをきょろきょろと見まわした。
「ここや、ここや」
声は正面の2本の操縦桿の間にあるモニターからだった。モニターの画面には一本線
で目と鼻と口がかかれていて、まるでモニターの顔のようになっていた。
「わいは、ケルマデックの諸機能の制御、及び、チェックを行っているメインコンピューター
や、まあケルマデックそのものと言ってええやろな。よろしゅうたのむでお嬢ちゃん。」
「は、はいわたしはHMX-12マルチといいます!よろしくお願い致します!!」
マルチはモニターに勢い良く頭を下げた、当然・・・・・・・
ガンッ!!
「あ、あう~~~~~~・・・」
「やれやれ・・・、ドジやったらあかんで、しかしHMXってメイドロボやんけ・・・・・全然そうは
見えへんわ・・・・・。」
「そ・、そうですか・・・?」
「まったくや、ま、そんなことはどうでもええ、存分に楽しんでってえな、マルチはん!!」
「はいっ!」
「マルチ、あかり、芹香、聞こえるか?」
内部スピーカーから浩之の声がした
「スピーカーに声かければOKや」
「あ、はい!・・・・良く聞こえますよ~~~浩之さ~~~ん」
「・・・・みんな聞こえるようだな、いいか操縦の仕方はそれぞれのロボット達のメインコンピューター
の指示にしたがってやってくれ、30分で交代だから、基本動作ぐらいしかできないとは思うが、コンピューター
の指示通りにやっていけば大丈夫だ。ある程度の操縦はできるようになるからな。」
「わかりました~~~」
「よっしゃ、藤田はんの期待に見事応えてやりましょうか!!いくで、マルチはん。」
「はいっ」
モニターの画面が顔から、ケルマデックの全体像に変わった。
「この画面で現在、わいがどのような体勢になってるかが確認できるわけや。まずは目の前の
操縦桿を握ってくれ、あ、その小さいレバーも一緒にな、そのレバーは手の平を開いたり、閉じたり
させるんや。」
「わかりました・・・・、こうですね」
「せやせや、で、次は両足をペダルに乗せて。」
「はい、よいしょ・・・っと」
「OK,まずは歩くことから始めよか?左、右と交互にペダルを踏んでくれ。」
「わかりました・・・、いち、に、いち、に・・・・・」
「そうそう、それで操縦桿全部を前に押してくれ」
「いち、に、いちに、・・・・・はいっ!・・・こうやって・・・・わ~~~~歩いています~~~~」
こうして3体のロボットは思い思いに動きだした。まだ乗っていない者達も、じっと3体の動き
を見つめていた。
浩之とひかりはそんな彼女達から少し離れた場所に立っていた。
ロボットの外部スピーカーからは「きゃ~~♪」とか「わ~すごいです~」とかあかり達の声が
丸聞こえだった。
「ふふっ・・・、たのしそうねあかり達は・・・・」
「あんな声あげて楽しくないなんて言ったらオレ泣いちゃいますよ・・・・」
浩之は苦笑して答えた。
「でも、心配はあったっすよ・・・・ロボットを操縦することに抵抗感があるんじゃないかって。」
「のびのびと自分の好きなようにやらせれば、抵抗感ってあんまり起こらないのよ。」
「『遊ぶ』ってそういうもんですよね・・、まずは自分の好きなようにやってみる。」
「・・・・・・・・・・・・だから、浩之ちゃんは『ロボットらんど』を思いついたんだね?」
浩之はひかりから目を離した、そしてぽつりぽつりと話しだした。
「結果としてやっぱりロボットで遊ぶのは楽しくない、ってなるのは仕方ないけど、楽しむ可能性
を消したくなかった。」
「・・・・・・・・・・・」
「最初はロボットバトルの話が出た時、オレ、すげーわくわくしてたっすよ、でも話が進むに
つれて、なんか自由に遊べないなって思ったんです。オレはまず、自分が憧れていたロボット
を自分の思うように動かしたかったわけで、最初からロボットで戦いたいわけじゃない。」
「うん・・・・」
「それに、あかりやマルチ、芹香のように『戦う』っていうことに向かない人達は絶対楽しめない、
そりゃ、見てるだけのほうが楽しいってこともありますよ、でも、身近な人達が『戦って』楽しんで
いるのを、自分達はただ見ているだけってのは、辛い方が多いと思う・・・・。」
「仲間外れにされたような感じね?」
「そうですね・・・・、オレ、ロボットバトルが悪いなんて思いませんよ、でもそれだけじゃないし、
それだけにしちゃいけないと思います、『楽しむ』って事には色々なやり方があるのに、今のまま
じゃ、ロボットを操縦するって『楽しみ』は一部の人達だけのものになっちまいますよ。」
「そうよね、できる人とできない人の差が大きくなると思うわ、『なんだ、ロボットなんてつまらないな』
って思う人がきっとでてくる、結局ロボットで遊ぶということは『特権階級』の遊びになってしまうわ、今
のままじゃ、それに、ランクをつけていまうという事がそれに拍車をかけているわ。」
「少なくともオレは遊びは気楽にやっていきたいです・・・・。」
「あら、あたしだっておんなじよ」
後から綾香がひょっこりと顔を出した。
「~~~~~~~~~~~!!!!!」
綾香は浩之の大袈裟な反応に心外そうな顔をした
「なによ~~~,別に盗み聞きしたわけじゃないからね、あんたとひかりお母さんが離れて何か
話してるから、何かな?って思ってきてみたら、話にくわわるタイミングがなかったのよ。」
「そ、そうか・・・」
「大体、ばれて困るような話じゃないでしょ?『ロボットらんど』を考えついたのが浩之だってこと
みんなにばればれよ」
「・・・・・、そうですかい」
「そんなの、さっきからのあんたの行動や言動をみれば、愛する妻達にはみえみえってこと。電話
受けたときだって妙にはしゃいじゃってさ。」
「うぐう・・・・・」
「でもね、浩之の言っていることが間違っているとは、あたしも思わないわ、遊ぶってことは
自由なのよ、色々な可能性があるのよ、それを探すって、大事な事だわ。」
「綾香・・・・」
「だから、あたしはここが好きになれそう・・・・・・、子供の頃に帰れそうだから・・・・。」
綾香は二人をじっと見つめていった。
しばらくの沈黙のあと、ひかりが浩之と綾香に言った
「秋子のこと・・・・・、悪く思わないでね・・・・、彼女は彼女なりに考えているの、でも秋子は
超人でも、神様でもないわ、やっぱり失敗や見落としはあるの、だから・・・・、浩之ちゃん達
・・ううん、学校の人達みんなが、それぞれに、何をしたらいいか考えて欲しいの・・・・・。」
「「はい・・・・・」」
二人は神妙に答えた、ひかりは「ありがとう・・・・ね」と柔らかい笑みを浮かべた。
「浩之ちゃ~ん、お母さ~ん、綾香さ~ん」
あかりが、3人を呼んでいた。
「お~っ、あかりか、もう終っちゃったんだな・・・?」
「うん、30分はやっぱり短かったよ」
「もっと遊びたかったです~」
「・・・・・・・・・・・」
「また乗りたいって?」
こくこく
「そうだな、オープンしたらまた来ようか」
こくこく
「うん、もちろんだよ!」
「わたしもです~」
「あ~~~~~~ん!また先こされちゃった~~~~~~!!」
綾香の嘆き声がまた聞こえた
「しゃーないやろ、順番決めようとしたときにいなかった綾香はんが悪いんやで。」
「・・・・・自業自得というものです」
「・・・・・・・皆さん乗れるんですから我慢して下さい・・ね?」
「でもでも~~~、早くのりたいのよ~~~~!!」
地団駄をふみ、ダダをこねる綾香に浩之は苦笑して
「なあ、綾香・・・、最後はオレと一緒なんだけど・・・・・・嫌か?」
とたんに綾香は喜色満面になり
「な~~~~に、いってんのよ!!嫌なわけないでしょ!!よし、あたしはラストーーーー!!」
「フフっ・・・アヤカったら現金ダネ」
「しまった・・・・、そうと知っていましたら、綾香さんにわたし順番を御譲りしたのに・・・・。」
「へへ~~~~ん!今更いっても遅いわよ~~~~~!!」
浮き浮き気分の綾香に苦笑した浩之の服のすそを、芹香がくいくいっと引張った。
「ん、どうしたの?」
振り向いた先にはあかり、芹香、マルチが微笑みを浮かべていた、そして3人はそれぞれのおもいを
込めて言った。
「とっても楽しかったよ・・・・・・・」と
終
後書き
ロボットバトルについての私の見解として、この話を書きました。
ロボットバトルそのものを否定する気はありません、ただ、それだけ
ではないということです。
くのうなおき
☆ コメント ☆
綾香 :「ま、こういう感じだったら、ロボットもOKかな」(^^)
セリオ:「そうですね」(^^)
綾香 :「みんなでワイワイと楽しめるしね」(^^)
セリオ:「はいです」(^^)
綾香 :「うんうん。戦うだけが能じゃないわよね、ロボットって」(^^)
セリオ:「もちろんです」(^^)
綾香 :「戦いたかったら、エクストリーム部に入ればいいわけだし」(^0^)
セリオ:「……それは……ちょっと違う気が……」(;^_^A
綾香 :「そもそも、ロボットはボケる為に存在するんだからね」(^0^)
セリオ:「それ……もっと違います」(--;
綾香 :「えっ!? そうなの!?」Σ( ̄□ ̄;
セリオ:「そ・う・で・す!!」(--)
綾香 :「そっか。そうよね。そうだよね。
ごめん。あたしが間違ってたわ」(--)
セリオ:「いえ。分かっていただければいいんです」(^^)
綾香 :「ボケるのは、セリオだけの専売特許だもんね」(^~^)
セリオ:「……………………はい!?」(ーーメ
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