ねえ、ぎゅってしていい? (生活ゲームログ「ぎゅぅ・・・」より) ―和子さまに捧ぐ― クリサリスが倒れてるのを見たときは、本当に心臓が止まるかと思った。 背筋が凍る、なんて生易しい表現じゃ足りないくらい。 思わず、息がとまったくらい。 軽傷だとわかっても、傷ついている彼を見るに忍びなく。 だけど、離れることはできなくて、アポロさんの治療が終わるまではずっとそわそわしながらそばにいた。 できることがそれしかないから、邪魔になるかもしれないと思いつつも離れられなかった。 そして。 「クリサリスー!」 抱きついても痛くないのを確認して、飛びついた。 じーと見上げると、視線があう。 それが、そんな些細なことがうれしくて、和子はまた思いっきり来須の胸に顔をうずめた。 「・・・どうした?」 その反応がうれしいと同時に、なんだかちょっと複雑で。 「・・・ばか」 と和子は来須を見ずにいった。 しかし、すりすりしながら言っても、説得力はない。 来須もそれがわかってか、和子の頭を無言で撫でた。 その手のぬくもりが、彼が生きてる証のような気がして、和子の目の端にじわりと涙がにじんだ。 「好きです。もう‥心配したんですからね。」 溢れる涙をこらえながら、告げる。 ――私は貴方を心から心配しています。 ――だから、怪我なんかしないでください。 ――命を、粗末にしないでください。 ――「まだ生きてる」なんて、そんな風にいわないでください。 いいたいことは山ほどあったが、それでも言葉に出来ない分を和子は二本の腕にこめた。 ぎゅうっと抱きついて、離れない。 一瞬、嫌がってるかなという想いがちらりと脳裏を掠めなかったわけではないけれど、嫌がってるような気配は感じなかったから、和子は開き直ることにした。 今日は、ひっつき魔になってやる。 そんな和子の決意を知ってか知らずか、来須は和子のされるがままになっている。 頭を撫でる手も止めていない。 和子は抱きついたまま、じーっと来須を見上げた。 綺麗な青色が、和子を見つめ返していた。 「クリサリスー」 名前を呼ぶと、瞳が疑問の色に揺れた。 あ、わかる自分がちょっとうれしいかもしれない。 そんな想いをいだける相手にぎゅーできる幸福を噛みしめながら、和子は言った。 「好きです。ずっとずっと大好きです。」 まだ言葉にするには照れくささとか恥ずかしさとか色々あるけれど。 この人には、はっきり言わないとだめだということを、和子はこれまでの経験からしっかり学んでいた。 青色の瞳が、優しく微笑う。 この人の笑顔を、いつまでも見られたらいい。 その隣で笑っているのが、私だったらいい。 そんな想いも、けどやっぱり言葉には出来なくて、和子はもう一度、ぎゅっと来須に抱きついたのだった。