『あまりにもお約束な宴』
いきなりだが、新年早々あかりは困っていた。
「ほりゃほりゃ、あかりぃ。あんたも飲みらさいよ」
「し、志保ぉ」
友人達を招いての、藤田邸にて催されている新年を祝しての宴。
高校生らしく、ノンアルコールの健全な席だったはずだが、いつの間にかそこら中に酒瓶や缶が散乱していた。
「ビール? 日本酒? それとみょサワー? カクテルがいい? なんでもありゅわよ」
その原因の一端を担う者が、ヒョイヒョイとあらゆる酒を取り出してあかりに尋ねる。
「……お、お酒は二十歳からなんだけど」
無駄な抵抗だろうなぁと思いつつも、あかりが律儀に生真面目に返す。
「あーに、言ってるのよ。いまどき、お酒はこーこーせーの嗜みよ」
「そ、それはどうかと……」
困った顔をして、あかりは引き攣った笑みを浮かべた。
「細かいことは気にしにゃいの。うりうり、あかりも飲みんしゃい」
あかりの頬を指でプニプニツンツンと突付きながら志保が酒を促す。
「や、やん。擽ったいよ」
「あらあら、あかりったら敏感ねぇ」
こそばゆさから逃れようと身を捩らせるあかり。その様を面白そうに眺めつつ、志保は尚をほっぺたを突っついた。
「も、もう。やめてよ、志保ぉ」
「ヒロに可愛がりゃれれ、すっきゃり開発されちゃいまひた、ってかぁ? んー? ここけ? ここがえーのんかぁ?」
「し、志保ぉ。なんかオジサンっぽいよぉ」
すっかり酔っ払い、ケラケラと笑いながらセクハラ発言を放つ志保。
そんな親友の姿に、あかりは思わず「ハァ」と深いため息を吐いてしまう。
「あんたらのことりゃから、きっと、新年早々あーんな事やこーんな事もやってるんでひょ。日の出と共にしっぽりねっとりと姫始めやりやがったんでひょ。よっ、憎いよ、このらぶらぶ家族ぅ」
「あ、あぅー」
あけすけな志保の言葉を受け、あかりが頬を染めつつ恥ずかしげに唸った。
――と同時に、救いを求めるように周囲へと視線を彷徨わせる。
しかし、彼女の期待はアッサリと打ち砕かれた。
「みんなー、飲んでるかぁ? ほら、芹香もグッといけ、グッと」
「はい、グッといきます。……葵さんも森本さんもグッといきましょう、どうぞ」
「あっ、すみません。ありがとうございます。……って、なんですか、これ?」
「紫色? グレープジュースですか?」
「わたしが作った特製カクテルです。美味しいですよ」
「せ、芹香さん特製、ですか?」
「これ、何が入ってるんです?」
「それは……企業秘密です♪」
「「…………」」
「さ、さーて、俺は他の奴らの様子でも見てくるかな」
「浩之さんもどうぞ」
「えっ!? い、いや、俺は……」
「どうぞ」
「……だ、だから」
「ど・う・ぞ♪」
「…………」
「う、うぐぐ」
「オカダ? 大丈夫?」
「なんや、もうギブアップか? 口ほどにも無いな」
「ま、まだまだぁ! この程度で……うぐぐ……」
「岡田~。暴飲は~だめだよ~。お酒は~楽しく~ペースを守って飲まなきゃ~」
「どうでもいいけど、マツモトは強いネ。……ゴクゴク」
「そやね。もう随分飲んでるはずやけど、顔色も全然変わらんし。……ふぅ、美味し♪」
「……っぐ……あ、あんたら……全員化け物か……っ……がっくし」
「えい♪ いつもより、多く飛ばしておりますぅ」
「わぁ。琴音さん、凄いですぅ。見てください、圭子さん。瓶や缶が楽しそうに踊ってますよぉ」
「本当に凄いね、姫川さんの超能力。コップにお皿に佐藤さんまでもが軽々と宙に……。佐藤さん!?」
「いやぁ、僕まで浮かされちゃったよ。はっはっは」
「あら? てへっ、しっぱいしっぱい。琴音ちゃんってばお茶目さん♪」
「いやぁ、参ったなぁ。あははっ」
「……ま、全く動じてませんね、琴音さんも雅史さんも。お二人とも、さすがですぅ」
「飛ばされても笑顔を絶やさない佐藤さん。……ステキ☆」
「セリオちゃん、完璧に酔っ払っちゃってるね」
「ええ、完全無欠に酔ってるわね」
「あにを言っひぇるのれすか、理緒しゃん、綾香しゃん。めいろろろのわたひが、酔っ払うわけ、ないひゃないれすか。酔っれませんよ、酔っれません、じぇんじぇん酔っれないれすから」
「見事なまでにベロンベロンだね。――はい、綾香さん、どうぞ」
「ありがと♪ 理緒は? あなたはお酒飲まないの?」
「うん、わたしはこっちのジュースを。お酒弱いから」
「そうなんだ。……って、理緒!? それ、ジュースじゃなくてスクリュードライ……」
「…………」
「り、理緒?」
「……きゅう~」
「……お、遅かったか」
「酔っれませんから。わらし、酔ってましぇんから……ひっく。酔っれないれすよ酔ってらんていまひぇん酔ってな……」
「神岸さん、ラブ~」
「どわっ!? や、矢島!? なんだなんだ!?」
「俺の愛を受け止めてくれー、好きだー」
「やめんか! 俺は垣本だっつーの。えーい、抱き付くな、気色悪い! 我に返れ、この泥酔バカ!」
「お待たせ、垣本くん。おつまみの追加を……作って……きた……よ」
「あ、吉井さん。いいところに。こいつを何とかするの手伝ってくれない?」
「…………」
「吉井さん?」
「垣本くん、そういう趣味が?」
「待て。ちょっと待て」
「好きじゃー、あいらーびゅー、モエモエ~」
「っ!? ふ、二人って実は……そ、そんな……」
「違うから! ほんっきで違うから! だーっ! 誤解を招く事を口走るな、矢島ー!」
阿鼻叫喚。
何処も彼処も大騒ぎ。とても助けを求められる様な状況ではない。
「ほりほり、あかりぃ。言ってみ、お姉さんに言ってみ」
「う、ううぅ~」
孤立無援であることを思い知らされ、ガックリと肩を落としてしまうあかりであった。
それから数時間後。
「でねでね、浩之ひゃんったらねぇ~」
「あ、うん。そーなんだー、へー」
志保は心の中で毒づいていた。「この娘に酒を飲ませたのは何処のバカタレだ」と。自分の事を棚に上げまくって。
「ちょっろー。ちゃんろ聞いてるぅ、志保ぉ?」
「聞いてる。聞いてるってば」
「そう? なら、いいんらけど。……えっと、どこまれ話したっけ? んと……ああ、そうそう。そんでね、浩之ひゃんなんらけどね」
「あー、はいはい」
酔いなどすっかり醒めていた。
あかりからの絶え間ない惚気。しかも、酒の力を得た為か、いつもよりも更にパワーアップ。微に入り細に渡って、あらゆる行為を生々しく説明してくる。止め処なく際限なく延々と。
志保の酔いが綺麗サッパリ吹き飛ばされてしまうのも無理からぬ事だった。
「それでね、浩之ひゃんったら昨晩もね、わたしのことを優しく……」
あかりの口は止まらない。止まる気配すら見せない。
志保は救いを求める様に周囲へと視線を向けたが、思惑はすぐに砕かれた。
目に飛び込んでくるのは酔っ払いの山。とてもではないが助けなど期待できない。
「しかもね、浩之ひゃんはその後も続けれ……。志保? 聞いひぇる?」
「きーてるきーてる」
あかりの言葉を右から左に流しつつ、深い深いため息を漏らしてしまう志保であった。
(お酒を持ってきたの、大失敗だったわねぇ)
まさに後悔先に立たずであった。
「しぃほぉ?」
「きーてるきーてる」
(ああ、もう! どうしてあかりにお酒なんか飲ませちゃったんだろ?)
ついでに因果応報。
ちなみに、志保の苦行はここから更に数時間ノンストップで続く事となるのだが――それは言わぬが華である。
< おわり >
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