/*その経緯*/  遠くで輝いた銀色の輝き。  つられて、目前の銃口が一瞬ぶれる。  わずかな間隙。一呼吸の時間もなかったが、 「っ、」  決定打とするには充分な時。  彼は鋭い踏み込みを見せ、剣を振るった。  一瞬後、敵の腕を断つ堅い感触が、腕を、震わせた。 +++  なんだとこのやろー、と思ったのは随分前(クリスマス)。  しかししかし、時の満ちた、今日この頃。  リベンジである。  携帯使わないのはわかったので、この間みたく、携帯ストラップというのは無しだ。そもそも使わないものもらっても嬉しくないもんね、と守上藤丸は腕組みしてうんうん頷く。  場所は小さな部屋。木製のテーブルの上には、ビーズを入れたプラスチックのケースや、ピン、ワイヤ、ニッパーにラジオペンチがところ狭しと並んでいる。以前見つからなかったペンチも今回はちゃんと発掘したし、準備万端である。  守上藤丸は右手をみた。そこには四角い、鉈を小さくしたみたいなナイフがある。電工ナイフである。  ……ちなみに、これは使わない。これは単に懐かしくて手に取ってしまっただけである。  それをテーブルに戻す。 「よし」  これから作るのは電気回路でも室内配線でもない。  腕まくり……はせず、長袖の服の上から腕をなでつつ、守上はもう一度テーブルを見る。  蛍光灯の明かりを反射してきらきらと輝くピンや石。深い色合いを見せるラピスラズリ、竜が炎を吐いているようなペンダントトップ。テーブルに並んだそれらを眺めて、満足そうに頷いた。 「……ふぅ」  息を吐く。  さあ、いよいよはじめましょう。  守上は椅子に座り、……目を、丸くした。 「あれ?」  ……さっきまで机に転がっていたはずのラジオペンチは、いずこ?  右手に握った、細長いハサミみたいなものに目を向けることなく、守上はしばらく、きょろきょろと辺りを見回していた。  こうして、ネックレス作りは始まった。 +++  最初は、喜んでもらえるかなぁ、と。  ぼんやりと、そう考えていた。  特にこれを作りたいっ、という強い欲求があったわけじゃない。あえて言うなら、ネックレスを作ろうと、ただそれだけを考えていた。身につけるものなら、使わないっていう事もあんまりないだろうし。  そこで、材料を捜してみた。  あんまり派手なのは、なんか違う気がする。かといって地味というのも趣味じゃない。  手持ちの石や紐をテーブルに並べて、それっぽく配置してみる。  どういうのを作ろうか。とりあえず、ラピスラズリの石は決定。丸い、小さな石を指先でころころさせながら、あとどうしようかと考える。  ……一応、ストラップの材料で新たに作り直すつもりでいるけれど、それはそれとして、今の石だけのネックレスだと、ちょっと地味な気がする。  何かワンポイント。あるといいなぁと思って、「うーん」とうなった。 +++  作り始めた時、それはただの首飾り(ネックレス)だった。  ラピスラズリ。古い言い伝えをさかのぼろうとすると、他の青い石に関する話と区別するのが難しくなってくる石である。以前、何かの図鑑で小さな亀が重なっている彫刻を見たことがある。黒っぽいブルーの彫刻はとてもかわいらしかったのを覚えている。  眼病を癒す石。囚人を解放する石。邪悪な目から身を守る石。  石は古くから重ねられた意味を与えられ、青く輝いている。  だが、これから作るネックレスには、まだ、意味は与えられていない。 +++  良い物を見つけた。  銀色のペンダントトップ。ドラゴンナイフという、小さなナイフ形のアクセサリィは、ブルーの石の下で光を浴びてきらめいている。  これなら地味すぎず、かといって派手すぎず。良い具合に収まっている。紐の色は茶色っぽい赤で、いざ石とやペンダントとつなげてみたら、適度に色が目立っていた。  これで完成。守上は満足げに頷くと、それを手にして歩いて行く。  今日は暮里と、冶金工場を見に行くのだ。 +++  排煙施設前。冶金工場の暗い闇の中、黄色い光に照らされて、二人は戦っていた。  暮里が剣を振るう。横薙ぎに、闇を裂くような銀弧を描く。服の先を切り裂く感覚。ミチコは数歩退いて聖銃を抜く。  銃口に白い光。  来る、と思うよりも早く横に飛んでいた。掠りもせず、聖銃の一撃が右側を駆け抜けていった。  銃口はそれている。距離を取るのは自殺行為。  間合いを詰めて、一息に斬る。  背後で壁が砕ける音を聞きながら、暮里はすぐに判断。足に力を込め、一気に踏み込んだ。  だが、銃口が素早くこちらを捉える。  ―――そのときだった。  遠くで輝いた銀色の輝き。  つられて、目前の銃口が一瞬ぶれる。  わずかな間隙。一呼吸の時間もなかったが、 「っ、」  決定打とするには充分な時。  彼は鋭い踏み込みを見せ、剣を振るった。  一瞬後、敵の腕を断つ堅い感触が、腕を、震わせた。  聖銃を断ち切られると、ミチコは逃げていった。暮里は剣を片手に握り、ミチコの逃げていった方を睨む。 「暮里! 大丈夫!?」 「よるな。さわるな」  地面でばらばらになる聖銃。それを確認した後、暮里はようやく守上を見た。 「逃げられたな」 「うん……」  そして。それから、はっとしたように守上は右の方へ歩いて行く。暮里が視線を向けると、そこに落ちていたネックレスを拾っていた。  ―――納得する。あの銀色の輝きが守ってくれたのか。 「ごめん、なんか渡す前に投げちゃったけど、クリスマスの時に携帯持たない主義とか言ってたから、同じ材料で作り直した。ドラゴンナイフって言うんだって」  そう言ってネックレスを渡してくる。じゃらりという石の音を聞きながら、暮里はそれを手に取った。  ラピスラズリ。ドラゴンナイフ。 「へえ。お守りだな」  言いながら、ラピスラズリに向けていた目をドラゴンナイフに向ける。――この輝きが、つまりは、敵のとっての致命的な一撃だったわけだ。 「そうなんだ? これだったらまぁ、大丈夫かなって」  言って、少し照れたらしい。守上はわずかに目をそらして、慌てて排煙施設に向かっていった。  その背中を見送り、暮里は少し笑う。  ネックレスを首に書けて、指先で、ナイフをかちかちと弾く。 「よし」  小さく頷く。  では、これを受け取るにふさわしく―――。 「行くか」  暮里はつぶやき、ゆっくりと歩を進める。 +++  作った時、ネックレスには、まだ、意味は与えられていなかった。  それはただのネックレスとでも呼ばれる物であったけれど、  今は、お守りと、呼ばれている。