400000HIT記念、及び「マルチの話」20回記念   To Heart SS            「マルチの話」        (結婚前篇)    大安吉日
その1    藤田浩之、神岸あかり、マルチ  「浩之ちゃんのお嫁さんになるの。」  幼い日、何度となく言ってきた言葉。  無邪気に、必ずそうなるだろうと思い、繰り返し繰り返し言ってきた。浩之ちゃん も照れながらも、「大人になったらな」と言ってくれていた。幼い二人の約束とも言え ない約束、でも、わたしはきっとかなえられると信じていた。  中学生になり、幼い考えから、現実的に考えるようになってもその想いは変わら かった。幼なじみという関係が、かえって距離を作ってしまう・・・、分かっていても、 それでもわたしは浩之ちゃんとずっと一緒にいたかった。浩之ちゃんがわたしに、 一人の女性として振り向いてくれる事を願っていた。幼い日の言葉は口に出す事 はなかった、でも心の中にずっとしまっていた。  高校二年の春、浩之ちゃん、わたし、そしてまだ見ぬマルチちゃんの妹との三人 で一緒に思い出を作っていこうと、浩之ちゃんと約束し、結ばれた。その時から、幼 い日の言葉は、「現実」へと動きだした・・・・・・。  大学生になって、マルチちゃんが浩之ちゃんの元に帰ってきてから、半ば花嫁修業 のような、三人の楽しい日々が始まった。言葉はますます現実に限りなく近くなって いった。それでも、「お嫁さんになる」のは、大学を卒業してからなんだろうなと思っていた。  ・・・・・・まさかこんなに早く、幼い日の言葉が実現されるなんて・・・・・・・・、人生 って不思議だね。ねっ、浩之ちゃん、マルチちゃん♪  確かに、人生って何が起こるかわかんねーよな、オレだってまさか、こんなに早く とは思わなかったし・・・・・・・・・・・。  「浩之、あかりちゃん、二人とも結婚しないか?」    久しぶりに親父とお袋が帰ってきたかと思うと、あかりのお父さん、お母さん、そし てあかりとマルチを交えた家族会議が開かれた。皆が集まって、開口一番親父が、 オレ達の結婚について話し出した。まあ、今の内に婚約をしておかないか?という 意味なんだろうな。    「オレ達はそのつもり・・・・・・・・」  と言いかけたところで親父に止められた。  「いや、父さんが言いたいのは、今結婚しないか?ということだ。」  は?  何を言い出すんだ?という顔をしてオレは親父を見た。隣のあかりもオレと同じように 突然の出来事に口を中開きにしながら、茫然と親父たちを見ていた。お袋や、あかりの お父さん、お母さんは既に話し合い済みなのか、にこにこしながら、オレ達を見ている。お袋 とあかりのお母さんの間にはさまれてるマルチも嬉しそうにオレ達を見つめているのだが、 多分マルチは、純粋にオレ達が結婚することが嬉しくて微笑っているんだろうな。  それにしても親父たちは何考えてんだ?まだ、マルチの借金を返し終わってねーのに 結婚もなにもねーだろうが・・・・・・・。  マルチを買う際に、オレが親父に借りた金は、バラ色の学生生活を犠牲にした、オレの アルバイト、あかり、マルチの「生活応援」のおかげで順調に返済されている。だけど、最 低あと二年はかかりそうだ。  「マルチちゃんのお金の事はわかってるさ。まあ、つまりその事なんだが・・・・・・。」  オレの考えてる事が分かったのか、親父がまた話し出した。  「会社のパーティで貰った宝くじの券が当たっちゃったんだよ・・・・・、二千万円・・・・・。」  「へ・・・・・・・・・?」  つまりは、その金でマルチの借金をちゃら、更にオレとあかりの結婚式までやってくれる という事だった。  オレは最初、それを断った。そりゃ、オレだって、あかりだって、マルチだって、すぐにオレ達 が結婚できるのならそうしたいと思う。だけど、マルチの借金は、親父は肩代わりしてくれた だけなのだ、これは、オレ自身が払っていかなければいけない事なのだ、そこまで親父に世話 になるわけにはいかなかった。そうでなければ、オレはあかりとマルチと一緒に暮らす資格を 失っちまう・・・・・・。  しかし、親父たちは、これはオレ達の頑張りへの贈り物だと言った。親父もお袋も、あかりの お父さんもお母さんも、オレ達がマルチの借金を返す為に助け合って来た事を、ずっと見ていた。 これならば、助け船を出しても大丈夫だろうと判断して、この話を切り出したのだった。  「あかり、浩之ちゃん、マルチちゃん、藤田さんの贈り物を受け取ってあげて。そして三人が 力をあわせて、幸せな家庭を作ることで、お返しをしてあげて・・・・・ね。」  ・・・・・・・・・・・・・ひかりお母さんの言葉で、オレ達は結婚を決めた。  そしてその場で、オレの両親の臨席のもと、あかりの両親への挨拶をすることになった。 しかし、家族全員の前で結婚の挨拶ってのはしんどいぜ。オレはガチガチになりながら、 あかりのご両親に挨拶をした。だけどなあ、そのオレの様子が可笑しかったって、あかり 達が帰ってから、ゲラゲラ笑ってるんじゃねーよ、親父、お袋・・・・・・・・・・(汗)。  ・・・・・・・それとマルチ、お前、笑いをこらえてるのが見え見えだったぞ・・・・・・・・・(大汗)。  はわわわわわわ、す、すいませ~~~~~~~~ん!!  「あ、もう浩之さんが来る頃ですね。」  「うん、そろそろだね。」  浩之さんとあかりさんが結婚なさる事が決まった数日後、わたしとあかりさんは、夕方の 公園で浩之さんと待ち合わせをしていました。何でもちょっと寄っていかなければいけない 所があるというので、学校の授業が終わったら、あかりさんとは別行動をとったとの事なん ですが。でも、お家で待ってもらえばいいのに、どうしたのでしょうか?  あかりさんも、わたしと同じように考え込んでいますが、あら?何かに気が付いたようです。  「あかりさん、どうしたんですか?」  「うん、浩之ちゃんがね、どうしてここで待ち合わせることにしたのか、分かっちゃった。」  「え?え?え?一体どう言う事なんでしょうか?」  あかりさんは優しい笑みを浮かべて、目の前の木を見ました。  「前にマルチちゃんに話したよね、わたしが浩之ちゃんを好きになった頃の事。」  「あ・・・・・・・・・」  そうでした、あかりさんが浩之さんを好きになったのは、小さい頃、かくれんぼで置き去りにして しまったあかりさんを、浩之さんが向かえに来たことがきっかけでした。そしてその時、浩之さんも あかりさんが好きだという事に気づいたんですよね・・・・・。  「お~~~い、あかり~~~~、マルチ~~~~」  あ、浩之さんが来ました。わたしもあかりさんも、笑顔で手を振って応えました。  「早いなあ・・・、まだ十分前だってのに・・・・・・。」  「ふふっ、そういう浩之ちゃんだって、同じじゃない。」  「ま、まあな・・・。ひょっとして、と思ったからな・・・・・・・。」  そして浩之さんは、顔をひきしめるとわたし達をじっと見つめました。わたし達も これから起こる事を察して、浩之さんを見つめ返します。    「何だ・・・、オレが何するのか分かってるみたいだな?」  苦笑する浩之さん。  「うふふ、わたしも、マルチちゃんも、『藤田浩之研究家』だもん♪」  「はいっ、でも、まだまだあかりさんにはかないませんけど。」  本当にそう思います、さすがあかりさんです。  「・・・まあ、オレの意図に、今、気づいて感動ってシチュエーションを期待してなかった わけじゃねーけどな・・・、これはこれでいいか。」  浩之さんは、バッグから小さな箱を出しました。やはりそうでしたね♪  「先日は、いきなりだったからな・・・。あかりへのプロポーズはこの時間のこの場所って 決めてたから、ここでもう一度、お前に・・・・・・。」  「うん・・・・」  「マルチ、オレとあかりの立会い人になってくれないか?」  「はいっ!!」  浩之さんとあかりさんが向かい合いました。しばらくお二人共黙ってお互いを見つめていました。 そして、浩之さんが口を開きました。  「あかり・・・・・・・、オレと結婚して下さい・・・・・・・・・・・・・。」  あかりさんは、涙を浮かべながら、かみしめるように  「はい・・・・・・・」  と答えました。  浩之さんは、小箱から指輪を取り出し、あかりさんの指にはめました。夕焼けをバックにした、その 光景はとっても美しかったです。おそらく何年、何十年たってもわたしはこの日の、この場所の光景を 忘れないでしょう。  お二人の始まりの場所での、お二人の新しい始まりの儀式でした・・・・・・。  あかりさんに、指輪をはめ終えると、今度は浩之さんはわたしの方に顔を向け、わたしを手招きしました。  「え?どうしたのですか?」  「もう一つ、しなくちゃいけないことがあるんだ。」  と言って、浩之さんはまた、小箱を三つ出しました。  「浩之ちゃん、奮発したみたいだね。」    あかりさんが、涙を拭きながら、わたしに微笑みかけて言いました。  「まあ、せっかく入ったバイトの給料の使い道がなくなったんだ、これくらいはバチはあたらないだろう?」  浩之さんが苦笑しながら、答えます。でも、これってひょっとして・・・・・・?  「あかり、マルチ・・・・・」  浩之さんが、また引き締めた顔で言いました。わたしもじっと浩之さんを見つめました。  「これから、ずっと、三人で幸せを、思い出を作っていこうな・・・・・・。」    「「はいっ!!」」  そう、これは「家族」の儀式、これから幸せを作っていく三人の儀式・・・・・、わたしなんかが・・・・なんて 言いません、わたしも、「家族」の一人として、お二人を、いえ、三人を幸せにするためにがんばります!!  浩之さんが、あかりさんに、わたしに、指輪をはめてくれました。そして,わたしとあかりさんは、お互いの 手を重ね合わせて、浩之さんの指に、指輪をはめました。  指輪をはめ終えると、浩之さんはわたしとあかりさんを抱き締めてくれました。 わたしは、涙をごまかそうと、浩之さんの体に顔をすりつけました、それはあかりさんも同じでした。  夕焼けの物哀しい色が、その反対の嬉しさと混ざり合ってわたし達をこんなに泣き虫にさせるのか どうかは分かりません、でも、わたしも、あかりさんも、とっても嬉しいという気持ちは、間違いありませ んでした。  浩之さんとあかりさんの、新しい始まり。・・・・それは、わたしも含めた、三人の新しい始まりでもありました ・・・・・・・・・・・・・。             その1 終



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