/*一歩手前と一歩奥*/  宰相府。中庭へ向かう道すがら。砂のような色をした建物の中、かつかつと足音が響いている。  ふいに、その足音がよどんだ。歩調が崩れる。  高之はうん? という感じで隣を見た。まつりはにこにこ笑いながら、腕をひっぱると、少し隙間が空いたところに自分の腕を絡めた。高之は苦笑ほら、という感じで手をポケットから出して、絡めた腕の先で手をつなぐ。  ののみはすでに宰相にいる。先ほど受付で問い合わせたら、中庭にいるという話を聞いたので、二人はこうして歩いている。勝手知ったるといわんばかりの、というか事実知っているまつりは、高之と腕を組んでのんびりと歩いていた。  最近はののみが学校に通ったり、高之はそれについて行こうとしてついてこないでと言われて真っ白になったり、それを笑いをこらえつつ慰めたり。そんなのんびりとした日々が続いている。  しかしまあ。高之も真っ白になるほどのショックを乗り越えたことだし。いやというか予想はしてたけどそこまで……と、まつりは内心で少し考え込む。 「どうした?」  と、歩みが止まっていたらしい。少し腕を前に引っ張られる感じで立ち止まっている。まつりはなんでもないと言って笑うと、また横に並んで歩き出した。中庭に出る。  中庭はそこそこに広いので、ここにののみと宰相がいると言われても、まあ、一見して、どこだろうという感じでもある。――油断していると、他の秘書官が遠くからによによしてくるので、少しだけ急いで辺りを見回す。 「あ」  南天がいた。目が合う。南天はアイコンタクト。 『デート?』目を大きくする南天。 『違います』少し目を細めるまつり。 『えー』南天、半眼。 『ののみちゃんしらない?』話題を変えるまつり。 『んーん』首を横に振る。 『残念』 『もう少し楽しんでいくとかー』 『あっち、いけ。今生活ゲーム中!』 『まだ時間には少し早いんじゃ?』 『い・い・か・ら!』 『やっぱりデートー。おほほほ』  退散する南天。しまった、口封じするのを忘れてた。これではまもなくしてによによ部隊がやってくる。いやもういいか。ええいくらでもご覧なさい。――でも恥ずかしいようななんというか。 「何してるんだ、その、なんというか。あー」高之は少し迷いつつ、言った。「味のある顔は」 「なんですか、味のある顔って」 「変な顔」 「……そう言い直されても微妙な気がします」  むぅ、と頬をふくらませてみる。  が、すぐに吹き出してしまった。くすくす笑っているまつりに、わずかに肩をすくめる高之。 「機嫌が良いな」 「一緒にいられるから」  唐突な切り替え。高之は一瞬きょとんとした後、笑みを浮かべた。どこか苦笑っぽい。 「……ああ、そうだな」 「うん。本当に」  言って、まつりは歩き始める。高之は歩調を合わせて並んだ。 「さて、うちのお姫様はどこかな」 「あっちでしょうか?」 「行ってみるか」 「はい」  二人はのんびりと歩いて行く。  時々足が一歩先に出たり、一歩遅れたり。そんなことを繰り返しながら、ゆっくりと。