嗚呼! 素晴らしき(Ba)カップル
~ 羽村亮&七荻鏡花 ~
朝特有の柔らかな陽射しと涼やかな風。
それらを心地よく感じながら、一組のカップルがベッドの中で身を寄せ合っていました。
二人とも何も身に付けずに、相手の体温と感触を直に堪能しています。
「なぁ、鏡花」
「うん? なーに、亮?」
はい。そのカップルとは羽村亮くんと七荻鏡花ちゃんです。
こちらの説明の手間を省くように呼び合ってくれたりしてますが、決してわざとらしいなどとは言わないように。
「お前、今日はどうするんだ?」
「そうねぇ。いくら両親公認とはいえ、偶には顔を見せに帰らなきゃいけないんだろうけど……」
言葉は少ないですが、鏡花ちゃんにはきちんと通じているみたいです。
要するに『今晩も泊まりに来るか?』ってことですね。
それにしても『偶には』とは……。鏡花ちゃんは、そんなに亮くんの部屋に入り浸りなのでしょうか? まあ、両親公認らしいですから別に構わないのでしょうけど。
「亮は帰ってほしい?」
イタズラっぽい、それでいて何かを期待しているような顔で鏡花ちゃんが尋ねました。
「そんなことあるわけないだろ。帰ってなんかほしくない。鏡花には、ずっと俺のそばにいてほしい」
亮くんは、鏡花ちゃんの身体をギュッと抱き寄せて即答しました。
鏡花ちゃんは『サトリ』です。口になど出さなくても亮くんの気持ちは分かっています。
しかし、それでも亮くんは敢えて口に出して言いました。
鏡花ちゃんがコミュニケーションを、『言葉』を望んでいるのが分かっているから。
「そっか。それじゃ、寂しがりやな亮の為に、今晩も泊まっていってあげるわ」
挑発的に宣う鏡花ちゃん。ですが、その顔には、亮くんが自分が望む答を返してくれたことに対する喜びがありありと浮かんでいます。
ちなみに、これで4日連続のお泊まりです。既に半同棲状態です。
この状況に対して鏡花ちゃんのお母さんは、
『まあまあ。鏡花ったらラブラブねぇ♪』
とのこと。
お父さんは、
『亮くん、期待しているぞ。ところで、初孫の名付け親には私がなってもいいかね?』
と仰っています。
…………はっちゃけてますね、いろんな意味で。
話を亮くんたちに戻します。
「……鏡花」
「……亮」
生まれたままの姿を密着させ合っていた為か、徐々に気持ちが高ぶってきた亮くんと鏡花ちゃん。
抱き締め合う腕に力が込められていきます。
若い二人のこと。一度火が灯ってしまったら、もう止められるはずがありません。
指を……足を……そして、気が付けば舌までもを絡ませ始めました。
「亮……大好き……誰よりも大好き……愛してる」
「俺もだ。愛してるよ鏡花」
普段だったら恥ずかしくて絶対に言えないセリフも自然に口を突いて出ます。それほど気持ちが高ぶっています。
亮くんと鏡花ちゃんは、全身でお互いを求め、深く深く重なり合っていきました。
身も……心も……全てが一つになり溶け合っていきました。
何があったのかは詳しくは言えませんが、とにもかくにも亮くんも鏡花ちゃんも非常に満ち足りた表情をしています。
ほんのちょっぴり疲労感を漂わせているのはご愛敬。
さて、そんな幸せいっぱいの二人ですが、彼らの現在の身分は高校生。となれば、当然学校に行かなくてはなりません。
二人で一緒のシャワー,二人で一緒の朝食を終えると、亮くんたちは制服に着替えました。
「んと……どう?」
鏡の前で、髪を纏めてトレードマークであるツインテールを作ると、鏡花ちゃんは亮くんの方を振り向いて尋ねました。
「完璧」
親指を立てて答える亮くん。
「ホント?」
「おう、バッチリだぜ。可愛い可愛い」
「えへへ」
鏡花ちゃんはその答えに満足すると、花が咲いたような笑顔を浮かべて亮くんの元へピョンと跳ね寄り、
「よしっ! それじゃ、そろそろ行きましょうか」
そう言って、彼の腕を取りました。
「ああ、行こう」
亮くんは、当初はそのような行為に照れまくっていましたが、さすがにもう慣れたみたいです。
特に気にすることもなく受け入れ、鏡花ちゃんと仲睦まじく部屋を出ていきました。
亮くんがドアの鍵を閉めていると、隣の部屋のドアが開かれました。
「おっす、マコトにキララ」
「おはよう、二人とも」
亮くんと鏡花ちゃんが出てきた二人の女の子に挨拶しました。
「おはよう」
「にーちゃん、ねーちゃん、グッドモーニングや!」
クールに返してきたのが祁答院マコトちゃん。シタッと勢い良く手を挙げて、元気を炸裂させて挨拶したのがキララちゃんです。
「朝っぱらから無意味にパワフルだな、お前は」
そんなキララちゃんを見て、亮くんは苦笑を浮かべて言いました。
「うっさいなぁ。ええやんか。ウチがパワフルで何か困ることでもあるんか?」
「それはまあ、いろいろと…………いえ、なにもないです」
途中で意見を180度変える亮くん。彼の目の前では、キララちゃんが獲物を狙う眼差しで蹴りの体勢に入っていました。
「……わかればええんや、わかれば。
そもそもなぁ、パワフルって面では、ウチなんかより、にーちゃんとねーちゃんの方がよっぽど凄いやんか」
「「はぁ?」」
不思議そうな声を上げる亮くんと鏡花ちゃん。
元気の権化みたいなキララちゃんに自分以上にパワフルだと言われても納得は出来ないでしょう。
「毎晩毎晩まーーーいばん夜遅くまで盛ってからに。しかも、それだけならまだしも朝からまで。ほーんまに凄いわ。ウチにはとてもとても真似できんなぁ」
「「っ!!」」
ニヤニヤ笑いながらのキララちゃんの指摘に、亮くんと鏡花ちゃんの顔がみるみるうちに朱色に染まっていきました。
「な、なんであんたがそんな事を知ってるのよ!?」
「お前、ひょっとして覗いてたのか!?」
勢い込んでキララちゃんに詰め寄る二人。
その二人の行動を遮るようにマコトちゃんが口を開きました。
「羽村、鏡花」
「な、なんだよ祁答院」
「な、なによマコト」
「するなとは言わない。愛する者同士が契りを交わすのは自然な行為だ。だが、睡眠時間を削ってまでしてはいけない」
「「っっ!!」」
真面目な顔で説くマコトちゃん。それを聞いて、亮くんと鏡花ちゃん、さらに赤面。
素で言われている分、ダメージが大きかったみたいです。
「せめて0時になったら寝たほうがいい。体調管理も我々火者には大切なことだからな」
「それは……その……分かってるわよ。分かってるけど……りょ、亮が……放してくれないんだもん」
「……ふむ。なるほど、そうか。つまり羽村が悪いのか」
「そ、そうよ! 亮が全部悪いのよ!」
「ちょっと待てーーーーーーっ!!」
勝手な言い分をする鏡花ちゃんと、それを疑うことなくすんなりと受け入れるマコトちゃんに、亮くんは声を張り上げてツッコミを入れました。
「なんで俺だけの所為なんだよ!? だいたい、鏡花の方からだってお強請り…………」
「ちぇすとーーーーーーっ!!」
「がとつっっっ!」
鏡花ちゃんの突きを喰らい、謎の叫びを上げながら吹き飛ぶ亮くん。
さすがはサトリの鏡花ちゃん。自分にとって都合の悪い事は言わせません。
見事なまでに『悪・即・斬』です。
「いらんこと言うな!」
ダウンしている亮くんを見下ろして鏡花ちゃんが一喝。でも、おそらく亮くんは聞いてないでしょう。ちょっぴりだけピクピクと痙攣してますし。
「まあ、それはともかくとして……」
鏡花ちゃんがマコトちゃんたちの方に目を向けて言いました。
どうでもいいですが、亮くん、捨て置かれてます。……いと哀れ。
「さっきも訊いたけど……なんであんたらがあたしたちの……その……夜の事を知ってるのよ? まさか、本気で覗いてたんじゃないでしょうね?」
微かに目を細めて尋ねる鏡花ちゃん。マコトちゃんらの解答によっては血を見る事態を起こしそうな雰囲気です。
「あのなぁ、ねーちゃん。自分、どんだけの声を出してるのか自覚ないんか?」
その危険なオーラをサラッと受け流して、キララちゃんが呆れたような声で問い返しました。
「……へ? 声?」
「お前の嬌声は大きい。はっきり言って筒抜けだ。イヤでも耳に入ってくるさ」
「へ? へ? へ?
そ、それって……マジ?」
鏡花ちゃんの問いに、マコトちゃんとキララちゃんは揃って頷きました。
「っっっ!!」
瞬時に、全身が染まっていく鏡花ちゃん。湯気すら発しそうな位に真っ赤です。
「気持ちいいのは分かるが、少しは声を抑える努力はした方がいいぞ」
「うんうん、同感や。あんなエッチな声を何時間も聞かされるのは堪らんからなぁ」
「…………」
鏡花ちゃん沈黙。もはやぐうの音も出ません。
「きっと、ウチらと反対側のお隣さんも苦労してるんやろうなぁ」
「っっっ!!」
キララちゃんの指摘に鏡花ちゃんの顔がピキッと引き攣りました。
確かにそうです。マコトちゃんの部屋に聞こえているのなら、もう片方の隣の部屋にだって聞こえていないはずがありません。
思わず、頭を抱えたくなってしまう鏡花ちゃんでした。
その時です。
非常にタイミング良く件の部屋のドアが開かれました。
「まったくだ。鏡花の声には私もいつも困っている」
本当に絶妙です。出てくるタイミングを窺っていたのではないかと勘ぐってしまう程です。
ですが、鏡花ちゃんたちにはそんなことを気にしている余裕はありませんでした。
何故なら、部屋から出てきたのがあまりにも予想外の人物だったからです。
「「そ、ソウジさん!?」」
驚愕の声を上げる鏡花ちゃん……と、亮くん。
亮くん、いつの間にか復活したみたいです。さすがは火者、タフですね。
というか、頑丈なくらいでないと、鏡花ちゃんの恋人は務まらないのかもしれませんが。
「「な、なんでソウジさんが此処に!?」」
ユニゾンで叫ぶ亮くんと鏡花ちゃん。
「なんでと問われても、此処は前々から私の部屋だからな」
「ま、前々って……いつ頃からですか?」
「君が隣に越してくる前からだ」
「「っ!?」」
驚きの新事実。なんと、随分と前からソウジさんは亮くんのお隣さんだったのです。
…………こらそこ。ご都合主義とか言わない様に。
「き、気付かなかった。全然気付かなかった」
「あ、あたしとしたことが……」
「ありゃりゃ。灯台もと暗しってやつやな」
「……ふ、不覚」
程度の差はあれど、一様にショックを受ける亮くんたち。
特に鏡花ちゃんとマコトちゃんのショックは大きそうです。
光狩の気を感じる事には長けている二人ですから、長い間気付けなかったことに衝撃を受けているみたいです。
まあ、ソウジさんは並みの光狩ではありませんから、気配を隠すことなどお手の物なのかもしれません。となれば、二人が分からなかったのも無理ありません。
「それにしても……生きてたんですね、ソウジさん」
なんとか立ち直った亮くんがそう声をかけました。
「おかげさまでな。こうして生き恥を晒している」
「そ、そうだ! ソウジさん! 生きていたのなら、なんで姉さんに会ってあげないんですか!? 姉さんは……姉さんは……きっと今でもソウジさんの事を覚えてます! 朧気かもしれないけど、絶対に覚えてます! だから……だから……姉さんに会ってあげて下さい!」
鏡花ちゃんがソウジさんに詰め寄りました。その瞳は僅かに潤んでいます。
「そ、そうですよ! 俺からもお願いします! 美里さんに会ってあげて下さい!」
亮くんもソウジさんに訴えます。
そんな二人の必死な声に呼応するように、隣の部屋からもう一人出てきました。
「呼んだ~?」
「……………………」
「……………………」
意外な人物の登場に、亮くんと鏡花ちゃん、ポケーッと呆然。
「あら? みんなお揃いで。どうしたのいったい?」
出てきたのは美里さん。鏡花ちゃんのお姉さんです。
「ありゃ。こりゃまた予想外の展開やな」
「……まったくだ」
キララちゃんとマコトちゃんの声に我に返った鏡花ちゃん。
「ど、ど、ど、どうして姉さんが此処にいるのよ!?」
美里さんの前に駆け寄ると思いっ切り吼えました。
「? 恋人の部屋にいたらおかしい?」
その猛烈な勢いを気にする素振りも見せずに、美里さんはおっとりとした口調で答えました。
「……おかしくは……ないけど……」
気勢を削がれ、鏡花ちゃんの声から迫力が失われていきます。
「でしょ? 鏡花ちゃんだって亮くんといっつも一緒にいるもんねぇ。ほーんとラブラブよねぇ」
「う゛っ」
美里さんの反撃に鏡花ちゃん轟沈。
暫しの沈黙の後、
「……コホン」
鏡花ちゃん、一つ咳払い。
「ま、まあ、それはいいとして……姉さんってば、此処がソウジさんの部屋だって知ってたのね。どうして黙ってたのよ? そして、ソウジさんと会ってる事、なんであたしにまで内緒にしてたの?」
少し責める様な口調で鏡花ちゃんが訊きました。
「それはね」
「それは?」
「密会っていうのに憧れてたのよ♪」
「…………は?」
予想の範疇の外にあった答えに、鏡花ちゃん目が点。
「誰にも秘密の逢瀬、いつバレるか分からないスリル。ああっ、これぞ女の浪漫だわ」
頬に両手を添えて、『やんやん』と身体をくねらせるミサトさん。
「…………ね、姉さんって…………」
そんな姉の姿に、思わず冷や汗を滴らせてしまう鏡花ちゃんでありました。
「あの……ソウジさん。つかぬ事をお尋ねしますが……美里さんの記憶は?」
キャイキャイと姦しく騒ぐ鏡花ちゃんたちを横目に、亮くんは美里さんの耳に入らないように小声で質問しました。
「……フッ」
その問いに、ソウジさんは軽い笑みだけで応えました。
具体的な回答を貰ったわけではありませんが、亮くんはそれだけで全てが理解できた気がしました。
(美里さんにとっての辛い記憶は全部消したんだろうな。それが許される事かどうかは俺には分からないけど……でも、それで二人が幸せになれるのなら……構わないのかもしれない。少なくとも……俺は……そう思う)
などとシリアスな事を亮くんが考えている間も、鏡花ちゃんと美里さんの姉妹の会話は続いていました。
「そういえば……鏡花ちゃんのあの時の声って凄いのねぇ。ビックリしちゃったわ」
「なっ! なにを言い出すのよ姉さん!」
「思わず触発されて……昨晩は燃えちゃったわ」
ポッと頬を染め、大胆発言をする美里さん。
「そ、そうなんですか?」
ちょっぴり冷や汗を垂らして亮くんがソウジさんに尋ねます。
「……フッ」
またもや笑みだけで返すソウジさん。
「……さいですか」
亮くんの方も、それだけで再び全てを理解してしまうのでした。
「鏡花ちゃんたちのエッチって伝染性があるのかしらねぇ」
「そんなことあるわけないでしょ!」
「わからないわよぉ」
そう言うと、美里さんはマコトちゃんとキララちゃんに視線を向けて、
「あなたたちもお隣さん? それだったら気を付けた方がいいわよ。じゃないと感染しちゃうから」
などと宣いました。
「なに考えてるのよ!? あの二人は女同士でしょうが! なにに気を付けるって言うのよ!!」
ガルルと凄まじい勢いで美里さんに噛みつく鏡花ちゃん。
「なにって……ナニよ」
「姉さーーーーーーん!!」
生々しくも危険な会話を繰り広げる姉妹。
その二人の元にキララちゃんがトコトコと近付いてきました。
「なあ、ねーちゃんねーちゃん」
「ん? どうしたの?」
「なによキララ」
「あんな、警告は有り難いんやけど……」
「「けど?」」
声を合わせて、キララちゃんの話を促す二人。
「もう手遅れや」
キララちゃんは、少し照れたような顔で告白して下さりました。
「……っっ!?」
「あらあら」
ピシッと石化する鏡花ちゃんと、『やっぱり』といった顔になる美里さん。
好対照な反応です。
「そ、そうなのか?」
ダラダラと冷や汗を垂らして亮くんがマコトちゃんに尋ねます。
「……フッ」
ソウジさん同様笑みだけで返すマコトちゃん。
「……さ、さいですか」
亮くんの方も、それだけで再び再び全てを理解してしまうのでした。
嫌でも。
「まあ、あんなエッチな声を毎晩聞かされちゃったらしょうがないわよねぇ」
「そやそや。あんなんを聞かされて我慢しろなんて酷ってもんや」
「……………………ううっ」
「そうよねぇ。酷よねぇ」
「うんうん」
「……………………うううっ」
結論。
ラブラブいちゃいちゃの(Ba)カップルのエッチは伝染します。
みなさんもくれぐれもお気を付け下さい。
え? 学校はどうした? 彼らは学校に行こうとしてたんじゃなかったのか?
…………さぁ?
< おわり >
☆ あとがき ☆
『夜が来る!』のSSを書く上で、ソウジって壊しがいのあるキャラだと思います。
次は、もっとはっちゃけたソウジを書きたいですね(^ ^;
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