/*病院にて*/  灰色の天井。まぶしさに目が痛くなるほどの白い蛍光灯。すっと息を吸えば、妙に体が重たい事に違和感を覚えた。  体を起こす。やはり下半身に違和感。見てみれば、足は、何か白いでっかい物ががっちりと固めていた。  みぽりんはきょろきょろと辺りを見回した。共同の部屋らしく、六つのベッドが規則正しく並んでいる。カーテンは下げられ、他のベッドには知らない少女達が眠っている。たぶん学生くらい。  あれ? と思いながらみぽりんは辺りを見回す。  彼女の座っているベッドは、窓際で、右側の壁に面している。窓から外には、市街地の景色が広がっていた。  閉ざされた窓の向こうをぼんやり見つめた後で、はっとした。まてまてこうしている場合じゃない。えっと、まず、何からどうしよう。みぽりんはぐるぐると慌てて辺りを見回した。  すると、病室の出入り口に見覚えのある姿があった。黒い髪の少年。みぽりんは目を丸くして、息をのんだ。  入院を示す緑色の服装で、彼はゆっくりと歩いてきた。 「あ、あの。大丈夫ですか?」  みぽりんは慌てて立ち上がろうとして、バランスを崩した。わたたと手を振りながらベッドの上に倒れる。それからもう一度起き上がった。がばっと起き上がると、もうベッドのそばの椅子に彼が腰掛けていた。 「あ、あのっ」 「あれは何だったの?」 「不死者です」  端的な問いに、端的に答える。彼は眉をひそめたが、小さくため息をついて首を振った。 「まあ。実際化け物だったしね。そういう幻獣もいるのか。ああ……そういえば。なんて言ったかな。都市伝説だとか、聞いたな。クラスメイトに」  少年はぶつぶつとつぶやいた後、みぽりのんの足を見た。 「足はちゃんと治るらしい」 「え? あ……はい。あの、助けてくれて、ありがとうございました」  ぺこり。お辞儀をする。  厚志はそれをじっと見ていた。表情は変わらない。 「あ。それより。その。ごめんなさい。巻き込んでしまって……」 「いや。―――」 /*/  巻き込んでしまって、という言葉に厚志は一瞬困った顔を浮かべた。が、すぐに表情を戻す。  巻き込んだと言うよりは。見覚えのある姿が合ったから警戒して姿を隠していただけで。そのまま様子を見ていたら変なやつに撃たれてしまい。  正直を言えば状況はよくわからなかった。わからなかったが、加勢するとしたらどちらにするかは決まっていた。  単にそれだけの話。巻き込まれたと言うよりは、ある意味で自業自得。だから謝られると、微妙に、なんとも言えない気分になった。  厚志は無言で席を立った。あっ、とおいていかれた子供のような声を出す彼女に背を向けて、廊下に出る。  そのまま購買まで行って、ちょっと買い物をした。最近は食料品がどんどん高くなっているが、まだ手が出せないほどでもない。厚志はいくらか良い形をしたリンゴを買って、再び彼女の部屋を訪れた。 「あ」 「えっと、食べる?」  少しだけぎこちない口調。初めて会った時みたいだと厚志は思った。 「は、はい」  そして。そう言ってぱっと笑う彼女の表情も、初めて会った時みたいに鮮やかで。  厚志は珍しく微笑むと、待ってて、と言って、ナイフを取り出し、リンゴを切りはじめる。  そういえば、と記憶の欠片を思い出す。  少しだけ芸を入れよう。  そう思って。彼は記憶を頼りに、ウサギのリンゴを切っていく。  そうすれば、もう少し喜んでくれるような気が、した。