「う~む、困った」
いきなりだが、俺は困っていた。
「このままでは全く動けん。さて、どうしたものやら」
時はAM6時。場は俺の部屋。
チュンチュンと鳥のさえずりが耳に心地良い、よく晴れた気持ちのいい朝。
そんな中で、珍しく早い時間に眠りから解放された俺は……完全に動きを封じられていた。
その原因は……
「……すー……すー……」
俺の上で、穏やかな寝息を立てている芹香。
そう。芹香は、俺を敷き布団にして眠っていた。
俺が芹香を掛け布団にしているとも言うが。
まあ、兎にも角にも、何時の間に乗っかったのかは知らないが、芹香が俺の上にいるわけだ。
「……すー……すー……」
何と言うか……少しでも動いたら起こしてしまいそうで……
そのくせ、起こすのが本当に躊躇われる程、幸せそうな顔で寝ているわけで……
だから、俺は目を覚ましてからずっと、動くに動けない状態に陥っているのだ。
もっとも、これが綾香だったら、とっくにポイッと放り出していたかもしれないが。
え? 扱いに随分と差があるって?
はっきり言おう。気のせいだ。
「……すー……すー……」
しかし、どうでもいいけど……芹香、そろそろ起きてくれねーかなぁ。
動けないことも当然辛いのだが、ちょっとそれ以上にやばい状態になってきたのだ。
今は朝。
朝といえば……何と言うか……その……あれが……元気になるわけで……。
そんな時に芹香にピタッと密着されてると、やっぱり非常に気まずい。
それに、説明するまでもなく分かると思うが、若い男女が一つのベッドに入ったら、当然ナニをアレするわけで……。
そういう時には、これまた当然着ている物を脱いだりするわけだ。
つまり、今の芹香は、生まれたままの姿だったり、一糸纏わぬ姿だったり、もっと俗な言い方をしてしまえば『すっぽんぽん』だったりするわけだな、これが。
そんな魅力的で魅惑的な格好でくっつかれると、ただでさえ元気な……が、余計にパワーを持ってしまう。
さすがに朝っぱらそれはまずい。
『性欲魔人』だとか何だとかと言われているが、俺にだって節操と常識はあるつもりだ。
自制するべき場は弁えている。そして、今は間違いなくその『場』だ。
俺は、このままギュッと抱き締めたくなる気持ちを抑え、芹香にそっと声をかける。
「芹香。芹香。朝だぜ」
「……すー……すー……」
「芹香……芹香……」
「……すー……すー……」
「せーりかちゃーん」
「……………………」
そうして、それから5分ほど呼び掛け続けると、その声で意識を覚醒させられたのか、芹香がゆっくりと目を開け、顔を上げた。
「おっ、起きたか?」
「…………ふに?」
「おはよう、芹香」
「…………おはよう…………ございまふ…………浩之…………さん」
芹香は、まだ意識が殆ど寝ているらしく、かなりのスローテンポで挨拶を返してきた。
で、挨拶が終わると同時に……
「…………うにゅ~」
ポテッと、再び顔を俺の胸の上に落とす。
「おいおい。まったく、しょーがねーなぁ」
俺は、元の姿勢に戻ってしまった芹香に苦笑を浮かべながらツッコミを入れる。
「……って、芹香!?」
だが、その声は、瞬時に引きつったモノに変わった。
「……うにゅ~」
なぜなら、芹香が俺の胸に頬を寄せ、スリスリと動かしてきたからだ。
「せ、芹香。な、な、何やってるんだよ!?」
「……うにゅ~」
俺が止めさせようとしても芹香は全く聞かない。
まだ、完全に寝ぼけているみたいだ。
「や、やばいって芹香! 今でこそ我慢してるのにそんな事をされたら……」
「……うにゅ~」
すりすりすり。
あああ。やばい。本気でやばいって。
芹香の柔らかな感触。甘い香り。それに加えて、この甘えまくった態度。
あああああ。…………が、どんどんと臨戦態勢になっていく。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
し、しかし、ここで負けるわけには……。
こんな朝っぱらから芹香を押し倒したら、みんなに何て言われることやら。
ここは我慢だ。我慢だ。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
うぐぐ……。が、我慢だ。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
うぐぐぐぐぐぐぐ。
た、耐えろ、浩之。耐えるんだーーーっ!
この苦行に見事耐えきって、『性欲魔人』などという不名誉なレッテルを払拭するのだ!!
「……うにゅ~」
すりすりすり。
うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。
た、耐えるんだ。理性を総動員して耐えるんだ。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
……た、耐え……。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
…………耐え…………。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
……………………。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
……………………。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
……………………。
「……うにゅ~」
すりすりすり。
…………ぷちっ。
うがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!
――で、結局どうなったかと言うと……
芹香はこの日、ベッドから起きあがる事が出来なかった。
完全に腰が抜けてしまった事と、体力を激しく消耗してしまった事が原因らしい。
そして、俺は……
「やっぱり浩之ちゃんって……」
「やっぱり浩之って……」
「やっぱり藤田くんって……」
「はぁ~~~」×9
そのせいで、一日中、みんなからの冷た~い視線にさらされることとなった。
ううっ。俺って奴は……。