『罪な女(ひと)』
それは学校からの帰り道。
友人の藤田ゆかりと一緒に歩いていた時の事だった。
「あら、ゆかりちゃんじゃない」
背後から、穏やかな声で呼び止められた。
何事かと思って振り向くと、そこには大きく膨らんだスーパーの袋を持った30代半ばくらいだと思われる女性が立っていた。
第一印象……優しそうで、綺麗な人。
不覚にも、わたしはポーッと頬を染めて見取れてしまった。
「こんにちは」
「あっ。こんにちは、ひかりさん」
その女性――ひかりさんという名前らしい――に挨拶を返すゆかりの声に、わたしはハッと我に返った。
「こ、こんにちは!
初めまして。わ、わたし、ゆかりのクラスメートの南優子って言います」
わたしも慌てて挨拶をする。
「はい、初めまして。わたしは神岸ひかりって言います」
ニッコリと笑って名乗るひかりさん。
その笑顔を見て、わたしは再度頬が色付いていくのを感じた。
わたしには『その気』はないはずだけど……相手がひかりさんだったらいいかも、なんて思ってしまう。見事なまでに魅了されてしまった。
……ハァ。
本当に綺麗な人。落ち着いた大人の女って感じだし。
「ひかりんって呼んでね♪」
…………大人の女?
その一言で、わたしの中のひかりさんの評価が瞬時に変わった。
素敵なレディからお茶目で可愛いお姉様へ。
どちらにしても、わたしのひかりさんに対する好感度ゲージはグングンと上昇中。
ああっ、いけない道に進んでしまいそう。
それにしても……ひかりさんって、どことなくゆかりと顔立ちとかが似ている様な……。
まあ、さすがに姉妹ってことはないだろうけど。
「ねえねえ、ゆかり。ひかりさんとあなたってどういう関係?」
なんとなく気になったわたしは、ゆかりの耳に口を近付けて小声で尋ねた。
「ひかりさん? ひかりさんはわたしのお母さんの……」
「姉です」
どうやら、わたしの問いはひかりさんにも聞こえてしまったらしい。
ゆかりの言葉を遮ってひかりさんが答える。
「なるほど」
わたしは、その答えに深く納得した。
それなら似ていても不思議はないし、年齢的にみても丁度それぐらいの差に思えたから。
ただ、
「……………………」
心底呆れた様な顔でジトーッとひかりさんの事を見ているゆかりの視線が気にはなったが。
「なーに? なにか言いたい事がありそうね、ゆかりちゃん」
「……いえ、別に」
悪戯っぽくニヤニヤした笑いを浮かべるひかりさんと、言葉とは裏腹に思いっ切り物言いたげな表情をしているゆかり。
「? ? ?」
その様子を見て、わたしの頭の中には『?』が飛び交うのだった。
同時に、見つめ合う二人を見て、何とも表現しがたい胸のモヤモヤを抱いてしまうのであった。
「……………………」
―――数分後。
わたしたちとの立ち話を終え、スキップせんばかりの軽い足取りで去っていくひかりさん。
そんな彼女の事を名残惜しく見つめながら、
「ねえ、ゆかり。ひかりさんってさ、ゆかりのお母さんのお姉さんじゃないんでしょ?」
わたしはゆかりにそう問い掛けた。
「うん。よく分かったね」
「誰だって分かるわよ。あなたってば、露骨に呆れた顔してたもの。
……で? ホントのところはどうなの?」
「ひかりさんは、お母さんのお母さんだよ」
サラッと爆弾を投下するゆかり。
「……へ?」
一瞬、ゆかりの言った事が理解できず、わたしは間が抜けた声を上げてしまった。
「だから、お母さんのお母さんなの」
「ち、ちょっと待ってよ。そ、それって……つまり……」
ひかりさんは、ゆかりにとって……お、おばあ……。
……………………。
「ウソでしょーーーーーーーーっ!」
「ホント」
至極簡潔にゆかりが言う。
「ひかりさん、若く見えるけど今年で○○歳だし」
「な、な、な、なんですとーーーーーーーーーーーーっっっ!!」」
衝撃の事実を聞いて、わたしの顔はムンクの様になってしまう。
ひ、ひかりさんが○○歳だなんて……。
で、でもでも……愛があれば年の差も性別も関係ないわ。
うん、そうよね。問題ないわ。ノープロブレムよゥ
…………って…………愛?
そ、そうなの? わたしってばそうなの?
……あ、あれ?
数日後、わたしはゆかりのお母さんであるあかりさんと出会った。
あかりさんは、冗談抜きでゆかりと姉妹にしか見えないくらい、非常に若々しくて可愛らしい人だった。
そして、わたしは思った。
『ひかりさんも良いけど……あかりさんも……す・て・きゥ』
ううっ。
わたしってば……わたしってば……。
< おわり >
☆ あとがき ☆
ダメ人間、ここに極まれり…………グフッ=□○_
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