天空公園。 遠くから見る限り普通の公園なのだが、実は数あるFEGの公園の中でも珍しい公園である。 普通、FEGの国内で煙が上がっているようなことがあれば、その場所がどこであれ、消防署の人間が消防車で血相を変えて飛んでくる事となる。 居住区の大半が高層ビルにあるFEGでは、火災による有毒ガスの発生や煙にまかれるなど大惨事が懸念されるため、火気を使用してよい場所が明確に決められているのである。 そう、危ないので。 ところがこの公園では、そこらかしこで煙が上がっていても消防車が飛んでくることは無い。特別に火気を使っても良い事になっているのである。簡単に言うと、バーベキューもできる貴重な公園なのだ。 その日もあちこちでジンギスカンの煙が上がり、家族連れなどでにぎわっていた。 「ヤガミ、これは何?」 ジンギスカンの煙が上がっている公園を見るスイトピーは珍妙そうな顔である。彼女が元々居た火星の居住区である都市船も密閉空間であるが故に火気の使用は制限されていたと予想される。食事のためとはいえ屋外で煙が上がっている風景は珍しいのであろう。 「火を使えて飲食できる公園はFEGひろしといえども、多くはない」 答えたのは、松井総一郎。松井いつかを生涯の伴侶としたヤガミである。 スイトピーは、一緒に来ているBLの感想を聞こうと思い振りかえると、柴犬営業部長と戯れているBLを発見する。さらに珍妙な物を見る顔になるスイトピー。 「BLは犬派でしたの?」 「かわいいですもの」 「バーべキュー場みたいなところなんですかね。地面に座ってみんなで食事するのが砂漠式なのかな」 珍妙な顔のスイトピーに話しかける松井。モカと一緒に持参したバスケットを開き食事の準備を始めていた。 「スイトピーも突然の招待なのに来てくれてありがとう」 今日は、いつかの発案で友人を招待し食事会を行うことになっていた。 「こちらこそお招きいただきありがとうございます。友人夫妻からの招待ですもの。来ないわけにはいけないですわ」 松井夫妻に優雅にお辞儀をするスイトピー。柴犬営業部長と戯れていたBLもスイトピーに倣いお辞儀をしたところで、最後の招待客が現れた。 「松井さん、今日はお招きありがとうございますー」 黒崎克耶の一家である。夫の黒崎ソウイチローと子供のセイイチローを連れ、ここ天空公園にやってきていた。 「こんにちはーはじめましてー」 総一郎とスイトピーに挨拶をする克耶。 「やれやれ」 ぼやきながらスイトピー達に挨拶をするソウイチロー。こちらは黒崎克耶を生涯の伴侶とするヤガミである。 「増えてるΣ」 驚くスイトピー。BLも表情にこそ出していないが驚いているのだろう。なぜなら、セプテントリオンに所属していた時期もあるBLは、オーマ間で勃発する黄金戦争のことを知っており、2人のヤガミが仲良く食事を摂る場面など想像できなかったはずだから。 そして、絢爛時代のヤガミを知るスイトピーとBLにとって驚愕の事実が明らかにされる。 「ほら、セイイチローもあいさつしてー」 ソウイチローと克耶の子供であるセイイチローの登場である。 『ひょっとして、凄い場面に遭遇している!?』 思わずそう考えてしまうスイトピーであった。 /*/ 自己紹介の段階では、多少のぎこちなさがあった面々だが、食事が終わりデザートが出てくるころになれば、ぎこちなさも消えてくる。 いつかは、スイトピーとBLの為に、カフェアートを描いたティーオーレとカフェオレを作っていたが、総一郎に前々から試してみたかった事を実行することにした。今なら逃げられることが無いと思ったのだ。 「ありがとう」 「ありがとうございます。いだだきますわ」 BLとスイトピーにカップを渡すと、いそいそと準備を始めるいつか。用意していたクマ型ケーキを切り分け、おもむろに総一郎に近づくと、総一郎にケーキを食べさせようとした。 「はい、あーん」 総一郎は盛大に動揺した。いつかがやろうとしている“はい、あーん”は、食事が食べれない病人を介護する為の“はい、あーん”ではない。恋人同士がやる“はい、あーん”である。 周りを見ると、克耶は顔をにこにこさせいつかを見ており、モカは座から一歩離れた所から目をキラキラさせ期待した顔を総一郎に向け、柴犬営業部長は、切り分けてもらったケーキを食べることも忘れ尻尾を激しく振って総一郎をじっと見ていた。総一郎は、スイトピーとBLの顔を見るのは癪だったのか、観念したように眼を閉じる。 「どういうプレイだ」 羞恥プレイというやつである。 「お口に合うといいのだけれど」 「・・・まあまあだな」 モカがキャーとか叫んでいる気がするが、総一郎は無視。スイトピーにも何を言われるか分からないので目を閉じたままケーキの味を味わう。 「よし」 いつかは小さくガッツポーズ。 「デレ期だね。ソー」 「いいから黙れ」 ソウイチロー、セイイチロー父子が小声でやり取りをしている声を聞きつけた克耶は、おもむろにケーキを切り分けた。目がきらきらしている。 「はい、あーん」 ソウイチローにも飛び火した。おそるべし“はい、あーん”である。 が、ソウイチローは普通にテレもなく食べた。こういうのは、テレながら食べるから面白いのであるが。 「ソー、そりゃないよ。こういうときはもっとどきどきしないと」 息子のセイイチローが頬を膨らませソウイチローに食ってかかっていた。 「うふふw。おませさんね、もーw」 食べさせた克耶は、食べさせること自体が嬉しいらしい。嬉しそうに、息子のほっぺたをむにーと引っ張った。首をかしげるセイイチロー。 「楽しそうでいいですね」 しみじみといった感じでスイトピーがBLに話しかける。 「いいんじゃないかしら?」 「ヤガミにも子供ができる時代ですよ」 ゴージャスタイムと呼ばれた輝ける絢爛時代。それが、ここニューワールドにいるヤガミ達にとって、既に過去の時代になっている。 「ありえない時代ね」 ヤガミ達にとっても、周りにいる者にとってもより良い時代になっているのは確かである。 「俺もそう思う。遠い話のようだ」 総一郎は、かつての戦友であるスイトピーに答えた。過去の自分を顧み、遠い話の登場人物になっていることを少し誇るように。 「やっぱり私は、凄い場面に遭遇していたのね。おとぎ話の中にいるみたいですわ」 fin