『ぺた』
「しゅにーん。しゅーにーん」
ん?
「しゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんうましゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにんしゅにん!」
連呼しないの!
――って、なんか余計なのが混ざってた気がするよ!?
「気の所為です。細かい事は気にしちゃメーですよ、ぶらざー」
ぶ、ぶらざー?
…………。
……ま、まあ、いいけど、ね。
で?
いったい何の用だい、マルチ?
「あのですねあのですね。しゅにんにおねがいがあってやってきたのですはるばる」
漢字を使いなさい、漢字を。読みづらいこと甚だしいから。
「亜野出素音阿乃弟守値。主任弐御願威画唖津手……」
だからって無理矢理使うのもやめなさい!
「はーい。らじゃーですぅ」
……それで? お願いというのは?
「おっぱい」
……は? おっぱい?
「はいです。大きくしてください」
大きく、かい? 何故に?
「私も挟みたいのです」
挟むって……何を?
「いやですねぇ、決まってるじゃないですか。もちろん浩之さんのおち……んぐーっ! むぐーっ!」
ふぅ。危ない危ない、間一髪。
「ぷはぁっ! な、なにをするでありますか!?」
ダメだよ、マルチ。乙女がそういうことを口走りそうになっちゃ。
「……わたし、もう乙女じゃないですよ? ウブなネンネはとっくに卒業してますし」
そういうことも言わないの!
「はーい」
まったく。
それにしても、いったい何処の誰だい? マルチにそんな挟むだの何だのを吹き込んだのは。
「来栖川のセリオさんです」
せ、セリオ?
「はいです。セリオさんに自慢されたのです。浩之さんとのラブラブでぱふぱふな情事を微に入り細に渡って惚気られたのです。ぱふぱふ」
そ、そうかい。
「わたし、とってもとっても敗北感なのです。でもこのままでは引き下がれないのです。だからおっぱいぷりーず」
ぷりーずって言われてもねぇ。
正直、マルチに大きな胸は似合わないと思うよ。どう考えてもアンバランスだしね。
「そうなのですか?」
うん。
マルチが豊かな胸を望む気持ちは分からなくもないけどね。
だけど、私としては体型を変えるのはあまりオススメできないなぁ。
歪になって、却って可愛らしさを損なってしまう、という事になるかもしれないし。
やっぱり、マルチは今のままがベストだと思うよ。
小さいが故の魅力というのも存在するしね。
「なるほど。つまり、ツルペタでふにふにでロリロリな所がわたしのチャームポイントであり武器である、と」
も、もうちょっと違う言い方は出来ないかな? てか、ちょっぴり飛躍してないかい?
……ま、まあ、そう受け取ってもらっても一向に構わないけどね。
表現には若干問題あるけど、マルチの言葉自体は決して間違ってはいないと思うし。
「ふむ、所謂ぷに萌えってやつですね」
ぷに萌えって……。
誰だ、マルチにそういう言葉を教えたのは?
「くちゅん」
「あれ? どうしたの、琴音ちゃん? 風邪?」
「んー、なんだろ? 誰かに噂でもされたのかな?」
「うーん、冷静になって考えてみれば、確かにわたしにはきょにゅーは似合わないかもしれません。悲しいけどこれって貧乳なのよね」
スレッガーさん?
「仮にわたしがきょにゅーになったとして、それでぱふぱふしましても所詮は二番煎じ。インパクトには欠けます。ならば、開き直ってぷに萌え道を驀進するのも手かもしれません。言わぬなら、言わせてみせよう『あの貧乳はいいものだ』」
誰か最近マルチにガンダムでも見せたか?
「ありがとうございました、主任。おかげで吹っ切れました。主任の勧めに従い、わたしはツルペタロリロリを極めることにします。ぷに萌えの星を目指します」
そ、そうかい。それはなによりだ。頑張りなさい。
私が『そんなの』を勧めたと言われるのは少々腑に落ちなかったりするのだけど、ね。
「はい、頑張りますぅ! そういうワケですので、今日からは『浩之さん』改め『おにいちゃん♥』でいこうと思います。そして、おにいちゃん♥とラブラブふきふき生活を送るのです。潤んだ瞳と上目遣い、少し傾げた小首は標準装備なのですぅ!」
いや、まあ、その……ほどほどにね。
自分の愛娘の暴走っぷりを目の当たりにし、「感情プログラム、もしかしてどこかにバグでもあったか? マイク◇ソフトに技術協力をしてもらったのがまずかったかな?」と半ばマジに考え込んでしまう長瀬であった。
その数日後、
「あ、あの……わたしの身体、もうちょっとコンパクトにすることって可能でしょうか? 特に胸の辺りを」
――などとセリオからお願いされたりするのはお約束である。
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