/*/  一瞬のような永遠の、甘い口づけが終わる。  薄い、半透明の糸が橋となって一瞬だけ2人を結び、消える。  頭上に上がった巨大なハートマークが、示し合わせたように弾け、欠片が小さなハートとなって降り注いだ。  遅れて咲いた桜の花びらが舞い、その中で2人、観衆へ向き直って腕を組めば、あまりに突拍子な演出で、声を上げ、腹を抱えてて笑っていた大勢の声が、しんと途切れる。  静寂の歓迎。  そよぐのは風の声。  聞こえるのは木々のざわめき。  香るのは花の香り。  運ぶのは蝶の羽。  謡うのは鳥の囀り。  黙した人間たちに代わり、風が、木々が、花が、蝶が、鳥が、祝福の声を上げていた。  しばらくしてふいに、拍手の手が鳴り響く。  始めは小さかったそれは、波紋のようにどんどん広がり、気がつけば壮大なものと変わっていた。  拍手の海。それはすっと2つに割れ、広大な会場に一本の赤い道を作り上げる。  その道を、2人がゆっくりと歩いていく。  歓迎するように木漏れ日の差し込む特設会場から臨む、霹靂の空に無数のベレー帽が舞った。  帽子が集まり、巨大な羽ばたきとなり、重力なんてものに縛られず、力強く、自由に空へと昇る。  上を見上げながら歩む2人を、左右から掛けられる泣声、祝言、歓声の嵐がそれを歓迎した。  かけられる一言一言に、  笑った思い出、  怒った思い出、  泣いた思い出、  みんなと過ごした掛け替えのない時間が、永遠に変わらないと思っていた時間が、堰が外されたように溢れ出る。  すべて変わるわけでもないのに。そうわかっているのに零れそうな涙堪えて、下げた視線を再び空へ上げた。  今はただこの時を、この一瞬を大切に。  大きく息を吸い、心の中で数えた3カウントの後、感謝を込めた必死の笑顔。  掛けられる言葉が再び思い出させる、もう戻らない時間が、我慢しているというのに泣かせようと意地悪をする。  これが一番の幸せなのに、昨日にはもう戻れない。そう思うとそれが、掛け替えのない大切なものだったと認識できて、ただ涙が溢れた。  はにかみながら進む先、木々の切れ間で眩い光が誘うように輝く。  まるで2人の行く道を暗示するかのようだ。  そう、歩く2人分の影だけを後ろに落とすその光が示すよう、これから先2人の前に障害がいくつ立ち塞がろうとそれは、もはや障害と成り得ないだろう。  2人は今、対の翼を持った一羽の鳥となったのだから。 /*/