昼休み、あたしは友人たちとの会話に興じていた。
この時期の話題といえば……
「ねぇねぇ、もうすぐだね。みんなは誰かにチョコあげるの?」
これである。もう、バレンタイン一色。
もちろん、あたしたちも例外ではない。
誰にあげるだの、今年は手作りに挑戦するだの、お決まりとも言える話題で盛り上がっていた。
そんな中だった。その質問があたしに投げかけられたのは……。
「ねぇ、志保。志保の本命チョコは藤田くんにあげるんでしょ?」
「ほえ?」
「ほえ、じゃないわよ。聞いてなかったの?」
「き、聞いてたけど……なんで、そこでヒロの名前が出てくるのよ」
「だって志保って、藤田くんのこと好きなんでしょ?」
とんでもないことをさらっと言われて、あたしはしばらく固まってしまった。
「な、な、な、なに言ってるのよ!! なんであたしがヒロなんかのことを!!」
「だって、いっつもいっしょにいるじゃない」
周りを見てみると、他の友人たちも『うんうん』とうなずいている。
「あのねぇ~。いっしょにいるのはヒロだけじゃないじゃない。雅史だってそうでしょ」
「そうだけど……ねぇ」
「志保、気付いてる?」
「なにが?」
「藤田くんと佐藤くん、ふたりを見る時の目がまるで違うことに」
えっ!?
「佐藤くんに対しては、何て言うか、弟でも見るような感じだよね」
……そう、なのかな?
「でも、藤田くんに対しては愛しい人を見る目になってるよね」
「ええええぇぇぇぇぇっっっっ!?」
ウソよ!! そんなはずは……。
「態度にだって出てるよね」
「そうそう。藤田くんの周りには、神岸さんや保科さん、来栖川さんなんかが常にいるからあまり目立ってないけど」
「志保と藤田くんって、どう見たって恋人同士、って感じだよね」
ウソ……でしょ。
だって……だって……あたしとヒロはただの友達よ。
あたしはヒロに『友情』しか感じていないわ。
そうよ……『愛情』なんか感じてない……感じてなんかいないわよ。
感じてなんか……感じて……。
あたしと……ヒロは……。
あたしにはもう友人たちの声は聞こえなかった。
ただただ、思考の海に沈んでいた。
あたしと……ヒロは……。
あたしと……ヒロは……。
あたしと……ヒロは……。
あたしと……ヒロは……。
あたしと……ヒロは……。
学校からの帰り道。今日はあかりを誘って、喫茶店へ寄り道。
つまらないことを忘れて、くだらない話題で思いっ切り盛り上がりたかったから。
だけど……席について注文を終えたあたしは、そのまま考えに沈み込んでしまった。
内容はもちろんヒロのこと。
あたしはヒロのことを……。
あたしにとってヒロは……。
簡単に答えが出ないことは分かっていたが、それでも考えずにはいられなかった。
「……ほ? 志保!?」
完全にひとりの世界に浸ってしまっていたあたしは、あかりの声で現実に引き戻された。
「ん? なに? どうしたの、あかり」
「どうしたの、じゃないよぉ~。志保こそどうしちゃったの?」
「あ……いや……その……えっと……」
まさかあかりに『ヒロのことで考え込んでました』なんて言えないわよねぇ~。
どうしよう……なんとかごまかさないと……。
「本当にどうしちゃったの、志保。ボーッとしちゃって」
「ボーッと、って失礼ねぇ~。あんたじゃあるまいし」
「なにそれ!? まるで、あたしがいっつもボーッとしてるみたいじゃない!!」
「自覚が無いのは罪よ、あかり」
「う~。わたし、ボーッとなんかしてないよ~」
ぷーっと頬を膨らませて言うあかり。
「はいはい。言うだけならいくらでも言っていいわよ。タダだしね」
「う~」
よし、話を逸らすことに成功。
「ま、それはともかく。……で? 結局志保はどうしたの?」
……大失敗。
仕方ない。ここは適当に話をでっちあげておくか。
「大したことじゃないわよ。ただ今日は宿題をた~~~っくさん出されちゃってさぁ~。それで、繊細な志保ちゃんとしては、ついつい思い悩んでしまったのよ」
「そうなんだ。たいへんだね」
「そうなのよ~」
こんな言い訳に納得してくれるなんて……。
あかりって素直ねぇ~。だから好きよ。
「でも、それだったら寄り道なんかしないで、まっすぐ家に帰った方が良かったんじゃないの?」
うっ。
「い、いいのよ。時には気分転換も必要なのよ」
「気分転換って……。まだ、なんにもしてないじゃない」
ぐっ。
「ま、まあ、いろいろあるのよ、人生は」
「はいはい。もう、しょーがないなー。じゃあ、その話はこっちに置いといて…っと。志保。今度の14日、空いてるかな?」
「14日?」
「うん。その日、わたしたちの家でバレンタインパーティーをやるんだけど、よかったら志保も来ない?」
はい?
「ねっ、そうしよ。志保も浩之ちゃんにチョコレートをあげるんでしょ。だったらさ……」
「ち、ちょっと待ってよ!!」
あたしは慌ててあかりの言葉を遮った。
「なんであたしがヒロにチョコをあげなきゃいけないのよ!?」
「えっ!?」
あたしの言葉にあかりの顔が暗くなる。
「志保、浩之ちゃんにチョコレートあげないの? どうして?」
「どうして、って言われても……」
「浩之ちゃんのこと……嫌いなの?」
嫌いって、あんた。思考が飛躍しすぎだって。
「あのねぇ。あたしがヒロのこと嫌いなわけないじゃない」
「本当?」
「あんたにウソ吐いてどうすんのよ」
あかりは心底ホッとしたようだ。目に見えて表情が明るくなった。
「そうだよね。志保が浩之ちゃんのこと嫌いなわけないよね」
「ま、まーね」
「良かった。志保が浩之ちゃんのこと好きで」
「…………」
「ん? なに?」
「ううん。なんでもないわ」
『嫌いじゃない』イコール『好き』……か。
あかりらしい考え方ね。
人間関係なんて、そんなに簡単なモノじゃないのに。
でも……あたしはあかりの素直で無垢な考え方が好きだな。
そして、そんな考え方が出来るあかりが羨ましい。
あたしもあかりみたいに素直になれたら……。
あかりみたいになれたら……。
あかりみたいに……。
……って、なにを考えてるのよ!!
あたしは首をブンブンと振って、自分の考えを消し去った。
確かにあかりのことは好き。憧れてすらもいる。
だけど……あたしはあたしよ。
だから、あたしとして、長岡志保としてヒロへの気持ちを言うことにした。
「そうね。あたしはヒロのこと好きよ」
―――と。
まだまだ『友情』だけどね。
「やっぱりそうだよね。志保、浩之ちゃんのこと好きだよね。だったら……」
「でも、14日は行かないわよ」
あかりの機先を制して言うあたし。
「えぇ~!! なんでぇ~!?」
不満そうな顔で問いつめてくるあかり。
「理由……聞きたい?」
「うん!!」
「それじゃあ教えてあげるわ」
「うん!!」
「それはね」
「うんうん!!」
あたしは、そこで勿体ぶったようにすこし間を空けると、にやりと笑いながら言葉を続けた。
「あのねぇ~。あたしは学校であんたらのイチャイチャぶりをイヤになるほど見せつけられているのよ。イ・ヤ・に・な・る・ほ・ど・ね」
「…………うっ」
「なのに、なにが悲しくて、わざわざあんたらにあてられに行かなきゃいけないのよ」
「…………ううっ」
「だ・か・ら、あたしは遠慮しとくわ。あたしの精神衛生の為にもねゥ」
「うう~~~っ」
あかりは反論も出来ず、ただただ顔を真っ赤にしてうなっていた。
「あかりぃ~。14日はヒロにた~~~~~~っぷりと可愛がってもらうのよ~」
「なっ!! し、し、し、志保のえっち!!」
「んん~? な~にが『えっち』なのかなぁ~? あたしはただ『可愛がってもらうのよ』って言っただけでしょ~。あかりったらなにを想像しちゃったのかなぁ~」
「……あ、あの……それは……その……」
「ほれほれ。志保お姉ちゃんに話してみれ~」
「も、もう!! 志保の意地悪!!」
赤い顔をさらに朱に染めて文句を言うあかり。
でも、その顔には隠そうにも隠しきれない幸せが滲み出ていた。
そんなあかりをあたしは、微笑ましく、可愛く、そして羨ましく思いながら眺めていた。
あたしも何時か、こんな表情が出来るといいな。
なんて、気恥ずかしいことを思いながら……。
―――2月14日―――
友達のままでいられるか、それともヒロに愛情を感じるようになってしまうか。
あたしは今、その瀬戸際にいると思う。
だから、こう考えることにした。
これは勝負だと。
ずっと今の関係を続けることが出来たらあたしの勝ち。出来なかったら……。
はっきり言って、分の悪い勝負だと思う。勝てる確率は低いかもしれない。
……でも!!
だからこそ燃えるってもんよ!!
これはあたしからの挑戦状。
ヒロへの宣戦布告よ!!
さあ、いくわよ、長岡志保!!
せーのっ!!
どもども、Hiroですぅ~(^ ^ゞ
今、ムチャクチャ忙しくて、まともなあとがきを書く余裕すらなかったりします。
いずれ、ちゃんとしたのを書くかも(--;
えっと、今回はバレンタインのお話です。ちょっと遅れてしまいましたが(^ ^;
でもって、「たさい」では初のシリアスな志保です。
「たさい」ではギャグ担当(笑)の志保ですが、やっとシリアスな面を書いてあげることができました。
それだけは満足してます。……『それだけは』ですが(--;
ま、いっか(おいおい)
ではでは、また次の作品でお会いしましょう\(>w<)/