昼休み。
以前は家族だけで過ごしていた時間だが、最近は少し変わっている。
いろいろなヤツが俺たちと一緒に食事を摂るようになった。
家族との甘い時間も捨てがたいが、みんなとワイワイ騒ぎながらってのもいいものだ。
俺もみんなも、今の状況を好ましいものとして受け入れていた。
……それに、わざわざ学校でまでベタベタしなくても、家で好きなだけ出来るしな。
『昼休み』
「美味い! 美味すぎる!」
「同感。本当に美味しいわ」
「やっぱ、あかりさんって料理の天才だね」
「え、えへへ。ありがと」
垣本と吉井、理緒ちゃんからの絶賛にあかりが照れくさそうに応えた。
「ねえ、神岸さん。よかったら、今度わたしにお料理を教えてくれないかな?」
「うん、いいよ。でも、わたしに教えることなんてあるのかな? 吉井さん、凄く上手なのに」
「このままでも十分なんじゃない?」
吉井が作ったおかずを摘みながら、あかりと理緒ちゃんが微かに首を傾げる。
俺も何度も食べさせてもらったが、あかりの言うとおり吉井は料理が上手い。
あかりには多少劣るものの、十分誇って良いくらいの腕前だと思う。
「そう言ってもらえると嬉しいけど……でも、もっとレベルアップしたいの。それに……」
「「それに?」」
あかりと理緒ちゃんが声をハモらせて尋ねる。
「……あ。な、なんでもないの。ホントになんでも……」
ちょっぴり狼狽えた様に吉井が言葉を濁した。
その時、無意識になのか、吉井が垣本の方をチラッと見た。
それを見て、二人はピンと来たらしい。
「うふふぅ。そっか、そういうことなんだ。わたし、分かっちゃった」
「うんうん、そうだよね。好きな人には少しでも美味しいものを食べてほしいよね」
手を口元に添えて、イタズラっぽく笑うあかりと理緒ちゃん。
「な、なにを言ってるのよ!? わ、わたし、別に好きな人なんて……」
手をワタワタと大きく振って吉井が反論する。しかし、顔が真っ赤に染まっている為、説得力の欠片もなかった。
「照れなくってもいいのにぃ」
「吉井さんってば可愛い~」
「ち、違うってば~。あーん、神岸さんも雛山さんもいじわるだよ~」
キャイキャイと大騒ぎする三人。
非常に微笑ましくて可愛らしい、実に心の和む光景である。
ちなみに、その時垣本はというと……
「神岸さんの料理も吉井さんの料理も美味い! ああ、至福の一時だぁ~」
あかりと吉井の作った弁当を喰いながら、感動の涙を流していた。
垣本って、実は『花より団子』のタイプなのかもな。
近くであんな意味深な会話をされてるっていうのに……鈍感&マイペースなヤツ。
「浩之ちゃん、その点についてはあんまり人の事言えないと思うなぁ」
……さいですか。
てか、モノローグにツッコミを入れるのは既にデフォなのな。いや、もうなんかどうでもいいけど。
「ん~、美味しい~。さすがは葵ね」
「ありがとうございます、綾香さん」
綾香からお誉めの言葉をいただき、葵ちゃんはご満悦。
「本当に美味しいわ。葵、凄いわね」
坂下が感心したように洩らす。
「でしょでしょ~。葵の作る料理は絶品なんだから~」
まるで、自分が誉められたかのように『エヘン』と胸を張る綾香。
「ぜ、絶品だなんて……。そ、そんな……言い過ぎですよ」
葵ちゃん、頬に手を添えて照れまくり。
「謙遜しなくてもいいわ。私も言い過ぎなんかじゃないと思うしね」
葵ちゃんに笑みを向けながら、坂下が優しく言った。
「あ、ありがとうございます」
それを受けて、葵ちゃんは更に照れ照れ状態。顔が見事なまでに赤く染まっている。
「それに比べて……」
坂下がジトーッとした視線を綾香に向けた。
「どうせあんたは食べる専門なんでしょ? 少しは葵を見習って料理でもしたら?」
「……う、うるさいわね。そう言う好恵はどうなのよ?」
「少なくとも綾香よりは上だと思うわ」
キッパリと坂下が言い放った。
「……言ってくれるじゃない」
くちびるを尖らせる綾香。
「事実だからな」
坂下はとりつくしまもない。
「……あのね、好恵。念のために言っておくけど、『お湯を入れて3分間』とか『レンジでチン』とかは料理のうちに入らないのよ。分かってる?」
こめかみをちょっぴりひくつかせながら、綾香が挑発的な言葉を投げかけた。
「綾香……あんた、私のことをどう思ってるのよ」
坂下のこめかみもピクピク震え出す。
見事なまでに一触即発状態。
「あ、あの~。綾香さんも好恵さんも落ち着いて下さい。お昼ご飯は楽しく食べましょうよ。ねっ? ねっ?」
なんとか空気を変えようと必死に頑張る葵ちゃん。
しかし、その苦労が報われることはなく……
「私は少なくともゆで卵くらいは作れる。綾香と一緒にするな」
「な、なによぉ。あたしだって……作り方さえ憶えれば……きっと……たぶん……」
「……ふっ」
「は、鼻で笑うなーっ!」
低レベルな戦いはいつまでもいつまでも続けられた。
「どうですか? 今回のはちょっと自信作なんですよ」
少しはにかんで琴音ちゃんが尋ねた。
「美味しい。すっごく美味しいよ」
その問いに、森本さんは満面の笑みで、そして芹香は、
「……お見事、です」
琴音ちゃんの頭を撫でることで答えた。
「あっ! せ、芹香さん……」
ちょっぴり恥ずかしそうにする琴音ちゃん。でも、どことなく得意気にも見える。
その隣で、もう一人得意気な顔をしている者がいた。
「ふふーん。どうよ?」
岡田だ。
「むむ。こ、これは……」
岡田の作ったおかずを口にして智子が唸る。
「意外や。まさか岡田さんが料理出来たとは……。ほんっきで意外や」
「しっつれいねぇ。そういう感想しか言えないわけ?」
智子の零した本音に岡田は不満顔。
その岡田の服の裾を芹香がクイクイと引っ張った。
「…………」
「え? なんですか、芹香さん。一つ頂いてもよろしいですか? ええ、どうぞどうぞ」
笑顔で答えながら、岡田が弁当箱を芹香の方に差し出す。
芹香はコクンと頷くと、箸でおかずを一品取り、そっと口に運んだ。
「姫川さんと森本さんもどうぞ。食べてみてよ」
「それでは、お言葉に甘えて……」
「いただきます」
言われるままに箸を伸ばす二人。
そして、同時にパクッと口に入れた。
「わ。美味しい。ちょっとビックリ」
「さっきの智子さんじゃないですけど……意外です」
先程の智子と似たり寄ったりの反応を示す琴音ちゃんと森本さん。
「あ、あんたらもかい」
誉められているにも関わらず、岡田はこめかみを痙攣させていた。
確かに、素直に喜べない気持ちは分かる。
「……って……え?」
そんな岡田を宥める様に、芹香が優しく頭を撫で始めた。
「せ、せ、せ、芹香さん!?」
面白いくらいに動揺する岡田。
それに構わずに、芹香は慈愛に満ちた表情で岡田の頭を撫で続けた。
「とても……美味しかったですよ」
「そ、そうですか? あ、あ、ありがとう……ございます」
岡田は顔を真っ赤にして照れまくる。
その様子を、智子、琴音ちゃん、森本さんが微笑ましげに眺めていた。
「えへへ~。セリオさんの作ったお弁当、とってもとっても美味しいですぅ~」
大好物のクリームコロッケを頬張って、マルチは喜色満面。
「まったくだね。いつもながら見事だよ」
マルチの意見に賛同して、雅史が首肯した。
「ありがとうございます、マルチさん、雅史さん」
賞賛の声を受け、セリオは軽く頭を下げた。
「わたし、セリオさんの作るご飯大好きですぅ」
輝かんばかりの笑顔でマルチが言う。
頬にご飯粒がくっついてるのはご愛敬か。
「うふふ。わたしは、わたしの作った料理を食べて下さっている時のマルチさんのお顔が大好きですよ。本当に美味しそうにして下さいますからね」
言いながら、マルチのほっぺに付いたお弁当を取り……それを自分の口へと運んだ。
……無意識での行動なのだろうが、結構見ていて恥ずかしいものがある。
現に、間近で目撃した雅史の顔は僅かに染まっていた。
「? どうしました?」
「雅史さん? お顔が赤いですよ」
雅史の方を向いて小首を傾げるセリオとマルチ。
「い、いや。なんでもないよ。うん、なんでもない」
雅史が冷静を装って答える。
もっとも、動揺は隠し切れていないが。
こう言っては悪いが、おこちゃまな雅史には刺激が強すぎたようだ。
「そ、それにしても、セリオちゃんは本当に料理が上手だね。こんなに美味しいご飯だったら毎日でも食べさせてほしいくらいだよ」
取り繕うように雅史が早口で言った。
どことなくプロポーズチックなセリフ。本人に自覚は全然無いのだろうが。もし、この場に圭子ちゃんがいたら修羅場になっていたかもしれない。
「え?」
「毎日、ですかぁ?」
俺と同じ事を考えたのか、セリオとマルチが苦笑混じりに聞き返した。
「うん」
何にも考えてなさそうなポケポケッとした顔で雅史が答える。
それを見て、二人の苦笑が濃くなった。
「雅史さん、そういうセリフは、わたしではなく田沢さんに言ってあげて下さいね」
「わたしもその方がいいと思いますぅ」
「はい? 圭子ちゃん? どういうこと?」
キョトンとした顔で雅史が尋ねる。絵に描いたような『豆鉄砲』だ。
その表情が可笑しかったのか、セリオとマルチはお互いに顔を見合わせた後、
「「……ぷっ」」
同時に吹き出した。
「? ? ?」
頭上にたくさんのクエスチョンマークを浮かべる雅史。
そんな雅史を後目に、セリオとマルチは
「あはははは」
「うふふふふ」
楽しげな笑い声を響かせ続けた。
「ジャーン! どう? 美味しそうでしょ?」
満面の笑みで自分の弁当を披露するレミィ。
「ほんと~。とってもおいしそ~」
間延びした声で松本が賛同した。こちらも笑顔だ。
しかし、
「そ、そうだね。あ、あはは」
レミィの対面にいた矢島の顔は対照的に凍り付いていた。
一応言っておくが、レミィが持っているのはあかりたちが作った弁当だ。
従って、味も見た目も悪くない、どころか一級品である。
もっとも、レミィ流のアレンジが施される前だったら……という但し書きが付くが。
「ひ、非常に個性的でグッドだと思うよ」
レミィに向けて親指をピッと立てる矢島。
非常に決まっている。……声さえ震えていなければ。
確かにレミィの手にしている弁当は個性的だった。
まあ、人の好みに口出しするのも野暮なのでうるさく言うつもりはないが……それでも敢えて指摘させてもらえるならば……エビフライにタルタルソースとマスタードとタバスコを一度にかけるのはやめた方がいいと思う。
「エヘ、ありがとネ」
レミィは、矢島のセリフを好意的に受け止めたようだ。綺麗な笑顔で礼を言う。
ちょっぴり鼻の下が伸びる矢島。
だが、次の瞬間、レミィは矢島を幸福から突き落とした。
「それじゃ、食べようか。さ、どうぞ。ミンナも食べていいヨ」
レミィがにこやかに笑いながら弁当を差し出したのだ。
「い゛!?」
矢島の顔が再び凍り付いた。
「はい、好きなのを取っていいヨ」
「す、好きなのと言われても……」
さすがに躊躇する矢島。
「わ~い。それじゃ、遠慮しないで頂くね~」
その横で松本は大喜び。
「ではでは~さっそく~」
そう言いながら、レミィの弁当に箸を伸ばした。
喰うのか!? 本気で喰うのか!?
矢島はそんなことを考えていそうな驚愕の表情を浮かべた。
「はむっ。……むぐむぐ……ごっくん」
松本……おかずを一品口に放り込み……よーく味わい、飲み干してから一言。
「お~いし~」
「……!?」
あまりにも意外な松本のセリフに、矢島はぐうの音も出ない。
顔が如実に『マジっすか!?』と語っていた。
「でしょ~? ホラ、ヤジマも食べなヨ」
次いで、矢島に弁当を薦めるレミィ。
「……う゛」
矢島は一瞬躊躇うが、松本の反応から『ひょっとしたら、さほど不味くはないのかも』とでも思ったのだろう。
案外素直に箸を伸ばした。それでも、イヤそうな顔はしていたが。
「…………」
おかずを一品摘み、口の前に運んできて……そこで矢島の動きが止まる。
しかし、何時までもそのままにしておくわけにもいかず……。
やがて、矢島は覚悟を決めたような表情になると、おかずを口の中に勢いよく放り込んだ。
「えへへ~。おいしいね~」
「ウン! とってもデリシャス♪」
笑い合いながら、楽しげに食事をする松本とレミィ。
その横で、
「……………………」
矢島は真っ白に燃え尽きていた。
俺は、そんな矢島に対して、彼の勇気に敬意を表して、
「…………南無」
ただただ合掌するのであった。
「ちょっとヒロ。あんた、何やってるの?」
みんなからほんの少しだけ離れた所にいた俺の元にやって来るなり志保が一言。
「へ?」
俺は、わけが分からずに聞き返した。
「なに傍観者になってるのよ? ほら、こっち来なさいよ!」
グイグイと俺の手を引っ張りながら志保が言った。
「ちょ、ちょっと待てよ。別に傍観者になってるつもりはないぞ。ただ、こうしてボーッとみんなの様子を眺めてるのが好きだったりするだけで……」
「そういうのを傍観者って言うのよ! あんたねぇ、もう少し己って物をわきまえたらどうなの? ヒロにそんな大人ぶった態度は似合わないわ」
俺の意志を綺麗に無視して手を引っ張り続ける志保。口からは文句が絶えない。
「なんだよ。そんなこと言って、本当は、俺がそばにいなくて寂しかったんじゃないのか? だから俺のことを呼びに来たんだろ?」
「ば、バカな事言ってるんじゃないわよ! 変な勘違いするんじゃない!」
顔に血を昇らせて志保が叫んだ。
興奮の為か耳まで真っ赤にしてやがる。
「まったく、しょーがねーなぁ。寂しがりやの志保ちゃんは」
「違うっつーの! ヒロの分際で生意気なこと言うな!」
「わかったわかった。近くにいてやるからそんなに寂しがるな」
「違うって言ってるでしょーが!!」
「へいへい」
俺は、志保の叫びを軽く受け流すと、みんなの輪の中に飛び込んでいった。
「……ったくもう」
呆れたような怒ったような……それでいて楽しげ。そんな複雑な顔をして志保も輪に加わった。
午後の授業が始まるまではもう少し余裕がある。
だから、それまでは思いっ切り堪能しよう。
賑やかで騒々しくて、笑顔で溢れていて温かい。
そんな、俺たちの昼休みを。
< おわり >
☆ あとがき ☆
今更って気もしますが、これでやっと主要人物が出そろった感じです。
……忘れてるキャラ、いるかも(汗)
あ、ちなみにマルチとセリオは充電を済ませてから参加してます。
最新式の来栖川製高速充電器を使えばあっという間にフル充電だって完了しますし。
…………。
無理があるって言うなーっ!
自分でも分かってる、分かってるんだよ~(泣)
最後に……垣本×吉井のカップリングって違和感あります?
私は結構良いんじゃないかと思うのですが……。
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