「すまんあかりっ!と、とりあえず今日から三日間、オレの家には来ないでくれっ!」
開口一番、オレはあかりに深々と頭を下げながら要望の全てを一気に言う。面倒な言い回しは後々ややこしくなるし、とにかく最初に伝えるべき事を全て伝えてしまった方がお互いの思い違いを修正する事が出来る。
しかし、一番肝心な「why?」を抜かしている事、その「why?」はどうしても言えない事が、目の前の最愛の恋人を説得することに相当の時間と根気を要す事ぐらいは頭の片隅で認識はしていた。場合によっては今回の目論見を諦めざるを得ない。
しかし、あかりは一瞬きょとんとオレを見つめただけで、後はいつもの翳り無い微笑みを浮かべていた。
「うん、事情は良く分からないけど、浩之ちゃんの言う通りにするよ」
別に盲目的な従順さからではなく、オレの意思を直感的に察したであろう上での返事に、オレはほっとした反面すまなさを感じながら「悪りぃ、この埋め合わせは必ずするから」と、再びあかりに頭を下げる。
「ふふっ、確かにその言葉聞いたからね。約束だよ?」
あかりは悪戯っぽい笑みで、自分の小指をオレのそれに絡ませながらささやいた。
『約束も何も、ここまで言った以上『埋め合わせ』はしなくちゃなんねーんだよ』
オレはあかりに気付かれないよう内心苦笑を浮かべながら呟いた。
神岸あかり誕生日SS マルチの話~藤田家のバ家族日記~
バースデイプレゼント
くのうなおき
日々の食事をあかりとマルチの二人に頼りっきりなオレが、あかりの誕生日にバースデイケーキを作ろうと思いついたのは二日前だっ
た。
あかりの誕生日まで一週間を切った2月15日の夜、前日のバレンタインデーに貰った毎年恒例のあかりお手製のチョコレートをテーブルの上に置いてオレはあかりの誕生日に何をプレゼントするかを考えていた。
あかりの誕生日プレゼントと言ったらクマグッズが定番なのだが、あかりお手製のチョコレートを眺めているうちに、何かオレも手製のプレゼントを渡してみたいと考え出していた。
手製、既成にかかわらず渡す人間の心が篭っていれば自ずとそれは相手に伝わるはず、それは毎年のあかりの喜びようを見れば良く分かる。しかし、そこは簡単に割り切れる問題ではなく、一度でいいからオレの「手製」のプレゼントを渡してみたくなった。
「で、一体何を作るか・・・だが」
アクセサリー、服、クマのぬいぐるみ・・・思いつく物はいずれも時間と技術を要するものであり、とてもじゃないが誕生日までに間に合いそうも無い。かと言って誕生カードってのもあまりに簡単すぎる。
「渡す人間の心が篭っていれば、相手にもそれが伝わるはず」なのに、何を作り渡すかであれこれ迷うのは確かに矛盾かもしれない。ただやはり、ある程度形に残るものでなければ、渡す本人が納得いかないわけで、渡す人間が納得できないものを受け取った方が果たして納得できるかどうかと言う事だ。
タイムリミットに間に合い、なおかつ「手抜き」でないもの・・・オレはちらりとテーブルの上のチョコレートを見た。
『バースデイケーキなんかどうだろうな・・・?』
一瞬思い浮かんですぐにそれを打ち消す
『アホか、ケーキなんかオレに作れるかっての』
ぶんぶんと首を振って再び考え直そうとした時、今度はソファーの上に料理の本が置きっぱなしになっているのが目に入った。タイトルは「家庭で作るお菓子」ひかりお母さんが監修している本だった。あかりが置き忘れたのかマルチが読みっぱなしにしておいたのかは分からないが、オレはそれを手にとって目次からある項目を探し出す。
「おっ、あったあった」
『デコレーションケーキの作り方』という項目を見つけたオレは思わず喜びの声をあげ、すぐさまそのページをめくった。
「ふむ・・・とりあえず、出来ない物ではなさそうだな」
ひかりお母さんの文章かどうかは分からないが一見簡潔にしてポイントを掴んだ説明文に、オレはついさっき諦めていた事を本気で実行しようと決めていた。
「よし、あかりの誕生日にいっちょケーキを作ってみるか」
翌日、幸いにもあかりは自宅の方で用があるとの事で夕食の片付けを終えると帰っていった。その後、マルチを「今夜は色々やらなきゃいけない事があるから」と言って早めに寝させたオレは、こっそり買ってきたケーキの材料を台所にならべた。
本来ならあかりかマルチに作り方を教えてもらうべきなのだが、そこは折角の恋人への誕生日プレゼントは渡すまでは内緒にしておきたいという思いと一人でもなんとかなるだろうという見通しから、二人には隠れてやることにした。
後は、自分が悪戦苦闘する様子を見せる事で「努力しましたがダメでした。でも、この一生懸命な気持ちだけは察してください」という甘えに逃げたくないという理由もあった。
しかし、その見通しがあまりにも楽観的甘すぎだった事は、3時間後に見るも無惨な形で証明される事となった・・・・・・
「・・・・・・・・・」
調理台の上にある、スポンジケーキ「のようなもの」とも言えない、所々に茶色いこげ跡がついている黄色くひしゃげた物体を目の前に、オレは両手をついてがっくりとうなだれるばかりだった。恐る恐る切ってみれば、中は焼き上がりには程遠いぐちゃぐちゃな状態。更に「物体」を中心に台所中に飛び散っている粉とバターの惨状が、オレの「無謀な」試みの無惨な結果を象徴しているようで、しばらく間頭を上げて現実と向き合う勇気を失わせていた。
『何がいけなかったんだ・・・・?』
ようやく反省を試みるも、思い当たるふしが多すぎて頭の中で整理しきれない。卵と粉をよくかき混ぜなかったのか?焼く温度が低かったのか?挙げてみれば切りがなく、挙げれば挙げるほどその先の困難さを突きつけられるようで、オレは反省を中断し片付けをしようとした。
「浩之さん・・・・・?」
「のうわああああああああああああああああああああつ!?」
突然背後からか細い囁くような声が聞こえ、オレは飛び上がって絶叫をあげる。
「はうっ!?あわわわわわわわっ!す、す、す、すいませんっ!!!」
そ~~っと声をした方向に顔を向けると、そこにはもう眠ったはずのマルチがぶんぶんと頭を上下させながらオレを驚かせてしまった事を謝っていた。
家に帰ってきてからずっと、心ここにあらずの状態で妙にそわそわしていたオレが気になったマルチは、自分の部屋に戻ってからも中々「寝付けず」オレの様子を見にきたらしい。
現場を直接押さえられてはもはや適当な言葉をつくろっての言い訳は不可能で、マルチに今回の目論見の全てを白状せざるを得なく、その結果オレはマルチから厳しい詰問責めを受ける事となってしまった。
「浩之さん」
「は、はい」
「卵はちゃんと温めながらかき混ぜましたか?」
「と、とりあえずは・・・・・」
「火の温度は45℃が目安ですけど」
「そ、そこまでは計ってなかった・・・・」
「これ見ますと、あんまりケーキが膨らんでませんね。粉と卵をかき混ぜ過ぎです。後、気泡を充分抜いてなかったようですね」
「ううっ」
こんなやりとりが約十回続き
「浩之さん」
「ええと、まだ何か・・・・?」
「どうして、作る前にわたしに相談してくれなかったんですかっ!」
むうっと眉をしかめて言い放つマルチに、オレはしどろもどろになりながら言い訳をする。
「と、とりあえず本読んだ限りではオレ一人で何とかなりそうだなって思ってさ。ま、まあ・・・あかりには出来るまでは内緒にしておきたかったし、マルチにも余計な仕事増やしたくないなって」
「今までまともにお料理をやってなかった浩之さんがいきなりできるわけありません。本を読んだからといってすぐにお料理できるのならわたしだって苦労しませんっ!」
「マ、マルチの言う通り・・・・」
二年半前にマルチに似たような事を言ったのは覚えているが、しかし今になってマルチから返されるとは予想の範囲外だった。
マルチの放つ厳しい一言一言は全くもっての正論であり、「出会った頃はあんなにドジで慌て者だったのに・・・」と、成長した娘を見る父親とでもいうのだろうか、そんな気分を抱きながらオレはマルチの叱責に素直に頭を下げながら聞き入っていた。しかし、このマルチのしっかりさは、絶対あかりの影響だな・・・・・・
「わたし、浩之さんのお手伝いをする為にここにいるのですから、もっとわたしを信頼して下さい。それとも・・・・まだ、やっぱり至らない所があるのでしょうか?」
「いや、そんなことはない!」
オレは一言の元にマルチの不安な疑問を否定する
「今回の事に関しては、全くオレの見栄というか意地っ張りというか・・・・とにかく、オレが悪いわけだから」
そういって、オレはマルチに頭を下げる
「だから改めて頼む。あかりのバースデーケーキを作るのを手伝ってくれねーか?」
「はいっ」
頭を上げると、そこにはさっきのしかめっ面から打って変わって喜びの表情を満面に浮かべたマルチがいた。
その夜は結局後片付けだけをして、明日からマルチ先生の「ケーキ作りの特訓」を行う事となった。
翌日・・・・つまり、今日になるわけだが、かれこれそういう理由であかりにはケーキが出来上がる「であろう」あいつの誕生日までは家にくるのを遠慮してもらった。
『本当、すまねえ・・・・』
これで何十回目かであろう「すまねえ」を心の中で呟きながら家の玄関の前についた。
恋人の誕生プレゼントの為に内緒でバイトをして、それを知らされてない恋人が不安に苛まされ二人の仲がギクシャクする。そんなドラマを「バカだなぁ、こいつら」と観ていた事があったが、まさか自分がその当事者になるとは思わなかった。
『ったく、これじゃああいうドラマを笑えねーじゃねえか』
一応、あかりには決してあかりを「避けている」が故でないことを伝えてはいるが、それでも何がどうなるかは神ならぬオレにはさっぱり見当がつかない。
『とにかく、あかりの様子がやばくなったら、全て打ち明けるか・・・・』
だったら最初からそうすればいいのだが、何にしても男ってのはしょうもない事で意地っ張りな生き物だな、とつい他人事のように思ってしまった。
「ただいまー」
居間にいるであろうマルチに声をかけるように玄関の扉を開けると、そこにはマルチの靴の他にもう一つ女物の靴が合った。一瞬あかりかと思ったが、あかりがいつも履いているものとは違っていた。
「ま、まさか・・・・・!?」
オレの背中を悪寒が音速で走り、今現在の状況下ではあかりであったほうがマシだったかも知れない人物を思い浮かべたくも無いのに思い浮かべてしまった。
「浩之さん、おかえりなさーい」
そんなオレの暗澹たる気持ちなどお構いなしにマルチが居間からとてとてと笑顔で駆けてくる。そして、その後ろからオレの想像した「その人」が、にこにこと柔らかい、今の状況でなければ心安らぐ笑みを浮かべて歩いてきた。
「おかえりなさい浩之ちゃん」
「た、ただいま・・・・・」
オレは脱力した声で、改めてひかりお母さんに頭を下げた。
「どうしても必要な道具があったのでひかりお母さんの所に借りに行ったら、ひかりお母さんが一緒にお手伝いしてくださると言うんですよー」
「この本書いた本人が直接教えた方がコツも掴みやすいでしょ?あかりには内緒にしておいてあげるから心配しないで
」
「は、はあ・・・」
心底楽しそうに話す二人とは対照的に、一時間前のやる気まんまんさがすっかり萎えてしまったオレ。ひかりお母さんの教えを受けるのが嫌だというわけではないが、さすがに残り時間に余裕のない現在、赤面ものの冷やかしを受けて肝心の作業が滞る事だけは正直勘弁願いたい。
「ほらほら、何今から弱気になってるの?男の子なんだからびしっと構える!」
そう言ってひかりお母さんはオレの背中をぱんと叩き、オレは「は、はいっ!」
と慌てて返事をすると彼女の言われるがままに準備を始め、こうしてオレのケーキ作りへの挑戦が始まった。
それからあかりの誕生日までの三日間は慌しく過ぎていった。
ひかりお母さんにあれやこれやと冷やかされるというのはオレの全くの杞憂でしかなく、こと料理を教えている時の彼女は完全にプロに徹していて、びしびしと厳しい指摘を受けながらも何とか人の食べられるものは出来上がったようだった。
最大の難事であったスポンジケーキが出来上がり、オレは慣れない手つきでクリームを塗り、ホイップでデコレートしていく。完成まで後僅かな仕上げ作業ではあるが、それが故に失敗は許されない。大げさではなく全神経を集中させてホイップのチューブを動かしていく、綾香や葵ちゃんとのスパーリング並に精神力を消耗する作業だった。何時の間にかひかりお母さんとマルチも、じっと息を呑んでオレのぎこちない動きを見つめていた。
「ふい~・・・・・」
最後に苺をのせて、不細工ながらもあかりの誕生ケーキは完成した
「わあ~・・・浩之さん、おめでとうございますー」
「浩之ちゃん、お疲れ様」
「い、いや二人とも、本当にありがとう・・・・」
二人のねぎらいの言葉に何とか感謝の言葉だけを言って、オレはソファーにぐったりと身を沈める
「しかし本当、お疲れ様のくたくたですよ」
「でも、お嫁さんへのプレゼントを自分で作るって事はやっぱり格別なものがあるでしょ?」
ケーキ作りが終わった途端に、いつもの「オレ達がよく知っている」ひかりお母さんになっていて。マルチはひかりお母さんの言葉を真に受けて「うんうん、そうですよね」と嬉しそうに頷く。オレは突っ込みの言葉も出す気力もなく、「は、はあ・・・いやはやまったく」と答えるだけだった。
ぽこ
「あたっ」
「もう、はぐらかした態度とらないの」
ひかりお母さんはぷうっと頬を膨らませてオレを軽くにらみつける。
「す、すんません・・・・まあ、そりゃ格別というか達成感というか、そういうのはありますけどね。ただ、いざ出来上がると今度はまた別の心配があるわけで」
「別の心配?」
一度は聞き返してきたひかりお母さんであったが、すぐにオレの言葉の意を察したのか
「大丈夫よ、あの子は浩之ちゃんが心を込めて贈る物なら何だって喜ぶから。結果よりもそこに至る努力が大事なのよ」
「ま、まあそうですが、そればっかりに甘えてもいられないというか」
ひかりお母さんはちょっと困ったような笑顔を浮かべ、「ふうっ」と軽く息をつき、オレを見つめる。
「『努力しました』だけに甘えられない浩之ちゃんの気持ちは分かるわ。でもね、相手の気持ちを動かす努力ってきちんと結果を出す事を目指しているからこそ
その人の気持ちを動かせるんじゃないかな?」
「・・・・」
「浩之ちゃんが言ってるのは『努力の為の努力』、『結果を目指した』ものとは全く違うわ。だから、胸はってあかりに渡しなさい。あの子はちゃんと分かってるし、分からない子に育てた覚えは全くないんだから。それに・・・・」
「それに?」
オレが聞き返すとひかりお母さんはマルチの肩に手をおきにっこり笑いながら言った。
「わたしと、わたしの愛弟子2号ちゃんがしっかり教えたのよ。いい加減なものになるわけないじゃない」
確かにそうだ。今更ながらに「至極当然な結論」に気付き、オレは「そ、そうですよね」と素直に答えた。
翌日、つまりはあかりの誕生日。大学の授業を終えたオレはまっすぐに家に戻り、冷蔵庫からケーキの入った箱を出すとあかりの家に緊張で少し震え気味な足を運んだ。
恋人同士になった高校二年の春以来幾度となく来てはいるが、これほど心臓が高鳴り足も震えるのはあかりの両親にあかりと恋人同士の付き合いをしていると報告しに来た時以来だった。
呼び鈴を押すと「はーい」と、軽やかな足音であかりが玄関にやってくる。
「あ、浩之ちゃんいらっしゃい」
満面に喜びの笑みを浮かべてオレを出迎えるあかり。
「よ、よお・・・・・」
三日間「ほったらかし」にしてしまった罪悪感もあって、それ以外は何も言えずにオレは立ち尽くしたままの状態でいた。そんなオレにあかりは「くすっ」
と、哀れむのでもなく馬鹿にするのでもなく、穏やかに包み込むような笑いを見せ
「さっ、早くあがって・・・ね?」
そう言って暖かく柔らかい手でオレのそれを包むように握り、オレを促した。
「あ、あかり」
「なあに?」
「そ、その・・・誕生日おめでとう・・・んで、三日間すまねえ」
「ううん、ありがとう」
先ほどと変わらぬ笑顔で応えるあかり。
その返事に多少ほっとしたオレは、あかりに引っ張られるがままに居間へと向かった。
「おっ、本日のメインイベントの登場だな」
「いらっしゃい、浩之ちゃん」
「浩之さん、お待ちしてましたー」
既にテーブルを囲んでいるあかりの親父さん、ひかりお母さん、マルチが出迎えの言葉をかける。テーブルの上にはおそらくひかりお母さんとマルチが腕によりをかけて作ったであろう料理が並べられていて、しかし、テーブルの真ん中はその本来あるべきものが置いてなく空白のままだった。
「まあ、ここまできたら、もうあかりにも分かってるはずだと思うが」
「うん・・・・・」
オレはテーブルの上に箱を置く
「これが、オレのあかりへの誕生日プレゼントだ」
そう言うと、オレは上箱をゆっくりと上げる。
「あ・・・・」
目の前の誕生ケーキを息を呑んで見つめるあかり。店で売ってる物には遥かに及ばない不細工なデコレーションケーキであったが、充分にあかりを驚かせていた。
「こ、これ、浩之ちゃんが作ったの?」
「ま、まあ厳しいお料理の先生二人の指導の元にな」
オレはひかりお母さんとマルチを横目で見、照れくささを感じながら答えた。
「その・・何かこう、オレの気持ちが伝わるものをあげたくて・・・な」
あかりの両親とマルチ、そしてあかりの視線を意識しながら、何とか背中のこそばゆさを我慢してそれだけを言う。
「と、とにかく、お祝いしましょうお祝い!」
優しさ溢れる視線の十字砲火から逃れる為に、上ずった声で叫ぶオレを三人はクスクスと笑いながら見つめ、一人は今にも溢れ出しそうな潤んだ目でじっと見つめていた。
十数分後、オレの作ったケーキを彼女が口にしたとき、それまで堪えていた涙が愛らしい垂れ気味の目尻からじわりと溢れ出した。心底嬉しそうな笑顔に流れるその涙は、オレの数日間の苦労が完全に報われた事の証だった。
二月も半ばを過ぎると日も高くなり、夕焼けで朱く染まった空の下を、オレとあかりは約一週間ぶりに二人肩を並べて家路についていた。
一般教養課程で授業が重なるとはいえ、オレの方は来栖川研究所でのバイトもあり、二人一緒に帰れる日は高校時代より遥かに少なくなっていた。そんな少ない機会を結果としてケーキ作りの為に潰してしまったわけで、あかりは当然としてオレも少なからず欲求不満が溜まっていたようだった。
小学校の頃からずっと通り慣れた公園に差し掛かると、人目も少ないせいかどちらからともなく体を密着させ、互いの腕を絡めあう。
「なあ・・?」
「うん?」
「やっぱり、その・・・一緒に帰れなかった事辛かったか?」
いつも以上にぎゅっとオレの腕を抱きしめるあかりに、オレは申し訳なさを込めて聞く
「えへへ、自分では分かってるつもりだったけど、浩之ちゃんがわたしの為に何かしてくれてるからって思ってたけど。やっぱりちょっと寂しかった」
悪戯っぽく舌をちょろっと出しながらおどけた感じであかりは言った。そんなあかりの様子に、オレは申し訳なさ以上に愛おしさが込み上げてくる。
「あかり」
「なあに?」
「罪滅ぼしってわけじゃなねーけどな。何かオレにして欲しい事あるか?」
「えっして欲しい・・・事?」
「1億円くれとか、オレの許容範囲を超えるものはさすがに無理だけどな。まあその・・・遊園地行くとか、映画行くとか、まあ日常的なものだったら何かしてやれないかな?って」
あかりは「うーん」と少し考える素振りを見せて
「そうだ!」
両手をぱんと叩いてオレに向き直る
「それじゃあ、わたしからのお願い」
「おお、言うてみ言うてみ」
「これから毎年・・・ううん、一年おきでもいいの。わたしの誕生日には浩之ちゃんがケーキを作って欲しいな」
「ぬ、ぬな!?」
「えへへへ」とあかりは笑い「その・・・浩之ちゃんのケーキとってもおいしかったし、何かくせになっちゃったみたい」
中毒かっ!?オレの作ったケーキの中毒になったのかっ!?
うーむ、悪戦苦闘の果てに出来た不細工ケーキだが、そんなにあかりの舌に御気に召したのか。オレの潜在的な料理の腕?それとも愛情の力?ま、まあ・・・それが当たってるかどうかはともかく、これは誇りに思っていいのか。
「ま、まああれで良いというなら、毎年作っても構わんが・・・」
あかりはオレに最後まで言わせず
「やったぁ、約束だよっ!」
そう叫ぶや否やオレに抱きついてきた。一瞬オレはあかりのアタックに目を白黒させかけたが、すぐにあかりをぎゅうっと思いっきり抱き返し、あかりの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でまわす
「わっわっわっ、ひ、浩之ちゃん」
あかりの慌て声に構わずオレはあかりを強く抱きしめる
「ったく、おめーはいつもいつも恥かしい事ばっかり口にしやがって」
「だ、だってそれは浩之ちゃんが・・・・」
「やかましい!いいかあかり、一度言ったからにはオレはきっちり約束は守るからな。だけど、オレがたまたま調子悪くて出来悪いもん作ってもしっかり食えよ?」
あかりの応えは率直で、まったくの予想通りだった
「うん・・・・」
それだけを言って、あかりは更にオレをぎゅっと抱きしめた。
それから数十分後、オレの両親とあかりの両親が用意していたとんでもない「あかりの誕生プレゼント」が家に帰ってきたオレ達二人を驚愕させるわけだが、それはまた別の話。
終
後書
1週間以上の遅れではありますが、あかりの誕生日SSです(汗
去年は仕事の疲れや方向性の迷い等で碌にSSを書く事無く、今回は約一年ぶりの「マルチ」となりました。やはり1年近くさぼっていた
ツケは相当なもので、文章がやたらとぎこちなくなっているのは否めません。今後、如何にこのぎこちなさを克服していくかが大きな課題
となりそうですが、当SSを読んでいてくださっている方々、Hiro様、どうか寛容な心でお付き合いして頂けたら幸いです。
とりあえず、今後の方向としては原点に返って「緩い愛情人情話」、これでいこうと考えています。