「まったく……これからの楽しいひと時を……一体誰だ?」
そう呟きながら、慌てて服を着替え始めるあかり達を尻目に、浩之は玄関へと向かう。
(ちくしょう……客さえ来なければ、あのままバニースーツのリボンを解いて、
『プレゼント』を美味しく頂けるはずだったのに……、
もしも、新聞の勧誘とかだったら……狩ってやる」
良いところを思いきり邪魔されたせいだろう。
浩之の歩調は、かなりご機嫌斜めだ。
(……まあ、楽しみは今夜に取っておくという手もあるがな)
と、玄関までやって来たところで、浩之はそう気持ちを切り替えると、
おもむろにドアノブに手を掛ける。
「はいは~~~い、どなたですか?」
そして、突然の来客にそう答えながら、浩之はドアを開けた。
その瞬間……、
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
「ぬおっ!?」
玄関から顔を覗かせた浩之の顔面に向かって、いきなりクラッカーが鳴らされた。
「だ、誰だ?! 危ねぇじゃねーかっ!」
耳元で大きな音が鳴ったせいだろう。
キーンと耳鳴りがする耳を片手で押さえつつ、浩之が怒鳴る。
「はっはっはっはっ! ハッピーバースデイ、藤田っ!」
――バタンッ!
怒鳴る浩之に対して、何も悪びれた様子も見せず、
クラッカーを構えたままの姿で爽やかな笑みを浮かべる来客。
その姿を見た瞬間、浩之は無言でドアを閉めた。
「こらっ! 藤田っ!! せっかくクラスメートがお祝いにき来てやったと言うのに、
その態度は何だっ! サッサと開けんかーーーーっ!!」
ドンドンドンドンッ!!
固く閉ざされたドアを、来客は遠慮無しに叩く。
「ふーじーたーっ! 開けろっ! 開けろっ! ドアを開けろーっ!」
「あーっ!! うるせーっ!!」
そのあまりのしつこさにゲンナリする浩之。
一瞬、本気で警察を呼ぼうかと思ったが、
さすがに、クラスメートが逮捕されるというのは寝覚めが悪い。
しかし、相手は、絶対に諦める様子はなさそうだ。
「ったく、しょうがねーなー」
いつもなら、自分の妻達に発せられるその口癖。
だが、言葉は同じでも、それに込められた感情は全くの別物である。
「ほれ、入れよ……矢島」
「はっはっはっはっはっ! 藤田、ようやく素直になったか♪」
渋々といった表情でドアを開けて来客……矢島を迎え入れる浩之。
それとは対照的に、満面の笑顔の矢島。
それにしても、人の誕生日に祝い物の一つも持たずにやって来るとは、
まったくもって良い度胸である。
「それじゃあ、お邪魔させてもらうぞ」
「……勝手にしろ」
手をヒラヒラと振って、かなり不機嫌な様子で矢島に答える浩之。
そんな浩之の様子を全然気にする事無く、矢島ズカズカと家へと上がる。
そして、勝手にリビングに向かいつつ、ポツリと呟いた。
「ふっふっふっふっ……まんまと潜入に成功したぜ。藤田なんざチョロイもんだな。
さて、あとは、神岸さん達と楽しくお喋りでもしつつ、そのまま親密な関係に……」
と、グフフと不気味な笑みを浮かべる矢島。
どうやら、浩之の誕生日を祝うつもりなどは毛頭無く、それが本当の目的であるようだ。
レミィ風に言うならば『敵は本能寺』というやつである。
しかし、世の中、そう甘くは無い。
そうそう事が思い通り運ぶわけがないのだ。
そもそも、矢島は全く気が付いていない。
自分が、招かれざる客だということに……、
そして――
半ば強引に、藤田浩之誕生日パーティーの会場であるリビングへとやって来た矢島。
「おおおおおおっ!!」
そこに並べられた豪華な食事の数々に、矢島は目を輝かせる。
それらは、今まで矢島が見たことも無いご馳走ばかりであった。
しかも、全てあかりを筆頭に、藤田家の妻達が作ったものなのである。
例え、彼女達と親密な関係になれずとも、これだけの料理にありつけるのならば、
それだけでも来た甲斐があるというものである。
と、そんな事を考えて、歓喜に打ち震える矢島。
「さあ、野次魔さん……どうぞこちらへ」
そんな矢島を、非常に嫌そうな顔をしたセリオが、
さり気無く名前の漢字を間違えつつ、リビングの中へと案内する。
「ああ、ありがとう…………って、ここ?」
「…………(こく)」
セリオに連れていかれた場所――
そこにある物を見て、矢島は呆然とする。
それに対して、セリオは無言で頷く。
そこにあったのは……、
テーブル代りのみかんのダンボール――
座布団代りの古新聞――
紙皿に盛られたパンのミミ――
コップに無造作に潅がれた水道水――
そして、トドメは壁に逆さに立て掛けられた一本のホウキ――
<理緒ちゃんのとってもためになる豆知識>
これはね、『逆さホウキ』っていう、一種のおまじないなんだよ。
その効果は、嫌なお客さんが来た時に『早く帰れ』っていうものなの。
どう? とってもためになったでしょ?
みんなも、嫌なお客さんが来た時に試してみてね♪
ちなみに、これは相沢君のところの天野さんに教えてもらったんだよ。
さすがは天野さんだよね。
美汐「……そんなに酷なことは無いでしょう」
「ううう……しくしくしくしく」
リビングの片隅……、
古新聞の上に正座して、矢島はシクシクと涙を流す。
いくら相手が矢島とはいえ、あんまりな扱いであると言えよう。
だが、綾香とセリオとレミィ曰く……、
「『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて三途の川』ネ」
「それを言うなら『――地獄へ墜ちろ』です」
「なんなら、セバスチャン呼んでレミィの言う通りにする?」
……なのだそうだ。
それでも、基本的に人の良いあかり・マルチ・芹香・葵・理緒の五人は、
せめて料理や飲み物だけでも矢島に給仕しようとしたが、智子と琴音に……、
「やめとき。ああいうのんはちょっと優しくするとすぐに突け上がって勘違いするで
「……ストーカーになる典型ですね」
……と言われて、矢島にちょっと申し訳無いと思いつつ、あかり達は引き下がった。
もっとも、パーティーが再開されると、
すぐに矢島の存在など忘れてしまったようだが……、
――というわけで、矢島は、こんな状況になってしまったわけだ。
いや、それだけならまだ良い。
無下に扱われるだけなら、ハッキリ言って、まだマシであった。
何故なら、ポツンと一人寂しく座る矢島の目の前で……、
「藤田さん♪ はい、コロッケですよ♪ あ~ん♪」
「こ、琴音ちゃん……次はわたしだからね」
「ヒロユキ~♪ マシュマロと梅昆布茶はとってもマッチするネ♪」
「そ、その食べ合わせはデンジャーじゃない?」
「レミィさんの味覚に国境は無いようですね」
「…………(こくこく)」
「藤田君♪ 水割りできたよ~♪」
「雛山さん、もちろん水道水なんか使っとらんやろな?」
「だ、大丈夫です~。ちゃんとキレイな水を使いましたから~」
「マ、マルチちゃん……それって、ミネラルウォーターってことよだね?」
……このように、おピンクならぶらぶ空間が展開されているのである。
独り身にとって、これを見せつけられるのはまさに地獄。
奇しくも、矢島はレミィの言った通りと状況に陥ってしまっていた。
そんな矢島にお構いなしに、
浩之達は、ただ、ひたすらにらぶらぶモードを続行する。
「浩之ちゃん、次はわたしの番だよ。はい、あ~ん♪」
「なんだ、箸は使わないのか?」
「ふふふ♪ そうだよ…………ぱくっ☆」
――ちゅっ☆
「んっ……んぐ……んんん……☆」
「んむむ……むぐむぐ……」
――モグモグモグ
――ごっくん♪
「はふぅ……どう、浩之ちゃん? 美味しかった?」
「お、おう……」
「さ、さすがはあかりさん……口移しとは……」
「ま、負けてはいられませんね」
「わ、わたしも頑張ります~☆」
「う、ううう……」
当然、矢島がそれに堪えられるわけもなく……、
「うわぁぁぁぁーーーんっ!!」
……彼は、血の涙を流しながら、藤田邸を飛び出し、走り去ったのであった。
まだ見ぬ……、
自分だけの楽園へと向かって……、
それが、必ず何処かにあるはずだと信じて……、
「どちくしょぉぉぉーーーっ!!
俺も、いつか必ず
幸せになってやるぅぅぅーーっ!」
そうだ! 矢島っ!!
キミの幸せは、いつか必ず訪れるっ!!(多分)
だから、希望を捨てずに走り続けるんだっ!
見ろっ! 読者のみんなもキミを応援しているぞっ!!(多分)
がんばれ、矢島っ!
負けるな、矢島っ!
夕日に向かって走るんだっ!!
つらくなったら、我らSS作家に言えっ!!
――トドメ刺してやるから。(ニヤリ)
「そんなのイヤだぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁーーーーっ!!」
――ちゃんちゃん♪
<おわり……でいいのか?>
<あとがき>
サラリと終わらせてしまいました。<(_)>
でもまあ、他にもシリーズはあるようですし、
一つくらいは、この程度の規模がちょうど良いのではないかと……、
最初は、来客は馬鹿の一つ覚えの如く誠達でいこうかな、とも思いましたが、
それはさすがにワンパターンなので、急遽、矢島に変更。
まあ、ボクの場合、矢島でも充分ワンパターンな気もしますが……、
それでは、また、次の機会に……、
でわでわー。