遠き昔より世界はいくつかの時代を経たといわれる。 農耕の神クロノスと大地の女神レアが支配した黄金の時代。 その息子ゼウスが支配者となり、四季が生まれた銀の時代。 最後の神も地上を去り、英雄が勲を立てた青銅の時代。 そして神に見放されたという現代―、鉄の時代。 神は、もはや地上にあらず遠くない未来に奢りきった人間を滅ぼすのだと言われる…。 ―が、そんなこととは関係なく、宴を開く神もいたりするのであった。 一組の少年と少女が闇夜を歩いていた。 少年の名は鷺坂祐介。少女の名を神楽坂風住と言う。 二人はごく普通にすれ違って出会い、ごく普通に神様が見える祐介はかつて縁のあった神様の面影をかすみに見出し、二人は様々な体験をしていくことになる。 これはその話の一つ。 「…それで、結局さ」 「うん」 「今まで会った中で、悪い神様なんていた?」 「そ、そうだね」 そうれどんちゃんどんちゃんと遠くから音がする。 普段は使われない採石場であるはずのそこは、その夜宴の場と化していた。 と言っても、ただの宴ではない。神が集って繰り広げる神々の宴なのである。 「こんばんはー。すみません、お邪魔してもいいですかー?」 その言葉に、様々な神が振り返る。 ラジカセから流れる曲に合わせて踊るよく似た二人のおっさんや大変セクシーだけど地雷を連想させる女性。 平安時代とか、教科書でしか見たことの無いような姿をした男性や機械そのものにしか見えないボールみたいなのがごろごろしてる。 は、と気づき、祐介は手にした袋を差し出す。 「これ、つまらない物ですが」 神々は微笑んだ。 口を動かしたわけではない、そもそも口もないし言葉も話さない神の方が多いのだ それでも微笑んだ、というのだけは判った。そんな感じがしたのだ。 「うわ、凄い」 「凄い盛り上がり方だなぁ。孤食しなくて良かった?」 いや、そうじゃないんだけど。と言おうとしてかすみは口を止めた。 祐介がパンチパーマの男の人を見つけて、よし、と何故かつぶやいたからだ。 「ちょっと、ここで待ってて」 お菓子の包みをいくつか持って、祐介は先ほど見つけた男性の横へと動いていく。 ここからでは、よく聞こえない。 (何か、隠してるよね) ちびりちびりとお菓子を摘みながらジュースを飲む。 最近の祐介は、何かを隠してる。かすみは漠然とそう思っていた。 「ふむ、どうしたねお嬢さん」 聞いた覚えのない声にかすみが振り返ると、そこには誰も…いやいた。 杖を持った蛙の長老っぽい―何故かそう感じさせる雰囲気だった―が、見上げている。 「悩んでいるようだったからね。この蛙に話してみるつもりはないかい?」 顔、というか頭をくしゃっとして蛙は笑いかけた、ように見えた。 かすみは上を見上げたあと、何事か話している祐介の背中をもう一度見て、口を開いた。 「では、っと。風住、ゴメン。ちょっとバイト先に行って来るー。」 「あ、うん?」 振り返れば、祐介と先ほどの平安ぽい男性、そしてパンチパーマの男の人が立っている。 「いい神様だよ。お酒好きだし、友達になっても!自分もお世話になったし」 蛙を見ながら、祐介は笑った。 そのまま三人はゆっくりと暗い闇の中に姿を消していく。 「…」 「いくのかね?」 「はい」 「だって、あたし追い抜いたり追いつくの、得意ですから」 かすみは蛙と共に、暗闇に向けて走り出す。 背中に追いつくために。