[あなたとわたしの冒険の日々]  ちょっと冒険行くか。そう思ったのは、古い映画館で古い冒険物映画を見た直後の事だった。  いちいちシートについて見に行かなきゃならない映画館っていうシチュエーションにもレトロすぎて興奮したが、ぺらっぺらの映画もできの良さには感動した。スコップ。ロープ。爆発。  これだ、これだ。膝を打つ。うほーっ。きたきたきた! 客が居ないのをいい事に立ち上がった。画面で炎が巻き上がる。バーニング。めらめらと荒野に猛る炎。  その中で揺れる、一際巨大な漢の影。  まさに。これからやつが作り上げようかという伝説を歌い上げるように、エンドロールが流れ始める。 「おーっし。いっちょ俺もやるか」  両手をぐっと握りしめ、全身の筋肉を緊張させて、きらきらする目で画面に食い入る一人の漢。  やつの名は、アキ。 /******************/ /*    アキの冒険       */ /*    第n話:採掘は計画的に */ /*                */ /*                */ /*広告              */ /*「ただ見をしたら、覚悟しろ」  */ /*「闇より這い寄る、アルミ缶」  */ /*            キラッ */ /*                */ /*   協賛:土場藩国土木振興組合*/ /******************/  開いたドアが入り口の人影を認識するなりしまりかけた。まあまあまあと足をねじ込むとドアは嫌そうに音を立てて動きを止めた。ドアの軋む音に合わせてアリアンの顔がしかめられる。 「よお、心の友っ」 「催促か」  いろいろ端折ってアリアンは理解した。ヤガミと言えば基本的に相手の考えを察するのに長けており、自分的には非常に正解、相手からすれば何もかもが間違った愛情表現で女性陣と対立することで有名だが(本人達は対立してないという)、今回そのスキルは発動していない。  高速で頭を回転させたアリアンは、そういえば昨日映画を見に行くとか言ってたなと、二日酔いの残滓と共に記憶の断片を引きずり出した。なんだかずいぶん古い、いや俺は好きなんだが、冒険映画だったはずだ。 「お前、確かツルハシ持ってたろ。貸してくんねえか?」 「何をするつもりだ」どこを彫る気だ? 「決まってんだろ。そりゃあもう地下に広がる大帝国で神秘の秘宝を見つけるまでだっ」  いや、無いと思うぞ。ん? いや待て。  アリアンの唇が悪いことを考えて釣り上がる。春風でも呼びそうな爽やかな笑顔が、周りから見ればちょっとひきそうなくらいのわざとらしさで開花する。  いやあ、持つべき物は友達だ。 「ちょうど良かった。確か、部屋の方にいろいろ妙ちきりんな物があったはずだ。好きな物を取ってけ」  まあアルミ秘蔵のゴミ山セレクションだが。  家の横にある大きな倉庫の前に移動。冗談みたいなでかい鎖でぐるぐる巻にされているが、非正規な方法でちょちょいとあけると、アキに開陳してみせた。あ、ツルハシ発見。 「おお。サンキューなっ」 「気にするな」 「お宝掘り当てたら少しわけてやるよ」  アリアン、内心で苦笑する。実は危険手当で金は結構蓄えているのだった。  次はどこを掘るかだった。  お宝の匂いを探してとりあえず三日ほどぶっ続けで歩いてみる。アドレナリンの以上分泌でちょっとテンションがおかしい事になってきているが、元から細かい事は気にしないたちなので端から見てる分には普段と余り変わらない。  まあちょっと、そもそも俺なんでこんな事やってんだっけ、というくらいに頭から動機がすっぽ抜けていたが。 「こんにちわー。っと、何をなさるんです?」  そして近づいてきた龍樹が、およ、と首を傾げる。流石にぶっ通しで歩き続けて疲れたので、洞窟探検道具を道にばらまいて大の字に休憩していたのだった。  で、何を? うん。決まってる。 「金儲け」 「は? …………お金儲け。ですか?」  あれ、そうだったっけ? まあいっか。  きょとんと目を丸くする龍樹を見てにかっと笑う。龍樹は頭を左右に揺らして混乱する様を体で表していたけれど、しばらくして、動きを止めた。まあよくある事、と思ったのかもしれない。 「で、なんだ?」 「あ、目的を忘れるところでした」きょろきょろさせていた目をアキに向ける龍樹。無意識のうちに両手が小刻みに上下して、ちょっとした興奮を抑えきれずにいる。「名前についてなんですが…………」 「お?」アキ、何もわかってない顔。 「一応ですね。アキさんが『アキリーズ・ヒガ・ボーランドウッド』、自分は『龍樹・翡鹿・ボーランドウッド』という風に、考えてはみたんですが」  いいでしょうか? と続けようとする前に、アキは全てに得心がいったどや顔を浮かべた。目を細めてふふんと笑う。 「なんだ。俺の名字のかっこうよさにしびれたのか?」  近所の子供が相手だったら蹴り入れられるレベルである。 「あーとーえーと…………」  考え込む龍樹。いろいろ名前を考える時の経緯を思い浮かべて、まず名前を変える必要がとか、二人の名字をいれたとか、おそろいとか、えーっと。うん。  まあいっか。 「そうです!」 「よし、OK!」  にかっと、言い笑顔を浮かべるアキ。おお、そうだ。俺はこの顔をどこかで見たことある。映画……だっけ? 多分そんなところ。うん。  あははは、と二人で笑う。  基本的に乗りのいい夫婦だった。 「ええと。お名前の件は、これで、いいので、探検について行っても、いいですか?」 「いいぞー」  あ、それは続けるんだ。場外でいろんな人が突っ込みを入れる気配がしたが、二人は気にもせず意気揚々と歩き出す。アキは素早く探検セットを着込むと、意気揚々とダンジョンに向かって行った。  で、数分後。  アキは道路の端でツルハシぶん回していた。土が天に昇る龍のような軌道を描いて、日差しにさらされ、大地に落ちる。なんというかあり得ない速度で地面を掘り進んでいた。空き地とかじゃない。道路の横である。  他国なら即座に問題になるところだが、ここは土場。  この程度、問題になろうはずもない。 「手伝うか?」 「あ、はい!」  おい。予備のツルハシを渡される龍樹。全力で掘り始める。  二人とも何かたがが外れてきたのか、ツルハシを振り回す度に笑顔になりつつある。ちょっと地下からやばい煙でも出ているんじゃないかと心配になりそうだが、単にハイになってきているだけだった。  ざっくざっくと土を削る。一メートルが二メートルになり、この速度に手応えを感じる。そう。この調子なら地干しの裏まで俺たちは行ける。ブラージル、ブラージル。いやまて、裏まで出たら探検できなくね?  アキの心に疑問がわいた。そのときだった。  ぱらっと、土が空から振ってくる。  おや、おろ、と空を見上げる二人組み。  次の瞬間。空から土砂がふってきた。 「うおー」 「わーっ」  ずぼっ、ずぼっと音を立てて二人は出てきた。というか所詮二メートルでは大したことないのである。アキは新作のマンドラゴラみたいになっていたが、土から生えてくると、違った出てくると、あれーと首を傾げた。 「いかんな。堀りかたが悪いのか……」 「ほぇぇぇー。よかったー」ぱんぱんとアキについた土を払う龍樹。 「掘る速度か……?」首を傾げるアキ。 「ええと、掘るときは、周りを固めつつ、と、聞いたことがあります」何故か答える龍樹。「板か、何かで崩れてこないようにしていたと」  実際、遺跡の発掘などは金属で補強をし、パテを隙間に流し込んで構造物が崩れないようにしながら作業を進める。 「めんどくせえなあ。しょうがねえ」  まあでも止める気は無いらしい。アキはどこからかでかい板を調達してくると、えいさ、ほいさっと再び穴を掘り始めた。勢いは相変わらず。もの凄い勢いで掻き出される土がきゃーと悲鳴を上げて飛んでいく。そしてわーっと慌てて龍樹が板を差し込んで穴を補強する。  その勢いで、今度は五メートルくらい掘った。  そして穴の底でアキが倒れた。 「うわ!」  慌ててアキを救助する龍樹。クレーンゲームの要領でかぎ爪ついたロープで引っかけてつり上げる。なんでこんなのがあるんだろうと不思議には思わなかった。いい相棒になれそうである。 「アキさん、しっかりしてくださーい!」 「おお。頭がくらくらくらした」 「酸欠…………空気、送る機械とか……必要ですね」  持ってくればいいのかな、と目をくるくるまわしている龍樹の横で、深呼吸をするアキ。酸素注入、完了。  穴に飛び込んだ。  速度だ。そう。俺には速度が足りない。酸欠でぶっ倒れる前に掘り尽くせば俺は、俺はっ。  数秒で倒れた。  再びアキを助け出した龍樹が、しばらくして、決意の面持ちで頷いた。 「アキさん、ちょっと、待っててください」 「うん?」  /*十分後*/ 「このチップボールを使ってください。お借りしてきたので」っておい。  どこから持ってきたとは言わない。だがしかし思わず突っ込みたくなるような完全整備済みのチップボールが龍樹の横に鎮座ましていた。でーんと座り込んだその有志に、おお、とアキが気色ばむ。 「さんきゅ。これで俺も、大金持ちだ!」 「はいっ!」 「よーっし」  もの凄い勢いで地面を掘り始めるアキ。 「おほっ」  これはいい。どんどん掘れる。こいつ脱いだらもっと掘れるんじゃないか? いや違った酸欠になるんだった。めんどうくせーなーと現実にちょっとだけ向き合って、がちん。  がちん?  高速で動いて居たアキ=チップボールの腕が止まる。異様な感触。まるでそう、亀の甲羅でも叩いたような異質な硬さに目が細まる。まさか、これは、ついてに地下帝国の……!  直後。視界が白く塗りつぶされた。ごぼこぼごぼ……。 「うわーっ」  穴の側に立っていた龍樹は、いきなり吹きだした真っ白い水に目を奪われた。首をぐいっと空に向けて、水と共に迸る熱気、水蒸気で体を炙られる。ばたばたと音を立てる大きな水滴は少し匂って、不思議そうに首を傾げる。 「あれ、もしかして」  ×水  ○温泉?  徐々に龍樹の瞳が見開かれていく。現状に頭が追いついて興奮に頬が熱くなる。 「わーっ」  アキさん凄い!  ……あれ、アキさんは? 「チップボールが浮かんでこない……」  ……あれって、浮くのかな? 「ちょー!」  これはまだ前哨戦である。  伝説の温泉掘り。その名はアキ。  チップボールとツルハシ装備で全国各地を駆け巡るやつの戦いは、続く。