お茶のススメ (生活ゲームログ『お話をきかせて』より) ―芹沢琴さまに捧ぐ― FEGの王宮のなか、集まったメンバーは車座になって座っていた。 その横で、着物に割烹着という古風ゆかしき風体をした芹沢琴は、かちゃかちゃとお茶の用意をしている。 FEGの藩王・是空とおると友人の金村佑華が話しているのを横目に、芹沢は本日のお客様に向かって声をかけた。 「みなさん、紅茶とコーヒーどちらになさいますか?」 その言葉に、青、舞、そして仮面をつけて顔を隠している原素子は、それぞれに紅茶を注文した。 是空だけはコーヒーといいかけたが、他の全員が紅茶だったためか、はたまた最愛の素子さんが紅茶だったためか、紅茶といいなおしている。 おそらく、ひとりだけ別のものを頼むのは用意が大変だから、という大人な理由であった、と思いたい。 「分かりました。あ、お砂糖とミルクはどうしましょう?」 芹沢は手早くポットへお湯を注ぐと、さっとふたをした。 蒸らさなければおいしくならない。 セイロンはくせがないとはいえ、きちんとした手順をふまなければ美味しい紅茶にはならないのだ。 砂糖やミルクも好みで加えて、自分なりの味で楽しむのがお茶会の醍醐味だ。 青と舞はストレートが好みらしい。原はミルクのみ、是空はミルクと砂糖という、それぞれの性格をあらわしているような返答がきた。 芹沢はきっちり三分を計りおえると温めておいたカップに紅茶を注ぐ。 ふわりと、お茶のよい香りが辺りに広がった。 是空、原、そして金村は、金村の恋の行方について真剣な面持ちで話しているが、青と舞は事情がよくわかってないらしく、芹沢の 淹れたお茶をおいしそうに飲みながらにこにこしている。 しかし、せっかく招いた客人を退屈させては申し訳ないと、二人が紅茶を飲み終わった頃合を見計らって、外へ出ませんかと提案してみた。 「どこに案内するのだ?」 「かわいいのいるといいね」 「あ、はい。じゃあお城の庭にでも」 たしかこの二人は猫好きだったはずだと思い出して、芹沢は言った。 庭には、FEG国民であるかすみが、小笠原放棄のときに連れ帰ってきた猫が100匹ほど暮らしている。 「すみません、一旦席外させていただきます」 と、話の邪魔にならぬよう控えめな声で断ってから、芹沢は青と舞を猫のところへ案内することにした。 猫が見えてきた途端、なぜか青の後ろに隠れる舞。 芹沢が不思議そうに舞を見ると、舞はなぜか真っ赤になって慌てている。 「舞さん、撫でてあげたらどうですか?」 「い、いい。逃げるから」 過去に何度もそういうことがあったのだろう。ほぼ確信を持って舞は言っていたのだが、青がそんな舞の前に猫を抱いて差し出した。 固まる、舞。 完全にテンぱる舞のその様子が猫を怯えさせていると、教えてあげられるものはきっといなかったのだろう。 まあ、あれだけ好きだというオーラが滲み出ていて、ぜひ触りたいと思っている様子が伝わってくるのに「それがダメなんだよ」といえるものはいないに違いない。 案の定、その舞のぐるぐる加減に恐れをなしたのか、猫は青の手からひらりと逃げてしまった。 「ま、舞さん」 芹沢に肩を叩かれて、舞は押し黙った。 いつものこととはいえ、やはり悲しいものがある。 と、不意に青が舞をお姫様抱っこした。 驚いたのは芹沢である。 「きゃー、あ、青様?」 しかしそんなことは意に介さず、青は舞を抱いたまま猫の群れの中に歩いていった。 猫は青の足元によってきてすりすりしている。ごろごろもしている。 「ほら、舞?」 なんでもないことのように青が言った。 舞は猫を見下ろして、やっぱり顔を赤くした。その理由は、猫のほかにももうひとつ。その理由に基づいて、舞は青を殴ることにした。 そのあとで何もなかったかのように舞は言った。 「茶を飲む。つれていけ」 「うん」 あらあらと見守りながら、またお茶の用意をしている芹沢のほうへ、舞と青がやってくる。 その様子を見て、芹沢は嬉しそうにきゃーといいながらくすりと笑みをこぼしたのだった。