北海道
あたし達の修学旅行先
美しい景色に美味しい食べ物、いろんな魅力が詰まったところ
たくさんの楽しい思い出をくれるところ

そして、あたしにとっては・・・


修学旅行(後編)



 「フゥ~」いったい何度目の溜め息だろう?
 あたしはホテルの廊下を歩きながら、そんな愚にも付かない考えに耽っていた。
 少し外に出て頭を冷やそうか?
 そう思うと同時に足は屋上へと向かっていた。
 後悔する事になるとも知らずに・・・


 今日は自由行動の日だった。
 ヒロ、あかり、雅史、そしてあたし。
 当然の様にいつもの四人組で行動していた。
 いや、正確には一組のカップルとその他二名だ。

 ヒロとあかり。
 二人は付き合っている。
 あたしは、そう確信した。
 出発前には、あたしの勘違いかもしれないと淡い期待を抱いたりもした。
 しかし、そんなものはすぐに打ち消された。
 それは、ヒロとあかりの三つの変化に気付いたからだ。

 北海道に着いてからというもの、ヒロとあかりは常に行動を共にしていた。
 ・・・というよりはベッタリとくっついていた、と表現する方が正しいだろう。
 数日前までの二人には考えられなかった事だ。これが一つ目の変化。

 二つ目の変化は、あかりだ。
 あたしの知ってるあかりは引っ込み思案で少しオドオドしたところがあった。
 特にヒロに対しては、嫌われるのを恐れるあまり常に顔色を伺っているようなところさえあった。
 でも、今はそれが感じられない。それどころか自信に満ち溢れている。

 そして、ヒロ。
 あかりに対して凄く優しくなっている。
 もちろん今までも優しい奴だった。
 だけど、その優しさは全てさり気ないものだった。あまり表面上には出ないものだった。
 しかし今のヒロは違う。
 特にあかりに対しては甘いとさえ言えるほどだ。
 これが三つ目。

 たかが三つの変化。されど・・・


「志保? どうかしたの? 志保!?」

 エッ? なに?
 考えに耽っていたあたしは、いきなり現実に引き戻された。
「な、なによ雅史?? うるっさいわねぇ」
「だって、ずっとボ~ッとしてるんだもん。心配しちゃったよ」
「ボ~ッとって、失礼ね! ちょっと考え事してただけよ」
「浩之とあかりちゃんの事?」

 ドキッ

「ち、ち、違うわよ! なんで北海道に来てまでヒロ達の事なんて・・・」
「僕はずっと考えてたよ」
「えっ?」
「あの二人、うまくいったみたいだね」
「えっ? あっ? そ、そうね。やっとね」
「悔しくない?」
「な、なんであたしが!?」
「僕は悔しかったよ、やっぱり」
「・・・・・・・・・・・・雅史?」
「僕だって十何年もあかりちゃんの事を見てきたんだよ」
「あんた、まさか!?」

 雅史は薄く笑っただけで答えなかった。ただ、じっと前方を見つめていた。
 そこには甘々な雰囲気を醸し出している奴らがいた。
 きっと二人の世界に入ってしまい、あたし達の会話など聞こえていないだろう。

「でもね、思うんだ。浩之があかりちゃん以外の女の子を選んでいたら、僕はきっと浩之を許さなかっただろうって」
「雅史?」
「きっと浩之の親友をやめていただろうって」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから二人がこういう結果になって悔しいのも事実だけど、実はすごくホッとしているんだ。僕はやっぱり二人の事が好きだからね。あかりちゃんにも浩之にも幸せになって欲しい。そのためには、こうなるのが一番だと思うから」
「だから身を引くって言うの?」
「かもね。でも、あかりちゃんを幸せに出来るのは浩之だけだっていうのは事実だし。僕じゃ最初から役不足だったんだよ」


 頭の中で昼間の会話がリフレインされている。
 同じだったんだ。
 雅史もあたしと同じだったんだ。
 ただ、吹っ切るのがあたしよりも早かったんだ。


 屋上へと続くドアを開けて外に出た。
 五月とはいえ、夜の空気はまだまだ冷たい。
 でも、気持ちのいい冷たさだ。
 う~~~ん、伸びを一つ。
 ここなら少し落ち着いて考えられそうだ。

 その時、先客がいるのに気が付いた。
 ふと、そちらへ目をやると・・・
 ヒロとあかりだ。
 そっと、寄り添っている。
 あたしは自分の間の悪さにあきれた。
 今、一番会いたくない奴らなのに・・・
 仕方ない。邪魔するのも悪いと思い帰ろうとした。

 !!!!!!!!!!!!

 ふと、その光景が目に入った。
 見たくなかった。さっさと中に戻りたかった。なのに全く動けなかった。
 その瞬間、あたしの周りだけ時間が止まっていた。

 ヒロとあかりがキスをしている。
 それも激しいキスだ。

 長いキス
 その長さは二人で歩んできた時間を感じさせた。

 深いキス
 その深さは二人の絆を感じさせた。

 激しいキス
 その激しさは二人の愛を感じさせた。


 気が付くとあたしは自分の部屋で布団にもぐっていた。
 どのようにして帰ってきたのかまるで覚えていない。
 そんな事、気にもならなかった。
 あたしの頭の中ではずっと先程のキスの映像が流れていた。
 二人が付き合っているというのはとっくに分かっていたはずなのに、心のどこかではまだ未練たらしく僅かな希望に縋っていたのだ。
 しかし、決定的証拠を突きつけられてしまった。
 あたしの恋が完璧に幕を閉じた瞬間だった。
 あたしは布団のなかで泣きはらした。
 同室の子達はきっとあたしを奇異の目で見ていることだろう。
 かまうもんか。今泣けなくていつ泣くっていうんだ。
 あたしは泣き続けた。文字通り一晩中泣き続けた。







○   ○   ○







 ん~~~~~~~~、いい天気!!!

 雲一つない青空。
 絶好の修学旅行日和だ。

 さってと、そろそろ行くとしますか!

 廊下に出て少し歩くとヒロ達三人に出会した。

「ヤッホ~~~~~~~~!!! グッドモ~~~ニンッ!!!」
「ウッス!」
「おはよう、志保」
「おはよう」
「な~~~によ、そのしけた挨拶は!!! こ~~~んな良い朝なんだからもっとテンション高めていかないとダメじゃん!!!」
「だ~か~ら、お前が高すぎなんだよ。このお祭り女が」
「な、な、な、な~~~~~~んですって~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
「んだよ、ほんとの事じゃねぇか!!!」
「まあまあ、二人とも(^^;」

 そのやり取りを笑顔で見ていた雅史があたしに囁いてきた。

「なんとか、吹っ切れたみたいだね」

 あたしは黙ってVサインを送る。

「おい、何の事だ?」

 不思議そうにしているヒロとあかり。

「気にしない気にしない。それよりも、ほら! さっさと行きましょ!!!」

 答えも待たずに歩き出すあたし。
 その後を穏やかな笑顔を浮かべながらついてくる雅史。
 そして、顔を見合わせた後、首を傾げながらあたし達を見ているヒロとあかり。

 まだ、完全に吹っ切れた訳ではない。
 でも泣くだけ泣いたらスッキリした。
 それに、雅史が乗り越えられたのにあたしに乗り越えられない訳がない。
 少しずつ気持ちを整理していこう。









 一つの恋を卒業して、あたしは新しく生まれ変わった気がする。
 そう、今日からあたしは『ニュー長岡志保』だ!



 北海道の風は優しかった。
 まるで、新しいあたしのスタートを祝福してくれているかのようだった。

Hiro



前編へ
戻る