「こらそこっ!! 誤解を招く会話はやめなさい!!」
「香里ぃ~。誤解を招く会話ってなんだよ? 俺たちはただ『はねつき』をしていただけじゃないか」
「うんうん。真琴、はねつきするの初めてなんだよ」
「あ、そうなんだ。…………って、そうじゃなくて!! どう聞いてもはねつきの会話じゃなかったでしょうが!?」
「そうだったか?」
「さぁ? 真琴にはよくわからない」
「はあああぁぁぁぁぁぁ~~~」
「そんな、深ーーーいため息を吐かなくても」
「やれやれ、またこんな出だしなのね。はぁ~」
なにやら初っ端から一悶着あったが、取り敢えずそれはこっちに置いといてっと。
とにかく、俺たち水瀬家御一行は今、近所の公園で『はねつき』を楽しんでいた。
尤も、俺たちが行っているのを『はねつき』と呼んで差し支えないのであれば……の話だが。
「いくよ、祐一ぃ~」
「おーっ」
「せーのっ!!」
カーン
ヒューン
コロコロ……
「あうーっ」
「真琴ぉー。真上に打ち上げてどうするんだよ? 前に打て、前に」
「わ、わかってるわよー。せーのっ!!」
カーン
ヒューン
コロコロ……
「あうーっ」
「だから、前に打てって」
「わかってる~!! せーのっ!!」
カーン
ヒューン
コロコロ……
「あうーっ」
「まーこーとー」
「わ、わ、わかってるぅ~。せーのっ!!」
カーン
ヒューン
コロコロ……
「あうーっ」
カン
「あうーっ」
コン
「あうーーっ」
ぺにょ
「あうーーーーーーっ」
な、なんか、しばらくはこっちに飛んでこねーみたいだな。
まあ、真琴自身は意外と楽しんでいるみたいだから良いけど……それでも、待っている身としてはとことん退屈だぞ。
……ったく、しゃーねーな。
こうなったら、他の奴らの様子でも眺めて暇を潰すか。
えーっと、どれどれ……。
―――他の奴らの様子その1 月宮あゆ&美坂栞の場合―――
「いきますよ、あゆさん」
「うん。いつでもいいよー」
なーんか、運動神経&反射神経の無さそうなコンビだな~。ちゃんとはねつきになるのか?
「それでは……はい!!」
ブン……スカ……ポト
か、空振り。なんて予想通りなことを……。
「あれ? も、もう1回」
ブン……スカ……ポト
「……あ、あれ?」
ブン……スカ……ポト
「うぅ~」
ブン……スカ……ポト
「うぅぅ~~~」
ブン……スカ……ポト
「……………………あゆさんからお願いします」
あ、ついに諦めた。
「うん、任せといて。それじゃあ、いっくよー!!」
「はい」
「えい!!」
ブン……スカ……ポト
「……あれ?」
「あゆさん、ファイトです!!」
「う、うん。ボク、頑張る!! せーの……えい!!」
ブン……スカ……ポト
「うぐぅ」
ブン……スカ……ポト
「うぐぅ~」
ブン……スカ……ポト
「うぐぅ~~~」
ブン……スカ……ポト
「うぐぅ~~~~~~~~~」
……まあ何と言うか、非常にお約束な展開だったな。
よしよし、問題ない。
―――他の奴らの様子その2 美坂香里&川澄舞の場合―――
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
うわっ、何だ何だ!? こっちはまた、えらく激しいな。
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
普通は羽根が『曲線』を描く――山なりになる――ものだと思うけど……
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
なんで、こいつらの場合は軌道が『直線』なんだよぉー!?
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
「ふっ、なかなかやるわね」
「…………香里こそ」
おいおい、不適な笑みを浮かべ合ってるよ。
かんっぺきにふたりの世界に入っちまってるな。
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
カン!! コン!! カン!! コン!! カン!! コン!!
「ふふふふふ……」
「…………(にやり)」
えっと……その……何だ……み、見なかったことにしよう。
そうだそうだ。それがいい、それが。
―――他の奴らの様子その3 天野美汐&水瀬秋子の場合―――
「それ!!」
カーン
「は~い」
コーン
「それ!!」
カーン
「は~い」
スカ……ポト
「あら? また負けちゃいました」
ここは……美汐の圧勝か。
ま、秋子さんって運動が苦手っぽいもんな。
「上手ねぇ、美汐ちゃん」
「ありがとうございます」
「ホント上手だわ」
「そ、そんな……」
あっ、美汐の奴、照れてる。
「まるでプロみたいねぇ」
「…………え?」
…………はい? プロ……ですか? 何の?
「うん。美汐ちゃんだったら、絶対に『はねつきのプロ』になれるわ」
「そ……そうですか?」
「そうよ。わたしが保証してあげる」
「はぁ。……あ……ありがとう……ございます」
きっと、俺や美汐が知らない間にはねつきのプロというものが誕生したのだろう。
ワールドカップなんかもあるに違いない。
きっとそうだ。あぁ、そうだとも。
頑張れ美汐。応援はしてやるからな。
……って言うか、応援ぐらいしかしてやれん。
悪いけど。
―――他の奴らの様子その4 水瀬名雪&倉田佐祐理の場合―――
「いきますよーっ」
「いいよー」
「そーれ」
カーン
「はーい」
コーン
「えいっ」
カーン
「はいっ」
コーン
「あははーっ、楽しいですねぇ」
カーン
「うんっ、楽しいねぇ」
コーン
「名雪ちゃん、とっても上手ぅー」
カーン
「佐祐理さんこそぉ~」
コーン
………………………………
……………………
…………平和だ。限りなく平和だ。あぁ、まるで心が洗われるようだ。
これだよこれ!! これこそが真のはねつきの姿だよ!! やっぱり、こうじゃなくっちゃいけねーよな!!
ふたりのおかげで忘れかけていた大切なモノを思い出した気がするよ。
名雪!! 佐祐理さん!! ありがとぉぉぉぉーーー!!
……と、一通り全員の様子を眺め終わったわけだけど。
さて……突然で申し訳ないが、ここでひとつ教訓を語らせてもらおう。
スポーツ等をプレイする際は、決して相手から目を離してはいけない。相手がどんなに素人だろうと、それは例外ではない。このことは絶対に守ろう。
さもないと……
がすっ!!
こ、こういう痛い目に遭うから。
そう。俺は完全に油断して、真琴の方をまるで見ていなかったのである。
その結果、避けられなかったのだ。
羽子板を
……って、ちょっと待てぃ!!
なんで『板』が飛んでくるんだよ、『板』が!?
「……………………っっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」
そうは思っても言葉に出来ず。俺はただただ呻き声をあげるのみだった。
「ご、ごめん祐一!! 手がすべっちゃって!!」
その時、俺の耳には、確かに真琴の謝罪の声とこちらに駆け寄ってくる音が聞こえていた。
しかし、俺はうずくまったまま、顔をあげることをしなかった。正確には『出来なかった』のだが。
そして、それもまた誤った行動だった。
少しでも視線を真琴の方に向けていれば……。いや、もはや何も言うまい。
真琴は俺の方に駆け寄ってくると……
コケッ
大方の期待通りにつまずいてくれた。
その結果は……言うまでもない。
「ぐえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
これまた大方の予想通り、俺に向かってダイビングボディプレスを敢行してくれたのだ。
見事なまでのとどめ。
しかし、俺の試練はこれだけでは終わらなかった。
「祐一!! 大丈夫!?」
「祐一くん!!」
「祐一さん!!」
名雪、あゆ、栞ちゃんの3人が俺に向かって…………以下略。
結果は……言わずもがな。
「ぐえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
夜も更けて…………。
『今日』が『昨日』に変わろうかという時間。
そろそろ寝ようかとベッドにもぐり込んだ俺は、ふいに部屋の外――廊下――に人の気配があるのに気が付いた。
誰だ? こんな時間に。
その時、俺の脳裏にひとりの顔が浮かび上がった。
……そうだな。たぶん、こいつに間違いないな。
そう確信した俺は、思いっ切りそいつの名前を呼んでやった。
「なにやってるんだ、真琴!?」
「あうっ!!」
どうやら大正解だったらしい。
「どうした? 入ってこいよ」
「……う……うん」
カチャ
静かにドアが開かれたかと思うと、真琴は申し訳なさそうに部屋に入ってきた。
俺はその様子にただただ驚くばかりだった。
何だ何だ!? 真琴の奴、随分としおらしいじゃないか。
もしかして、まだ昼間のことを気にしているのか?
「祐一……あの……その……今日はごめん」
あらら、またまた大正解。
「いいっていいって、気にすんな。別にわざとじゃねーんだからさ」
「……でも……」
「だから、そんな沈んだ顔するなって。全然真琴らしくねーぞ」
「……うん……そうだね……」
ふぅ、やれやれ。
まったくしょーがねーな、こいつは。
普段のイタズラの時はとことん強気で、絶対に素直に謝ったりしないのに、今回のようなアクシデントの時は途端に弱気になるんだもんなぁ。
「真琴、そんなとこに突っ立ってると風邪をひくぞ。こっち来いよ」
俺は布団を少し上げて真琴を呼び寄せた。
「え? え?」
「早く来いって。ホントに風邪ひいちまうぞ」
「い、いいよ。だ、大丈夫だから」
「却下。さっさと来いって。それとも、俺にこのままずっと布団を持ち上げっぱなしにさせるつもりか?」
「あう-っ、わかったわよぉ」
渋々ながらも承諾した真琴は、しずしずとベッドの中にもぐり込んできた。
「よしよし、いい子いい子」
「あうーっ、子供扱いしないでよーっ」
不服そうに顔をぷーっと膨らませる真琴。
俺はそんな真琴を強く抱き締めた。
「えっ!? ち、ちょっと祐一!? なにやってんのよ!?」
「イヤか?」
「…………イヤ……じゃないけど」
「じゃあ、いいだろ」
「あうーっ」
真琴は、恥ずかしそうに体を捩らせながらも、決して俺の腕を振りほどこうとはしなかった。
そんな真琴がとても可愛くて、そして愛おしかった。
「なぁ、真琴」
「なに?」
「昼間のこと、本当に気にするなよ」
「……でも」
「あれは俺の不注意でもあるし。それに……」
「それに?」
「あの後、みんなが俺のことを本気で心配してくれただろ。泣きながらさ」
「うん」
「そんなみんなの様子を見てたら、柄にもなく『俺って愛されているんだなぁ』なんてこっぱずかしいことを思っちまってさ。ははっ、自惚れかな? でもさ、なんか、すっげー嬉しかったんだよ」
「…………そう……なんだ……」
「こんなことを香里なんかに言ったら不謹慎だって怒られるかもしれないけどな」
「……くすっ………………」
「だからさ、真琴もいつまでも気に病まないで…………って、真琴?」
「……………………」
「真琴? おーい、真琴やーい」
「……………………」
あれ?
「……………………」
……これって、もしかして。
「……すぅ……すぅ……」
寝てるし。
「おいおい、人が話してるのに勝手に寝るなよなぁ」
なんだかなぁ。ホントしょーがねー奴。
まったく、安らかな寝顔しやがって。
なぁ、真琴。お前のその幸せそうな寝顔は俺の腕の中にいるせいか?
その信頼しきった表情は俺だけに向けられるものだと思っていいのか?
『愛されている』って自惚れてもいいのかな?
「…………プッ」
しまった。あんまりにも似合わないことを考えたせいで吹き出しちまった。
はははっ、俺にはやっぱり気障なセリフは向いてないな。
あ~あ、俺も寝よ寝よ。
じゃあな、お休み真琴。
…………そして、俺も夢の中に落ちていった。
すぐそばに愛する人のぬくもりがある幸福感に包まれながら……。
俺も、真琴に負けないくらい安らかな顔をしていることを自覚しながら……。
――― 蛇足 ―――
翌朝、俺を起こしに来た香里と美汐に、俺と真琴が抱き合ったまま眠っているところが見付かり、ちょっとした騒動になったのだが、それはまた別の話である。
そのことが原因で、俺はこれから毎日、必ず誰かと添い寝をしなければならなくなり、しかも……
名雪……香里……あゆ……舞……栞……佐祐理……真琴……美汐
という順番のシフト表まで作られてしまったのだが……それはさらに別の話である。
添い寝シフト表の件を秋子さんが1秒で了承してしまったのは……さらにさらに別の話である。
名雪がそのことを学校でばらしてしまい、クラスの男どもから殺気のこもった視線を頂戴することになったのは……さらにさらにさーらーに別の話である。
毎度ぉ~、Hiroですぅ~(^ ^ゞ
えー、遅れに遅れた真琴SSですが…………こんなのになってしまいました(^ ^;
あうーっ、真琴が全然目立ってないよ~(T-T)
真琴ファンの方、本当にごめんなさい。
いつか……いつかリターンマッチを……出来たらいいなぁ(いやマジで)
ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/
追)
最後のシーンがベッドの中なのは私の作品のお約束ということで(^ ^;