しかし、この日は少し様子が・・・・・・
「コホンッ!! コホンッ!!」
「大丈夫か? 琴音ちゃん?」
おやおや、どうやら琴音ちゃんは風邪をひいてしまったみたいですね。
「だ、大丈夫です。コホンッ!!」
「全然、大丈夫やないやないか」
「今日は、琴音ちゃんはお休みだね」
「そうですね。その方が良いですね」
「そんな。わたし、本当に・・・」
「(ふるふる)」
「でも・・・」
「(ふるふる)」
「・・・・・・はい、わかりました。コホンッ!! 今日は学校をお休みします」
あ、琴音ちゃんってばシュンとなっちゃいました。よっぽど学校に行きたいのでしょうね。
「今日は俺たちもクラブとかに出ないで真っ直ぐ帰ってくるからさ」
「・・・・・・はい」
「ちゃんと暖かくして寝てるんだよ」
「・・・・・・はい」
「それじゃ、行って来るヨ。コトネ」
「・・・・・・はい、いってらっしゃい。コホンッ!! コホンッ!!」
「学校・・・・・・行きたかったなぁ」
つまらなさの余り、ついつい独り言。
でも、こんな気持ちになるなんて、入学当時のわたしからは考えられないな。
これも全て、藤田さんのおかげ。わたしが笑える様になったのも、たくさんのお友達が出来たのも。
そして、今、とても幸せなのも・・・・・・
藤田さん・・・
藤田さんのことを考えただけで・・・わたし・・・・・・
コンコン
どっきーーーん!!
ひゃっっ!!
ビ、ビックリした~~~。
「は、は、は、はいっ!!」
カチャ
「琴音ちゃん。具合はどう?」
「う、うん、だいぶ楽になったよ。咳もほとんど出なくなったし。これなら、明日は学校に行けると思う」
「そうなんだ。良かった~~~」
わたしの答えに、葵ちゃんは本当に嬉しそうな顔をした。
「葵ちゃん」
「なに?」
「今日はゴメンね」
「えっ?」
葵ちゃんも、今日、学校をお休みしてくれた。わたしを看病するために。
『琴音ちゃんを一人っきりにするわけにはいかねーな。かといって全員が学校を休むってのもなんだし・・・』という藤田さんの言葉に・・・
『わたしが残ります』と真っ先に名乗り出てくれたのが葵ちゃんだった。
凄く嬉しかった。嬉しかったけど・・・・・・
「わたしのせいで学校をお休みさせちゃって。葵ちゃんの好きなクラブだって・・・」
その事を思うと、申し訳なくて、まともに顔を見ることすら出来なかった。
「そんな、気にしないで」
「でも・・・」
「わたしたち家族でしょ? だったら、看病するのは当たり前のことだよね。違う?」
「ううん、違わないけど・・・」
「わたし、学校を休んだことよりも、琴音ちゃんに変に遠慮されることの方がイヤだな。そんなの、なんか寂しいよ」
その気持ちは・・・分かるけど・・・
「それでも、まだ気になるって言うんならこうしよっ。もし、わたしが風邪をひいたら、その時は琴音ちゃんが看病してよ。ねっ? それなら問題ないでしょ?」
葵ちゃん・・・・・・
「うん!! そうなったら、一生懸命看病してあげるね。今日のお礼にいろいろな事をしてあげる。お粥を作ったり、体を拭いたり・・・」
「あ、あの、凄く嬉しいんだけど・・・、そんなに楽しそうに言われるとちょっと複雑。何か、わたしに風邪をひいて欲しいみたいなんだもん、それって・・・」
「えっ!? あ、その、ごめんなさい。わたし、そんなつもりじゃ・・・」
「冗談」
「・・・・・・・・・へ?」
「えへへ。だから、冗談だよ」
冗談・・・? 冗談って・・・・・・あーーーーーーっっ!!
「ひどい!! 葵ちゃんってば、ひどいよーーーっっ!!」
「えっ!?」
「葵ちゃんなんか嫌い!!」
「ご、ごめんなさい。わたしったら、調子に乗っちゃって・・・」
「なんちゃって♪」
「・・・・・・・・・はい?」
「わたしの方も冗談」
「あっ!!」
「うふふっ。これで、おあいこだね」
「もう。琴音ちゃんにはかなわないなぁ」
わたしと葵ちゃんは顔を見合わせるとプッと吹き出した。
今のわたしはこんなにも素直に笑うことが出来る。冗談さえも言える。そして、何より、こんなにも素敵な家族がいる。
それもこれも、全部藤田さんの・・・・・・
藤田さん? あれ? 藤田さんといえば・・・・・・
あっ!! 今日の・・・あの・・・その・・・夜って・・・わたしの番だったんだ。
ううっ、こんな日に風邪をひくなんて。せっかく藤田さんに思いっ切り甘えられる日なのに~~~。
はぁ~~~、もの凄~く残念だなぁ。
もし、元気だったら・・・きっと、あんなことやそんなことゥ・・・キャッ、わたしったらわたしったら~~~。
「あ、あのーーー。琴音ちゃん?」
「うきゃ!!」
「な、なに!?」
「な、な、な、なんでもないの」
ちょっと、妄想に耽っちゃった。は、恥ずかしい~~~。
「と・こ・ろ・で。な~にを考えてたの?」
「なにって。べ、べ、別に・・・なんでも・・・」
「ウソばっかり」
「ウソじゃないよ~」
「ふ~~~~~~~~~~~~ん」
あうっ、葵ちゃん、全然信じてない。
「それじゃあ、今日の夜とか、藤田さんっていうのは何?」
な、なんで!? なんで知ってるの!? もしかして、わたし、声に出してたの!?
「あの、それは・・・」
「琴音ちゃんって意外と・・・・・・」
「ち、違うってば~!! わたし、ホントに・・・別に・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・えっち」
「違うのーーーーーーーーーっっ!!」
ふぅ、思わずため息ひとつ。
「今日は散々だったなぁ」
風邪をひくし、学校にも行けなかったし。
それに、なにより辛いのが・・・ホントだったら、わたしは今頃、藤田さんの腕の中にいるはずなのに・・・
藤田さん・・・
藤田さんのことを考えただけで・・・わたし・・・・・・
コンコン
どっきーーーん!!
ひゃっっ!!
ビ、ビックリした~~~。
それにしても、この展開って、今日2回目・・・
コンコン
「は、はいっ!!」
カチャ
「よっ! 琴音ちゃん」
「藤田さん!! ど、どうしたんですか? こんな時間に」
「どうしたんですかって、今日は琴音ちゃんといっしょに寝る日じゃなかったっけ?」
「いえ、あの、その・・・そ、そうですけど・・・」
ど、ど、どうしよう。わ、わたし、まだ・・・心の準備が・・・
「安心しなよ。別に何もしないからさ。文字通り、いっしょに寝るだけだって」
えっ? そうなんですか? ・・・少しがっかり。
―――って、キャーキャー!! わたしってば何を考えてるのよーーー!!
「こ、琴音ちゃん、どうかしたのか?」
「ほえ?」
あっ、藤田さん、わたしのことを不思議そうな顔で見てる。頭のところに大きな汗の珠が浮かんでいるように見えたのはわたしの気のせい・・・じゃないよね。
「やっぱり、迷惑だったかな? そりゃ、そうだよな。夜中に勝手に押し掛けてきたら・・・」
「いいえ、違います!! わたし、藤田さんが来てくれたこと、もの凄く嬉しいです」
「ホントに?」
「はい!!」
「そっか。良かった」
「でも・・・わたしといっしょに寝て・・・そのせいで、もし、藤田さんに風邪がうつったりしたら・・・」
「なに言ってるんだか。そんなこと心配する必要ねーって」
「えっ?」
「うつしちゃえよ、俺に。風邪はうつせば治るって言うだろ? 琴音ちゃんの風邪だったら大歓迎だぜ」
ち、ちょっと、藤田さん!?
「でもなぁ、残念ながら俺に風邪がうつる事はねーだろうなぁ」
「どうしてですか?」
風邪がうつらないなんて、何を根拠にそんな・・・
「昔っから言うだろ? 『バカは風邪ひかない』ってね」
へっ?
思わず、目をパチクリ。今のわたし、きっとキョトンとした顔をしてるんだろうな。
「なんてな。自分で言ってりゃ、世話ねーや」
ふふっ。藤田さんったら。
「そういう訳だからさ。な、いいだろ?」
もう、仕方ないなぁ。
「どうぞ」
わたしは布団を少し上げて、藤田さんを招き入れた。
「あったけー。うーん、まさに琴音ちゃんの温もり」
そう言いながら、藤田さんはわたしに抱き付いてきた。
「あん、もう! 藤田さんって甘えん坊さんなんですね」
「そうかな?」
「はい、とっても」
「そっか。でもまあ、男なんてみんなそんなもんだって。好きな娘にはどうしても甘えたくなっちまうのさ」
照れた様な顔の藤田さん。
そんな藤田さんの様子に、言葉に、たまらなく愛おしさがこみ上げてくる。
藤田さんへの想いで、胸が爆発しそう・・・
「お願いです。もっと強く抱きしめて下さい。もっと、もっと強く」
ずっとずっと、いつまでも抱きしめていて欲しい。いつまでも抱きしめていたい。
藤田さんの腕の中。
わたしにとって、一番あたたかい場所。
今、そこにいられる事に強い幸せを感じながら、わたしは穏やかな眠りに落ちていった。
ついさっきまで感じていた憂鬱は、わたしの心から綺麗に消え去っていた。
やっぱり、藤田さんって・・・・・・