To HeartSS  マルチの話  
 
 
 

 夫婦の肖像
 
 
 
                                                        くのうなおき
 
 
 
 
 

                                        
 「お母さん、マルチお姉ちゃん、ただいま~~~~~~!」
 
 玄関のドアが勢い良く開かれたと同時にひかるちゃんの元気一杯な声が響き、どたどた
と廊下を走ってくる音が聞こえました。
 
 いつも元気なひかるちゃんですが、そのいつもより更に元気一杯な声と足音に、あかり
お母さんとマルチお姉ちゃんは
 『何かいいことがあったみたいね』
 
 と、微笑みを交わしました。
 

 
 「ねえねえお母さんっ、マルチお姉ちゃんっ!!」
 
 居間に飛び込んできたひかるちゃんは、とっても嬉しそうに二人に声をかけました。
 
 おそらく学校からずっと走って帰ってきたのでしょう、汗をかき息をはあはあと弾ませ
ているひかるちゃん。そんな彼女の様子に内心すこし苦笑しながらも、「おかえりなさい」
と二人は心からの笑顔で、我が家のお姫様の帰宅を迎えます。
 

 「ひかるったら、そんなに息せき切って帰ってきて一体どうしたの?」
 
 あかりお母さんが、タオルでひかるちゃんの汗をふきながら笑いかけます。
 
 「何か学校でとってもいい事があったんですか?」
 
 あかりお母さんとマルチお姉さんの問いかけに、ひかるちゃんは「うんっ!」と元気良く
頷きました。
 
 「ええとね、今日図工の時間で絵をかいてね、先生が花丸いっぱいくれたんだよ」
 
 と言うと、ひかるちゃんはランドセルを降ろして、ごそごそと画用紙を出しました。
 

 ちなみにひかるちゃんのクラスの担任の先生は、あかりお母さん、マルチお姉ちゃん、浩
之お父さんのお友達でもある姫川先生です。ひかるちゃんとは、ひかるちゃんが生まれた時
からずっと見知った仲で、ひかるちゃんにとっては「先生」というよりも、「お姉ちゃん」
のような人です。
 
 あかりお母さんに負けないくらいの美人で、優しくて、ひかるちゃんのクラスだけでなく
学校中の生徒、先生の間で人気抜群な先生です。
 

 ただ、何故か不思議なことに未だに独身なのですが
 
 
 

 ランドセルの中から画用紙を出したひかるちゃんは、「はいっ」と言って二人の前に出し
ました。
 
 「うふふ、ひかるの力作を見せてもらうね」
 
 「一体どんな絵を描いたんですか?」
 
 「ええとね、先生が『お父さんとお母さんの絵をかいてね』って言ったの」
 
 「あらあら、と、いうことは浩之さんとあかりさんの絵ですね?」
 
 「うん、お父さんとお母さんが仲良くしてる絵をかいたんだよ。ちょっとはずかしかった
けど・・・・」
 

 ひかるちゃんの言葉に、あかりお母さんは少し頬をあからめて「や、やだ・・・・・・・」
と、嬉しさ半分恥ずかしさ半分な表情で、マルチお姉ちゃんと顔を見合わせました。
 

 『一体どんな風にわたしと浩之ちゃんを描いたんだろう・・・?』
 
 期待と恥ずかしさで胸をどきどきさせながら、画用紙を広げるあかりお母さん、マルチお姉
ちゃんも隣で、期待に胸を弾ませています。
 

 そしてひかるちゃんの描いた、「浩之お父さんとあかりお母さん」の絵に見入る二人ですが
・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」」
 
 
 
 
 
 「あれ?お母さんもマルチお姉ちゃんもどうしたの?」
 

 画用紙を広げたまま何故か固まっている二人に声をかけるひかるちゃんですが、あかりお母
さんもマルチお姉ちゃんも、冷や汗を流して固まったままです。
 
 
 

 画用紙に描かれている浩之お父さんとあかりお母さんは、小学校一年生の拙い絵柄ながらも
二人の特徴がしっかりと描かれていて、二人を知っている人ならばすぐに「浩之お父さんとあ
かりお母さんの絵」ということが分かります。確かに花丸を貰ってもおかしくない出来なので
すが、問題は二人がお布団に入ってキスをしているという、みよ~~~~~に意味深なシチュ
エーションな点なのです。
 
 『はわわわ・・・・、お二人とも熱々でラブラブですねぇ・・・・・・・』
 

 『も、もう・・・・マルチちゃんったら・・』
 
 
 『はうっ・・すいません・・・・』
 

 ひかるちゃんに聞こえないように、小声でぼそぼそと話すあかりお母さんとマルチお姉ちゃ
ん。そんな二人をきょとんとして見つめるひかるちゃん。
 
 ようやく硬直状態の解けたあかりお母さんは、ぎこちない笑顔を作ってひかるちゃんに言い
ました。
 
 「ひかる、とっても上手に描けてるわよ」
 
 ひかるちゃんはその言葉に満面の笑みを浮かべて
 
 「でしょ?でしょ?琴音お姉ちゃんも『とっても上手に描けてますね』って誉めてくれたん
だよ」
 
 「こらっ、『お姉ちゃん』じゃなくて『先生』でしょ?」
 
 「あ、ごめんなさい・・・」
 
 ぴょこんと頭を下げた後、舌をちょろっと出して「えへへ・・」と照れくさげに笑うひかる
ちゃん。小学校に入って、琴音お姉ちゃんがひかるちゃんの担任の先生になったので、「これ
からは『琴音お姉ちゃん』じゃなくて、『琴音先生』と呼ばなくちゃだめよ」とあかりお母さ
んに言われてるのですが、中々くせになった呼び方は直らないようです。
 
 「それにしても・・・・・」
 
 少し心に余裕ができたあかりお母さんは、ひかるちゃんに苦笑を向けました。
 
 「・・・・?どうしたの、お母さん?」
 
 「あっ、ええとね、どうしてお父さんとお母さんがお布団の中でキスしてる絵にしたのかな
?」
 
 あかりお母さんは、ひかるちゃんを不安がらせないように、さりげなく笑顔で聞きました。
 
 ひかるちゃんはにっこり笑顔を見せながら
 

 「それはね、お父さんとお母さんが二人だけでおやすみしてる時が一番仲がいいからなの」
 
 
 
 
 
 
 
 「・・・・・・・・・・!!」
 
 
 
 
 
 
 
 ひかるちゃんの言葉に、思わず顔をいっそう赤くして、絶句するあかりお母さん。一方
 
 「あ、あ、あ・・・・・・・・」
 
 ひかるちゃんの「爆弾発言」に、何かを思い出したように決まり悪い表情でもじもじとする
マルチお姉ちゃん。そんなマルチお姉ちゃんに、あかりお母さんは少し不安げに「どうしたの
?」と聞きます。
 

 「ええと・・・、多分ひかるちゃんがこの絵を描いたのは、わたしが原因ではないかと・・」
 
 マルチお姉ちゃんは、両手の人差し指を合わせ、もじもじとしながら話始めました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 それは数日前のことでした
 
 
 
 
 
 いつものように、「お父さんお母さんおやすみなさい」と、おやすみ前の挨拶をしたひかるちゃ
んとマルチお姉ちゃんは二人の部屋へと行きました。その時、ひかるちゃんが「なんでお父さん
お母さんと一緒におやすみできないんだろ・・・」と不満気に呟きました。
 
 
 
 藤田家では、月曜日から木曜日、そして日曜日は、浩之お父さんとあかりお母さん、マルチお姉
ちゃんとひかるちゃんは別々に寝ることになっています。四人が一緒に寝るのは金曜日で、土曜日
は、マルチお姉ちゃんとひかるちゃんは、ひかりお母さん(本当は『おばあちゃん』なんだけど、
『お母さん』と呼ぶと喜んでくれるのでそう呼んでいる)の家に泊まることになっています。ただ
ひかるちゃんには、ひかりお母さんの家に泊まるのはいいとして、お父さんお母さんと一緒におや
すみできる日が一週間に一回しかないのが不満でした。
 
 「ひかるちゃんは、わたしと一緒におやすみするのが嫌ですか?」
 
 マルチちゃんは冗談めかして聞きましたが、ひかるちゃんは自分の言ったことが誤解されたかと
思って頭をぶんぶん振って、マルチちゃんの質問を慌てて否定しました。
 
 「そ、そうじゃないの、マルチお姉ちゃんはお父さんとお母さんと同じくらい大好きだもん、ぜ
んぜん嫌じゃないよ!・・・・でも・・・・・」
 
 マルチお姉ちゃんは「うふふっ」と微笑むと、ひかるちゃんの頭をそっと撫でました。
 
 「分かってますよ。お父さんお母さんも一緒にいたらもっと楽しい・・でしょ?」
 
 ひかるちゃんは「うん」と頷きました。マルチお姉ちゃんはひかるちゃんの頭をなでながら話を
続けました。
 
 「そうですね、わたしも『いつも一緒におやすみできたら楽しいのにな』、って思いますよ。で
も、そうすると浩之さ・・・お父さんとお母さんは『仲良く』できなくなってしまうんですよ」
 
 「『仲良く』・・・って?」
 
 『いつもお父さんとお母さんは「仲良く」してるのに、どうして「仲良く」できないんだろ?』
と不思議そうな顔をしているひかるちゃんに、マルチお姉ちゃんは更に話を続けます。
 
 「お父さんとお母さんはですね、お二人だけでおやすみする時は、わたしとひかるちゃんと一緒
にいる時より、もっともっと『仲良く』されているんですよ」
 
 「もっともっと・・・・って、お母さんがお父さんに『あ~~ん』ってするよりも?」
 
 「はい、例えばですね・・・、お尻にちゅう・・・・じゃなくて!」
 
 「『ちゅう』・・・?」
 
 「え?そうそう、ちゅうですキスです!そういうことなんかしたりしてるんですよ」
 
 「ええっ、そうすると・・・白雪姫と王子様みたいなことしてるの?」
 
 前にテレビで見たことがある、白雪姫と王子様のキスシーンを思い浮かべて、ひかるちゃんが顔
を赤くしながら聞きました。
 
 「そうですよ、ひかるちゃんやわたしがいる前では、ちょっと恥ずかしいから、お二人はしません
が、二人っきりの時にはいっぱいいっぱい『仲良く』されてるんですよ」
 
 「そ、そうなんだ・・・・」
 
 お父さんとお母さんがキスをする光景を想像したひかるちゃん、胸のどきどきがマルチお姉ちゃん
にも伝わってきました。マルチお姉ちゃんはそっと微笑むと
 
 「お父さんとお母さんはですね、ひかるちゃんが産まれる前から、わたしがこのお家に来る前から
ずっとそういう風に『仲良く』なさっていたんですよ。ですから、ひかるちゃんもわたしも、それを
お邪魔してはいけませんよね?」
 
 「うん・・・・、そうだよね・・・・・わたしとマルチお姉ちゃんがいたら恥ずかしくて、『仲
良く』できないもんね」
 
 「でも、お父さんとお母さんはひかるちゃんが大好きだということ、邪魔になんかしていないと
いうことは忘れないで下さいね。ひかるちゃんが大好きだから、いつもではありませんがひかるち
ゃんと一緒におやすみするということを」
 
 「うん・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 

 「おそらくひかるちゃんは、わたしが言ったことを思い出して、浩之さんとあかりさんが『仲良く
』する絵を描いたのではないかと・・・・」
 
 ばつが悪そうに話すマルチお姉ちゃんに、あかりお母さんは苦笑して
 
 「いいのよマルチちゃん、別にこの絵がいけないとかじゃなくて、ちょっとびっくりしただけだか
ら」
 
 と言って、マルチお姉ちゃんの頭を優しく撫でました。
 
 二人の様子をじっと見ていたひかるちゃんは、不安な面持ちで「お母さん・・・?」と声をかけま
した。そんなひかるちゃんにあかりお母さんは
 
 「こらっ、おませさん」
 
 と言って、軽くこつんとひかるちゃんの頭をたたき
 
 「お母さんね、ぜんぜん怒ってないわよ。まあ、びっくりしたのは本当だけどね」
 
 「・・・・・・・・・」
 
 「でも、この絵はひかるが、お母さんとお父さんがずっと仲良くしていて欲しいな、って思って
描いた絵なんでしょ?」
 
 「う、うんっ、もちろんだよ!!」
 
 「その気持ちがね、お母さんはとっても嬉しいの。ただ・・・・今度お父さんとお母さんを描く
ときにはね、お外で仲良くしているのとか別のを描いて欲しいな。お布団の中って・・・・ちょっ
と恥ずかしいから」
 
 最後のところはぼそぼそ・・・と恥ずかしそうに話すあかりお母さんでした。
 

 「うんっ、それじゃあ今度お父さんとお母さんの絵を描くときには、お母さんがお父さんに
『あ~~ん』ってしてあげてる絵にするね」
 
 「そ、それは・・・・・う~~ん・・・・」
 
 と困ったように、マルチお姉ちゃんに助けを求めるように目をむけるあかりお母さん。
 
 「でも、それってひかるちゃんやわたしの前でもなさってることですし・・・」
 
 「も、もうっ、マルチちゃんもひかるもぉ~~~~~~~」
 
 と、思わず「はぁ・・・・」とため息をもらしながら、あかりお母さんはもう一度ひかるちゃん
の絵に目を落としました。
 
 「それにしても、琴音ちゃんったら・・・・この絵を見て何も思わなかったのかな・・・?」
 
 そう呟いて何気なく裏側を見ると、大きな花丸が書かれていて、その横に何か書かれています。
 
 
 
 
 
 
 

 「素敵です・・・・・・(はあと)」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「「・・・・・・・・・・・・・(大汗)」」
 
 
 
 
 
 
 

 その文字に釘付けになったあかりお母さんとマルチちゃん、普通なら純粋に「誉め言葉」とし
て受け取るべきでしょうが、なにせ書いたのが「琴音ちゃん」で語尾にハートマークがついてい
た時には、二人とも「「あはははははは・・・・」」と苦笑するほかありませんでした。
 

 そんな二人の様子を、ひかるちゃんはきょとんと見つめていました。
 
 
 
 
 

 その日の夕方、帰宅した浩之お父さんが、ひかるちゃんの絵を見て目を白黒させて
慌てふためいたのは言うまでもありません。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

                終
 
 
 
 
 
 後書き
 

 まあ小学一年生ぐらいなら、父親と母親が「仲良く」している光景なんて想像も
つかんだろーし(現に私は親が「キス」をしているという事すら想像できんかった)
ませてるといってもこの程度ぐらいではないかと(^^;;




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