「ふぅ」
お弁当は食べ終わった。しかし、クラブの開始までには、まだ僅かに時間がある。
そんな、ホンのちょっとだけど、ポッカリと空いた時間。
少し風に当たりたくなった僕は、その時間を利用して屋上まで上がってきていた。
「やっぱり、春の風は気持ちいいなぁ」
「ホントね」
「えっ!?」
他には誰もいないと思っていた僕は、ついついこぼした独り言に返事が帰ってきたことに飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
「やっほー」
声の主の方へ振り返ると、そこには、微かにばつの悪そうな顔をした来栖川綾香さんが立っていた。
「ごめんねぇ。驚かせるつもりはなかったんだけど」
「ううん。全然かまわないよ」
「あはっ♪ ありがと」
僕の言葉に満面の笑顔を浮かべる綾香さん。思わず、ジーっと見つめてしまう程の綺麗な笑顔を。
もちろん、その視線に気付かないほど、綾香さんは鈍感じゃない。
「ん? どうかした?」
僕の顔を不思議そうな表情で見ながら、そう訊いてきた。
「な、なんでもないよ」
そう答えながら、僕は慌てて綾香さんの顔から視線を外す。
ちょっと、不自然だったかな?
「そう? それならいいけど」
でも、綾香さんはたいして気にした様子も見せなかった。
この辺、非常にアバウトな性格をした人だと思う。
「…………今、なんか凄く失礼なことを考えなかった?」
「とんでもない」
だけど、勘は異常に鋭いようだ。つまらないことは考えないようにしよう。
「…………ま、いいわ。それよりもさぁ、佐藤くんはこんな所で何してるの?」
「特に、何をしてるってわけじゃないよ。風に当たりたくなっただけ。もっとはっきり言っちゃえば、クラブが始まるまでの時間潰しかな」
「ふ~ん。じゃあ、あたしと同じか」
「あ、そうなんだ」
…………って、あれ?
「そう言えば、浩之は? 今日は浩之といっしょじゃないの?」
「浩之? さぁ? どっか、その辺をほっつき歩いてるんじゃないの?」
そ、その辺……って。
「なんで、そんなこと訊くの? あたしが浩之と別行動しているのがそんなに変?」
「変……ってわけじゃないけど……」
「あたしだって、四六時中浩之とくっついてるわけじゃないのよ」
……そ、そうかなぁ?
僕には、授業中以外は『常にべったり』している様に見えるんだけど。
「…………なにか……言いたそうね」
「そんなことないよ」
「…………いいけどね。でもさぁ、さっきも言ったように、いつもいつも、浩之といっしょにいるわけじゃないのよ。あたしだって、あいつのお守りばっかりしているわけにはいかないんだから」
お守り……か。結構、言いたいこと言われているんだなぁ、浩之って。
「だけど、あたしたちがいなければ何も出来ない奴だからねぇ。やっぱり、そばにいないと不安じゃない」
不安……ねぇ。
僕は少しだけ親友が不憫に思えてきた。
「だから、監視の意味でいっしょに行動してるのよ。別に甘えたいわけじゃないの。うん、そう。仕方なくよ、仕方なく」
……綾香さん、気付いているのかな? 浩之のことを話す時の表情がもの凄く輝いていることに。
そんな顔で『仕方なく』なんて言われても、全然説得力が無いよ。
…………まあ、それだけ幸せだってことか。感情が顔に出るのを押さえることが出来ないくらいにね。
「綾香さん」
「ん?」
「良かったね。浩之と巡り会うことが出来て」
「なっ!? …………えっと…………その…………あうあう」
どうやら、今の発言は完全に意表を突いたらしい。
綾香さんは真っ赤になって俯いてしまった。
「浩之なら、綾香さんのことを大切にしてくれるだろうし」
「……………………うん」
「心から愛してくれるだろうし」
「……………………うん」
「僕と違って優しいしね」
「……………………うん。……って、えっ?」
僕の言葉にキョトンとする綾香さん。
あれ? 僕、何か変なこと言ったかな?
「僕と違って? それって変よ。佐藤くんだって充分すぎるくらい優しいと思うけど?」
あぁ、そういうこと。
即座に僕は理解した。
「僕は優しくなんかないよ」
「……どういうこと?」
「僕は優しく見えるだけだよ。浩之のような真の優しさは持っていない」
「……………………」
そう。僕の優しさは見せかけの物なんだ。
「相手に余裕があるにも関わらず手を貸してしまい、結果的に甘やかすだけで終わってしまうのが僕。ギリギリまで手を貸さないのが浩之」
「……………………」
「相手に余裕が無いとき、本当の意味で追い詰められている時。そのことに気付きもしないのが僕。打算も無しに、即座に助けてくれるのが浩之」
「……………………」
保科さんや琴音ちゃんが良い例だよね。
僕も人から伝え聞いただけだから詳しくは知らないけど、この2人は本当に苦しんでいたらしい。
僕はそのことに気付きもしなかった。だけど、浩之は……。
「やっぱり、『優しい』って言葉は、浩之みたいな人の為にこそ使われるべきだよ」
「…………そうかもね」
「そうだよ。まあ、浩之自身は、自分のことを『優しい』だなんて思ってないだろうけど」
「それがあいつの良いところでしょ。数少ない美点ね」
「あはは。『数少ない』は酷いなぁ」
「くすっ。…………だけど、嬉しいな。佐藤くんが浩之のことをちゃんと理解してくれていて」
まるで、自分が褒められたみたいに喜ぶ綾香さん。
口では何のかんのと言いながら、やっぱり、浩之のことが本気で好きなんだなぁ。
「そんなの当然だよ。僕は浩之の親友だからね」
少なくとも、浩之のことをたいして知りもしないのに、『藤田家』の華やかさだけを羨ましがってブーブー言ってるような奴らとは違う。
それだけは自信を持って言える。
「うん。これからも浩之のこと、よろしくね。あいつ、男友達が少ないから」
「もちろんだよ」
僕は、綾香さんの言葉に力強くうなずいた。
しかし、その瞬間……
「だーれーが、男友達が少ないって?」
背後から、ツッコミが飛んできた。
「「ひ、浩之!?」」
いつの間に? 全然気付かなかった。
「まったく、人を勝手にネタにするんじゃねーよ」
「なに言ってるのよ。浩之以上に面白いネタなんて無いじゃない」
「…………あのな」
「あのさ、浩之? で、結局、あたしと佐藤くんの話、どこから聞いてたの?」
「お前が『これからも浩之のこと、よろしくね。あいつ、男友達が少ないから』って言ったとこから」
そ、そうなんだ。つまりは殆ど聞いてなかったんだね。ちょっとホッとしたりして。
あんな優しい云々なんて話、やっぱり本人の前では気恥ずかしくて出来ないよ。
「それにしても、お前ら。随分と良い雰囲気だったけど、もしかしてお邪魔だったか?」
「「えっ? えっ?」」
そんな、誤解だよ!! 良い雰囲気だなんて、浩之の勘違いだよっ!!
「ちょっと、浩之!! なにバカなこと言ってるのよ!!」
しかし、浩之は綾香さんを無視すると、ニヤニヤ笑いを浮かべて、こう言葉を続けた。
「なんてな。んなわけねーじゃん。雅史は圭子ちゃん一筋だもんな」
…………ひ、浩之ぃ。そういうこと言うのやめようよー。
「第一、綾香みたいな『変な女』に手を出す奴はいねーよな。綾香みたいな『変な女』に。あっはっは……」
そ、そんなこと言っていいの? どうなっても知らないよ。
ほら、綾香さん、額に青筋を浮かべてるし。
「ひ~ろ~ゆ~き~!! だ~れが変な女だーっ!!」
「綾香」
「即答するんじゃないわよ。じゃあ、その変な女に手を出したあんたは何なのよ!?」
「決まってるじゃねーか。俺も『変な奴』だよ」
「あのねぇ。普通、自分で言う?」
「じゃ、普通じゃねーんだろ」
「……………………それもそっか。浩之だしねぇ」
「まてこら。しみじみ言われると、何か無性に腹が立つぞ」
「気のせい気のせい」
「絶対に違う」
……………………。
…………ふぅ。
結局はいつものやり取りか。少しでも心配して損したよ。
まあ、このじゃれ合いが2人の愛情表現だからね。仕方ないか。
「浩之」
「ん? どうした、雅史」
「僕たち、ずっと友達だよね?」
「はぁ? なんだ、唐突に? そんなの、あったりまえだろうが」
浩之は知らないだろうね。僕が浩之に憧れていることを。尊敬すらしていることを。
浩之の親友であることに誇りを持っていることを。
僕たち、ずっとずっと友達だよね?
浩之…………。
最近、『了承学園』の勢いに押され気味でしたので、急遽1本こしらえました(^ ^;
で、今回のテーマですが、
ズバリ、まともな(ホモじゃない)雅史を書きたかった!!
……な、なんて情けないテーマだ(^ ^;
ま、いっか(笑
それでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/
追)最後の一文は最初は『浩之……好きだよ……』になるはずでした。
あまりにも、ホモっぽいのでやめましたけどね。