連載小説 私立了承学園 第445話
夢、かなうとき
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某月某日――
その日の夜、人類の歴史において、偉大な一歩が刻まれようとしていた――
「おーいっ! 下の方っ! あんまり揺らすなよっ!」
「無茶言うなでごわすっ! 上に何体のってると思ってるでごわす!」
「ああああっ! 揺れるぅ~っ! 揺れるでござるよぉ~っ!」
「頑張ってっ! 何とか堪えるんだよっ!」
「がおーっ! がおーっ!」
「もう少しで雲に届くんだーっ! って、言ってるよ~っ!」
「通訳しとる余裕があるんなら、もっと気合い入れんか~いっ!」
さて、すでにお気付きの方もいるかもしれないが……、
さっきからギャアギャアと騒いでいるのは、
さくら達の手によって作られた『まーくんぬいぐるみ』達である。
作り主達の愛の力によるものなのか……、
それとも、この学園の理解不能な力によるものなのか……、
その原因は定かではないが、彼らは夜になると、自らの意思を持ち、
自由に動き回る事が出来るのだ。
まあ、正確には昼間でも動けるのだが、動いているところを誰かに見られると、
色々とマズイことになるので、彼らの活動時間はもっぱら夜中だけなのである。
――それで、だ。
そんな彼らが、一体、何を騒いでいるのかと言うと……、
ようするに、肩車をしているのである。
しかも、天に向かって一直線に……、
――彼らには夢があった。
――『肩車して月に行く』という壮大な夢が。
それは、あまりにも不可能に近い夢である。
自分達が月に至るまでには、いったい何体の仲間が必要になってくることか……、
しかし、彼らは諦めたりはしなかった。
何故なら、彼らが不安など感じる暇を与えないくらいに、
毎日のように、仲間は増えていったのである。
もう既に、仲間の数は、数えるのが馬鹿馬鹿しく思えてしまうくらいに増えている。
おそらく、億……いや、兆はくだらないだろう。(作者談 このへん、細かいツッコミは無しです)
そして、今夜……、
彼らは、その夢を成し遂げようとしているのだっ!!
「よいしょっ! よいしょっ!」
「急げっ! 急ぐのじゃっ! 夜が明けるまでに、何としてでも辿り着くのじゃっ!」
次々と、次々と……、
積み上がった仲間の体をよじ登り、肩の上に立っていくまーくんぬいぐるみ達。
一番下を支えるのは、一番力持ちの『横綱まーくん』だ。
その大きな体で、積み上がった仲間達をしっかりと支える。
しかし、さすがの力持ちでも、バランスを保つのは難しく、
あっちへよろよろこっちへよろよろと安定せず、
天へと伸びているまーくんぬいぐるみ達もグラグラと波打っている。
「あっ! ああっ! 危な~~~~いっ!」
「ひえええええ~~~、でござる~~~~~っ!!」
どうやら、言っている側から大きくバランスが崩れたようだ。
てっぺんへと登っていた『侍まーくん』が手を滑らして、宙へと身を踊らせる。
ひゅ~~~~~~~ん……
凄いスピードで落ちていく『侍まーくん』。
いくらぬいぐるみとはいえ、雲に届こうかという高さから落ちたらタダでは済まない。
しかし……、
ぴゅーーーーーーーーっ!!
ぱしっ!!
「はわわ~! 大丈夫ですか~?!」
落下する『侍まーくん』を飛んできたぷちまるちの一体が受け止めた。
どうやら、ぷちまるち隊も、マルチに内緒で協力しているようだ。
「おおっ! かたじけないでござる、ぷちまるち12号殿!」
「いえいえ~、どういたしまして~。どうせですから、このまま上まで行きますね~」
「いやいや、それはちょっと待って欲しいでござるよ」
『侍まーくん』を受け止めたぷちまるちは、そのまま彼をてっぺんへと連れていこうとする。
しかし、『侍まーくん』は、それを丁重に断った。
「はえ? ダメなんですか?」
「申し訳ないでござる。ぷちまるち12号殿の申し出は大変嬉しいのでござるが、
月へ行くというのは、拙者達の夢でござる。
拙者達の力だけで到達しなければ意味が無いのでござる。
だから、ぷちまるち殿達は、落ちた拙者の仲間達の救助に徹して欲しいでござるよ」
と、本当に済まなさそうに謝る『侍まーくん』。
そんな彼に、ぷちまるちは心良く頷く。
「わかりました~。では、さっき落ちたところまで連れていきますね~」
「そうしてくれるとありがたいでござるよ」
「はい~♪ みなさん、頑張ってくださいね~♪」
……と、ぷちまるち達の救助と声援を受け、
まーくんぬいぐるみ達はドンドン空へと登っていく。
雲を越え――
成層圏を越え――
大気圏を越え――
――そして、ついに、彼らは宇宙空間へと達したっ!!
「いよっしゃへーっ!! 第一関門突破やーっ!! ドンドンいくでーっ!」
『おおーっ!!』
宇宙空間へと出たところで、『浪花の商人まーくん』が掛け声を上げ、
他のまーくんぬいぐみ達がそれに応える。
ちなみに、絶対零度の宇宙空間で、
何故、ぬいぐるみが無事でいられるのか、という無粋なツッコミは無しである。
だいたい、そんなものは彼らの作り主の『愛の力』でどうとでもないのだ。
それはともかく……、
「うんしょっ! こらしょっ!」
「うおりゃーーーーっ!! ドンドン行けーーーーッ!!」
「みんな頑張れっ!! もう少しだっ! もう少しで届くぞっ!」
無重力空間に出たことにより、重力という負担が無くなった彼らは、
順調に月へと歩を進めていく。
地球から月へと伸びるまーくんぬいぐるみ達――
その姿は、まさに月への掛け橋――
そして、ついに……、
ついに……、
――彼らは、月まであと一歩ということろまで達した。
「さて、問題は、誰が最初の一歩を踏むかだが……」
目の前にある月の大地を見て、『白衣まーくん』が皆に訊ねる。
すると、『殿様まーくん』が……、
「それは、もちろん我らがリーダーである『一号』でおじゃるよ」
その言葉に、皆の視線が一点に集まった。
さくら達によって一番最初に作られたまーくんぬいぐみ。
皆から『一号』と呼ばれているまーくんぬいぐみだ。
「……いいのか?」
「もちろんだよ。だいたい、この夢を思いついたのはキミだろ?」
皆を見渡す『まーくん一号』に『野球まーくん』がニッコリと笑って頷く。
それに合わせるように、皆もまた、うんうんと頷く。
「わかった……それじゃあ、いくぜっ!!」
皆に促され『まーくん一号』が跳び上がる。
そして、月の大地をしっかりと踏みしめたっ!!
「やったぞ、みんなっ!! この瞬間、俺達の歴史に偉大な一歩が刻まれたっ!!」
「うおおおおおおおーーーーーっ!!}
「イエーーーーーーーイッ!!」
「ひゃっほーーーーーーーーっ!!」
「ばんざーーーーーーいっ!!」
『まーくん一号』が高々と宣言すると同時に、
他のまーくんぬいぐみの代表者達が歓声を上げながら、次々と月に降り立つ。
そして、皆でぴょんぴょんと飛び跳ねて、喜びを表現したのだった。
ひとしきり騒いだ後――
まーくんぬいぐみ達は、新たに手に入れた遊び場の探検を始めていた。
「ほうほう……これがアームストロング船長の足跡か?」
「…………」(ふみふみ)
「あーっ! 無言で消してるしっ!」
「別にいいじゃん。ロケットに頼って来たような奴に足跡なんてつけられてたまるかよ。
俺達は自力で来たんだぞ? 俺達こそが足跡をつけるに相応しいっ!」
「あー、はいはい……」
「それで、その足跡はどうするの?」
「僕の足跡では小さすぎるから、もっと目立つようにしないとね」
「へっへっへっ……それについては俺に任せときな♪」
「おおお~っ! なんとも大きなクレーターでござるな~」
「月にも隕石は何個かぶつかってるからね~」
「これも、その一つなんだろうな」
「……拙者達のところに落ちて来たりはしないでござろうな?」
「ンなピンポイントな隕石があってたまるかよ」
「あーっ! あんなところに某国の国旗がっ!」
「――ていっ!」(蹴り)
「おいっ! 蹴るなよっ!」
「どやかましいっ!! 今日からここはワイらのシマやで! こんなモン邪魔やっ!!」
「相変わらず怖いもの知らずでおじゃるな~」
「まあ、我らにかかれば某国など敵ではないがな」
「……月に来ても『大佐』は『大佐』なんだね~」
で、めぼしい場所を見終わったところで、『まーくん一号』は、
月に降り立ったまーくんぬいぐるみの代表者達を一旦集めた。
「……? おい、『ヘビメタ』達はどうした?」
「ああ、あいつらなら月の裏側に行ったみたいだけど……」
「月の裏側ぁ~? ったく、そんな遠くまで……」
『学ランまーくん』の言葉に『まーくん一号』は顔をしかめる。
と、それと同時に……、
「おーいっ!!」
「わりぃわりぃっ! 遅くなっちまったよーーーっ!」
……件の『ヘビメタまーくん』達が戻って来た。
「こらっ! あんまり遠くに行くなって言っただろがっ!
まったく、月の裏側なんかで何してたんだ?」
「へっへっへっ……俺達の足跡をつけてたんだよ」
「――足跡?」
「そうっ! それもとびきり目立つやつをなっ!」
「そ、そうか……まあ、それはともかく……」
と、そこで『ヘビメタまーくん』との話は打ち切って、『まーくん一号』はゆっくりと見回す。
「さて……これで俺達は『月に来る』という夢を実現したわけだが……」
「もしかして、次は何処を目指そうか、って話か?」
「……その通りだ」
彼の言葉を遮るように手を上げる『学ランまーくん』。
その言葉に『まーくん一号』は重々しく頷く。
「それで、だ……みんなの意見を訊きたいんだけど……何か良い案はあるか?」
「「「「「「「「「う~ん……」」」」」」」」」
と、彼が訊ねると同時に、皆は顔を突き合わせて相談を始めた。
「う~む……やはり、火星あたりが妥当ではないでござろうか?」
「何言ってんだよ? 地球を離れて行くならイスカンダルに決まってるだろ?」
「……それはアニメの話やろが」
「じゃあ、レジェンドラ?」
「それもアニメや……」
「だったら、いっそ銀河中心に殴り込み掛けるとか……?」
「宇宙怪獣と戦うつもりか、お前はっ!?」
「だいたい、そんなところに行ったらカーメトリック=ブラックホールに吸い込まれてしまうぞ」
「そしたらオールドタイマーに会えるかも♪」
「ぬいぐるみが宇宙のキーパーソンになるのか? それはマズイだろ?」
……どうも、相談は難航しているようだ。
そんな彼らを見て、『まーくん一号』は一つの案を提案する。
「みんな……俺の提案を聞いてくれなか?」
そして、それから数日後――
無数のまーくんぬいぐみから選ばれた数十体の勇者達は、
何処から持ってきたのか、ドラム缶を改造した宇宙船に乗り込んでいた。
「……みんな、本当にいいんだな?」
遥か彼方に見える地球――
そして、その向こうに見える太陽――
再び月の大地に立ち、その二つの天体の輝きが描き出すダイヤモンドリングを見つめつつ、
『まーくん一号』が乗組員達に訊ねる。
「もう、地球には帰れないんだぞ?」
そう言う『まーくん一号』に向かって、『学ランまーくん』が不敵な笑みを浮かべる。
「何を言ってんだよ? ここまで来たら、もうノリだよノリ♪」
「そうそう♪ 遥か宇宙の彼方を目指すなんて、ボク達にしかできないもんね」
「まったくでござるよ。夢は大きく持つべきでござる」
『学ランまーくん』の言葉に同意する『野球まーくん』と『侍まーくん』。
それ以外のまーくんぬいぐみ達も、ウンウンと頷いていた。
そんな彼らを見て、『まーくん一号』もハラが決まったのだろう。
満足げに笑って、彼は船長席に腰を下ろす。
「よしっ!! こうなったら、とことんまで付き合ってもらうからなっ!」
「いよっしゃあっ! そうこなくっちゃ話にならんでっ!!」
『まーくん一号』の言葉に、『浪花の商人まーくん』が景気良くパンッと手を叩く。
そして、しっかりと舵を握り締め、『まーくん一号』を振り返った。
「さあっ! いつまでも感傷に浸っとらんと、そろそろ行こうや『一号』……いや、『艦長』っ!!」
「こらこら……この船は戦艦じゃないんだから、『船長』と呼べよ」
「おっと、そうやったな……それじゃあ、『船長』っ! 命令してくれやっ!!」
「わかったっ! 行くぞっ!!」
乗組員に見守られる中、『船長』は座席からゆっくりと立ち上がる。
そして、ビシッと前方を指差して、高々と叫んだ。
「メインエンジン全開っ!
目指すは未開惑星っ! 我らが新しい楽園っ!!
宇宙船『まーくん号』発進っ!!」
「どすこぉぉぉぉーーーーいっ!!」
『船長』の声と同時に、『横綱』が、宇宙船の船尾にツッパリを放つ。
その力によって、ゆっくりと動き始める宇宙船『まーくん号』。
しかし、この広い宇宙を、慣性航行で旅に出ようとは……、
まあ、作用反作用も利用するのだろうが……、
……なんとも、気の長い話である。
「さあっ! みんなで『船長』達の旅立ちを祝福だ!」
『おおーっ!!』
宇宙船が航行を開始したと同時に、居残り組がタキシード姿に早変わりした。
『まーくんフィルハーモニー楽団』モードである。
そして、まーくんぬいぐみ達は、それぞれの楽器を構え、仲間達の旅立ちを祝う曲を演奏し始める。
もちろん、宇宙に旅立つ者に手向ける曲は、『ヤ○ト』のテーマだ。
ゆっくりと、ゆっくりと――
月を離れて行く宇宙船――
その姿が見えなくなるまで、音楽隊達の演奏は続いた……、
無限に広がる大宇宙――
死んでいく星もあれば、生まれてくる星もある――
その大海原に……、
果ての無い漆黒の世界へ……、
……小さな命達は旅立っていく。
まだ誰も見たことが無い、未開の惑星を目指して――
そこに何が待ち受けているのか……、
彼らはどんな運命を辿るのか……、
それは、誰にも分からない。
だが、彼らを止めることは誰にもできないであろう。
何故なら……、
彼らは冒険者なのだから――
いずれ、近い将来……、
我々人類は宇宙へと進出していくだろう。
……その時、もしかしたら、我々は発見するかもしれない。
まーくんぬいぐるみ達が住む楽園――
その名も――
『まーくん星』を――
おまけ――
彼らが旅立ってから数ヶ月後――
某国から打ち上げられたスペースシャトルが月の裏側へとやって来ていた。
その船に乗っていた乗組員の一人が、何気なく窓の外の月を見る。
そして、それを見た彼は……、
「OH……My Good……」
……と、一言呟いた。
月の裏側……、
そこには、デカデカとこう書かれていたのだ。
『まーくんぬいぐるみ参上!』
――ちゃんちゃん♪
<おわり>
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<あとがき>
……いいのか?(汗)
なんか、色々とツッコまれそうな内容ですが、
とにかく、馬鹿馬鹿しくも壮大な話を書いてみました。
でわでわー。