食堂蒼考。 普段は店の大将が子供と触れ合う時間を作るために早く閉まる店が、今日はまだ明かりがついていた 角のテーブルに突っ伏している客が、まだいたからであった。 「…大将、熱燗もう一本ください」 「うちは居酒屋じゃないんですけどねえ」 忠孝は暖簾を下ろすと、御銚子を湯につける。大体30分くらいで出来るだろう。 「ぼかあね…ただ喜んでほしかったんですよ。誕生日に美味しいものを食べてもらって、彼女の笑顔が見られればそれでよかったんですよ…」 「美味しいと喜んでくれてたように聞こえましたが」 「違うんです…違うんですよ…」 しくしくしく、と机に突っ伏したままうにょは拳を震わせた。 「ぼかあ自分で、喜ばせたかったんです。お店の美味しい料理だけじゃなくて、自分で彼女に笑顔を見せてほしかったんです」 「はあ」 子供達を風呂に入れたいんですけどねえ、と忠孝は皿を洗いながら、話を聞き流し始めた。 後藤亜細亜はログアウトする時間まで、暇を潰していた。 森の多いよけ藩国では星がよく見える。遠くに聳え立つ星見の塔の頂上では誰かが今日も星を見ているのだろう。 「あんま夜更かしするもんじゃないぜ」 「いいんです。今日はそうしたい気分なんです」 そっかー、といいながら玖珂光太郎は横に胡坐をかいて座る。 「飯、美味かったな」 「そうですね」 「星がよく見えるな」 「はい」 「…怒ってるのか?」 「違います」 何で怒ってるんだろうなあ、と思いつつ光太郎は空を見上げていた。星はよく光っている。 「ほら、しっかり立って下さい」 「あい…ありがとうございまふ…」 ふらふらとした足取りのうにょを見送ると、忠孝は店へと消えた。 街灯の置かれた道をとぼとぼと歩いていく。呑みすぎもあって気分は酷く悪い。 正直な話、どこが悪かったのかを考える余地も今はなかった。 「うう…あじあちゃん…」 景色が回って見える。駄目だ、これ以上歩くと本当に何も避けられない。 ばたり、と道端に倒れる。しゃわしゃわと草がすれて音を立てた。 風が吹いているのか、おでこがひんやりとする。火照った顔にはとても気持ちいい 誰かが歩いてくる音がしたような気がしたが、だんだんといしきがうすれて― その夜は、星がよく見えた。 気持ちが、言葉が、様々な事が二人の間ですれ違ったとしても。 その日見た星だけは同じ星だった。 翌日、うにょが目を覚ました場所は公園のベンチの上だったという。 誰が彼を運んだのかは、誰も知らない。