「ねえ、松原さん? それ、どうしたの?」
クラスメイトの一人が、わたしのほうを指差して、そう尋ねてきた。
……正確には、わたしの胸元を指差して。
「え?」
わたしは、指し示された場所に目を向ける。
すると、そこには、小さな痣のようなものが浮かび上がっていた。
わわっ! こ、これは!!
「それって、もしかして……き、キスマーク!?」
「ち、違うよ! そんなのじゃないよ!」
大きな声で確認を求めてくる声に、わたしもついつい大声で答えてしまった。
そんなやり取りに、周りのクラスメートたちも興味を惹かれたらしく、次々とわたしの周りに集まってくる。
「えーっ? 松原さん、キスマーク付けてるの~?」
「うわ~。エッチなんだ~」
「だ、だから! 違うってば! これは……そ、その……キスマークなんかじゃないよ!」
羞恥を誤魔化すように、思わず大声で叫んでしまう。
「ふ~~~ん。それじゃあ、これはなんなの?」
「キスマーク以外には見えないけどぉ~?」
からかうようにニヤニヤ笑いながら問い掛ける友人たち。
「えっと…………だから…………これは…………」
「「「これは~~~?」」」
声を綺麗にはもらせて、みんなが訊いてくる。
「これは…………あの…………えとえと…………。あ、そうそう。ぶ、部活の練習中に出来た痣なんだよ」
うんうんと頷きながら、わたしはみんなに答える。
「練習中に……ねぇ~」
「へぇ~~~。大変なんだぁ~~~」
「……で? 本当はキスマークなんでしょ?」
あうっ! みんな、全然信じてないみたい。
そ、それもそうだよね。自分でも無理があるかなぁって思ってるし。
「その……えっと……あう~~~」
答えに窮したわたしは、救いを求めるように琴音ちゃんとマルチちゃんの方に目を向ける。
ふたりとも……お願い……助けて……。
「藤田さんってば、葵ちゃんのあんなところに口付けをして。もう、ホントにエッチなんですから。葵ちゃん、困ってるじゃないですか。
……でもでも、わたしもキスマークを付けてほしいかなぁなんて思ったりして。きゃっ! わたしもエッチぃ~~~。
や~~~ん。やんやんやんゥ」
…………………………………………がくっ!
わたしは、盛大にずっこけてしまった。
うううぅぅぅぅっっっ。こ、琴音ちゃんに助けを求めようとしたわたしがバカだった。
こ、こうなったら、頼みはマルチちゃんだけ。
わたしは、マルチちゃんに縋るような視線を向ける。
「はわ!」
わたしの視線に気付くと、マルチちゃんは困ったような表情を浮かべる。
どうすればいいんですかぁ~~~?
そんな、心の声が聞こえてくるようだ。
でも、今のわたしには、そんな事を気に懸ける余裕はなかった。
マルチちゃん、わたしを見捨てないで。
ただその一心でマルチちゃんのことを見つめ続けた。
「えとえとえと…………あのあのあの…………」
明らかにオロオロするマルチちゃん。
しかし、しばらくすると意を決したのか、小さく息を吐き一回ポンと手を打った。
「ええっと……葵さんの言う通り、胸元の痣はきっと練習中に出来たものですよ。エクストリームの練習って本当に激しいものらしいですからね」
ううっ。ありがとう、マルチちゃん。
ちょーっと白々しいけど、でも、わたしのことを庇ってくれようとするその気持ちは凄く嬉しいよ。
恩に着るわ、マルチちゃん。今度、何か奢ってあげるね。
……当然、琴音ちゃんには無し。
「そっか。マルチちゃんが言うのならそうなんでしょうね」
「そうよね。マルチちゃんがウソを言うわけないもの」
クラスメートたちも、マルチちゃんの言葉に納得して、わたしへの追求を止める。
……というよりは、マルチちゃんの気持ちを汲みたいと思ったのだろう。
ともかく、これでわたしは解放された。
……………………はずだった。
「そうです。そうに違いありません。
……………………本当はキスマークですけど。昨日の夜は葵さんの番でしたから、あれは浩之さんが付けたキスマーク以外には考えられませんけど。
でもでも、あれは練習中に出来た痣なんです。そういうことにしておいて下さい。お願いします」
……………………がっくーーーーーーーっ!!
わたしは、再び盛大にずっこけた。
「ま、ま、ま、マルチちゃ~~~~~~~ん。それじゃ、どつぼだよ~~~」
滝のようにダバダバと涙を流しながら、わたしはなんとか身を起こす。
立ち上がったわたしを待っていたのは、ニヤリという形容がピッタリな笑みを浮かべたクラスメートたちだった。
「ふっふ~ん」
「それ、やっぱりキスマークだったのねぇ~」
「もう観念しなさい。マルチちゃんだって認めたんだから♪」
あうあうあうあうあうあうあうあう。
「さーて。では、追求を再開しましょうか」
「さあ、キリキリ白状しなさい」
「今度は容赦しないからね」
……ふえーん。誰か助けてぇ~~~。
来るはずのない助けを求めて、わたしは心の中で号泣するのであった。
「…………ほえ? わたし、なにかまずいこと言いましたっけ?」
「あ~ん、ダメですよ、そんなとこにマークを付けちゃ。…………なんちゃって、なんちゃって~~~ゥ」
この後、追求に熱中してしまい、全員が授業に遅れて大目玉を食らったのだが……それは別の話である。
「ふーん。そんなことがあったんだ」
「そうなんです。あの時は大変だったんですよ」
わたしは、藤田先輩の腕の中で、あの騒動のことを説明した。
「そっか。……って、そういえば、確か明日も体育の授業があるんじゃなかったっけ?」
「はい。ありますよ」
「じゃあ、今日はやめた方がいいかな。また大騒ぎになったら葵ちゃんが可哀想だからな」
そう言うと、藤田先輩がわたしから躰を離そうとする。
わたしは、藤田先輩のその動きを、躰に手を回すことで止めさせる。
「……? 葵ちゃん?」
「いいんです。大丈夫ですから」
「え? でも……」
「本当にいいんです」
藤田先輩の言葉を遮って、わたしは再度言う。
「だって…………何があろうと…………わたし…………あの…………やっぱり…………先輩に…………だ、抱かれたい、ですから。
それに…………」
「それに?」
「ねえ、松原さん? それって……」
「もしかして、キスマーク!?」
「なんか……前より数が増えてない?」
「うわ~。エッチ~」
「ち、違うよぉ~。違うってば~~~」
「葵ちゃん…………もしかして、わざと見せてる?」
「あ、あははは。わたしもそんな気がしますぅ」
それに…………
みんなに騒がれるのが……惚気るのが……ちょっとだけ気持ちよかったりして。
もしかして、わたしって悪い娘ですか?
突発的思い付きSS(^ ^;
本当は別の作品を書くつもりだったのですが、そちらが頓挫しましたので、急遽この作品をこしらえました。
下級生トリオの中では、ある意味まとめ役とも言える葵ちゃん。
妄想ちゃんとドジっ娘に囲まれて気苦労が絶えないのではないでしょうか(^ ^;
……………………頑張れ、葵ちゃん(;^_^A
ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/
最後に……
葵ちゃんは強い!
いやマジで、いろんな意味でね(^ ^;