嗚呼! 素晴らしき(Ba)カップル
~ 千堂和樹&高瀬瑞希 ~
ここは、みなさんご存じのこみパ会場。
こみパでも最大手の一つに数えられるようになった『ブラザー2』。
そのスペースには『完売御礼』の札が立てられていました。
現在の時刻は午後0時。
開場からまだ間もないのに、もう全ての商品アイテムを売り切ってしまいました。さすが、超人気サークルは違います。
さてさて、その主催者の千堂和樹くん。彼は今、激闘を終えた疲労により机に突っ伏していました。見事なまでに燃え尽きています。真っ白です。灰になってます。放っておくとロストしてしまいそうです。
そんなヘロヘロ状態の和樹くんに近付いてくる男性が約一名。
「へろー、マイ同志。繁盛してるかね?」
燃える男……否、萌える漢、久品仏大志くんです。
「……てめー。今頃になって、よくもおめおめと顔を出せたもんだな」
ゾンビを彷彿とさせる様なゆっくりとした動作で顔を起こすと、和樹くんは大志くんに毒づきました。
もちろん、そんなことを気にする大志くんではありません。
「おお、よく見れば既に完売しているではないか。せっかく、この我が輩がわざわざ手伝いに来てやったというのに。なんとバッドなタイミングなのだ。非常に残念至極なり」
和樹くんの声を綺麗にシカトすると、臆面もなく宣いました。
「……大志。一回でいい。本気で殴っていいか?」
拳を握りしめて和樹くんが真顔で問いました。堅く固められた手がプルプルと震えているのがちょっぴりデンジャラスです。
「はっはっはっ。せっかくの同志の申し出なれど、それは謹んで遠慮しておこう」
爽やかな笑顔で断る大志くん。さすがです。どんな時でも無意味に偉そうです。
「それにしても、もう完売とは。いくらなんでも早過ぎるな。これでは、新刊を欲する愚民どもにエターナルフレンドの本が行き渡らんではないか。常日頃からしっかりと餌を与えておかんと、我が輩たちが世界制覇に乗り出した際、肝心なときに手駒として動かせなくなる恐れがある。それは非常に好ましくない。……すると……やはり、二千部では少ないのかもしれん」
さっぱりとした机の上を眺めながら大志くんがブツブツと零し始めました。
彼の言うことです。内容については今更言及しません。
「…………ったく」
大志くんとは長い付き合いです。既に何を言っても無駄だと悟りの境地に達しつつあるのでしょう。和樹くんも、特にこれと言ってツッコミをしません。
「…………ハァ」
和樹くんの背中に漂う哀愁に、思わず同情の念を抱きます。
「……よし、こうしよう。マイぶらざー和樹よ、次からは二万部刷るのだ」
「刷れるか!」
閃いたとばかりにポンと手を打って言う大志くん。それを、和樹くんはどきっぱりと即行で却下しました。
「何故だ? 我ながらナイスアイデアだと思うが?」
「どこがナイスアイデアだよ。あのなぁ、それだけの本を作るのに幾らかかると思ってるんだ? そもそも、それだけの量を搬入するだけの手段も空間もないだろうが」
和樹くんが呆れたように言いました。どことなく疲労感が増しているように見えるのが哀れを誘います。
「些細なことだ。気にするな。だいいち、金を出すのも搬入するのも我が輩ではないしな」
「俺にとっては些細じゃねー!」
自分の言葉をあっさりと流して他人事な発言をする大志くんに、思わず声を大にして吠えてしまう和樹くんでありました。ほんのちょっぴり殺意が込められていたりするのがお茶目。
「まあまあ。
……ところでブラザー、同志瑞希はどうしたのかね?」
和樹くんのことを軽~く宥めると、ブラザー2の看板娘であり、和樹くんの同棲相手であり、将来の奥さんである高瀬瑞希ちゃんの姿が見当たらない事を不思議に思った大志くんが尋ねました。
「あいつは買い物。なんでも、行きつけのサークルが新刊出してるんだってさ。だから、挨拶がてら買いに行った」
ややぶっきらぼうに答える和樹くん。あまりにもマイペース過ぎる大志くんに、些かご立腹の様子。
「ほう。同志瑞希にも行きつけのサークルが出来たか。ふむ、真のオタクへの階段を着実に昇っているな。良いことだ。マーベラス」
腕を組んで、大志くんは何度も何度も満足げに頷きました。
「マイエターナルフレンドはプロとしてデビューを果たし、こみパでは壁サークル。さらに同志瑞希はオタクへの成長を遂げつつある。
……これも全て我が輩の指導の賜物だな」
「待てこら」
聞き捨てならない発言に、和樹くんがたまらずツッコミを入れました。
「ん? なにかね、マイ兄弟?」
「『なにかね?』じゃねーよ。俺がプロになったのも、このサ-クルが大きくなったのも、瑞希がオタクになったのも、お前は殆ど関係ないだろうが」
「ふっ。何を言うかと思えば」
鼻で笑う大志くん。
「同志たちをこの世界に導いたのは誰だったかね? 初めてこみパ開場に連れてきたのは? ぶらざーが漫画を描くきっかけを与えたのは? それらは、全て我が輩ではないのかね?」
「それは……そうだけど……」
「であろう? さすれば、今日の同志らの栄光は須く我が輩のおかげではないか」
一理あるような気はしますが、でも、どこかが根本的に間違っていると思われることを大志くんが力説し続けます。
どうでもいいですが、瑞希ちゃんがオタク化したのは栄光なのでしょうか?
「同志瑞希がオタクへと成長したのも、マイ兄弟がプロとなったのも、壁サークル主催者となったのも、多くの婦女子に囲まれた『英雄色を好む』を地でいくバラ色生活を送れるのも……」
「ちょっと待てーーーっ! わけわかんねー事を言い出すんじゃねー! なんだよ、そのバラ色の生活ってのは!?」
慌てたように大声を出して、和樹くんが大志くんの言葉を遮りました。
「同志よ。人の話は最後まで聞きなさいと教わらなかったかね?」
ちょっぴり眉を顰めて苦言を呈する大志くん。
「やかましい! そのセリフ、お前にだけは言われたくないわい。
……てか、人聞きの悪い発言してんじゃねーよ。俺がもの凄い女好きみたいに思われるじゃないか。大体だな、そんなのがもしも瑞希の耳に入ったら絶対に誤解をされ……」
ここで法則。
聞いてほしくない話は、どういうわけか必ず当人に聞かれてしまうものである。
「ふーん。あたしの耳に入ったら何だって?」
不意に真横から届けられた冷たい声。
和樹くんが、全身から冷や汗を垂らしながら視線を向けると、何時の間に帰ってきていたのか、瑞希ちゃんが鬼の表情を浮かべて隣の椅子に座っていました。
まさに教科書通りのお約束。
瑞希ちゃんのすぐ脇に置かれている手提げ袋には『美味しい紅茶の煎れ方』『紅茶の美味しいお店ベスト50』『紅茶によく合うお菓子あれこれ』といった本が大量に入っていました。
どうやら、彼女の行きつけのサークルとは、その手の本を扱っている所みたいですね。
まあ、その中に『カードマスターピーチ』の同人誌が数冊混ざっているのはご愛敬。これも彼女の成長の証でしょう。
「ねえ和樹。多くの婦女子に囲まれた『英雄色を好む』を地でいくバラ色生活ってどういうこと? 詳しく聞かせてもらえないかしら?」
「い、いや……あの……」
やましい事など何もないのに、瑞希ちゃんの迫力に押され、やや後ずさってしまう和樹くん。
「ど・う・い・う・こ・と?」
「そ、それは……その……大志のバカが虚言を……。
な、なあ、大志。お前から瑞希に説明を…………って、いねーし!」
はい。いつの間にか大志くんは姿を消していました。
ナイスなスピードと状況判断です。これならQちゃんにだって負けません。小出監督だって大満足。
とにもかくにも、この場に於いて唯一の味方となりえる存在を失い、和樹くんは茫然自失。
「…………そう。そうなのね」
片や、瑞希ちゃんはと言いますと、
「分かったわ! 分かっちゃったわよーーーっ!」
一人で自分に都合よく(悪く?)答を出して、いい具合に盛り上がっていました。
グングンとゲージが上がっていってます。リミットブレイク寸前です。
「わーっ! 待て待て瑞希! 分かるな! 誤解なんだから勝手に分かるなーーーっ!」
「大志の言った『多くの婦女子』ってのは、きっと猪名川さんに詠美ちゃんに南さんに彩ちゃんに玲子さんに千紗ちゃんにあさひちゃんに郁美ちゃんにすばるちゃんに……編集長さんに……運送屋さんに……。
……って、ああもう! いったい何人の女に手を出せば気が済むのよ!!」
下は中学生から、上は2(ピー)歳までですか。幅広いですね、和樹くんのストライクゾーンは。
「だーーーーーーっ! 出してないっつーの! 言い掛かりだ! 冤罪だ!」
「うるさい! 和樹のバカ! スケベ! 変態! 節操無し! スケコマシ! 女たらしーーーっ!」
完全に切れちゃってる瑞希ちゃん。もはや聞く耳なんか持ってません。
「……お、落ち着け瑞希。いいから、まずは落ち着こう。……そして、頼むから少しは俺の話を聞いてくれよ。ここは冷静に話し合おうじゃないか」
なんとか瑞希ちゃんを鎮めようと、刺激を与えないように穏やかな口調で語り掛ける和樹くん。
もっとも、
「(ピー)や(ピー)、あまつさえ(ピー)な事をあたし以外の女の子にもしてるんでしょ! さらには(ピー)で(ピー)なんか……。も、もしかすると(ピー)も!? そんなの、あたしだってまだなのに!」
効果は全くありませんが。
「……ううっ、お願いだから落ち着こうよ~~~」
興奮のあまり、危ない発言をエンドレスで繰り返す瑞希ちゃん。その結果、二人の夜の生活がどんどんと暴かれていきました。
和樹くん、ちょっぴり涙目です。背景に縦線を背負っちゃってます。
確認しておきますが、ここはこみパ会場です。
周りには他のサークルの人たちやお客さん、スタッフの方々等大勢の人がいます。
しかも、和樹くんたちがいるのは、大手サークルが集中している場所です。
和樹くんと瑞希ちゃん……見事なまでに注目の的。
爽やかな純情少女といった風情の瑞希ちゃんの口から出てくる過激な行為の数々。
周囲では、顔を真っ赤に染めたり、鼻血を出したり、とある理由で椅子から立ち上がれなくなる人が続出しています。
被害が拡大していく様を頭を抱えて見ている和樹くん。
どうしたものかと途方に暮れちゃってます。
そんな和樹くんですが、実は、彼には瑞希ちゃんを落ち着かせる最終兵器があるのです。
その手を使えば、瑞希ちゃんは即座におとなしくなること間違いありません。効果のほどは実証済み。ばっちり保証付きです。深夜の通販番組でマイケルに紹介してもらいたいぐらいです。今なら更に、サービスでもう一本付いてきます。
ですが、一つだけ難点があります。それを用いた場合、さらに注目を集めてしまう可能性が非常に高いのです。……というか、疑う余地もありません。
従って、和樹くんは使用を躊躇してしまっているのです。
あんまり引っ張っても何ですので先にネタばらしをしちゃいます。
その手段とは、いわゆる一つのキスです。くちづけです、接吻です、早い話がチューです。
「ど、どうしよう。最終兵器を使えば瑞希をおとなしくさせられるけど……。でもなぁ……」
和樹くんには二つの選択肢が提示されています。
一つ目は、奥義を駆使して瑞希ちゃんを落ち着かせる事。
二つ目は、放っておいて自然鎮火を待つ事。
どちらにしても注目を浴びることには変わりありません。早いか遅いか。前向きか後ろ向きかの違いだけです。
ちなみに、大志くんのようにこの場から逃げるという選択肢も一応ありますが、それを選んだ場合、帰宅後和樹くんは瑞希ちゃんによって死よりも辛い苦行を背負わされる事になるでしょう。その為、無条件で却下です。
「ハァ、仕方ない。やっぱり、放っておくわけにはいかないよな」
どうやら覚悟を決めたようです。
和樹くんは、未だに自粛が必要な発言を繰り返す瑞希ちゃんの体をギュッと抱き締め、
「……え? な、なに……んんっ」
強引にくちびるを重ね合わせました。
驚愕に目を見開かせる瑞希ちゃん。和樹くんから離れようと体をジタバタさせます。
しかし、
「ん……ぅん……む……んん……」
しばらくすると、全身から力を抜き、和樹くんに身を委ね始めました。
「んむ……ふ……んっ」
そして、開始からたっぷり5分が過ぎた頃、
「ハァ……ハァ……」
瑞希ちゃんはやっと解放されました。
「……な……なにを……するのよぉ」
涙目で抗議する瑞希ちゃん。ですが、声にちょっと甘えの色が混じってしまっている為、先程までのような迫力は感じられません。
「だって、こうでもしないと、俺の話を聞いてくれないだろ。落ち着けって言ってるのに一人で暴走しやがって」
「う゛っ」
和樹くんの指摘に、瑞希ちゃんが苦い顔になりました。
「……なあ、瑞希。大志の言ってた事だけどさ。あんなの嘘っぱちだって。俺が瑞希以外の女の子に手を出すわけないじゃないか」
「……ホント?」
下から見上げるようにして瑞希ちゃんが尋ねます。
瞳に涙が溜まり、尚かつ頬が上気している表情でのその行為。破壊力は絶大です。
「ああ、本当さ。決まってるだろ。俺が愛してるのは瑞希だけだからな」
和樹くんは、ガバッと押し倒したくなる欲望を何とか抑え、瑞希ちゃんに答えました。
その際、歯をキラッと輝かせて、爽やかに笑いかけることも忘れません。
瑞希ちゃんがその笑顔に弱い事を知った上での行い。和樹くん、なかなかに策士です。
当然、瑞希ちゃんは即座にノックアウト。お怒りモードから、一気にご機嫌モードへとスイッチが切り替わりました。
「嬉しい♪ かずきぃ~ゥ」
和樹くんに抱き付いて、頬にチュッチュッと何度もくちびるを触れさせます。
「そうだよね。和樹が浮気なんかするわけないよね。……それなのにあたしったら。
ごめんね、和樹。疑っちゃったりして。……あたしってイヤな女の子だね」
「気にするなよ。悪いのは全部大志の大バカ野郎だからな。瑞希は全然悪くないさ」
そして、再び瑞希ちゃんに向かって、歯をキラーン☆
「あ~ん。和樹ってば優しいぃ~~~」
もう、瑞希ちゃんはメロメロです。
「はっはっはっ。優しいのは瑞希に対してだけさ」
「かずきぃ~~~ゥ」
和樹くん、何気にノリノリです。
先程までの、瑞希ちゃんを落ち着かせようとしていた和樹くんはどこへ行ってしまったのでしょう?
キスしたことにより、自分の煩悩にも火が灯ってしまったのでしょうか。
こうなってしまいますと、ある意味、ミイラ取りがミイラに……そんな気がしないでもありません。
さてさて、再度確認しておきますが、二人がいるのはこみパ会場です。
周りには大勢の人がいます。
しかも、和樹くんたちがいるのは、大手サークルが集中している場所です。
和樹くんと瑞希ちゃん……ど注目の的。
噂が噂を呼び、わざわざ二人の熱々ぶりを見に来た野次馬まで集まりだし、周囲の人の数は当初に比べ『倍率ドンさらに倍! しかも今ならラッキーチャンスでもう一つ倍!』ってな感じで増えていました。
そんな大量の視線の中で、
「和樹、だ~い好きゥ」
瑞希ちゃんは、和樹くんの胸に顔を擦り寄せて思いっ切り甘えまくっています。
幾分精神年齢が下がっているような気がしますが、もしかしたら、二人きりの時はいつもこんな感じなのかもしれません。周りの者にそう思わせるだけの雰囲気が充満しています。
「こらこら。くすぐったいってば。やめろよ」
「い~や♪」
「ほお~。そっかそっか。それなら……うりゃ、反撃!」
そう言うと、和樹くんは瑞希ちゃんのうなじをコショコショとくすぐりました。
「や、や~ん。もう、ばかぁ~。だめぇ~」
どう聞いても嫌がっているようには思えない甘ったる~~~い声が辺りの人々の聴覚を刺激しました。
顔を深紅に染めたり、鼻血を噴出させて救護室に担ぎ込まれたり、とある理由で椅子から立ち上がれなくなる人やその場で中腰になってしまう人が再び続出。
周囲にそんな多大な被害を与えながら、
「ねぇ、か~ずき♪」
「なんだい、瑞希?」
「んふふふふ~。呼んでみただけ~」
「こいつ~」
「えへへ♪」
お互いの瞳に相手しか映らない、まさに『オンリーユー』な世界で、二人はイチャイチャし続けるのでした。
偉大なる(Ba)カップルに幸あれ!
< おわり >
< おまけ >
危機に瀕した友をあっさりと切り捨て、すたこらさっさと逃げ出した大志くん。
しばらくブラブラしていましたが、そろそろほとぼりも冷めた頃だろうと思い、再び和樹くんの元へと向かいました。
「……おや?」
不意に、大志くんは会場内に蠢く異様な雰囲気と気配を察知しました。
妙に空気が甘くてピンクなのです。
しかもそれは、和樹くんたちの場所に近付けば近付くほど強くなっていきました。
同時に、それに毒されたのか、頬を上気させている人や、とある理由により立ち上がれなくなっている人の数も増えてきました。
「ふむ、これはいったい何事か?」
怪訝に思いながらも進んでいく大志くん。
すると、その進行方向から見知った人影が現れました。
「よっ!」
サークル辛味亭の主催者猪名川由宇ちゃんです。
「おおっ、同志由宇ではないか。
……どうした? なにやら奇妙な表情をしておるが」
大志くんの指摘した通り、由宇ちゃんは幾つもの感情が入り混じった様な複雑な顔をしていました。
呆れ4割
恥ずかしさ3割
微笑ましさ2割
その他2割
無回答1割
内訳はこんなところでしょうか。
「なんやねんそれは!? そもそも、全部で10割をオーバーしとるやないかい!」
さすがは由宇ちゃんです。細かいボケも見逃しません。こみパのベストツッコミャーの称号は伊達ではありません。
「それはともかく。
……誰だって奇妙な表情にもなるわ。あれを見たらな」
「あれ? あれとは?」
「うーん、なんちゅーか……どう説明したらええのか……。
まあ、実際に見てもらった方が早いわ。百聞は一見に如かずって言うしな」
そう言うと、指で『着いてこい』というジェスチャーをしながら、今来た道を戻っていく由宇ちゃん。
「うむ。では、そうさせてもらうか」
一つ鷹揚にうなずくと、大志くんは後に従いました。
「ほら。原因はあれや」
目標から微妙に距離を取った場所にポジションを据えると、由宇ちゃんは指を差して大志くんに示しました。
「どれどれ。
……………………ぬをっ!?」
大志くんの目が大きく見開かれました。
彼の視線の先には、
「ねえ、和樹ぃ~?」
「ん?」
「今日の夜は何が食べたい? 今日は和樹頑張ったもんね。ご褒美として何でもリクエストを聞いてあげちゃう」
「マジで? 何でもいいのか?」
「うん♪」
「だったら……瑞希」
「え?」
「だから、瑞希がいい。思いっ切り味わいたい。だって、俺の一番の好物だし」
「…………う、うん。分かった。
あたしも……和樹にいっぱい食べてほしいしゥ」
「あ、そうそう。御馳走してくれる際には裸エプロンが基本な」
「……………………ばか」
イチャイチャべたべたイチャイチャべたべたとする和樹くんと瑞希ちゃんの姿がありました。
それはそれはもう、見ているだけで胸焼けを起こしそうな光景でした。
まるで新婚さんのような会話を行い、これでもかとばかりに桃色の空気を周囲に振りまいています。
はっきり言いまして、独り者には刺激が強すぎます。
「なっ? こんなのを見せ付けられたら、誰だって複雑な顔になるわ」
「……うむむ……見事だ」
「……はいぃ?」
予想と著しく異なる大志くんの返答に、由宇ちゃんが素っ頓狂な声を上げました。
「見事だぞ同志よ! まさかこのような手段を講じるとは、さすがの我が輩も想像だに出来なかった! これには、驚き桃の木この木何の木気になる木だ!」
「な、なんのこっちゃ?」
一人で何やら納得している大志くんに、由宇ちゃんは困惑顔です。
「敢えてバカップルを演じて会場内に桃色の空気を振りまき、それによって周囲のライバルたちを骨抜きにし堕落させ、その隙に覇権を握ろうと言うのだな! グレイトだ! まったくもってエクセレントだぞ、マイフレンドよ!」
どこをどう解釈したら、そのような結論に達することが出来るのでしょうか? やはり彼は常人とはひと味違います。
とにもかくにも、感動で滝のように涙を流す大志くん。
「…………おいおい。んなわけあるかい」
それを見て、由宇ちゃんはただただ呆れるのみでした。ジトーッとした目が冷たいです。氷点下です。絶対零度です。ダイヤモンドダストも真っ青です。
「ぶらざーーー! マーベラスだ! ワンダフルだ! 素敵すぎるぞ我が半身よーーーーーーっ!!」
もっとも、その視線を向けられている相手は、それに全く気が付いていませんでしたが。
どのような状況であろうとも、大志くんはやっぱりこれでもかっていうくらいに大志くんでした。
「…………ハァ。こいつらの友達…………やめよかな」
和樹くんと瑞希ちゃんの過剰ラブラブと大志くんの相変わらずっぷりを改めて目の当たりにして、ちょっぴりだけ本気で考えてしまう由宇ちゃんでありました。
< おまけおわり >
☆ あとがき ☆
あはははははははははは…………はぁ(*--*)
書いてる本人にもダメージが来る作品は久しぶりでした、はい( ̄▽ ̄;
この程度で身悶えているようでは、まだまだ甘いのでしょうけど(;^_^A
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