その日、各国で「真昼に流れ星が見えた」と言う噂が流れた。   「ナガレボシ」 「……ちょ……おま……」  ポレポレは声にしようとするが、その声が出ない。確かに彼は、DAIANに地球一周を指示した。「俺の体が耐えられる限界を知りたい」とは言ったが、ほんの一瞬で身動きはおろか、指一本さえ動かせない状態になった。すさまじいGでシートに押しつけられ、ポレポレは、気を抜けば飛びそうな意識を支えるのに必死だった。  流線型の戦闘機にプロモーションした蒼龍は、その性能をポレポレの前で遺憾なく発揮する。昔、どこかの宇宙飛行士が「地球は青かった」と感動していたそうだが、ポレポレにはそれを口にする余裕がない。永遠とさえ感じられた6分後、蒼龍は無事地球一周を終えた。 「やるな、DAIAN」  冷や汗をかきつつ、笑みを浮かべたポレポレの感想に、DAIANは答えない。命令さえあれば、蒼龍は何十周でも地球周回航行を行ったであろう。……搭乗者の命の保証は、当然、ない。  無数の星々を遙か遠くに見据えつつ、宇宙空間を庭のように進む蒼龍。外装は変われど、その本質は変わらない。蒼龍は地球一周航行を終えると、ポレポレの指示に従って、素早く武装一覧を画面に示す。反陽子砲、レーザー砲、遠隔操作の小型無人機、地上用ミサイル。そして帝国防衛情報網をいともたやすく操るDAIAN。彼はポレポレの命令を受け取り、該当するデータを越前藩国に送り、ひとまずの任務を完了した。  蒼龍は大気圏を切り裂いて、空を、宇宙(そら)を駆ける。孤高の龍。帝国を守る一振りの剣。人の心が生み出した、人の心を護る龍。 ――それは、たった一つの、ナガレボシ。