多災の予感


「浩之ちゃん」

 ユサユサ

 ・・・・・・んっ?

「浩之ちゃんってば」

 ユサユサユサ

 なんだ、あかりか。

「朝だよ。起きて。浩之ちゃ~~~ん」

 ユサユサユサユサ

 おはようのキスでもしてくれたらすぐに起きるんだけどな・・・

「さっさと、起きんかい!!」

 スパ~~~ン!!!

「ぐはっ!! ・・・な、なにしやがる!!」
「やかましい」
「うっ。・・・い、委員長(汗)」
「いつまでもダラダラと寝とる藤田くんが悪いんや!!」
「分かった、俺が悪かったって。・・・でも頼むからハリセンはやめてくれ」
「なに言うとんねん。目を覚まさせるには、これが一番なんやで」

 ・・・間違って永眠しなけりゃ良いけどな

「浩之ちゃん、大丈夫?」

 あかりが心配そうに尋ねてきた。

「心配あらへんよ。ちゃんと手加減しとるし」

 うそつけ!!
 とりあえず心の中でつっこんでおいた。

「そもそも、おはようのキスが欲しくて狸寝入りをしとるような奴に遠慮は無用や」

 ・・・うぐっ。ばれてる。

「浩之ちゃん、それって本当なの?」

 ちょっと非難しているような、それでいて嬉しいような、そんな複雑な表情であかりが聞いてきた。

「い、いや。その。それは・・・」

 俺の動揺した姿がおかしかったのか、あかりはくすくすと笑いだした。
 そして、いつものしょうがないなぁという顔で俺をのぞき込むと・・・

 チュッ☆

「はい。おはようのキスだよ」
「あ、あかり~~~。お前、またそんなこっぱずかしい事を」
「えへへ~~~」
「・・・ったく、しょうがねぇなぁ」

 その時、いきなり「パンパン」と手が打ち鳴らされた。

「ハイハイ、ごちそうさん。朝っぱらからラブコメするんやないって、まったく」

 あ、委員長呆れた顔してる。
 そりゃそうか。

「妬かない妬かない。それより、保科さんもしようよ。おはようのキス」
「な、なに言うとるん! そ、そんなことより早く行こうや。みんな待っとるで」

 委員長、真っ赤な顔して出て行っちまった。

「ふふふっ。照れなくても良いのにね」
「そ、そうだな」

 照れると思うぞ、普通は・・・。

「わたしも先に行ってるね。浩之ちゃんも早くきてね」

 そう言って、あかりも出て行った。
 ふぅ、いつもながらにぎやかな朝だぜ。
 さてと、さっさと着替えて俺も行くか。





○   ○   ○





「う~~~っす! おはようさんっ!!」

 俺は朝の挨拶をしながら、朝食のいい匂いが漂うダイニングへと入っていった。
 すると・・・

「おはよう、浩之ちゃん」
「おはよ、藤田くん」
「・・・・・・・・・・・・(おはようございます)
「グッドモーニング! ヒロユキ!!」
「おっはよ~~~!!」
「浩之さん、おはようございますぅ」
「おはようございます、藤田さん」
「藤田先輩、おはようございます!!」
「藤田くん、おはよう」
「おはようございます、浩之さん」

 一度に10人の女の子から挨拶が帰ってきた。
 えっと、ちなみに上から

 あかり
 委員長
 芹香先輩
 レミィ
 綾香
 マルチ
 琴音ちゃん
 葵ちゃん
 理緒ちゃん
 セリオ

 ・・・と、なっている。
 俺は今、この10人と共同生活を送っていた。
 そして、おそらくはこれからもずっと。

 なぜならこの10人は全員、俺の未来の妻だからだ。

 どうしてこんな事になったのか。
 その原因とは・・・




○   ○   ○




 ---半年前---


 俺とあかりはいつものように学校へと向かっていた。
 そう、いつもの朝だった。ここまでは。

「ねぇねぇ、浩之ちゃん。昨晩のニュース見た?」

 あかりが急にそんな事を聞いてきた。
 昨晩のニュースなら、もちろん俺も見た。

「あぁ、見たぜ。あの法案の事だろ?」
「そうそう。なんかビックリだよね」

 確かにビックリした。
 まさか、そんな法案が可決されるなんて誰も思ってなかったから。

 なにせ、その法案とは・・・

「多夫多妻制が認められるなんてな」

 そう、多夫多妻制の承認なのだ。
 なんでも、小子化傾向に歯止めを掛けるための苦肉の策らしい。
 それにしてもなぁ。いくらなんでも。
 よっぽど、切羽詰まっていたのかねぇ。

「でも、まあ俺には関係無いけどな」
「えっ? なんで?」

 なんで? ってお前。

「俺にはあかりだけで充分だよ」

 真っ正面からあかりの目を見て言い切った。
 さすがに、ちょっと恥ずかしかったが。

「・・・浩之ちゃん」

 あかりの奴、もう目を潤ませてる。
 ・・・ったく、しょうがねぇなぁ。

「凄く嬉しい。わたし、本当に幸せだよ」

 うっ。て、照れくさい。

「でもね」
「?」
「でもね、わたしは、みんなにも幸せになってもらいたいの」
「・・・・・・・・・は?」

 みんな?

「わたし、浩之ちゃんが大好き。でもね、わたしの他にも浩之ちゃんの事を大好きな女の子っていっぱいいるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「わたしね、その子たちにも幸せになってもらいたいの。幸せの独り占めは良くないと思うの」
「いいのか? お前はそれで」
「うん。せっかく決まった法案だもん。有効に使わせてもらおうよ」
「でもな~~~」
「別に浩之ちゃんを譲るつもりなんて無いよ。ただ、みんなで幸せになりたいだけ。だから、ねっ」
「わ、分かったよ。あかりがそこまで言うんなら」

 結局あかりの勢いに押し切られてしまった。
 でも、結婚なんてまだまだ先の話じゃないのか?
 それなのに、なんでそんなに・・・。

「ホント!? 良かった~~~。これでみんな喜ぶよ」

 どうも、腑に落ちないんだよな。

「・・・・・・・・・おい」
「えっ? な、なに?」
「まさか、俺以外の奴とはすでに話が付いてる、・・・なんて事は無いよな」
「そ、そ、そんな事ある訳ないじゃない。や、や、やだなぁ、浩之ちゃんってば。あ、あはは・・・」

 ・・・・・・・・・・・・こいつは~~~!!



○   ○   ○

 


 案の定、女の子たちの間では既に話がまとまっていたらしい。
 「当事者抜きで何をやってるんだか」とも思ったが、どうせあかりには全部見透かされているからな。いてもいなくても同じ事か。
 しっかし、バラエティーに富んだ面子が集まったもんだ。・・・いつもの面子とも言えるけど。



 ・・・で、なんのかんのあったけど、結局は全てまとまって今に至るという訳だ。



「浩之ちゃん!?」
「んっ!? ・・・どうした?」
「どうした、じゃないよ。浩之ちゃんこそどうしたの? ・・・ぼーっとして」

 いけね。ちょっと考えに浸っちまった。

「さては、アタシたちの美しさに見とれてたね、ヒロユキ」

 はいはい。そういう事にしておいてくれ。

「しっかし、浩之って恵まれてるわよ」
「なんだよ綾香。いきなり」
「だってさ~、考えてもみなさいよ。衣食住及び金銭の心配はゼロ。あたしたちの同棲・結婚を反対する声も無し。その他の問題もすべてOK! そしてなにより・・・」
「なにより?」
「周りには優しくて美しい妻が大勢! ・・・これを恵まれていると言わずになんと言うのかね!?」
「な~~~にが「かね!?」だ」

 でも、綾香の言う通りなんだよな。

 なぜなら

 住・・・俺の家では狭いからと来栖川家が用意してくれた。家というよりは屋敷だけど。
 食・・・あかりとセリオ、それに琴音ちゃんと葵ちゃんがいるから何の問題も無い。
 金銭・・・来栖川家からの全面的な支援有り。
 衣・・・上記の理由から心配無し。
 職・・・大学進学及び卒業を条件に来栖川グループへの入社が内定済み。
 みんなの両親・・・俺達の同棲を全員が快く(か、どうかは分からないけど)認めてくれた。
 そして10人のかわいい妻(予定)たち。

 これだもんなぁ。
 確かにむちゃくちゃ恵まれているんだよな。
 これで文句を言ったら罰が当たるくらいに・・・




「あの~~~。そろそろ朝御飯にしないと時間が無くなってしまいますよ~~~」
「えっ!? あっ、いっけない! すぐに出来るから、浩之ちゃんは座って待っててね」
「あっ、わたしもお手伝いしますぅ」
「・・・・・・・・・・・・(わたしも)


 わいわいがやがや

 う~~~ん、賑やかだなぁ。

 わいわいわいがやがやがや

 忙しく働くみんなの姿を見て、俺はしみじみと考えていた。
 俺って日本一の幸せ者かもな。


「あかりさん、こちらは全員分用意出来ました」
「うわぁ。さすがセリオさん、手際が良いね。盛りつけも綺麗だし。尊敬しちゃうなぁ」
「ありがとうございます(にっこり)」

「あうぅぅ~~~。お水をこぼしてしまいましたぁ~~~」
「あいかわらずドジねぇ。マルチは」
「・・・・・・・・・(こくこく)」
「はうぅぅ~~~~~~」

 ドテッ

「きゃっ!」
「理緒先輩! 大丈夫ですか!?」
「なんで、なんも無いとこでこけれるんや?」

「コトネ。そこのコップ取ってくれる?」
「は~~~い。いきますよ」

 フワフワ

「よっと。サンキューね、コトネ」




 ・・・・・・・・・・・・(汗)

 幸せな生活には違いないけど、静かな生活には一生無縁になっちまったな。

 ま、退屈するよりはいいか。

 しっかし、これからどうなることやら。




 ・・・楽しみだな。






 喧騒はいつまでも終わらない。





Hiro



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