Ｔｏ　Ｈｅａｒｔ　ＳＳ　　　　マルチの話

　　　　　　　　　　写真

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くのうなおき
　　　　　　　　　　　　　　

　一枚の写真は、必ずしも雄弁に物語ることはできない。

　
　しかし、ある事柄について複数の写真が現れたとき、それらの複数の写真は、その事柄
について雄弁に物語りはじめる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　

　藤田家のアルバムは、その全部とまではいかないまでも、大半は浩之が・・・・いや、
正確には浩之とあかりが一緒に写っている写真で占められている。ここ二年はマルチも含
めた三人一緒のが多くなってきているが、やはりまだまだ二人が写っているものが圧倒的
に多かった。

　浩之とあかり
　

　
　物心つく前から一緒にいた二人。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、そして結婚
・・・いつも二人は一緒にいた。意識せずとも、ふとそばを見ればお互いがそこにいた。
　

　アルバムに貼られている様々な時を写した写真は、いつも二人が一緒にいたという
事、そしてそれが二人の切っても切れない絆を作り上げていった事を雄弁に物語って
いた。

　二人の母親に抱きかかえられて共に写っている赤ん坊の頃の写真

　二人の家族全員で撮った、初めての七五三の写真

　真っ赤になってあかりと手をつなぐ浩之を、二人の母が微笑ましそうに見つめる幼稚園
の入園式の写真

　カメラの前で、はしゃぎながらＶサインをする浩之とあかりを、二人の父母が苦笑しな
がら見ている、家族皆で遊園地へ行ったときの記念写真

　新しいランドセルをしょって、嬉しそうな顔をしてる浩之とあかりと、その後ろで二人
の母が二人の肩に手を置いて微笑む小学校の入学式の写真

　
　シャッターが落ちる瞬間、おどけた調子で二人の間に入ってきたひかりと志保に、二人
がびっくりしたした表情を見せている中学の卒業式の時の写真

　「この年になってお袋達と一緒にってのは恥ずかしいぜ」と渋る浩之に、「いいじゃな
いの、一枚くらい」と無理やり母親達と撮らされた高校の卒業式の時の写真

　初対面ですっかりマルチがお気に入りになり、中々マルチ離さないひかりに二人とも呆れ
た顔をしている、マルチが浩之のもとに帰ってきた時の写真

　白いウェディングドレスに包まれて微笑むあかりとマルチ、そしてその隣で照れくさそ
うに笑う浩之。その三人を家族友人一同が笑顔で囲んでいる結婚式の時の写真

　流れ行く時を記す一項一項の中に、二人はいつも一緒にいた。そしてこれからも二人、
いや、今は三人に増えたが、彼らはいつも一緒に時の流れの中に思い出の一項一項を記し
ていくだろう。培ってきた想い出が時を歩む原動力となり、その歩みの中で更に想い出が
培われ・・・・、それを幾度も幾度も繰り返しながら・・・・・・。

　「はう～～～・・・お二人ともお子様の頃から熱々でラブラブです～～～～♪」

　「も、もう・・・やだぁ～・・マルチちゃんったら・・・・（くねくね）」

　『ぜ、全然、『嫌』という雰囲気ではないのは、オレの気のせいか・・・？（大汗）』

　真っ赤な顔をしながら嬉しそうに二人の写真に見入っているマルチ、「恥ずかしいよぉ
～」と言いながらもやけに嬉しそうに身をくねらせているあかり、そんな二人の様子がむ
ちゃくちゃ気恥ずかしい、しかしその場を抜け出すにも抜け出せずのたうち回りたくなる
のを必死になって堪えながら二人を見ている浩之、シチュエーションは違えど基本的には
いつもと変わらぬ藤田家の光景である。

　「はうっ！？」

　不意にマルチが硬直したように黙り込んでしまい、そのまま怪訝な表情でアルバムを見
続けた。そして何かを確認するかのようにページを戻してアルバムに見ると、また再び硬
直した。

　「ん？マルチどうしたんだ？」

　「何かおかしな写真でも見つけたの？マルチちゃん」
　

　「あの～・・・浩之さん、あかりさん・・・・・・」

　しばらくして顔を上げたマルチが、怪訝な表情のままで二人を見た。　　　　　　　　　　　

　「・・・・・・？」

　「どうしたの、マルチちゃん？」

　「わたし、たった今気が付いたんですけど・・・・・・その・・・・・・」　　

　「「・・・・・・？」」

　「ひ、ひかりお母さん、あかりさんがお生まれになった時から今まで、『全然何も』変わっていな
いんですぅ～～～～～～～～～！！」

　
　「「・・・・・・・・・・・」」

　二人はマルチからアルバムを受け取った

　「「・・・・・・・・・・・・・・（汗）」」

　・・・・・・・・・・・・・・・・そして、『二十年間全然姿形が変わらない母』を見て絶句した・・・・・

　一枚の写真は、必ずしも雄弁に物語ることはできない。

　
　しかし、ある事柄について複数の写真が現れたとき、それらの複数の写真は、その事柄
について雄弁に物語りはじめる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　
　そして、時としてある一面の事柄を雄弁に物語っていたはずの複数の写真が、裏に隠れ、
今まで気付くことのなかった「真実」を知らず知らずの内に物語ることもある・・・・・・

　「はう～～～～・・・・・浩之さんのお母様だって、『髪型だけは』変わっていらっしゃるのに～～・・・・・・・・」

　　　　　　　　　　　　　　　　終

　後書き

　脊髄反射、突発的に思いついて書いたのですが・・・・・

　しかし、絶対ひかりんは二十年間「全然」変わってないとみた。いや、三十年か！？

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