私立了承学園第477話
「好き好き浩之ちゃん★」
(作:阿黒)
唐突だか、神岸ひかり校長は悩んでいた。
愛娘・あかりを筆頭とする10人の妻達と、彼女の義理の息子(確定)である浩之との、藤田家の夜の営みについて。
『三十代のうちに初孫を抱く』
これがひかりの秘めたる(バレバレだが)、そして切なる願いである。
だが、これがなかなか達成できない。
藤田家の夜は、盛況である。
というかむしろ大盛況。満員御礼。大出血バーゲンセール。
時として10人の妻達全員が腰が抜けるほどに性欲魔人の餌食になることもままあったりするにもかかわらず。
なのにいまだに、誰一人おめでたの兆候は見えないのである。
ひかりも、できる限りのアドバイス、アシストには努めている。
授業にかこつけて様々なマニアックな夜のプレイを奨励したり。
スッポン、鰻、大蒜等、差し入れと称して精のつく食材を度々持ち込んだり。
姓名判断や風水、血液型占い等の本を芹香嬢に届けて喚起しようとしたり。
早々に赤子の肌着や紙おむつ、哺乳瓶の類を贈りつけてみたり。
娘達に渡す避妊具のゴムにこっそり穴を空けておこうとして購買部のおねーちゃんに怒られてみたり。
こっそり浩之の部屋に忍び込み、教本代わりの海外ハードコアAV等を置いておこうと企んで警備部に見つかり、正体を明かすわけにもいかないので一晩中逃走劇を繰り広げてみたり。
まあ、ともかく色々と手段は尽くしているのである。
「…なのに、あかり達ったらまだ身ごもってないみたいだし…」
「あのー、色々ツッコミたいところは多々あるんですが、……なしてそれを私に相談しますか校長?」
「え?だってメイフィアさんは性の悩み専門相談員では」
「そりゃあたしゃ職務熱心とはとてもいえない自覚はありますが、一応はこっそりと保健医なんですけど」
半分あきらめ顔でため息ついてるメイフィアの様子には気付かず、ひかりも劣らず暗い顔でため息をついた。
しみじみと、言う。
「…例えば、一週間以内に女性を孕ませないと死神に魂を奪われてしまうとかそういう事はできませんか?そういう状況になれば浩之ちゃんたちだって」
「んなどっかの同人エロゲーじゃないんですから。…お望みならエビルに相談するだけしてみますけど?多分即座に拒否されると思いますが」
帰りたいよー。
あいにくと助手ロボの舞奈もどこかへ出かけており、つまりは押し付ける相手もいない孤立無援。
らしくもなく、ちょっぴり泣きたいような気分のまま、あまり深く考えずにメイフィアは口を開いた。
「えーと。
つまり、問題解決のためにはもっと積極的に、子作りに励んで欲しいと。
オート戦闘的にはガンガンいこうぜっぽく」
* * * * *
「ぎりぎりセーフ!……かな?」
予鈴が鳴り終わる直前に教室に滑り込んだ浩之は、まだ教師がきていないことを見てとって、ホッと胸をなでおろした。
既に席についている妻たちにヨッ、とヒビキさんみたいに挨拶しながら定位置である、あかりの隣りにつこうとする。
「浩之ちゃん」
「なんだあかり?」
隣りのあかりは、ちょっと潤んだような瞳で、嬉しそうに言った。
「前も後もオッケーだよ♪」
ごん。
したたかに机に額を打ちつけ、それからノロノロと浩之は身を起した。
今の発言に、さすがに上気し頬を少し赤くしているあかりを、半眼で見る。
「いや…それは今更っていうか…その心がけは俺としても嬉しくは思うが」
「うーん。そうじゃなくって…えっと、今すぐ。じゃすと。なう」
「……どうしたあかり?何か悪いもん食ったか…ってそれはナシだよなあ。みんな同じ朝飯食ってるわけだし。
どっか頭でもぶつけたか?」
「んも~~~。どーしてわかってくれないの、浩之ちゃん。
わたし、いま、とっても浩之ちゃんがすきすき大好き浩之ちゃんなんだよ?」
「あ~、その~、何となく言わんとするところはわからなくもないが…お前ちょっと変だぞ?」
「あら。そんなことないわよ浩之?」
理屈ではなく。その声に悪寒を感じ、浩之は反射だけで身を屈めた。
ほとんど同時、一瞬前まで自分の頭があった空間を綾香の裏拳が通過していった。
「な…ど、どういうつもりだ綾香!?」
「ふっふ~ん?今のをかわすか…流石ね」
軽くステップを踏みつつリズムをとっている、既に戦闘態勢の綾香から慌てて距離をとりつつ、浩之は憤然と抗議するが。
ぽっ、と綾香は頬を染めた。
「浩之…前も後もOKよ」
「だからなんじゃそりゃ!?」
「も~~~。だから、その、…カモ~ン浩之?」
「それがなんでいきなり裏拳?」
「……きてくんないなら多少強引な手段もアリよね?」
「逆レ○プ……な、なんだかとっても新鮮な響きです……!」
「琴音ちゃん…お願い、ときめかないで」
綾香に助勢するようにグローブ装着済みの拳を上げながら、葵が既にやんやん入ってる琴音に突っ込むが。
「あ、あの、皆さん?」
「どうなされたのですか一体?」
皆が何かおかしいことに気付き、マルチとセリオが慌てるが…しかしどうしたものか。
みんな瞳をうるませ上気し息を荒げている。
その情熱の対象に向かって。
――それ自体は、まことに結構なことではあるのだが、突然の(そして過剰なまでの)発情期の到来に、セリオは現状を危機的状況にあると判断した。
「浩之さん…この場は一旦、退いてください!」
「皆さんは、私達がなんとか足止めしますから!」
「わかった!頼んだぞマルチ、セリオ!」
状況はよくわからないものの、その忠告に従って浩之は身を翻しかけた。
「ヒロ…」
「志保っ!?」
いたのかお前、という台詞は飲み込んだ浩之の前で志保は、なんだかいつもより当社比1.5倍くらいで妙に可愛らしい志保は、胸の前で指をもじもじとさせていて。
そして、ちっちゃな声で、呟いた。
「あたしの…はじめて。
ヒロになら、その……いいよ?」
ぷち…
「必殺・マルチさんロケット!」
「はわわわわわ~~~~~~~~!?」
がっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃいいいいぃぃん!!!
「んごっ!?」
猛烈な勢いで飛来した(というか投げ飛ばされた)マルチによる頭蓋骨を粉砕するような衝撃に、浩之の目から火花が散った。
その勢いのまま、マルチと浩之はゴロゴロと戸口まで転がってしまう。
「はうううう…セリオさんひどい…」
「ごめんなさいマルチさん!でも浩之さんが危機一髪でしたので!」
「うう…確かに。ついそのまま勢いで志保を押し倒しそうに…!?」
コブができている頭をおさえつつ、浩之は慌てて立ち上がった。
今ので完璧に、この状況が『異常』だという確信ができた。
「志保が…あの根性ババ色な志保が、まかり間違ってもあんなしおらしくて乙女チックなこと、言うわけねぇ!」
「なんだとこのやろぉ――――!!!?」
「し、志保、落ち着いて」
激昂する志保を慌ててあかりが宥める。その光景だけを見るならば、それはいつものことではあったのだが。
「マルチ、セリオ…すまん、ここはまかせる!」
「おまかせを、浩之さん」
「でも…無理はするなよ!?」
「大丈夫です!大丈夫ですから浩之さん逃げて――!」
じわじわ狭まる包囲が完成する前に、浩之は慌てて廊下へ転び出る。
その戸口を守るマルチの姿に後ろ髪をひかれながらも、浩之は遠大な廊下を駆け出した。
* * * * *
「ったくどういうことなんだよ…」
とりあえず1階の渡り廊下まで逃げてきた浩之は、息を整えつつ自動販売機に硬貨を入れた。
いつものカフェオレのパックを刺しつつ、考えを整理する。
朝。いつものように起き出して、いつものように朝食を摂った。
今朝の当番は葵・琴音・マルチの年少組で、日々の努力と上達を堪能した。
いつもとかわらない、藤田家の朝。
それが何故、唐突に、こうなった?
確かに、先ほどのあかり達の様子は変ではあった。
変だがしかし、例えば誰かに操られて…といったようなものではなさそうだ。
多少やりすぎの感はあるものの、行動そのものはいつもの皆の延長上ではある。
ほんの少し、皆と離れた。
その僅かな時間に、何かがあったのか?
「でも…マルチとセリオは全然変わりなかったよな…」
メイドロボである二人だけはまったくいつも通りだった。
これは一体どういうことか?
「なんか毒ガスみたいなものでも仕込まれた…とか?」
「おいおい、なんだか物騒な話だな」
え、と振り返った先には和樹がいた。
慌てて駆け出してきたといった風情で髪はバサバサ、服も微妙に乱れている。
その隣りの瑞希は半眼で和樹を見ながら、わざとらしく肩を竦めてみせた。
「まったく。寝ぼすけにも程があるっていうの。
もー完璧、遅刻じゃない。つきあわされる身にもなってよね」
「んなこと言うなら瑞希だって皆と一緒に先に行っとけばよかっただろ?」
「なにいってんの!
アンタ放っておいたら授業全部すっぽかして爆睡するに決まってるじゃない!
まったくもう、このグータラ男!世話が焼けるったらないわ。
あたしがついてなきゃ本当にダメダメなんだから…」
「むぐう。事実だけに全く反論できん…」
「そこで落ち着くな!
少しは生活改善に努めようとかしなさいよ!」
ぎゃいぎゃい言い合う二人の姿に、つい、笑ってしまいそうになる浩之である。
ケンカするほど仲のいい、という言葉の見本のような二人だった。
「で、どうしたんだこんな所で?サボリか?」
「サボリはよくないぞ?浩之くん」
「いやサボリっていうか…その」
なんといって説明しようか。
そう浩之が逡巡していると、ごく自然な動作で手を握られた。
顔を上げると、いつの間にか自分の手をとった瑞希が、すごく間近に迫っていた。
「あのさ…浩之くん?」
「な、なんすか瑞希さん」
「お姉さん…前も後もOKだよ?」
ぶふううううううううっっ!!
「な、な、な、何の冗談すか瑞希さん!
悪ふざけにもほどがあるっていうか…!」
「や、やっぱり年上は…嫌かな?」
「うわあああああっ、そ、そんな可愛い顔しないでくださいよ!?
ちょ、ちょっと和樹さん何とか言ってやって」
ポン、と浩之の肩を叩いて、和樹は――真面目にしていると実は意外にイケてる顔立ちであることに気付いたが――低く、静かに、言った。
「俺としては上がいいが――お前が望むなら、下になってもいい」
「上とか下とかなんですかっ!?」
「浩之……やらないか?」
「その台詞だけは聞きたくなかったです!」
どぉしようもない生理的な嫌悪感から無理矢理二人の手を振りほどくと、ずざざっ!と浩之は距離を開けた。
「か、か、か、和樹さん、アンタ一体いつの間にやおいの道に…」
「やおいじゃな―――――――――い!!」
いきなり横槍をいれて、チッチッ、と瑞希は指を振った。
「ボーイズラブ」
「どっちでも似たようなもんです!」
「キッパリと違うわよ!一緒にしないで!」
「ああああああ、瑞希さん何気にしっかり深みにはまってるし!」
っていうかこの二人まできっぱりと変だ!
「ジュッディーム」
「まって~~~いとしいしと~~~」
どっかの指輪中毒者みたいな呼び声に怖気を覚え、浩之は一目散に逃げ出した。
「ああああああ、何が何だがサッパリわからんが、何となくわかってきたような気がする~~!」
追手を撒くために再び校舎に入った浩之は、咄嗟に近くの教室の中に飛び込んだ。
「どうしたの、浩之?」
「あ、祐介…」
振り向きかけて、嫌な予感がした。
ぎこちなく、そっと、視線を動かす。
「前も後もオッケーだよ!」
「オッケーです…」
「…くすくす…」
そして。
「浩之…ぼく…」(ぽっ)
「うわ祐介めっさかわいいかも!」
沙織でも瑞穂でも瑠璃子でもなく、小動物系・弟系美少年の祐介に不覚にも心ときめくものを感じてしまい、自己嫌悪にのたうちまわる暇もなく浩之はまた逃走を開始した。
「浩之…僕たち、友だちだよね…?」
「なぜ、そこにいる雅史~~~~~~~~!!」
一瞬の躊躇もなく、幼馴染みの顔面に正面から蹴りをいれて突破する浩之である。
情け容赦なし。
命と、何より貞操の危険を感じ、廊下をバタバタ音を立てて浩之は逃げ回る。
それが、更に多くの耳目を集めることになるとしても。
各所の教室の扉が開き、何事かと顔を出す生徒や教師たち。
「少年…俺と共に世界を目指さないか?」
「いきなり何いってるのよ兄さん!…私、浩之君と寝るわ!」
「直接的です、理奈さんっ!」
早速藤井家…というか緒方兄妹間に波風立ててしまう浩之である。
「浩之君?」
「藤田くん?」
「藤田さん?」
「浩之さん!」
「ひろゆきくん!?」
「「「「「前も後もOKよ♪」」」」」
「ああっもう誰が誰だか!!!」
藤田浩之。
10人の妻を抱える身として、自分はまあ、女性にもてる方なのだろう(控え目表現)とは一応自覚しているが、それにしたってここまでモテる道理はないと断言できる。
だが、どうして?
「ああっ、おねーさん今までどうして浩之くん、君の魅力に気付かなかったのかしら!?
も~~スリスリしてダキダキしてもにゅもにゅしてグリングリンに…!」
「可愛い。いとしい。愛らしい。
だからこそ虐げたい。いじめたい。泣き顔を見てみたい……
もう許してって哀願させてみたい…ッ!」
「正気に戻ってください本気で!
特に結花さんと弥生さ――――ん!!」
物理的な危険度も右上がりに急上昇。
捕まったら最後、よってたかって何をされるものやら。
後を振り返る度に大海潮の王蟲の群のように膨れ上がる追手の数に、限界を超えて浩之は走りつづけた。
走るのをやめたら、すべてが終わる。
真っ白になった思考の中で、ただそれだけが頭の中でリフレインしていた。
「何事デスカ一体!?」
「落着イテ下サイ!!」
わらわらと出てきた警備ラルヴァ達が何とか人の濁流を押し留めようとするが、全く無力である。
「コウナレバ…失礼!」
「おうわっ!?」
埒があかない、と見てとった主任の黒ラルヴァが、浩之の襟首を捕まえた。
そのまま開いていた校舎の窓から、浩之を抱えて飛び出す。
「こら~~~~~~!またんかい―――――――!!」
という、由宇っぽい怒鳴り声を無視して、黒ラルヴァは空高く舞い上がる。
「さ、さんきゅー。…ああもう、ほんと、今日くらいお前等がいてくれて良かったと思ったことはねーぜ」
「イエイエ。コレガ我等ノ職務デスシ」
「はあ…やっと一息つける。
もう万が一にも雄蔵さんや長瀬先生に迫られたら嫌過ぎて死にそうだし。
それに耕一さんや柳川さんに目をつけられたら…もうお手上げというか。特に柳川さん」
「私ガ御守リシマス。愛シイ人ノタメナラバ、何ノ労苦ガアリマショウカ」
「………あ?」
爽やかな風に吹かれながら、自分の顔がこの透明なスカイブルーの空よりも青くなっているであろうことを、浩之は頭の片隅で理解していた。
……全身黒い体色のラルヴァでも、頬を染めるという表現が当てはまることもあるのだなぁ。
侵蝕する絶望感の中で、やや現実逃避気味にそんな観察を行ってしまう浩之であった。
「サア…コノママ、誰モ知ラナイ2人ノ場所へRun
away」
「いやああああああっっ!?ナニこの腰のあたりでモゾモゾしてるエロ触手!?」
空の上という状況にも構わず、浩之はメチャクチャに手足を振り回し逃れようとする。
落ちたら即死、という考えは全く浮かんではいないが、それに気づいていても全く同じ行動に出ていたであろう。
ごす、とかなりいい感じで、人間ならこめかみのあたりを浩之の肘が抉る。
かなり効いたようで、ヒットした瞬間、黒ラルヴァの全身が小さく震えた。
だがそれだけで、つかんだ手は小動もしない。
「フッ…我等、日頃カラ虐ゲラレテイルセイカ…」
「せ、せいか?」
「――最近、痛イノガ、少シ気持チ良ク…」
「た~~~すけて~~~~~~~~!!!」
ついに泣きの入った悲鳴をあげる浩之!
このまま彼は黒ラルヴァとねんごろになってしまうのか!?
「そんなことは!」
黒い風が、捲いた。
「お天道様が許しても、この俺が許さねぇ――――――――!!」
電光ライダーキックみたいな勢いで、ソレが跳ぶ。
黒ラルヴァは僅かに反応はしたもの、到底間に合わず。
「スーパーデリシャス流星ゴールデンスペシャルリザーブアフターケアーキッドキ――――ック!!」
「ネタ古スギ―――――――――――――――!!!」
尤もなツッコミと共に、黒ラルヴァはお星様になった。
「どわっ!?」
力任せのようでいて、まるでそうなるのが自然なように、浩之は自分の体が誰かに抱えられるのを感じ取った。
数瞬の落下感の後、かなりの高さだったのにも関わらず、ほどんど衝撃を受けないまま着地したことを感じ取る。
浩之は、おそるおそる、目を開いた。
「浩之…」
「いや――――――――――――!!
そんなアツイ眼差しで俺を見ないで耕一さん!!!」
「浩之…好きとか嫌いとか、誰が最初に言い出したんだろうな…?」
「お願いですから正気に戻って!
つーかもーこの人までおかしくなったらどうすりゃいいのか…」
激しくどーしようもない気がした。
周囲はまるで二人を祝福するかのような、鬱蒼と茂る森の中にふいに現れた花畑。
耕一にお姫様抱っこされた浩之にとっては、これ以上ないくらいあてつけっぽかったが。
「浩之…俺のことを本当の兄さんのように…」
「本当の兄さんはそんなことしねーって!」
こうして間近でよく見ると、いつもちょっとダラけた印象の耕一も、それなりに凛々しくたくましい顔つきをしているのだなぁと、泣きそうになりながらもそんな感想を抱いてみたりする浩之である。(現実逃避)
というか、背中にあたる、アツくて固いものの存在を忘れたく。
「はい柳川さん、アーンして」
「いやあのな貴之」
「…ア、アーン、シテクダサイ」
「いやあのなマイン」
「アーン」「…アーン」
「…………ううっ」
ぱくっ。ぱくぱくっ。
「おいしい?柳川さん」
「ん」
「御茶、ドウゾ柳川様」
「んん」
………………。
「なにやってんだ柳川?いや行為そのものはよくわかるんだが」
「柳川さん…こっぱずかしくない?」
「うわああああああっっっ!?」
どうやらピクニックっぽく少し早めの昼食を摂っていたらしい柳川たちであった。
やはり人目に触れるのは恥かしいらしく、こんな寂しい場所にやってきたらしかったが。
「いやまあね。そのうちね。人目なんか気にしなくなるわけよ、うん」(ぽん)
「柳川さん…硬派きどってもどんどんどんどん深みにね。嵌まっていくもんなんですよ、うん」(ポン)
「その同類を見るような目はやめろ!肩たたくな!」
耕一と浩之、二人に左右の肩をしみじみ叩かれたりして、むきになる柳川である。
「見られた以上…貴様等、生かしてはおけん」
「いやほっぺにおべんとつけて凄まれても迫力が」
「ハワワワワ」
慌ててハンカチ片手に柳川の頬に手を伸ばすマインである。身長差かかなりあるため、少し難しそうではあったが、その一生懸命背伸びしたりしている様が微笑ましく。
「すっかり仲良しさんですね…って、そういえば!」
つい柳川をからかうことに熱が入ってしまったが、自分の今の危機的状況を思いだして…ふと、浩之は首をかしげた。
「柳川さん…一つ訊くけど、俺のこと、どう思います」
「どう、とか言われても。お前なんか、概ね嫌いだが」
「貴之さん!貴之さんって…俺のこと、すき?」
「すき、ってまあ…そりゃ、生徒だし友人だし、それなりには…ねえ?」
「?浩之様、ドウカサレマシタ?」
「ふ…ふつうだ―――――――!!」
「き、気色悪い奴だな。近づくな」
「ああっ嫌われてる、嫌われてるよ~~~~~~!」
「うわなんだ貴様、本気で変だぞ!?」
感涙にむせぶ浩之に、心もちひいてしまっている柳川である。
が。
「浩之…お前、俺よりも柳川なんかがイイと言うのか…?」
「耕一…?」
甥の、いつもと微妙に違う気配を感じ、柳川は眉をひそめた。
一同をかばうように、一歩前に出る。
「俺は…浩之、俺は、お前のことをこんなにも愛しているというのに!!」
「…………。
えーと、そのー、耕一?俺が言うのもなんだが、お前、いつ趣旨変えしたんだ?」
「耕一さんだけじゃないんですよ~~。何故だか知らないけど、学園中のみんなが俺のことを…その、なんていうか…」
「よくわからんが」
静かに拳を握り、柳川は僅かに腰を落とした。
そして耕一に正対する。
それに応じて耕一も姿勢を少し低く構える。
「この場は俺が引き受けるから、貴之。浩之を連れてどこか人目につかない場所へ」
「柳川さん」
「急げよ」
言うと同時、柳川は飛び出した。
「藤田君、こっち」
「ちょ…でも…」
たちまち背後で繰り広げられる人外の闘争を気にかける浩之に、感情があまり感じられない声で、貴之は応じた。
「いいから早く」
「いやでも…」
「本気の耕一君相手じゃ、柳川さんだってどこまで時間をかせげるかわからないんだから。
だから早く」
「貴之さん…」
感情が感じられないのは、表に出ないようにしているから。
あふれないように。
そのことに、浩之は、思わず後ろを振り返った。
「さっさと先ほどの一連の出来事の記憶、消去してくれるわ耕一――――――――!!」
「往生際が悪いんだよお前は!いいじゃんラブラブで~~~~~~~」
「ラブ言うな!あれはちょっとしたその、行き過ぎたおふざけだ!」
「けっけっけ。お・ふ・ざ・け・ですかあ~~やながわせんせ?」
「ころおおおおおおおおすす!!」
…………。
「えーと。まあいいから、どんどん行こうか藤田君?」
なんか精神的にコケてしまった浩之の背中を押して、ずんずん貴之はその場から遠ざかる。
その後に続きながら、少しだけ不満そうな、マインの呟きが残った。
「ソンナニ、恥カシイノデスカ………?」
* * * * *
「――ト、イウ訳デ此方ニ伺ッタノデスガ」
「まあここは人気は無いですし適当ではあるんですが、最近、サボリの溜まり場になりつつあるような気がします。
一応、ここは私共の職場なのですが」
お化け倉庫の管理係ことHM-13・雪音は、押しかけてきた浩之達を見回しながらまるで良識家のような台詞を口にした。
「イイジャナイデスカ。ドウセ暇ナンデスシ」
「……………」
こちらは正真正銘サボリで、職場の保健室を空にして遊びにきていたHM-12・舞奈が抱えた猫に『バンザイ』をさせながら、あっけらかんと言い放つ。
その後で、雪音の相棒・HM-12・マリナが無言で犬にブラシをかけてやっている。なにやら顔に縦線が入っていたが。
「ははは。ところで雪音さん、ムシキングカードの方はどう?」
「どう、と言われましても。とりあえずヘラクレスオオカブト1枚8,000円というのは暴利だと思いますね」
「あの、貴之さん和んでる場合じゃなくて」
年季の入った、少しゴツゴツするソファーの上でかしこまっていた浩之は、注意を喚起するために横槍を入れた。
今回の騒動の中心となっている身としては無理からぬことだが、誰かが言っておかないと、際限なく和やかに茶のみ話ばかりが進んでいく懸念が相当にある。
「わかりました。では浩之さん?失礼して少し検査させてもらいます」
そういうと同時に、雪音の右耳のセンサーパッドが展開し、何らかの探査機の端子のようなものが突き出された。
浩之の方を向いたその先端がジジジ、と僅かな音を立て始める。
雪音のように特殊な業務に携っているメイドロボは、試作機であるセリオや一般の量産機にはない装備を身に付けた者もいる。といっても、本格的な機器が必要な場合はそれを使えばよいし、内蔵できるほどコンパクト化された装備は結局、『あれば便利』程度の性能でしかない場合が多いのだが。
「何らかの誘引物質が浩之さんの身体から発散されています。手持ちの機器では組成解析は無理ですが」
「誘引物質?」
「平たく言えばフェロモンですね」
「平たいかな、それ」
そうは言いつつも、今朝からの異常の原因に、一応は目鼻がついたわけである。
ふうむ、と考え込む浩之の横から、マインが小さく挙手した。
「雪音サン」
「なんですか?」
「コノヨウナ場合、カタカタ口カラテープヲ吐キ出スモノデハナイノデスカ?ロボ的ニ」
「いやロボ的にって」
困惑する雪音に、舞奈も挙手してきた。
「セメテ解析中、目ヲぴこぴこ赤ク光ラセルベキデショウロボ的ニ」
「貴女方は私を何だと思ってるのですか!?」
マインと舞奈は数瞬アイコンタクトをとった。
そしておもむろに頷いた後、舞奈が言う。
「雪音サン…アナライザー以下?」
「…いま、私の回路に走るこの不定期パルスは、ムカツクと表現するものなのでしょうかセリオお姉様…?」
「てゆーか君ら幾つよ?と問い質してみたいかもしれないなあ」
「どーぞ問い質してください貴之さん」
一つ頭をふって、浩之は足を組替えた。
「でもそれならマルチ達は全然平気だったのもわかる…って、アレ?でも貴之さんや柳川さんはなんでフェロモンの影響無いわけ?」
エルクゥである耕一もあてられていたのであるから、当然柳川も同様の筈である。
貴之に到ってはごく普通の一般人である。生物分類的には。
うーん、と考え込む浩之に、つつつ、と舞奈が近づいてきた。
「ソモソモ、ドコデドウシテ、浩之様ハ誘引物質ヲ仕込マレタノデスカ?」
「そうですね。お話を伺う限り、家を出る前までは何も異常は無かったのでしょう?
とすれば登校途中、教室に入る迄の間に何かありませんでしたか?」
「んなこと言われてもなー。別に普段どおりだったし。
ちょっと遅れて慌てて駆け込んでみたら、もう」
…………。
すっく、と今まで無言だったマリナが挙手して立ち上がった。
そして静かに、口を開く。
「…ドウシテ…浩之様ダケ、遅レタノデス?」
「へ?」
「あ。そーだよ藤田君。いつものようにみんなと一緒に登校したんだろ?
それなのに、なんで君だけ遅れて教室に駆け込んでくるのさ?」
「え、えーと。別におかしなことなんて。
今朝は…メシ食って…家を出て…」
「うんうん」
「教室に行く前に、ちょっとトイレに寄って」
「うんうん」
「トイレから出てきたらひかりさんに会って」
「うん?」
「で、ちょっとお茶でもということになって保健室へ」
「「「「「それだ――――――――!!(です)」」」」」
貴之&メイドロボズの声がハモった。
「っていうか気付こうよ!!
あからさまに怪しいじゃんかよ!!?」
「ソレデ!?当然ウチノ腐レ上司モイタンデショウ!?」
「ちょっと御茶でも、ということは当然そこで!
保健室で!
悪の魔女が入れた何か怪しげなクスリ入りの御茶を飲んじゃったんでしょう!?
あやしすぎます!!」
「お、俺だってそこまで不注意じゃないぞ!?
なんか変だなって思ったから、急いでるからとかいって断ったさ!
それから……」
「ソレカラ?」
「……………アレ?そこから記憶が飛んでる?」
「「「「「確定的――――――!!!」」」」」
再びハモる貴之&メイドロボズ。
「…ソウイエバ。メイフィア様、昨日カラ不審デシタ」
「不審?マインサン、ウチノ上司ハ何時モ不審デスガ」
「イエ、ソレトハ別ノ方向デ」
部下&元部下に好き勝手言われてますメイフィアさん。
しかも嘘はありませんし。
「ホホウ。具体的ニハ?」
「私ニ、コノ薬剤ヲ渡サレマシテ」
そういってマインがエプロンのポケットから出したのは、メイフィア的にはおとなしい形をした、茶色の小さな薬瓶であった。中身は既に空である。
「今日、チョットシタ実験ヲスルカラ、柳川様ト貴之様ニ飲マセテオクヨウニト。
ソレデ、今朝ノ御味噌汁ニ」
「入れたのマイン―――――っていうかなんで入れる!?」
「ハア。…万一ノ失敗ニ備エタ、解毒剤トイウコトデス」
「解毒…?って、ナニの?」
「私ハ、詳シクハ知リマセンガ」
それは当然かな、と頷く一同に、さりげなくマインは言った。
「ヒカリ様ガ仰ルニハ、『浩之ちゃんスキスキ☆大好き大作戦の要となるこのコードナンバー・1919、モーテモテ・モテール…失敗は許されませんわよメイフィア先生!』トイウコトデシタガ」
「「「「「お前も気付けよソレ!!!」」」」」
全員が、力の限りつっこんだ。
「…やっぱ来栖川のメイドロボって基本的にボケ仕様なのかなあ…」
「浩之さん。マインさんは最近ちょっとばかり幸せボケしていているだけですよ。それとソフトにバグがあって回路に一部不具合のある不良品なだけで、少なくとも私はボケじゃありません」
「雪音サン…ヒドイ…」
「でもまあ、いきなり解決策は立っちゃったかな?
多分もうメイフィアさんも今回の悪企みは失敗したってわかってるだろうから、藤田君はここにいてもらって、俺がちょっと行って解毒薬なりなんなり貰ってくると」
「私モ行キマス。薬品関係ノ管理ハ私ノ仕事デスカラ」
「そっすね。お願いします、貴之さん、舞奈」
だが、無論というべきか。
事態は、これだけでは収まらなかったのである。
* * * * *
「メイフィアさんと…あと、ひかりさんも行方不明?」
「んー。なんだかね」
一応、解毒薬は舞奈が探し出してくれたので当面の問題は解決したのであるが、一言文句を言う相手の失踪に、当惑する浩之である。
並んで歩く貴之も、当惑の色を隠さずにいる。
「メイフィアさんは、そりゃあいい加減でズボラでグータラで人をおちょくるネタばかり考えてるような人だけど」
「社会的にかなり迷惑っすねソレ」
「でも、少なくとも無責任じゃないよ。事態の収拾も図らずに雲隠れなんかする人じゃない。少なくとも逃げるなら逃げるで、ちゃんと「逃げるからあとヨロシク」ぐらいは言っていくと思う」
「責任感ある人はそもそも逃げないと思いますが」
まあ、柳川先生と貴之さんだけは事前に守っておこうとしたわけだけど、とこれは口には出さず浩之は呟いた。尤もこの二人がおかしくなっていたら、シャレでは済まない事態になっていた可能性大であるから当然か。
ちなみに、その柳川は耕一と二人仲良く(?)保健室送りである。
どちらもそれなりにボロボロだが、それほどたいしたことはなさそうであった。
ただ、無表情なりに凄く嬉しそうな顔をしたマインが『看病シマス!』と張り切っていたが。
熱いおかゆをフーフーしながら。
あと、同じ種類の笑いと、微妙に怪しいおかゆっぽい物質を抱えた千鶴さんも一緒に。
…♪男なら誰かのために強くなれ/♪歯を食いしばって思い切り守りぬけ
ピッ。
「はい阿部です…あ、雪音さん?」
賑やかな着メロを消して、貴之は携帯を耳にあてた。
そのまま相手の雪音と2,3、会話をかわすその横顔がぴき、と固まった。
「へ?……そ、そうなんだ。ふーん…わかった、とりあえずそっち行くから」
「ひかりさん達、見つかったんですか?」
「えっ、いやまあその…うん。らしいね」
言葉を濁し、微妙に視線を逸らせる貴之を不思議そうに浩之は見遣った。
普段はのんきというか極楽トンボというか、まあ何事にもあんまり動じないマイペースというと聞こえはいいが、もう少ししっかりしてくれよと言いたくなるような頼りなさというか。
ともかく、日頃からするとちょっと珍しい様子の貴之である。
そのまましばらく無言でいると、苦笑しながら貴之は浩之に言った。
「理事長室だってさ。…どう?一緒に行く?」
「すぐ近くじゃないですか。折角ですし、行きますよ」
「あー。そー。うん」
「…どうしたんです?あ、既に二人とも秋子さんに叱られてるとか」
「ん~~~~~…ニアピン?」
と、いう会話を交わすうちに二人は理事長室前に着いていた。
貴之はチラリと浩之に視線を向けると、おもむろにドアを2度、ノックした。
「失礼します~」
一応更にそう声をかけてから、返事を待たずに中に入る貴之に続き、浩之も入室する。
そこで見た光景は。
「うにゅ~~~~。
ひかりカワイイわカワイイわひかり~~~」
「うううううう……」
「ああんひかりったらお肌スベスベ~スベスベマンジュウガニ~~~~♪」
「うううう…お願い正気に戻って秋子…」
――なんか猫っぽく秋子理事長に懐かれてるひかり校長と、
「ああっメイフィアおねーさまっ。ギュッとしちゃいますね☆」
みしっ、ミリミリミリ……
「あぐぐぐぐぐ…ちょ…アレイ……」
「ああん逃げちゃダメですメイフィアおねーさまっ。えいっ、愛の抱擁っ」
みしみしみし…メキメキメキ…
「やめ…アレイそれ、抱擁じゃなくて、ベアバッ…くう!?」
――全身フルプレートのアレイにフルパワーで抱きつかれて泡吹いている保健医の姿であった。
「あ、浩之さんドアは閉めておいてください」
「あ、あは、あははは…」
思わずその場にへたりこんでしまった浩之に、クールに雪音が注意する。
「…うーん。妙に色っぽいような、決してそうでないような、不思議な光景だねぇ」
「いやのんきに論評してる場合ではなくて貴之さん。どういうことですかコレ?」
「推察いたしますと」
応接セットの机から、雪音は小さな香水風の小瓶を取り上げると慎重な手つきでそれをビニール袋に入れ、密封した。
「…誘引薬品は噴霧式ですか。
おそらく浩之さんにこれを噴霧する際、多少お二人にもそれがかかってしまったものと。
無論、事前に解毒薬は服用されていたのでしょうが…それはあくまで『解毒用』であって、『除去薬』ではありませんからね」
「あ~…そーいやさっき舞奈がくれた薬って、飲み薬とスプレーだったよ。なんかシュ~って身体中にスプレーかけられちゃったけど」
「なるほど。つまりその辺の杜撰さが敗因ですね。少量だったので効果が出るのに多少時間がかかったということもあるでしょうが」
「ううっ…隙のない推察で反論の余地がないわっ」
「ごめん、あやまるからなんとかしてこのアイアン・メイデン…」
「はあ。そりゃひかりさんとメイフィアさんはともかく、秋子さんとアレイ先生は被害者ですからなんとかしてあげたいのはやまやまなんですけど…」
困り顔を見つめ合わせると、浩之と貴之は申し訳無さそうに頭を下げた。
「そのー。保健室にあった在庫分は、他のみんなにあらかた配っちゃったんですよ」
「で、もうカラッケツなんですよね」
「でええええええええええええええええええっっ!?」(×2)
「舞奈も、流石に自分で調合はできないって…レシピも無いし」
「ふっ。このメイフィアさん特製の秘薬、助手ロボなんぞにそうそう作れるもんではないわ!失敗作だけどってああああああああっ、アレイ、チョークチョークっ!」
バキボキメキゴキグキ……
魔術やスケッチで抵抗もできず、なんか色々と想像できちゃうスゲェ音の後、がっくり気絶してしまうメイフィアであった。
「ううっ、ならせめてコレ、なんとか引き剥がして…うひゃん、やめて秋子、耳に舌いれないでえええええええええ!?」
「うふふふふ…かわいいったらかわいいわよひかりん♪もう今日は離さないんだから♪」
完熟百合絡み蜘蛛おしゃぶり尽くし。
そんな単語が傍観者の頭の中をよぎったりよぎらなかったり。
「引き剥がすって…そんな畏れ多い」
「いやいやいやいや、一介の平教員といたしましてはそんな理事長の、それも妙齢の人妻のお身体に手をかけるなどと……」
「はあ。貴之さんでもそんなこと気にするのですね」
「雪音さーん!貴女ならわたしのお願い聞いてくれるわよね?同性なんだからそんな遠慮もいらないし?」
「……いいんですか?」(ぽっ)
何故、そこで頬を染める同性愛嗜好者!?
胸の内だけでそう突っ込む男二人である。
いやだって口に出すとなんか怖いし。
「えーと。このクスリって、どれくらい効果が続くんですか?」
「舞奈ちゃんによれば…えーと、せいぜい今日1日程度だろうって」
「…そーですか。なら、理事長室に誰も入れないようにしておいて自然に効果が切れるのを待つというのがベターなんじゃないですか?」
「ああっ!?浩之ちゃんもしかしておかーさんを見捨てる気満々っ!?」
「いや…見捨てるなんてそんな」
わきわき身体の各所に伸びてくる秋子の手に対抗しながら、涙目で嘆願してくるひかりに、浩之は力なく笑った。
「いやでも…俺にはどうしようもないし」
「そんな~~~~~!?」
「それに今日1日くらいは隠れてた方がいいんじゃないかと。あかりの奴、結構怒ってたし」
「ヴッ」
「何より学園トップのこーゆー姿を晒すわけにもいきませんし」
「ヴヴヴっ」
さり気なさを装った貴之の柔らかな叱責に、子供のようにひかりは首を竦めた。
「くぅん!?あ、あきこそこらめええええええええっっ!!?」
「…いやマジでヤバイでしょコレ」
「年齢制限入っちゃいますよねえ」
「…すいません!折角ですからビデオ回していいでしょうか!?」
「「それは止めれ」」
できるだけひかり&秋子を見ないようにしながら、男二人はワクワク顔のメイドロボに裏手ツッコミを入れた。
* * * * *
る~る~~~るるるるる~~~~~~♪
「ああっ…いくら怪しげなクスリのせいとはいえ…あたしってばなんてコッパずかしいコト言っちゃったんだか…!!」
「俺はノーマルだ…俺はノーマルだ…俺はノーマルだ…俺はノーマルだ…ノーマルだったらノーマルなんだ……」
校舎屋上のフェンス際で、体育館座りで誰彼ている志保と和樹に、あかりと瑞希はトホホな顔を見つめ合わせた。
一つため息をつき、それぞれの相手の横に座って肩を叩く。
「でもそれって志保の正直な気持ちなんだよね?っていうか志保、当然だけどまだなんだ」
「なによあかりのくせにその微妙に優越感あふれる顔わあああああああ!!てゆーかツッコミどころはそっちかい!!!」
「あのさー和樹…いっぺん死んでみる?」
「少しは慰めてくれよその胸の中で91cm!!!」
「本気で死ね――――――――――――――!!!」
すぱこ――ん、というテニスラケットのフルスイング音が、そろそろ暮れなずむ校舎の余韻として響いていった。
「めでたしめでたし」
「ってああっ!?なに仕切ってんのよあかりっ!!?」
<了>
【後書き】
『前も後もOKよ』ってのは…遠い昔に読んだ…エロ雑誌のエロじゃない漫画であったよーな。
お話のネタ的にもね。
ホレ薬ネタっていうのはオチが自業自得・天罰てきめーんというものが多いですが、まあこういうのって基本的に洗脳とかマインドコントロールと同じ悪辣な行為ですので結局そううまくはいかないよ、ってことで。
あと…貴之って意外にツッコミ役が合うかなあとか。