/*/ ―――――カタ、カタ…カタカタカタッ……ピッ………………、 <深夜、FEG政庁城にて――情報端末からメッセージが送信された音> /*/  WSO、白鳥こずえは小鳥遊敦からのメールを受けて、少しばかり困惑していた。  そのメールが届いたのは、仕事を終え、深夜に帰宅して、シャワーを済ませ、さて明日も早いし寝ようか……、という時であった。  自分の端末に届いたメールは、第一印象と変わらない丁寧な文面で、あまり色気の無い挨拶から始まり、先日のお礼が書かれており、よければと書かれた後に、食事のお誘いが書かれていた。  白鳥こずえが困惑をしていたのは、メールの内容に、ではない。内容はお見合いの後の連絡としては無難であり、送り主らしいとも思う。  白鳥こずえが困惑したのは、「メールが送られてきた」ことに対してである。  我が事ながら、あまり良い印象を与えたはずはないと思っていたし、もっと言うと、失礼が過ぎた気もする。仲人である恩人に顔を立てて、こちらから連絡することはあっても、相手から連絡が来るとは考えていなかった。  思っていたより、悪い印象ではなったのだろうか?  『そもそもお見合いなんてものは、初めてのことだし……いや、私は普通の見合いというのを知らないしなぁ……意外と皆がやっている見合いも、あんなものなんだろうか。…とはいえ、思い返せば、「それじゃ、あとは若い二人に任せて……ひひひ」となったあとは、一方的に口撃していただけだった…ような?……冷静に考えると本当に失礼だなぁ、私。』  差出人の顔と第一印象と例のお見合いの席の事を思い出す。 ――――しかし、考えても文面以外の意図が見えてこない。……裏がなさそうに見えることに、なにか裏があるんじゃないかと感じるお誘いだな―――というのが白鳥こずえの感想である。 もう少しだけ考えてみたが、やっぱり考えるのをやめた。 やってやろうじゃないか、とでも云うようにニヤリと唇を曲げ、返信する。 /*/  小鳥遊敦は遅い時間になったが、残った仕事を片付けようと、端末を立ち上げていた。  折りしもT14が終わり、自身が代表を勤めるDEX社のイベントの手配や自身の都合でで完全夜型生活になっていた。 時計の針は深夜を周り、辺りはいっそうの静寂に包まれている。 睡眠時間の確保のため、チャチャッと終わらせるつもりだったのだが、深まっていく静夜は考え事には適していたのか……否応無しに、彼の最近の一番の考え事に頭がシフトしてしまう。  例のお見合いの件である。  『自分では割とうまいことこなせたのではないかと思っているんだけど、審判(仲人でいいんだろうか?)役からはさすがに判別できなかったし、何よりお見合い相手はかなりな口撃している。真っ直ぐな物言いには素直に好感をいだいたのだが……。  そもそもお見合いなんてものは、初めてのことだし……いや、私は普通の見合いというのを知らないしなぁ……意外と皆がやっている見合いも、あんなものなんだろうか。』  ・・・と、そんなことばかりが思考を占領して、仕事がはかどらない。深夜のテンションか、考え疲れた成果、はたまた両方か、ふと思い立った小鳥遊敦は強攻策に出ることにした。   『まぁ、いいか・・・なるようになれ、だ・・・』  と、夜も深い時間にお誘いのメールを送った。―――そして、直後に後悔した。『こんな時間にメールしたら迷惑では!?夜が明けてから送ればよかった!!!』と。 しばらく悶えていた小鳥遊だったが、送ってしまったものはしょうがない。今からメールサーバに先回りできるわけでなし、彼は覚悟を決め、仕事を片付けるまでは忘れることにした。 『そうだ。とりあえず、返事が来る頃までは集中出来ると思おう』 ……が、翌朝以降だと思っていたお返事は数分後には到着しており、結局、動揺してしまい、 ―――仕事は翌朝までかかった。 /*/ /*/  時が過ぎ、今日がその事の約束の日。  FEGの数多い居住区は、広大で数が多い。故に様々な売りを持つものがある。  今、白鳥こずえが佇んでいる。区画は位置的に云うと、政庁城と軍施設の中間にあり、レストランや商店などが立ち並ぶ、繁華街区のひとつで、待ち合わせとしてもポピュラーな場所である。当然、多くの人が行き交う場所でもある。  綺麗な白いワンピースを着た白鳥こずえは、駅前の時計をチラリと見た。待ち合わせの時間まで、あと15分ある。 「少し、早かったかな…」  お誘いがあったときは、我が事ながら、深夜のテンションか、仕事の疲労のせいか、勢いですぐに返事を返してしまい、夜も遅かったので翌日のほうがよかったかな、と少し反省した。その後、数回のやり取りで今日の約束は正式に締結され、まさに15分後にはミッションスタートなのである。  文面からは、お見合いの時の口撃を気にしている様子は伺えなかった。とはいえ、あれだけのことを言ったのだから、相手も異論・反論を用意しているだろう。  フフフ、いったいどんな顔をして現れるのか、楽しみなところである。 ――――とふと見ると、何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回しながら、こちらへ歩いてくる青年が居た。小鳥遊敦である。  見合いをした手前、引くに引けずお誘いの知らせをよこしたようだが、あれだけ口撃したのだから、相手もさぞかし構えてくるだろうと思っていた。 ……のだが、件の相手は、自分を見つけると、嬉しそうに近づいたかと思ったら、軽く頭を下げて、 「こんにちは、どうもご無沙汰しておりました」  と、あんまりにも普通に話しかけてきた。・・・・・・おかしい。いや、普通だ・・・・・・?いやいや、普通なのがおかしい。  なんと言うか、普通に声をかけられることも想定していたのだが、萎縮も虚勢もなく、こんなに普通にこられるとは。少しばかり……本当に少しだけだけど、気構えていた自分が馬鹿に思えた。毒気を抜かれるとは、まさにこのことか。 「・・・?」  瞬間、反応が停止していた私を見て、彼、小鳥遊敦は、ぽかんとこちらを見ていた。 「……いえ、いいのではないでしょうか」  彼のその姿が、なんだかおかしくて、少し吹き出してしまった。 /*/ /*/  食事を終え、私達は外へ出た。 食事中と似たような話をしながら、待ち合わせをしていた場所まで歩く。夜も更けてきたが、街は変わらず盛況で、そんな変わらない街中にいつもと少し違う気分の自分で歩くことが新鮮に感じれる。 「今日は、急なお誘いに予定を割いていただいて、ありがとうございました」 と、歩きながら、小鳥遊さんがぺこりと頭を下げる。……その仕草で待ち合わせのことを思い出して、構えていた自分が恥ずかしくなる。 「いえ、楽しめませてもらいましたよ。」それにお忙しいのはお互い様のはずである。 「そうですか?ならよかったです。先ほども言いましたけど、会話下手で、色気のある会話が出来なくて…」 「そのようですね。ふふ。」  ―――などと話しているうちに待ち合わせ場所に着いた。  そして、なんとなく待ち合わせの時と同じ立ち位置で会話が止まってしまう。話題を出そうと思えば出ないわけでもない。しかし、ここも人通りが多く、カップルが歩き、また、政庁や軍から帰宅する 人も多く見られる。  立ち話をするという雰囲気でもないけど、もう少しだけ話したいような、帰ったほうがいいような…ぼんやりとした気持ちで彼も私も居るように思えた。 ふと、小鳥遊さんがなにやら言いたそうにこちらを見ている・・・。 「あの、またお誘いしてもよいですか?」 なんというか、食事中にも思ったけど、見ていて面白いひとだ。食事を誘ってきたときもこんな顔をしていたのだろうか……そう考えると可笑しく思えた。 「ええ……よろしくお願いします。」 と答えて、『 次は色気のある話に期待しています 』と心の中で 付け加えておいた。 to be continued